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2168年4月14日(木)

 2168年4月14日(木)。本作の主人公、県立公津の杜(こうづのもり)高等学校3年生の斑鳩逍遙(いかるがしょうよう)は今日も学校へ向かう。逍遙はクソ田舎の高校にいて悪の蔓延る田舎から抜け出したがっていたが、運よく、エリート官僚をしている母の東京勤務が決まったことで千葉県に引っ越してきたのだ。高校3年生で転校なんてかわいそうに、と思った読者の為に補足しておくが、作中世界の高校は5年制、つまり5年生まであるので、逍遙が高校を卒業するのはまだまだ先の話である。家の最寄り駅の八千代台駅からロングシートの特急電車(特急料金不要)に揺られて公津の杜駅へ。逍遙は今日もいつも通り公津の杜駅南口の駅前広場(※令和3年現在、南口に駅前広場はないようだが、作中世界は2168年である)で路線バスを待っていた。「おはよ」と逍遙に声がかかる。色白で細め、身長165cmの四宮里穂(しのみやりほ)である。昨日逍遙を意識しだしてすぐに愛液を垂らしてしまった子だ。また目がトロンとしている。すかさずもう一人の女子生徒、太ももなどがむっちりした、身長163cmの鹿沼礼佳(かぬまれいか)だ。礼佳も里穂と同じく、昨日、逍遙を意識しだし、――里穂ほど早くはなかったものの――愛液でパンツに染みを作ってしまい、運悪く体育の折の女子更衣室でチャラい女子に「おもらしだ」と笑われてますます興奮してしまった子だ。目がトロンとしている。逍遙は嬉しいやら周囲の羨望と嫉妬の視線が怖いやら、これで結局どちらとも付き合えなかったら周囲から一転笑われる存在になるだろうとの恐怖やら、あらゆる気持ちがないまぜになって沈黙してしまう。礼佳に向かって「鹿沼さんおはよう」と逍遙が言うや否や「礼佳で良いってば」と礼佳。そこにすぐさま「里穂って呼んでよ」と里穂の声。「里穂さんおはよう」と逍遙が言うと、里穂は笑顔になるが礼佳はやられたとばかり悔しそうな表情になる。礼佳は、「里穂さんおはよう」と言われるより早く逍遙に「礼佳さんおはよう」と言われたかったのだ。里穂が勝ち誇った表情で幸せな雰囲気を出していて、礼佳が悔し涙を流し始めたので、上級生(4年生、5年生)、一般乗客を含む周りのバス待ち中の人々からの視線が痛い。逍遙は早くバスが来てほしいと祈った。転校生パワーと本能的相性が為せるわざだろうが、これほどまでに2人の女子から愛される逍遙が客観的に見て幸せなのは明らかである。もっとも、逍遙の主観的にはいつ里穂と礼佳に殴られるやら、周りの視線が痛いやらで間違いなく不幸なのだが……。そのうち、ようやくバスが到着したが、運転手も里穂、礼佳、逍遙を取り巻くただならぬ雰囲気を察したのか、困惑した表情になっている。運転手のいない中扉から乗るバスであることを良いことに、逍遙は運転手と目を合わせぬように乗り込んだ。逍遙は里穂と礼佳に挟まれて座るだなんて最悪だぞと焦り始めたが、転校して初めてできた友達の大河が一番後ろの、右側の席に座っているのを確認した。逍遙と大河が交わす一瞬のアイコンタクト。逍遙は無事、大河の隣に座った。逍遙の右の席には大河、逍遙の左の席には事情をしらない一般乗客のおじさんが自然に座った。どうやら中扉の手前で礼佳と里穂が一瞬睨みあった隙を突いてバスに乗り込んだらしい。逍遙は空気を読まないおじさんに心から感謝した。逍遙は大河に小声で「危なかった」と呟いた。大河は小声で「転校生の威力がここまでとはね」と言って苦笑した。

 1時間目は物理だった。逍遙たち3年文科2組の生徒たちは文科(文系)なので数学や理科は大の苦手だ。しかし、高校が5年制となったことを活かし、文系向けの授業にせよ理系向けの授業にせよ令和期と比べれば数学や理科の授業はだいぶ簡単になっているのだ。ゆとり教育との批判も健在だが、このおかげで、今や大学生の50%ほどが理工系になっている。これこそ2168年の日本が質の高い技術者を大量生産できている秘訣だ。逍遙たち文科の生徒が受けている数学や理科の授業は、令和期で言えば高校2年生のレベルである為、逍遙もなんとか物理の授業を理解できている。

 2時間目は「LHRロングホームルーム兼総合的な学習の時間」。担任の英語教諭、上田勝吉の出番だ。上田教諭が大学の学問は人文科学、社会科学、自然科学に大別されること、来年4月、高校4年生となった時に第二外国語を選ぶ必要があるが、大学入学後も原則として同じ言語を第二外国語とすること、書き言葉と話し言葉の違いなどを語る。「詳しくは明日の6時間目から始まる論述科の授業で習うことになるが、なんにせよ「ですます調」の小中学生と変わらない話し言葉では駄目だと言うことだ。レポートや論文は、「だ、である」で終わる上品な書き言葉で書くこと!」と上田教授が言い切って2秒ほどでチャイムが鳴って2時間目が終わった。

 3時間目は英語。英語なので3年文科2組に限っては引き続き上田教諭が担当する。上田教諭の趣味で、英国の上品な長文をひたすら和訳していく授業だった。逍遙はまだ和訳の重要性を理解していない――大学入試で長文の全文和訳の問題はまずないので当然だが――為、こんな授業に意味があるのかと疑問を抱いているが、これは大学院入試を見据えた上田教諭の粋な計らいでもある。令和期と同じく、大学院入試では真の英語力が試される問題も多いのだ。勿論、将来大学院入試を経験しない生徒たちにも真の英語力をつけてもらいたいと願う上田教諭の趣味は、受験産業の講師たちに言わせれば受験を軽視するエゴに過ぎないのだろうが。

 4時間目は法学、5時間目は美術学と、教諭ではなく教授――その多くは大学教員を目指す若い博士である。つまりは令和期で言うポスドクのような立場だ。但し、大学教授としての定年を迎えたが依然として教育熱心な大学名誉教授が混ざっていることもある――が担当する専門科目が続く。法学部進学を目指している逍遙にとって特に重要なのは、作中世界の法学部入学試験において課される法学である。どの大学の法学部であっても悪名高いが2168年になっても未だ続いているAO入学試験でない限り、高校の「法学」検定教科書を基準とした「法学」科目によって基礎的な専門知識を問われることとなっているのだ。このおかげで、受験秀才による学部横断的な大量合格はかなり困難となっている。無論、或る程度は専門科目を学んでから受験に臨むこととなる為、学部のミスマッチの減少に貢献している制度でもある。なお、4時間目と5時間目の間の昼休み、逍遙と大河は食堂にて昨日と同じく里穂、礼佳と共に気まずい昼食を済ませている。

 6時間目は政治経済。法学部を目指すと決めている逍遙はやる気に満ち溢れているが、大河は露骨にやる気を失って眠りかけていた。それに気づいた逍遙は笑ってしまった。

 ここまで書いていなかったが、2168年の高校において、生徒が清掃を行うことは少ない。普段の清掃は清掃員が行っている。生徒による清掃は精神修養的な意味合いで学期末に行われる程度だ。したがって、6時間目の後の帰りのHR(ホームルーム)さえ終わればすぐ部活に行くか帰宅するかできる。大河の部活はまだ今年度の活動を始めていないし、逍遙に至ってはまだ部活に入っていない。そんな訳で、今日も逍遙と大河はすぐ帰宅するのだが、今日は昨日までより必死である。逍遙も大河も、里穂と礼佳のことが冗談抜きでちょっと怖くなってしまったのだ。しかし、バスを待っている間に礼佳に追いつかれてしまった。バスに乗ると礼佳は逍遙の隣に座って「逍遙君さ、これ見て」と制服の白いミニスカートを引き、健康的な色の太ももを強調して笑った。逍遙も大河も勃起して制服のズボンがいきり経ってしまう。「ふふ」とますます興奮していたずらっぽく笑う礼佳。やけくそになった逍遙は「かわいいよ。……正直めっちゃエロい」と言う。こういう時に限って声が通ってしまって、周りにいる生徒の後ろ姿がピクンと動く。逍遙がしまったと思ったその時、大河が「かわいいですなあ(笑)。しかしエロいエロいってそれしか言えんのか。語彙がしょぼすぎるだろ」と突っ込んだ。「大河……覚えてろよ」と逍遙は苦笑しつつ怒りを示す。「男の友情って感じだね」と笑いながら礼佳が逍遙の手を握った。これが逍遙の性欲を解放してしまった。目がトロンとした逍遙は「えいっ☆」と礼佳の太ももを指先で触ったのだ。礼佳の吐息が漏れる。車内の視線が痛すぎる、消えたい、僕は変質者じゃないんですとの逍遙の心の声もむなしく、白髪交じりの運転手に「お客さん、その……バスの中でそういうことはやめてくださいよ」とマイクを使って放送されてしまった。すっかり萎えた逍遙と大河、必死に顔の緩みを抑えている礼佳を乗せて、バスは公津の杜駅南口に到着。逍遥たちはバスを降りるとき、顔から火が出そうになりながら運転手に「すみませんでした」と謝った。逍遙は帰宅して私服に着替えるや否やすぐさま就寝。文字通りの泣き寝入りである。

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