2168年4月12日(火)
2168年4月12日(火)、何の変哲もない普通の授業日だが、逍遙という編入生のいる県立公津の杜高等学校3年文科2組にとっては登校するのが楽しみな日だ。ここで前回の補足(設定の説明)を一つ。逍遥は前回、29歳の教授(博士)について留年も浪人もしていないのかと述べていたが、これは、作中世界では学部は3年制、修士課程は3年制、博士課程も3年制であるからだ。本作の初めから述べている通り、作中世界では高等学校(高校)が5年制であるから、高校を順調に卒業すると20歳である。したがって、29歳の博士は留年も浪人もしていないと推測できる。但し、本作の主人公である逍遙はまだ知らない情報であるが、修士課程を2年間で修了する飛び級も可能となっている為、最も若い博士は29歳ではなく28歳である。同じく逍遙はまだ知らない情報であるが、作中世界では、博士課程の大学院生は学費を払わない。在学中における学費及び寄付金等の徴収は法律で禁止されている。博士課程の大学院生はむしろ税金から生活費を給付され研究に集中することができる。したがって、大学当局からすれば博士課程の大学院生を粗製乱造しても学費で儲けることができない。学会関連の交通費・宿泊費、論文掲載費等でむしろ持ち出しとなる。これが博士の質を担保する仕組みである。
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当たり前だが、今日も僕は学校へ向かう。真新しい学ランを着て……おっと、ジャケットやズボンだけじゃなくて白線帽もかぶらないと。白線帽を含む制服を着て家を出る。僕の家があるのは千葉県八千代市で、最寄り駅は八千代台駅。家から八千代台駅南口まで徒歩10分ほどかかる。家を出て2分もすれば駅前へ通じる大通りに出る。まだ田舎から引っ越してきて一か月も経っていないが、この大通りはいつ見ても趣深い。昔ながらの商店街が並んでいるが、そんな中にドトールコーヒーや牛丼屋などのチェーン店が混在している。本当の駅前に来ると大きな駅ビルがある。ここの階段を登って八千代台駅の改札口へ。いつも通りIC定期券をタッチして中へ。また階段を使って下りホームに降りる。幸いにして八千代台駅も高校最寄りの公津の杜も特急電車(特急料金は必要ない)が停まる駅だから、たいていの電車を使える。唯一気を付けなければならないのは快速特急電車(これも特急料金は必要ない)だ。快速特急電車は公津の杜駅に停まらない。ホームに降り立った僕は次の列車を示す画面を見る。……良かった、快速特急ではなく特急のようだ。特急電車に乗り込む。次の特急停車駅の勝田台駅まではひたすら続く連坦市街地だが、勝田台駅を出発してユーカリが丘駅を通過した頃から車窓が一気に市街地から緑の多い田舎へと変わる。僕が転校してくる前にいたド田舎とは違う、ほどよい田舎というのがここ千葉県北西部の特長だと改めて思う。電車はまもなく次の特急停車駅、京成佐倉駅に入線した。ここから先は快速特急電車を除くすべての一般電車が実際には各駅に停車する。僕が乗っている特急列車は成田空港行だが、京成佐倉~成田空港は各駅停車だ。秘境駅大佐倉、京成酒々井駅と停まり、ようやく公津の杜駅に到着した。15歳の1年生から20歳の5年生まで、あらゆる他の生徒と共に公津の杜駅南口のバス停で待つ。只今の時刻は7時47分。風に吹かれたが意外と寒い。やっぱり4月も上旬はまだまだ冬みたいなものだと思う。昨日知り合った大河とどんなことを話そうか、僕と同時に、この4月に転校してきた礼佳ちゃんと何か話せるかな……なんて考え込んでいると、バスがやってきたので乗り込む。今日は着席できなかったのでつり革を持って立つ。バスに乗るときスマホは鞄に仕舞っていたので、今度は腕時計を見る。時刻は7時51分。バスは7時52分、定刻通りに出発した。
バスを降りて校地に入る。校舎のうち、土足で入って良いのは文化館だけだ。だから、普通教室棟に入るには昇降口で上履きに履き替える必要がある。履き替えて階段を登り、普通教室棟3階の3年文科2組の教室に入る。ちなみに普通教室棟は1階が1年生用、2階が2年生用……と学年が上がるにつれて上階が割り当てられる仕様となっている。自席に着くなり大河が話しかけてくれた。「おはよう」と言われたのでとりあえず「おはようございます」と返す。そのうちホームルームが始まった。昨日の、年度初め特有の1時間目を使ったロングホームルームではなく、普通のホームルームだ。ホームルームが終わると1時間目が始まる。
1時間目は古文漢文。内容は面白いが受験の為に動詞の活用やらを覚えなければならず興ざめだ。数学は工学部に入ってから必要だろうが、古文漢文は法学部に入ってからは不要だろうに……。
2時間目は体育。まさか転校早々1500m走をやらされるとは……。まあ、4年生以降は必修ではなく、競技を選べる選択必修になるから、これも数学と同じくあと1年の辛抱だ。
3時間目は近代史。概ね明治維新(1868年)以降に限った歴史だ。実は明治維新から100年経過してもインターネットは普及していなかったのだと佐藤翔一教諭が自己紹介がてら教えてくれた。大学入試でよくあるひっかけ問題らしい。確かに、この話を聞かずに受験していたら、近代の始まりから100年経過したのにインターネットが普及していない訳がないと考えてしまいそうだ。
4時間目は物理。担当は滝口隆一教諭。なんでも文科クラス(文系)向けの「物理」は中等教科であり教諭が担当するが、理科クラス(理系)向けの「物理学入門」は専門科目であり教授(若い博士)が担当する棲み分けがあるらしい。どうせ文系向けの授業だと割り切っているせいか、滝口先生の教え方は分かりやすくてありがたい。僕を含む複数の生徒から質問が飛び、先生がそれに対応し終えたところでチャイムが鳴り4時間目は終わった。
昼ご飯は昨日と同じく食堂で大河と食べた。時折思わず周囲を見渡し礼佳など同じクラスの女子を探してしまうが、同じテーブルに来てくれる女子は誰もいなかった……。
5時間目は家庭。男女平等・男女共同参画、投資と投機の違い、クレジットカードの正しい使い方についての講義だった。22世紀だというのに未だ男女平等ではない日本企業のクソさにむかつきつつ、リボルビング払いをしてはいけないということを覚えた。6時間目は情報。キーボードなどの古典的インターフェースについての授業だ。ひたすらキーボードで長文を打っていく練習だが、PCよりスマホを使っている僕を含む多くの生徒は疲れ切っていた。
そのあとは特筆すべきこともなく、普通に帰りのホームルームを終えて帰宅した。