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自由・東京圏・金欠

 僕は田舎の高校2年生。氏名は斑鳩逍遙(いかるがしょうよう)。高校生だから当たり前だが金欠だ。毎月の小遣いは2000円しかない。今いる高校は……敢えて言おう、クソであると。体育会系の奴が威張ってる。体育会系の奴が威張ってるのは都会でも変わらないかもしれないが、地方議員や地主とそのガキが支配者層を形成しているのは典型的なクソ田舎と言うほかない。学校の敷地内を含むそこらじゅうを警官隊――と言っても人間の警察官は巡査部長1人だけで、4体のアンドロイドを従えている――が巡回している時代なので人間だけで回していた昔に比べれば地主のクソガキが「いじめ」をしていて教師までもが加害者の保護、被害者の排除、隠蔽に加担している……なんてことは少ないが、先月も議員の不正を暴いた巡査部長が査定を下げられたとか。少なくとも市民団体の機関紙にはそう書かれていた。こんな田舎に何の未来があるものか。東京一極集中万歳!そう叫びたい。父は外航船の航海士をしているので滅多に帰ってこない。この田舎に住んでいるのは母の仕事(エリート官僚)の都合だが、幸いにも来年4月に母が東京の本省へ部長として異動することとなった。そこで、当然だが僕も東京圏の高校へ転校することとなった。転校の自由万歳!「都市の空気は自由にする」というドイツ語の格言を実感している次第だ。

 2168年4月、ついにこの日がやってきた。僕は県立公津の杜(こうづのもり)高等学校の一員となる。4月4日(月)、今日は編入学式が行われる日だ。公津の杜駅南口を出ていくつもある乗り場の中から路線バスを探す。幸いにもインターネットの情報通りだったので、すぐ目当ての乗り場を見つけることができた。次のバスは午前8時30分、5分後らしい。安心して周りを見渡すと僕と同じくついこの間まで中学生だったようには見えないのに真新しい黒い学ランや白いセーラー服を着た高校生が多いのに気づかされる。恐らく編入生だろう。僕と同じ新高3もいれば僕より若い新高2もいるに違いない。皆優秀そうだ。せっかく転校するのだからといろいろな高校をしっかり比較しておいてよかったと思う。やってきたバスに中扉から乗り込む。東京の高校から転校してきたと思しき人が前扉から乗ろうとしていて混乱していた。予め購入していたIC乗車券(通学定期券)を中扉脇の装置にタッチして乗り込む。バスは定刻通りに公津の杜駅南口を発車した。街路樹が美しい。バスに15分ほど揺られていると、ようやく学校最寄りの停留所に近づいた。「次は公津の杜高等学校、公津の杜高等学校」と自動音声が告げる。僕らはバスを降りた。両親が仕事で忙しく一人で来ているので他の編入生が親と来ていたら肩身が狭いと思っていたが、幸いにもほとんどが1人で来ているようでほっとする。受付に居る教師に氏名を申し出て保険証を見せ、生徒証を受け取って大講堂へ向かう。公立なのに体育館とは別に大講堂がある特色もこの高校を選んだ理由の一つだ。運動部が当然のように体育館を使うのと同じく、文化部は大講堂を含む文化館を使える。大講堂は文化館の3・4階にあると聞いてはいたが、文化館に入ると立派なエスカレーターがあったので驚きだ。後で分かったことだが、東京圏ではほとんどの高等学校が大講堂こそなくても文化館を備えているらしい。そして、文化館は文部官僚や県庁幹部を応接する学校の顔なので、大抵はエスカレーターを備えているとか。ここ公津の杜高校の場合もエスカレーターがある校舎は文化館だけだ。ともあれエスカレーターが僕らを大講堂へと運んでいく。

 大講堂に入り柔らかなモケットが張られた観覧席に着席して5分ほど経過し定刻通りの9時ちょうどとなると、編入学式が始まった。僕らが起立し檀上の校長へ礼をすると国歌斉唱。喉が痛い。そういえばしっかり声を出して歌ったのは久しぶりだ。クソ田舎では音楽の授業以外で歌を歌うほど幸せではなかった……。司会の「着席」との声に従い着席すると、校長の話だ。「校長の栗田(くりた)栄次郎です。ここもそれほど都会ではありませんが、とてつもない田舎から来た人もいれば、東京23区など大都会から来た人もいるでしょう。前の高校で楽しく暮らしてきた人もいれば、そうでない人もいるでしょう。しかし、これから新しい高校生活が始まります!本校の一員として幸せな学校生活を歩んでほしいと思います。私も高校時代に転校を経験しましたが、転校生は友達を作りやすいです(笑)。大いに楽しんでください」。僕らは思わず拍手した。簡潔で素晴らしい演説だ。全国の校長が見習うべきだと思う。

 校長の話の後に副校長から学校の施設やカリキュラム、それから校歌についての説明があり、校歌斉唱に移って散会となった。公津の杜高校には食堂があるが、さすがにこの時期はやっていないらしい。僕らは校門を出るとまたバスに乗って公津の杜駅前へ戻った。どうも僕は飢えていたらしい。安心すると共に空腹が激しいのに気づいた為、駅前でラーメンを食べる。600円だと思ったら20%の消費税が載って720円だとか。やられた。2000円の小遣いから720円が引かれ、残金は1280円となった。東京圏に来て自由を謳歌しても金欠からは逃れられないらしい。

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