◆007咲かぬなら 咲かせて見せよう 百合の花
誤字報告ありがとうございます。さっそく修正させていただきました。
それでは本話もお楽しみください。
「ぴょっ!?」
環ちゃんが、おれの股間を触ってきたのだ。
いくら洋服越しとはいえ、思わぬ事態に変な声出てしまうが、環ちゃんはそんなことお構いなしにおれの胸やら下半身やらを触りまくっている。
「ふぇ?! あ、の、コラ、ちょっ!」
そのまままさぐるような仕草でおれの全身を触り始めたので視線でクリスに助けを求めるも、さっきまで泣いてた環ちゃんに無体なこともできないのか、困ったような顔で返された。
抱きつくようにして押さえることで前面を撫でまわす片手の封印には成功したものの、空いたもう片方の手で背中からお尻を撫でられ、尻尾を――
「ふっぁウっ! 根元! 根元はダメ!」
流石にクリスが止めてくれたけど、サキュバスボディはそういうのを受け入れるようにできているらしく時と場を選ばずに反応してしまう。
環ちゃんの意図が分からずに混乱していると、
「ついてない」
環ちゃんは涙でぐしゃぐしゃになった顔で笑った。
「汚いものついてないし、良い匂いするし、ぷにぷにで柔らかい」
「えっと、え?」
「周さん、女の子じゃん。好き」
「……え?」
「思いっきり泣かせたい」
「……………………え?」
「そのうえで私好みになるまで開発したい」
「………………………………え?」
どうやら、男性不信をこじらせて百合娘になっていたらしい。
しかもハード調教系の。
「さらっさらの髪! 華奢な身体! 真っ白な肌にぷるんぷるんの唇! しかもグロいものはついてない! 最高! 私と付き合って!」
トラウマ告白やら異世界転生でキャパをオーバーしたのか、それとも本当はこういう性格なのか、環ちゃんははっちゃけていた。
「女の子同士ってちょっと」
「え?」
クリス、うまくアドリブあわせてよ!
「ごめん嘘。でもおれ、男だから」
「え?」
「え?」
待って。クリスまでびっくりしないで。男なのは話したでしょうに。
二人ともおれを見つめたまま動かない。
だらだらと汗を流しながらも話を良い方向に進める道を模索するおれに、救いの神が現れた。
「コーヒー淹れてきたっす……ん?」
お盆にコーヒーを乗っけて人数分持ってきた、大悟である。環ちゃんにバレちゃったからか、松葉杖は使わずに普通に歩いている。もちろんギプスはそのままなので、ちょっと歩きにくそうだけど。
「おい、クソ汚物」
「あひ!?」
「私のこと、家族だと思ってるか?」
「お、思ってるっす。当たり前っす」
「チッ。なら、周さんを説得して。説得できたら、今までのこと赦す」
進学校トップクラスの頭脳って怖い。
一瞬でおれの味方を奪いに来やがった。
「え? は? え?」
「私の味方か? 味方なら手伝うって言え。手伝わないなら敵だ」
混乱する大悟に畳みかけ、
「私が男性不信になった原因、お父さんお母さんに話してもいいの? 私、敵には容赦しないから」
「分かった! 分かったっす! 手伝うっす!」
大悟は完璧に環ちゃん側に落ちた。
「そもそもおれの身体、たぶん12歳くらいだぞ!?」
「穢れを知らないって素敵。私色に染められるってのも最高」
「大悟も簡単に手伝うって言うなよ! 貞操のピンチだぞ! 環ちゃんの!」
「ヴェッ!? 環、どういうことっすか!?」
「私は! あまねさんに一目ぼれしました! 好きです!」
大混乱だったので、全員を座らせる。そして大悟の淹れてきたコーヒーを配って一息。
環ちゃんの主張をまとめてみる。
百合娘的にはロリサキュバスボディがドストライクだそうで、一目ぼれしてしまったんだとか。どうにか付き合いたい、それが無理なら最悪、一緒にお風呂入ったりいちゃいちゃするだけでもいい、とのこと。
最悪でも風呂入ってイチャイチャするんかい。
ちなみに前世のおれに対しての感想を聞いてみると、すっごく言いづらそうしながらも「これと同族だと思ってたんで、あんまり視界に入れないようにしてました」とのこと。
「というかそもそも私が百合になったのはアンタのせいなんだけど。赦すって言ってるんだから妹の初恋くらい応援してよ」
この発言がとどめとなって、大悟は完全に環ちゃんの味方になった。
口の中に生のゴーヤをありったけぶち込んだような表情をしながらも、
「先輩……」
おれを見つめてきたのだ。
「ごめんちょっとタイム。大悟、ちょっと」
進退窮まったおれは大悟を廊下に呼びつける。クリスと環ちゃんには一旦待っててもらうことにする。そして、話が聞かれないように一階のリビングまで移動する。
壁が薄いのだ、この家は。
まぁ家主に無断で居候してる身で言えることじゃないけど。
「大悟、どうするつもりだ」
「正直訳わかんないっす。環が自分を嫌っていた理由も今さっき聞いたところなんすよ」
だよなぁ。
「ただ、自分としてはメチャクチャ複雑なんすけど、環が望むなら先輩とのことは応援したいっす」
「ハァ!?」
「だって環の初恋なんすよ!? しかも今まで恋の一つもできなかったのは自分のせいっす! 応援するしかないっす!」
「それ、おれが元の身体のままでも言えたか?」
「むしろそっちの方が両親には説明しやすいっすよ!」
だよなぁ……!
妹の初恋が12歳の元男で現在ロリサキュバスなんです、なんて説明できるはずがない。
まだ、兄の先輩、とかの方が説明しやすいだろう。
「先輩は環が嫌っすか?」
「あー、えー、うーん」
正直、嫌じゃないです。本能的には嫌じゃないけど、友達の妹だぞ!?
理性的な意味で気にするわ!
「嫌じゃないならとりあえず付き合ってあげて欲しいっす。ほら、先輩、食事のためにもにゃんにゃんするのが必要っすよね?」
「……ぉぅ」
「あ、でも流石に膜だけはヴァブォ?!」
環ちゃんが聞いたら再び一生口を聞いてもらえないようなことを口走ろうとしたので、みぞおちにパンチして黙らせる。
生々しい上に兄が妹のそういうことを気にするっていうのが気持ち悪い。
「とりあえず、お友達からってやつで。大悟もそれで良いか?」
うずくまりながらも親指をグッと立ててきたので、部屋に戻ることにした。
大悟? 回復したら来るんじゃない?
少なくとも魔法を使ってあげる気はない。
ささっと階段を昇って大悟の部屋に戻ると、
「私が一位」
「二位以降です……」
無表情ながらも若干ドヤっぽい気配のするクリスと、顔を真っ赤にしながらも満面の笑みで手を挙げて二番目を主張する環ちゃんがいたのであった。
まって。
君たちどういう話し合いをしたの?
そもそも何の順番なの?
まって。
ほんとうにまって。
ストックが切れるまでは毎日最低一話ずつ更新します!
更新無かったら予約ミスってんなコイツ、くらいの生温かい目で見てやってください。
ブクマや評価等を頂けますと作者のモチベーションが著しく上がりますので、ぜひともお願いします。
それでは次回もお楽しみに!