◆047 準決勝①
「プール、プール♪」
「あまね、落ち着きがない」
「だってプールだよ!? しかも超高級ナイトプール!」
ぴょんぴょこしてたらクリスに怒られた。
解せぬ。
ルルちゃんだって楽しみって言ってたしリアも初めてのプールでテンション上げてたぞ?
なんでおれだけ怒られるんだよ、もう。
「あまねさんすっごく楽しみにしてましたもんね」
「そりゃそうでしょ!」
なんて言ったって、みんなのニュー水着を内緒にされているからね。環ちゃんと柚希ちゃんが相談しながら選んだらしいので、どんなものが出てくるのかが非常に楽しみである。
もちろん全員すっごく興味あるんだけど、今回一番楽しみなのはアルマ。
何と言っても胸のサイズがおかしい。
柚希ちゃんと同じくらいってだけでもう常識的じゃないサイズ感だったんだけど、夜の度に少しずつ大きくなってく気がしていたのだ。
「アルマ、なんかおっきくなってない?」
おれの質問にアルマは曖昧な笑みを返すだけだったけれど、代わりに環ちゃんが答えてくれた。
「あ、バレちゃいました? アルマにリクエストして、違和感のない速度で少しずつ大きくしてもらってるんですよね」
「エッ」
「ほら、アルマって見た目とかけっこう自由に変えられるみたいですし」
ああ、そういえばそうだね。性別まで変えられるらしいもんね。
ちなみに環ちゃんのリクエストしたサイズはエゲツないサイズであった。柚希ちゃんだって重いって言ってよく机の上に置いてるのに、そこからさらに上のサイズってどうなっちゃうんだよ!?
「あ、アルマはそれで良いの?」
「環様のご期待に沿うことが何よりの望みですので」
ほえー。
見上げた忠誠心である。
なんかメイドさんとか執事さんってすごくカッコいいよね。いやまぁアルマはまたちょっと別枠っていうか、環ちゃんのパンツ掴んで何かを説得したり、時々エキセントリックかつアグレッシブな行動に出るけどさ。
閑話休題。
今日は祓魔師協会成果披露会の最終日にして、ナイトプールのチケットに記された日でもある。皆でデート、ということもあって気合を入れた服装である。
おれは肩が出る感じのオフショルダーキャミソール。夏っぽい水色の奴にしようと思ったんだけど、環ちゃんに止められた。
「あまねさん、それ透けるんで駄目です」
「えー、駄目かな? このくらいだったら大丈夫じゃない?」
「駄目ですよ! そもそも何で下に水着を着てるんですか! 小学生ですか!?」
いや、だって着替えるの面倒なんだよ、スク水って。
今までスポポポーンって脱いでズボン穿くだけだったから知らなかったけど、肩から下まで全部が繋がっている水着は脱いだり着たりするのが面倒なのである。環ちゃんが買ってきたのはどういう用途なのか不明だけどものすごく伸縮する素材で出来ていたこともあって、余計に大変である。
着る前はおれでもちっちゃいな、みたいなサイズだったのに普通に着れたし、試しに柚希ちゃんに着て貰ったら胸までしっかり収まってたからね。とてつもなくえっちだったけど。
あれですか。
やっぱり脱がない方が興奮する人向けですか。
「スク水っていっても白だし、肌着みたいな感じで誤魔化せないかな?」
「無理です。胸元の『あまね』が目立ちすぎます」
確かに肌着にゼッケンはついてないもんね。
環ちゃんどころか柚希ちゃんまで説得に加わったので、結局はトップスをダークカラーのチュニックに変えることにした。いや、脱ぐの大変なんだよ本当に。汗かくなら貼り付くから水着着ないけど、会場内って結構涼しいしね。
「さて、それじゃあ行こうか!」
《転移》!
うーん、快晴だし気温も高め!
最高のプール日和だよね!
水面がキラキラしてて最高に気持ちよさそうだ。
「あまね様、あおい様、応援しないですか?」
「あ、ごめん。まずは東京ドームだね」
「浮かれすぎ」
「いやー、流石に気が早いですよ。だれもいなかったから良いですけど」
浮かれてないよ!
わざとだよ! 君たちがプールに心を取られて葵くんの試合のこと忘れてないか試したんだよ!
生温い視線を全力で回避しつつ改めて東京ドームの控室に《転移》。
よし、今度こそ観戦だ。
準決勝で当たる飯綱使いは、胸の大きな女性であった。思わず柚希ちゃんと見比べてしまうと、同じく柚希ちゃんの胸を凝視していた環ちゃんと目が合った。
「管狐って、もしかして巨乳が好きなんですかね?」
「いや、流石にそれはないと思うけど……祓魔師の常識ってよくわからないし何とも言えない」
こそこそっと益体もない話をしている内に試合開始だ。ちなみに設楽さんの実況は今日も好調で、
『純真可憐な有村選手に対し、土御門選手はどんな悪辣な手を使うのか!? もし男を自称するなら女性には優しくあって欲しいものだァ――! あ、ちなみに私は貧乳派なので土御門選手の方が好みです!』
大会終わった後に葵くんが本気で命を狙いに行くような煽り方をしていた。
闇討ちとかしないよね……?
いやでも葵くんだしなぁ。
「いや、あの……裏では繋がってるんだよね? これ、葵くんが本気で襲撃とかしないよね?」
「繋がっています。一応、昨日も煽るのはほどほどにと諫言しております」
「これでほどほど……?」
「ふん。去年、俺が出場したときはこんなもんじゃすまなかったぞ? 術式のせいもあって試合中は野次とブーイングしか聞こえなかったぞ?」
「準決勝の『ハゲろ』コールは凄まじかったですな……」
観客席から衰毛の呪いとかも飛んできて、試合が一時中断したんだとか。
マナー悪すぎでしょ!?
というかハゲろって何をどうしたらそんなコールが起こるんだよ。
ゲンナリしつつも始まった試合を見る。
飯綱使いが放つ管狐は、本人が持つ魔力と相まって緑の閃光に見える。複雑な軌道を描きながら葵くんへと迫る管狐だけれど、葵くんは二振りの小太刀で難なく弾いていく。
前方からの閃光を弾きながら飯綱使いに迫る葵くん。
あっ、一度弾いた管狐が今度は後ろから――
「えええ」
何いまの動き。
側転みたいな感じでくるんと身を捻って前後の攻撃を同時に弾くと、跳ねる勢いでそのまま飯綱使いを自分の間合いに捉えていた。
小太刀を振るう度に緑の閃光が弾けるが、最早飯綱使いは防戦一方であった。
はた目に見ていても苦し紛れだと分かる攻撃を織り交ぜてはいたものの、結局は葵くんの速度と手数に押し切られて決着していた。
体勢を崩した飯綱使いにピタッと刃先を向けた葵くんはかなりかっこ良かった。
『決着ゥ――――! 今回ばかりは土御門選手を褒めるしかないっ! 激しい攻防に有村選手のおっぱいもばるんばるん揺れていて実に眼福でした! でも俺は貧乳派だからどんなに動いたところで揺れない土御門選手も落ち込まなくていいぞ――!?』
設楽の術式のせいなのか、もともとのモラルのせいか、会場におっぱいコールが響き渡る。
コールがだんだんと早く、そして大きくなっていったところで緑の閃光が無差別にまき散らされた。
「このすけべどもっ! 人のことをおっぱいだけで評価するんじゃないわよっ!」
怒りに任せて管狐を撃ちまくっているらしい。何故か結界が解かれていたので観客席に着弾する。各々が結界を張って防いだり、急いで逃げたりしているけれど、何か楽しそうだ。
「三条さん?」
「お約束、というやつですな。準決勝辺りから選手のどちらかが実況にイジられて、キレて客席に術式を打ち込むのは毎年の様式美です」
本気では打ち込まないってのも約束の一つらしく、わざわざ結界を解いてスリリングな楽しみ方をするらしい。ちなみに打ち込んで良い場所も決まっているので、一般人や祓魔の術が使えない家族は打ち込まれない場所周辺に案内されるんだとか。
うまく出来てるなぁ、なんて考えていると飯綱使いも満足したのか、手を振りながら退場していた。