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◆043現実逃避

「飯テロ、です!」

「あああ! ルルちゃんがどんどん変なことばを覚えてく! 環ちゃんでしょ!?」

「……すまないあまね」

「エッ、クリス!?」

俗語(スラング)を勉強していたら出てきた」

「そ、そっか……」

「あまねさん?」

「えーと、その、ごめんね?」

「ダメです」

「ほら、ルルちゃんがご飯作ったから!」

「……今夜は覚悟しておいてくださいね?」

 午後になった。

 さすがにベッドの上でだらだら過ごすのも精神衛生上よくないので、環ちゃんとシャワー浴びてさっぱりしたら外出もできるくらいの普段着に着替える。汗とかをいっぱいかいたからね!

 割と満腹なおれをよそにクリスと環ちゃんはルルちゃんお手製のお昼ご飯を頬張っていた。

 ちなみに今日のメニューはとろとろチーズのホットサンドだ。


「解読、です!」


 むんっ、とやる気満々のルルちゃんが何となく読めるようになってきたレシピを元に作ったらしい。小麦の焼ける香ばしい香りと、コクを感じさせるチーズの匂いがなんとも食欲をそそる。

 食べなくてもいいかな、と思っていたんだけど、ルルちゃんが当番なのでおれの分も当然の如く存在している。というか食べないとうるうるした瞳で上目遣いにおれを見てくる。


「んー。おいしー」

「チーズか。豪華だ」

「うん。ルルちゃん上手にできたね」

「はいです!」


 うさ耳なのに、犬の尻尾が見えそうな喜びっぷりに思わず頬がゆるむ。

 とろっとろで糸を引くチーズとキツネ色でカリッカリのトーストは相性が抜群だ。中にはチーズの他に、一度焼いたベーコンが入っていたので濃厚で少しスモーキーな香りが足されてガッツリ感も半端じゃない。

 ちなみに飲み物は紅茶。


「私が淹れる」


 クリスが立候補したときはちょっと驚いたけれど、紅茶は貴人の間で飲まれているものらしく、茶会に招かれることもあってある程度詳しいのだとか。

 元勇者って引き出し多すぎませんか?

 人心地ついて、クリスに膝枕されつつゲームのプレイ画面を眺める。環ちゃんはダイニングで学校の課題をやっつけており、ルルちゃんはおれの尻尾と仲良く遊んでいる。

 そんな穏やかな昼下がりに、柚希ちゃんが帰ってきた。


「たっだいまー」

「お邪魔します」

「失礼する」


 左右にいるのは助さん格さん、ではなく土御門さんと三条さんだった。

 慌ててルルちゃんに絡めていた尻尾をほどくとソファに座る。姿勢も正してシャキーン、って感じだ。


「昨日は世話になった。何か(さわ)りはないか?」

「ありがとうございます。大丈夫ですよ」

「治療したのはこちらだからな。後で文句を言われてもかなわん。最後まで面倒くらいは見るさ」


 うっわー。もうツンデレの極み。

 今のって多分『べ、べつに心配なんかしてない! 治療者として責任があるから仕方なく確認に来ただけ!』ってことでしょ?

 もう素直じゃないなー。


「何をにやにやしておる?」

「何でもないですよー」

「そうか。それでは――ム。君は……?」

「あれ、梓ちゃんのお父さん?」

「梓のクラスメイトの子だね。どうしてここに?」


 びっくりした。

 何とツンデレ親父の土御門さんの娘さん、環ちゃんのクラスメイトなんだって。しかもすっごく仲良いらしい。

 ちなみに娘さんには陰陽道を(こころざ)せるほどの魔力は遺伝しなかったようで、妖魔のことも秘密にしているんだとか。跡取りは中学生の息子さんで、そっちはビシバシ鍛えているらしいけれど反抗期で大変なんだと小さくぼやいていた。

 逆に、妖魔が見えないのに環ちゃんがその存在を知っていることに驚いていた。


「また遊びに来なさい。梓も喜ぶだろう」

「はい。またご挨拶に伺いますね」


 急ににこやかな顔になった土御門さんになんとも言えない気持ち悪さを感じてクリスたちに視線を向けるが、柚希ちゃんは何故か笑顔で頷いており、クリスは小さな声で、


「偽者……いや、しかし魔力は本人の……」


 混乱する思考をまとめようとしていた。

 前世の話とか異世界の話とかをする気はないので適当に誤魔化したけれど、環ちゃんも割と深い関係者、ということにして着席。椅子が足りないので他の部屋からも持ってきてみんなでテーブルを囲んだ。

 ちなみにお茶請けに、と三条さんがフルーツたっぷりのロールケーキを用意してきてくれたので柚希ちゃんが鼻歌とともにカットしてサーブしている。


「昨晩の報酬の件できた。有栖川の娘に聞いたが、宗谷(そうや)殿に聞くのが一番確かだと言われてな」

「こちらが、すぐに用意できるもののリストになります」


 現金報酬算定額、4000万円。


「ヴァッ!?」

「すまない。命を懸けてくれた値段としては低いと思うが、一人1000万が限界だった。これ以上になると理事会で確実に猛反発を食らうだろう」

「それゆえに、物品で補填しようと思いまして」


 三条さんの持ってきてくれたリストにはずらずらと物品の一覧がある。絵画、茶器、壺、刀剣といった美術要素のある収集物に、自動車やバイク、小型のクルーザーなどの乗り物。果ては土地や物件まで。

 横には一応評価額も書いてあるけど、めまいがするような金額のものまである。


「一応、土御門家所有で価値がありそうなものは全てリストアップしたつもりだが……不満か?」

「いやいやいやいや!? 何言ってんの!? 足りるに決まってるでしょ!?」

「ほう。どれが良い? 好きに選べ」

「こんなのもら――もがっ」


 慌てて固辞しようとするおれの口を環ちゃんが塞ぐ。そして耳打ち。


「ここで貰わないっていうのは、却って失礼に当たります。土御門さんや三条さんの気もすまないでしょうし、貰っておくべきです」

「ぷはっ……うーん、そう言われればそうか」


 環ちゃんのことだから何かしら裏があるんだろうけど、結果的におれたちにプラスになるだろうし、まぁ良いかな。


「あ、これなんてどうです?」

「別荘……えっ、土地ひっろい」

「別にかまわんが、あまり良い立地ではないぞ?」

「山付きかぁ。栃木県だと、ギリギリ日帰りでいけるかなぁ」

「よく地図見てください。ほら、川も流れてますよ」

「ほんとだ。これって泳げたりしますか?」


 おれの問いに答えるのは三条さんだ。


「ええ。ここの辺りだと水深は1m前後でしょうか。流れも緩やかになるように引いておりますので、十分に泳げるはずです。あと、こちらまで移動すればアマゴやオイカワも釣れますよ」


 おお、最高!

 アマゴもオイカワも食用になるそうで、アウトドア動画にはピッタリだろう。初日はキャンプと釣り、翌日はお魚さんには迷惑だろうけどちょっとした川遊びをしたい!

 水着だ水着!

 視聴者さんたちと約束したもんね!

 あーテンションあがってきた!

 まずは水着を買いに行かなきゃ!

 水着を、買いに……?

 かかかっ、かいもの、こわひ……!


「あまねさん? 何か顔色悪いですけど」

「なななんでもないですじょ?」


 動揺を隠せないおれが使い物にならないと判断したのか、不機嫌顔を封印したにこやかパパと腹黒ドSを隠ぺいした環ちゃんが何か打ち合わせを始めた。結果、といっては何だけど、だいたい20分くらいで握手していた。


「さすが、首席を取り続けるだけはあるね。今すぐに事務や秘書になって欲しいくらいだ。うちでバイトをする気はないかね?」

「おじさまったらお上手ですね」

「本心だよ。親ばかながら梓もなかなか優秀だと思うんだが、望田くんはやはり別格だね」

「ありがとうございます。でも梓ちゃん、私よりずっとしっかりしてますよ? いっつも助けてもらってばっかりで――」


 ……誰?

 なにここパラレルワールド?

 不機嫌ツンデレ親父とドS腹黒娘に擬態した何かが会話をしているけれど、絶対別人でしょこれ。

 柚希ちゃん呼んできて二人を祓ってもらった方が良いんだろうか。

 あ、クリスが遠くをみてる。三条さんも窓の外に視線を向けている。おれもルルちゃんを撫でながら遠くをみよう。

 あそこに留まってるのはメジロかな。可愛いなぁ。


「だれ? にせもの?」

「あまね、知能下がってる」

「しらないひとたち」

「ほ、ほら。あそこさ小鳥さんがおるばい!」

「……かわい」

「「(これもアリだな)」」

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◆別作品
「実は最強なFランク底辺職の死霊術師は今日もおっぱいに埋まる。」
カクヨムにて毎日更新中の新作です!こちらもぜひ応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?アマゴって生息域が西日本じゃなかったっけ?栃木にいたっけ?
[一言] エピローグっていう章かーいΣ(*゜д゜ノ)ノ …普段タイトルまで気にしてないという罪がバレた(*´-`)
[一言] 広い別荘あると撮影なり新メンバー増員なりで便利だよね〜、移動は1回行っておけば転移で1発だし……
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