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◆046 夕飯と明日のこと

 それから二戦したけれど、やはり葵くんは強かった。

 流石に相手も強くなってきていて無傷とまではいかなかったものの、おれの《風癒》で充分に回復するレベルの怪我で済んでいる。対戦相手もだんだん強くなっているのか、身にまとう魔力がハッキリと感じ取れるようになってきた。

 魔力量的には葵くんと大差ないか、下手すると多いかもくらいなんだけれど、呪符を使った魔法だけではなく刀術に体術まで絡めてガンガン攻めるので、相手はやりたいことができないまま圧倒されるようであった。

 クリスが目指していたのはこれらしく、無表情ながらも割と機嫌が良いのが感じられる。

 そんなわけで二日目も無事に終了、残すところは明日の準決勝と決勝である。さすがにその二つくらいは前情報を仕入れてしっかり観戦しようと思ったんだけれど、どちらも碌な情報がなかった。

 ちなみに今は祝勝会の二日目である。

 流石にもう肉は良いかな、と思ったんだけど今日は土御門さんが海鮮で攻めてきました。アワビ・イセエビ・ウニ・イクラ・大トロといった分かりやすくゴージャスなものもあったし、聞いたことがないような名前の魚や普通に高級な感じのも用意されていた。

 ビワマスはなんとなくだけど琵琶湖にいるマスっぽいからサーモン系だって予想つくけど、キジハタとかアコウとか聞いたこともないよ。

 どれも一口くらいずつは食べたんだけど、おれとしてはヒラメを昆布締めにした奴とノドグロが美味しかった。皆がもりもり食べてるのが羨ましいけどあんまり食べるともたれるからね!

 特にチーズ!

 クリスとリアが隙あらばチーズを食べようとするんだけどなんであの二人は太らないんだろう……あれなのかな。勇者って基礎代謝が高いのかな?

 ちなみに海鮮攻め、ということで刺身だけではなく焼き魚とか煮魚もある。キンメの煮つけとか美味しかった。いや海鮮というか、和食攻めなのかな?

 夫人が一人で作ったんかな、とビックリしてたんだけども天ぷら以外は一見さんお断りの超高級店からのケータリングらしいです。天ぷらは揚げたてが美味しいからとのことで揚げてくれた。

 本当はケータリングとかもやってないらしいんだけど、土御門さんの名前でお願いすると玄関まで届く不思議。

 金か!? 金の力なのか!?

 本当は板前さん呼んで目の前でお寿司を握ってもらうこともできたらしいんだけど、見た目が目立つおれとかルルちゃんとかに配慮してこの形にしてくれたそうだ。

 別荘くれるレベルの金持ちはやることが桁違いだぜ……!

 誕生日とかはホテルでパーティーですかね……あ、敵対派閥ばかりでそんなに呼べる人はいないですか、そうですか。

 閑話休題。

 たくさん食べて胃もたれするのが嫌なのでセーブして雑談に移る。


「準決勝、決勝ともに敵対派閥、ですか……」

「そもそも土御門家は主流派のほとんどと敵対しておりますので」


 三条さんが把握しているところに拠れば、準決勝の相手は柚希ちゃんと同じく管狐を操って中距離から攻めるのが得意なタイプの飯綱使いということ。近距離まで詰めてしまえば相手の長所は潰せるだろうし、クリスとの特訓では柚希ちゃんの不意打ちとかあったから、管狐に対する備えは充分だろう。

 ちなみに相手は中立派とのことで、変に切り札使わせたりはせずに倒して良いらしい。

 決勝は、もう一組の結果次第で相手が変わってしまうものの、本命は西洋系の魔法――つまりクリスたちのものに似た感じの魔法を使う臼杵(うすき)家の当主で、対抗は依光氏の推薦した在野の男だとのこと。

 臼杵さんは祓魔師界隈ではメチャクチャ有名な祓魔師で、手の内はガッツリ割れているらしい。指や腕から属性付きの魔力弾を砲撃する術式だとか何とか。

 直線的ながら術の速度が早く、威力の強弱もつけられる。手の内が割れていても強いのが臼杵の面倒なところだ、と土御門さんが補足してくれた。


「実質、銃火器を相手にするようなものですからな……近距離まで詰めるのが上策ではありますが、臼杵は独自の甲冑格闘術でそちらも補っていたはずです」


 銃を使って格闘……が、ガン=カタですか!?

 スッゲェカッコいいじゃん!

 それ、おれも使いたいんだけど!?

 教えて貰えたりしませんか!?

 ちなみに在野の男はフード付きのローブを被ったまま試合を勝ち進んでいて面すら割れていないらしい。魔力で強化して体術主体で戦っていたことくらいしか分かっていないとのこと。

 あからさまに怪しい。


「これ、漫画とか小説だとその謎の男がメチャクチャ強いんだよね……」

「えー、流石に無くないですか? ベタっていうか、テンプレ過ぎません?」

「うちが読んどー本やと、病弱な少女とかよぼよぼんお爺ちゃんが強かことが多かよ」

「あー、鉄板っすね。でもって病弱な少女は悪の組織に改造されてたり、強力な魔物に取り付かれてるっすよね?」

「おお! 大悟さん、知っとー!?」

「モチロンっす。あとお爺ちゃんはアレっすよね、古武術とか剣術とかの使い手なんすよね」

「杖が仕込み刀になっとーけんね!」


 ベッタベタな設定だけど、言い換えれば王道とも言える設定である。柚希ちゃんが目を輝かせて大悟と話し込むのは珍しいけれど、その逆隣で梓ちゃんが何とも言えない顔をしている。

 嫉妬しているというか、不安そうというか。

 うん、これは良くない。

 おれが一肌脱いで――


「梓ちゃん。鈍感な兄貴なんかほっといて私と遊ぼ」

「えっ環ちゃん!? べ、別にそういうんじゃないよ!?」

「良いから良いから」

「あ、環! 待つっす!」

「うっさい馬鹿兄貴。付き合ってもらってるのに梓ちゃんのことを考えてないなんてサイテー」

「し、四六時中考えてるっす!」

「それはそれでキモい」


 まって。

 今の、何が正解だったの……?

 ダブルスタンダードとかじゃなくて単純に正解が存在しなくないですか……?

 あと環ちゃん。女子の「キモい」っておとこには想像以上に刺さるからね。おれも言われたらしばらく立ち直れない自信がある。

 がっくり項垂れる大悟だけど、梓ちゃんはにこにこしながらしゃがみ込んで姿勢を合わせた。


「私は嬉しいですよ?」

「あ、梓ちゃん……!」


 あ、コレあかんやつや。

 口と鼻を押さえて置かないと、そこからメイプルシロップ噴き出す可能性あるな。いけ、環ちゃん!

 この甘味空間を破壊するのだ!


「まぁ、梓ちゃんが良いなら良いけどさ」


 身を引いた……?

 えっ、ニセモノ?

 土御門さんといい、環ちゃんといい、この空間ってニセモノ多くないですか?

 ビックリして環ちゃんたちを見ていると、環ちゃんはわざとらしくおれへと向き直って抱き着いてきた。


「あまねさーん! 梓ちゃんが兄貴に取られちゃったんでかまってくださーい」

「おーよしよし。大悟なんて放っておこうぜ! 妹の友達に手を出すなんて最低だよなー」

「待つっす。先輩それ鏡見て言うっす」

「?」

「いや、妹の友達というか、友達の妹というか」

「エッ、アッ、エエッ!?」


 た、環ちゃんのことか!?

 いや確かにそう言われればそうなんだけども……。

 上手い言い訳が思いつかずにあたふたしていると、大悟の表情が微妙に生温いものに変わる。


「失言だったっす。むしろ先輩は手を出された側っすね」

「なっ、なっ、なっ!?」


 何を失礼な!


「おれは男だぞ!? 手を出されるなんてわけないでしょ! もう確固たる意志と肉食獣的なワイルドさで――」

「えっ」

「えっ」


 まって。

 何で環ちゃんまでビックリしてるの。

 どこにビックリしたの。

 怒らないから素直に言おうか。

 うん、怒らないよ?

 場合によってはクリス呼ぶけど。



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