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◆036 アルマ

「初期設定は、何をどうすれば良いですか?」

「初期設定を行います。お名前を教えてください」

「環、です」

「環様ですね。これより環様を■■■■の所有者として登録します。外環境の確認を行います――通信に失敗。このまま独立状態(スタンドアロン)での登録を行います」


 彼女は思わずホッとするような優し気な笑みを浮かべ、環ちゃんへと近づいていく。その足取りは如何にもゆっくりで、危険はなさそうである。

 ちょっと身が強張るけれど、ギリギリまで我慢して見てみよう。


「声紋――登録。

 骨格――登録。

 虹彩――登録。

 魔力――登録に失敗しました。

 魔力の登録に、予期せぬエラーが発生しました。問題解決は可能ですか?」

「ごめんなさい、魔力は持っていません」

「かしこまりました。それでは、魔力の登録をスキップ致します」


 環ちゃんが緊張した声で返すが、彼女は特に問題にした風でもなく魔力の登録とやらをスキップした。

 そして、環ちゃんの眼前でにっこり微笑むと、そのまま唇を奪った(・・・・・)

 ぬちゅ、と水っぽい音が響いたのは、環ちゃんの中に舌が差し込まれたからだろう。驚きと恐怖に混乱してしまって環ちゃんとおれが動けないままでいるのを良いことに、というべきか、環ちゃんはたっぷり一分近くキスされる。

 そうして彼女が唇を離すと、つぅ、とだ液が糸を引いたのが見えた。

 あっ、てぇてぇ……!

 じゃないよ! 環ちゃんは大丈夫かな!?


「遺伝子情報――登録。環様を当機の所有者として設定いたしました。これより環様に寄り添い、環様に尽くすことを至上とさせていただきます」

「え、あ。はい」

「続きまして、当機のユーザービリティ向上のための設定を行います。遺伝子情報の解析を行います。この処理には数分程度の時間が必要になる場合がございます」


 そう言って目を閉じた彼女。

 どういうことだろうか、と環ちゃんと顔を見合わせるけども、よく分からない。


「パソコンとかスマホの初期設定みたいな感じでしょうか」

「あっ、うん。何かそんな感じする」


 こそこそっと意見交換をしている間に遺伝子情報の解析とやらが終わったらしい。


「遺伝子的にもっとも相性が良いと考えられる異性へと変形します。この処理には最大で二日程度の時間が必要になる場合がございます」

「す、ストップ! 止まって!」

「処理を停止します――如何なさいましたか、環様」

「今、異性って言いました?」

「はい。環様は女性でいらっしゃいますので、男性形態へと変形する予定です」

「ダメ! 私、男嫌い! 女性で! 遺伝子的にもっとも相性が良さそうな同性!」


 遺伝子的に相性が良い同性ってどういうことだよ、と思うけれども環ちゃんは至って必死である。


「かしこまりました、それでは女性形態のまま、環様にアジャスト致します」


 なんかガッツポーズ取ってるけど、環ちゃん本当にブレないよね……。異世界でNAISEIしてた時もリアを相手にすんごいことを一杯してたって聞いてるよ?

 リアはおれとかクリスを見ると熱っぽい視線を向けてくるけど、環ちゃん相手だとまた一段違ったレベルの視線を向けてるもの。強いて言うならば崇拝だろうか。とにかく凄いエネルギーを感じる視線なのだ。しかも湿っぽい系のエネルギーである。


「えっと、お名前、聞いても良いですか?」

「当機に個別呼称はございません。これから環様に名づけて頂く予定でしたので」

「そうですか……」

「シークエンスを一部スキップし、名称の設定をなさいますか?」

「えっと、そうですね……そもそも、貴女は何ですか? どういう目的を持って私に接触したんですか?」


 環ちゃんの問いに、女性はキョトンとした顔になる。


「当機を含めた■■■■社の■■■■シリーズは、ご主人様が快適に暮らせるよう、あらゆる生活をサポートすることを目的として開発されました」

「えっと、社名とシリーズ名が聞き取れないんですけど」

「はい、通信環境や外環境の変化から推測するに、当機のリリースより膨大な時間が経過したものと思われます。そのため、該当する語句が現存していないものと思われます」


 そうして彼女が語ってくれたのは、クリスが前に言っていた神代の技術力の凄まじさであった。

 あらゆる環境を自分たちのために作り変え、あらゆる種族の頂点に立った神代の者たちは、今度は労働を任せるための奉仕種族開発に取り組み始めたのだという。遺伝子操作、改造、新種の創造、エトセトラエトセトラ。

 おれには理解しきれなかったけれど、現代日本と比べてもオーバーテクノロジーとなるような技術をてんこ盛りにして色んな開発を行い、最終的にたどり着いたのが彼女のような『自律型生体人形(オートマータ)』であった。

 彼女たちは奉仕するために存在しているため、所有者をありとあらゆる方法で甘やかせる(・・・・・)仕様になっているらしい。料理や身のまわりの世話はもちろん、護衛や詩歌なども嗜んでおり、望まれれば夜伽もするとのこと。

 さすがに同性では難しいが、異性形態になれば妊娠したりさせたりもできるというだけでも技術力が驚異的な水準であることが伺える。扱いとしては無性生殖になるそうだが、クローンではないとのこと。

 全っ然理解できませんでした!

 ちなみに『自律型生体人形』は環ちゃんが当てた日本語である。社名やシリーズ名は、現状の言語では翻訳することができないんだとかなんとか。


「自分で自分に名前を付けたりはしないんですか?」

「魂なき私どもが唯一ご主人様に(こいねが)うものが名前にございますれば」

「わかりました。ちょっと待っててください」


 それから環ちゃんはスマホでチャチャっと調べものを始める。

 翻訳サイトをいくつか周り、そして語感の良さそうなものを見繕ったのか、彼女を真っ直ぐ見つめた。


「貴女の名前はアルマ。遠い国のことばで、魂を意味する言葉です」

「かしこまりました――永遠の忠誠を貴女に」


 そうしてアルマは堂々たるカーテシーを取り、環ちゃんの手を取って口づけた。

 その姿はまるで物語の一場面に出てきそうにすら見える。

 ……環ちゃん腰抜かしているのが微妙に間抜けに感じるけれども。

 何はともあれ、何だか美人なメイドさんがメンバーに加わることとなった。

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