◆031副業よりも、本業を
「ごめんごめん。おとぉに不運を運ぶ妖魔が憑いとったけん、おかぁが祓うてな」
「おお!? そこでつながるのか」
「知り合うた途端に何事も上手くいくようになったけん『こん娘ばおれん女神ばい!』思うて結婚申し込んだって言うとった」
「スゲェ……情熱的かつ漢らしい。九州男児って感じだ(偏見)」
「そげえして結婚ばしたら、コーノトリって言う赤ちゃんば運ぶ妖魔がおにぃとウチを連れてきてん」
「エッ」
「どげんしたと?」
「……イヤ、何デモナイデス……」
というわけで三日後、土曜日に祓魔師協会での登録と面接をすることになったおれたちはそれまでに一本配信しようと決めた。
祓魔師協会に関する件で蚊帳の外に置かれた環ちゃんが若干むくれたこともあり、配信は環ちゃん一押しのファッションショーだ。とはいえ何度も着替えるのも大変だし、一枚だけではちょっと盛り上がりに欠けるので、視聴者参加型の企画を盛り込んだものとした。
「さて、今回はファッション企画です!」
「愛らしか服着たけん、楽しみんさい!」
「ぱちぱち」
『始まった』『待ってた』『【¥4545】開幕ゴロ合わせ』『かわいいおようふくたすかる』『柚希ちゃん可愛い』『【¥50000】まずお布施』『新メンバー加入くるか?』『また歌をお願いしたい』『おうた、すき』
今回からは役割を明確に分担した。MCはおれと柚希ちゃん。柚希ちゃんが細かい進行やコメントへの対応を行い、大きな流れはおれが作る。
クリスは俗語や下ネタに疎いこともあって、スパチャのお礼を中心にお願いした。
「といっても、ファッションショーだけじゃつまらないと思う人もいるかも知れないから、後半で視聴者参加型の企画もやるよ! 観ないと死ぬほど後悔するからね!」
「ばりばりばい!」
『方言娘可愛い』『【¥50000】博多の至宝』『歌アンケートとかかな?』『【¥1919】これは我慢できない』
まずはおれ。
新緑色のロングスカートに、ジャストサイズの白Tシャツ。合わせるのは桜色のカーディガンだ。腕にクリスとお揃いのバングルをつけているけれど、基本的にはシンプルな感じでまとめた。室内ではあるけれど、くるぶしで留めるタイプのサンダルまで合わせたコーディネートである。
ちなみに財源は前回のスパチャ。ようやく大悟のヒモを脱出できたよ。いやまだ頼ってるけども。
カメラの前でくるっと一回転すると、どや顔を向ける。
「どう? 大人っぽいでしょ? テーマはずばり、春です!」
『アッ、かわいい』『たすかる』『【¥50000】これはわからせたい』『背伸び感が良い』『【¥1919】二回目……ふぅ』『ロリサキュバス本指名まだー?』
良い感じの発言に、クリスが天然の突っ込みを入れて盛り上がったりもしつつ、クリスの番だ。
黒のスキニーパンツにジャストサイズのTシャツ。上に羽織るのは袖をまくったギンガムチェックのネルシャツだ。凛とした雰囲気にちょっと着崩し感が出てパンクロックな雰囲気がある。
凛々しい姿と夜の姿のギャップもまた良し。いや、ギャップに関しては視聴者さんは知らないだろうけど。
『【¥5000】ごめん、給料日前でこれが限界』『これは踏まれたい』『踏まれニキいっつも湧いてるなwww』『きっと惚れた相手には尽くすタイプ』『【¥1919】さんかいめ……ふぅ』『賢者タイム短いのが居て草』『【¥50000】愛娘にお小遣い』『早漏で草』
クリスはびしっとポーズを決めると、最近醸し出されるようになった蠱惑的な雰囲気の流し目をカメラに送って元の位置に戻る。
すごい勢いで流れるコメントに、クリスがお礼を告げたあと、今度は柚希ちゃんだ。
ノースリーブの白ニットにチャコールグレーのワイドパンツを合わせた柚希ちゃんは清楚系ながらも活動的。その上、主張しまくる胸が最早凶器の域である。ニットだから余計にね。
これが清楚系えっちか。
ざらざらと流れるコメントに柚希ちゃんはにこっと力強い笑みを浮かべて、
「応援ありがとう、嬉しか!」
ピースサインを画面に向ける。
うん、実にお腹が減る画だね。すばらしい。
「さて、ここで準備ができたので新メンバーの発表です」
「今回の新メンバーは、なんとけも耳ばい! ばり可愛かよ!?」
『新メンバー来たwww』『この箱属性多いんだよ! 溺れそうwww』『ケモミミ!?』『【¥3150】期待』『イヌ耳希望』『ねこ耳予想』『ここはオーソドックスにうさ耳お姉さん』『くま耳ぴこぴこ』『くりっくの子か!?』
コメント欄がさっと落ち着くまで待って、呼びかけだ。
「さぁ、それでは呼んでみましょう」
「せーのっ!」
「「「ルルちゃん!」」」
引きでフルショットになったカメラに、カッチコチに固まったルルちゃんが入ってくる。右足と右手が一緒に出てる。そして泣きそうな顔で笑顔を浮かべてるんだ。
かわいすぎる。
「るるるっ、ルルです! よろしくお願いします!」
ぺこっと頭をさげた勢いで、白から茶色のグラデーションが艶やかなおみみが揺れる。
『かわいい』『かわいい』『ロリサキュバスよりつよい(確信)』『【¥3000】これで甘いものでもお食べ』『うさ耳か』『【¥50000】うさロリてぇてぇ』『ベタなとこいくかと思いきやロップイヤーきゃわわ』『なぜか泣きそうなんだが』『【¥10000】これは庇護欲そそる』『例の声の子だ』
ちなみにルルちゃんの服装はこないだのおめかしした時の色違いで、パステルグリーンのワンピにフリル付きのエプロンドレス。白のハイソックスに合わせた靴は黒のエナメルにしてある。肩がパフスリーブっぽくなっていて不思議の国のルルちゃんって感じである。
水色よりもルルちゃんには似合うかもしれない。
てぇてぇ。
「えっ、あ、あれ? あまね様?」
進行がないことに不安を覚えたのか、ルルちゃんが潤んだ瞳でおれを見つめる。
いや、コメント欄が少し落ち着くまで待って自己紹介だよって言ったじゃん。言ったけど、なんかすごい罪悪感湧く。あと興奮する。あー、魔力が足りない気がしてきた。最近ずっとチャージしてるからそんなはずないんだけど。
ルルちゃんがおれを『あまね様』と呼んだことでコメント欄が再沸騰し始めたので、諦めて進行しちゃうか。
「はい。新メンバーのルルちゃんです! 見ての通り、か弱いうさちゃんですが、柚希ちゃんよりはつよつよです」
「ふぇっ!? 何の話ばしよっと!?」
「つよつよ、です!」
こらクリス、顔背けて笑わない。
赤くなりながら動揺する柚希ちゃんを華麗にスルーして、カメラマン大悟がルルちゃんをアップで映す。
「えっと、ルルです! 14歳です! 好きなものはあまね様です! 嫌いなものは病気です!」
「ヴッ……かわいい……じゃなかった拍手ー!」
『888888888』『てぇてぇ』『【¥6900】無垢』『【¥1000】うちの娘にもあんな時期が』『サキュバスが魅了されてて草』『娘反抗期ニキじゃないっすかwww』『【¥30000】おみみはむはむしたい』『8888888』『この娘、前回声だけ出てた娘だ』『てぇてぇ』『あまねたん本音がもれてるよwww』
四人そろってカメラに手を振る。
気分はちょっとしたアイドルである。
アイドルではあるけれど、むしろおれはこの娘たちにスパチャしたい側でもある。
複雑な気分だ。
「さて、それではさっそく企画の方に参りましょう」
おれのニカッとした笑みを合図に、大悟がパソコンを操作し始めた。
「そういやお父さんはよく柚希ちゃんの一人暮らしを許したね?」
「うちはそういう決まりなんよ。おにぃも佐官手伝うとるばってん、一人暮らし始めるー言うてたし」
「へぇ……自立させるってことなのかな」
「そうやね。ばってん、おかぁは寂しー言うて、コーノトリば来て欲しかー言うとったな」
「エッ」
「弟か妹か、どっちが良か? って聞かれたんよ。赤ちゃんば連れて来てくるーとは限らんのに」
「……ソウナンダ……」