◆005とりあえずの準備
ランキング100位内に入れたー!!!
すっごく嬉しいです。応援本当にありがとうございます。
その日のうちに、移住は完了した。
というのも、大悟に回復魔法を掛けて怪我を直したので、おれの荷物から最低限必要なものだけを持っていくのはそれほど難しくなかったからだ。
ちなみに持って行ったものはパソコンと周辺機器、卒業アルバム・卒業証書といった思い出の品々、もう使わないと思われるけれど銀行印や通帳なんかの一式だ。
両親と一緒に映っている家族写真や何かも一緒に運んでもらった。
残してきたのは家電の類と洋服、そして細々とした雑貨や食器類。流石に持っていくのが大変すぎるし、荷物の移動を目撃されまくって大悟が泥棒扱いされるのも可哀そうだからね。
それらは即日契約したレンタル倉庫に入れてもらい、大悟には出来るだけ早く一人暮らしをしてもらう、ということで話を進めてもらうことになった。
一応、大悟名義でスマホを2台契約してもらったので、今はクリスと静かに特訓中である。クリスにとっては全てが珍しいものだらけなので、ハンバーガーを食べては驚き、公園に行っては驚き、コンビニに入っては驚き、といった感じで退屈はしていないと思う。
俺の部屋で話をしていたときは思いつかなかったけれど、実はおれとクリスは結構普通に外出できている。
大悟の部屋は一戸建ての二階端なので、窓の鍵だけ開けておいてもらえれば身体能力がお化けなクリスと空を飛べるおれは出入り自由なのだ。一応、空き巣対策にクリスが結界魔法を使ってくれたので迷惑を掛けることはないと思う。
後はおれの認識阻害魔法で見つかりにくくすれば、散策するくらいはなんてことはない。
なので、昼間は散策しながらスマホをいじり、夜は大悟の部屋でぐっすりの生活だ。
まぁクリスにお願いして何度か美味しくいただきましたけれど。
場所に関しては内緒。
散々渋られたし、何度か通行人に見られそうになって怒られたとだけ言っておこう。それでも今まで全く知らなかったえっちなことは嫌いではないらしく、始めてしまえば大満足な結果になるのでおれとしては文句はない。WIN-WINってやつだね。
ちなみに配信をする前段階として散策の合間合間に写メを撮り、プイッターにアップするための画像を溜めている。
プイッターというのは、若者を中心として流行っているSNSサービスだ。パソコンかスマートフォンからアクセスして、プイートと呼ばれる短い呟きでことば・画像・短い動画なんかをアップロードすることができる。
おれがまだ溜めたままにしているのは、大悟が注文した配信用の機器がそろい、配信が始められるようになるのを待つためだ。
こういう流行りは一過性なので、あまり引き延ばさないよう、配信の一週間前くらいからアップを始めようと思っていたりする。
身バレすると都合の悪いことが多いので写メを撮る場所には気を使うけれど、(大悟の金で買った)洋服でおめかししたおれやクリスをアップしたり、近々配信を行うことを仄めかしたりしている。
大悟に散財させてばかりだけど、おれが死んだ自動車事故の保険金が降りたために余裕があるから甘えているのが現状だ。大悟は「先輩がこんなことになったのは自分のせいっすから、出せる分はいくらでも出すっす」と豪語していたけれど、稼げるようになったら返す、ということで決着した。まぁ同乗者の分はおれが貰ってもいい気はするけども。
というわけで夜。大悟の部屋でおれとクリス、大悟でこそこそお話をしていた。今、この家に大悟の両親はいないのだが、隣室に妹の環ちゃんがいるはずだ。
あまり壁が厚くないらしく、時折隣室から物音がしていたのだ。
その隣室からごそごそっと音がしたかと思うと、ドアがノックされた。
おれは急いで認識阻害を発動。ぶつかったりしないようにクリスと一緒に壁のそばに避難する。
この認識阻害、実は割と難しい魔法に入るらしい。
魔力を秒間でゴリゴリ削るような使い方をすれば文字通り認識できないレベルになるけれど、常時発動できるレベルまで魔力を落とすと「印象が薄い」とか「いたっけ?」みたいな感じになる。
さらに言えば、一度認識されてしまうと効果が格段に薄くなってしまうという欠点もある。
クリスに教えてはみたものの、あまり相性が良くないらしく印象を薄くするのが精いっぱいだった。
「環っすか。どーしたっすか?」
大悟がドアを開けると、そこに立っていたのは予想通り、妹の環ちゃんだった。環ちゃんは現在高校二年生で、大悟と遊ぶときに時々顔を会わせたことがある程度の子だ。
パンク系、というのだろうか。ベリーショートの髪は派手な金に染めてあり、右耳に七つのピアス。
これで県内トップの進学校でも一位、二位を争う成績を誇るというのだから人は見た目じゃ分からない。
ちなみに環ちゃんの高校は式典以外は制服を着る必要がないくらい校則がゆるい。
その代わり、授業はメチャクチャ早くて高校二年の秋には三年生の教科書が終わるという驚異的な速度で進む。
大悟と同じ遺伝子を受け継いでるとは思えないくらいの頭脳を持ったボーイッシュ系美人だけど、問題が一つ。
「ドア開けて」
とにかく当たりが強かった。
クリスみたいなクール系とかじゃない。ハッキリと敵意を感じる。
機嫌が悪いのか、もしくは嫌われてるとしか思えないくらい当たりが強いのだ。
挨拶をしても無言で小さく頭を下げるだけで、目も合わせようとしない。一度玄関で鉢合わせた時には小さく舌打ちまでされた始末である。
「どしたっす? 何か用事っすか?」
「ドア開けて。中見せて」
ガッと勢いをつけて半ばこじ開けるように中に入った環ちゃんは、ドア付近で侵入を防ごうとしてコケた大悟を見下ろし、小さく鼻を鳴らす。
「な、何っすか?」
「大怪我したって割には元気そうじゃん。痛がる様子もないし」
「ヴェッ!?」
環ちゃんの切れ味鋭すぎる発言に思わず変な声を出す大悟だけど、おれも人のことを言えない。思わず声が漏れないように両手で口を塞いでしまった。つい数日前に大悟の怪我を回復魔法で治したのはおれなのだ。
大悟によると、首はムチウチだけど足は折れていたらしいので、いきなり治りましたは不味い。
「アンタさ。何隠してんの?」
「なな、な、なにがっすか?」
「アンタと一緒に事故った先輩いたでしょ。こないだまで先輩ーとか言いながら部屋に引きこもってた癖して突然テンション高くなってあっちこち動き回って、挙句怪我も治ってそうな気配がする。普通じゃない」
「いや、そんなこと、ないっすよ? ほら、あの、怪我は、妹の前だし、兄として痩せ我慢を」
しどろもどろの言い訳をする大悟に、環ちゃんは舌打ちを一つ。
そして左足のギプスをつま先でちょんと突く。大悟が怪我してたら悶絶するであろう暴挙である。
「ほら、やっぱ痛がってない」
「ななな、何するっすかー!?」
「私のこと妹っていうな。お前なんかと血が繋がってるなんて思いたくない」
あんまりにもあんまりな一言に、頭に血が昇ってしまった。
「流石にそれは言い過ぎだろ! 大悟が可哀そうだ!」
俺の言葉に、環ちゃんはぎょっとした顔で俺を見ると、形容しがたい表情になったあと、ぱくぱくと口を開けた。
あ、ちょっとその表情は大悟に似てる。
「大悟は大怪我してたんだぞ!? もし今ので骨がずれてたら、大事になるところだったんだぞ!?」
「先パ――!?」
「大悟はちょっと黙ってろ! 環ちゃん、もし大悟がこないだみたいな事故にあって、それで死んだらどうすんだ!? 喧嘩して酷いこと言って、それが別れの言葉になるかも知れないんだぞ! ちゃんと考えたか!?」
ドア付近で寝転ぶように倒れていた大悟も、環ちゃんとまったく同じ表情でおれを見ている。
あれ、もしかして……やらかした?
「……えっと、だから、ちょっと今の言動は、流石に大悟が可哀そうだと思う、よ?」
強引にまとめてみたけれども、誰も何も言わない。
どうすんだこの空気、と思って辺りを見回すと、クリスが頭に手を当てて振っていた。それからようやく環ちゃんが絞り出した言葉は、
「……ロリ美少女の拉致監禁?」
奇しくもアパートで大悟が言ったものと同レベルのものであった。
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更新無かったら予約ミスってんなコイツ、くらいの生温かい目で見てやってください。
それでは次回もお楽しみに!