◆027会議は踊れど進まない
「この前書き後書きって、必要なんすか?」
「わからん……まぁでも、空白は寂しいから埋めるっていってたよ、風化する前の作者が」
「もうちょっと良い感じの情報を載せたりとか、そういうのが良いんじゃ……?」
「本文は脱稿してるけど、ここは投稿予約のときにパッションで書いてるって言ってたな」
「パッションっすか。ならしょうがないっすね」
「ああ、しょうがない」
朝。目覚めてシャワーを浴びる。
こないだ柚希ちゃんが参戦するようになってから、なし崩しに多人数で夜を過ごすことが増えた。ちなみにルルちゃんは元々薄っすらとしか理解していなかったのだが、あのぽんこつ聖女にこと細かに説明され、何が行われているのか理解してしまった。
「あまね様は、私のことを好きですか?」
これまたド直球な問いにたじろいだけれど、クリスは別格としてルルちゃんのことも幸せにしたいと思っている。なのでそのことを伝えたところ、
「家族、です! 一緒、です!」
と真っ赤な顔でベッドに突撃してきた。
おれとクリスと環ちゃんでしっかり可愛がってあげました。もう幸せそうな顔で気を失っている姿の何と清らかなことか。
その後、謎の同盟を組んだクリスと環ちゃんに敗北したおれは、誰が夜の覇者なのかは知らない。ただ、起きたらみんなは既に活動を開始していて、ベッドにいたのはトイレに行きたくてもじもじしているルルちゃんと、ルルちゃんをがしっと抱きしめて眠っていたおれだけだ。
昨晩、あんなに色々出したのに決壊寸前だったらしく、おれが目を開けた瞬間に、
「あ、あ、あまね様……! ルルは……! ルルはおトイレに……!」
と、自分への振動少なめのウィスパーボイスで申告してきたので、思わず尻尾でルルちゃんの背中を撫でてしまった。
「~~~ッ!?!?」
うさぎがするような、跳ねるような動きで飛び出してってトイレに駆け込んだのでセーフだったみたいだけど。
まぁうさ耳なのでウサギ系なのは間違いないんだけども。ちなみによく言われるうさぎ的な性欲の強さは確認できていません。
よわよわです。
まぁ柚希ちゃんよりは強いんだけど。駆け込みとはいえトイレもセーフだったし。
そんなつまみ食いでは足りなかったので、朝食がてらルルちゃんをお風呂に引きずり込んで洗いっこする。
いやぁ、サキュバスって大変だなぁ。
献身的な女の子がいて助かるわぁ。
なんかクリスとバングルの交換してからこっち、魔力の高まりが良いっていうか、妙に高まるっていうか、なんかそわそわするんだよね。いくらつまみ食いしても満腹にならない感じ。
あ、もちろん満足はしてるんだけど、こう、なんというか、いくらでもできそうな感じ?
うまく表現できないけども。
ちなみにルルちゃんには、「尻尾はおれの意思とは関係なく勝手に動く」と教えている。
純真なルルちゃんはそれをすっかり信じているので、
「あ、あまね様の尻尾は意地悪な尻尾なのです! めっ、です!」
身体を拭きながらルルが尻尾にお説教をしていた。へにゃっと力を抜いたら、怒りすぎちゃったかと心配していたので折りをみて再びいたずらしてあげねばなるまい。ルルちゃんに心配をかけるわけにはいかないからね!
決意を新たに、普通の朝食を摂ったみんなと収録に関する話をする。
ちなみに今日の朝食はクリスの番で、昼食兼なのでちょっと重めのピザトーストだ。クリス的にはチーズ=豪華という図式が成り立つらしく、やたらチーズを使いたがる。異世界では貴重なんだろうか。
もちろん、精気でエネルギー吸収をするおれの分はないけれど、にんにくの効いたピザソースの香りはちょっと食欲をそそられる。
ルルちゃんが食べ終わるのを待って、会議開始だ。
「自己紹介、歌と続いて三つ目の動画は何が良いですかね」
「ルルもお役に立ちたいです!」
「ウー、かわいい」
隣のクリスに脇をつつかれる。嫉妬も含めてかわいいぞ。
今夜もきちんと気持ちを伝えてあげよう。限界まで。
「歌ん反応が良かったけん歌いたかー」
柚希ちゃんが再びの歌配信を提案するけれど、
「あーうん。歌そのものは定期的にやりたいよね。反応すごかったし。ただ、どんだけ撮りためても編集が大悟とおれだけだから、回数をこなすのはちょっと厳しい」
「あー……パソコンって扱いが難しかもんね」
ちなみに柚希ちゃんはパソコンはほとんど使えないらしい。スマホで足りるけん、とか言ってたけどこれがジェネレーションギャップですか。あと環ちゃんもあんまり出来ないって言ってたので、最近の女子高生ってそんな感じなのか、と妙におっさん臭いことを考えてしまう。前世の年齢的にそこまで離れてないはずなんだけどなぁ。
ちなみにその環ちゃんは今、高校に行っている。如何に自由が売りの校風といっても、流石にサボリ続けると授業そのものについていけなくなるらしい。
大悟もいくつか出席を取る講義があるため、大学に向かっていて不在だ。
なので、にわか配信者のおれ、アイドル志望で畑違いの柚希ちゃん、セオリーが分かっていないクリスとルルちゃんという四人での会議である。
大悟は歌配信の編集が結構キツかったらしく、
「アイデアが欲しいっす! なんでも良いんでよろしくっす! できれば編集少ないのが良いっす!」
目の下に隈を作りながらおれにすがってきた。
おれとクリスの奴はともかくとして、柚希ちゃんのは撮影からアップロードまで時間なかったしね……。
「とりあえず、何をしてるのが面白いか、ちょっと探してみようか」
ユアチューブで再生数が多い動画をいくつかピックアップして視聴する。相変わらずテレビがないのでおれのデスクトップパソコンを引っ張ってきてみんなで覗き込みながらの視聴だ。
「まずはゲーム実況だね」
「これもげぇむの映像なのか……」
最近、スマホのゲームをやっているクリスが唸るけれど、プラスステーション5とかスコッチなどの最新のハードはグラフィックがとにかくすごい。ちなみに今視聴しているのは軟体動物がインクをまき散らすゲームの二作目だ。
「ウチ、ゲーム苦手たい……」
「さすがにおれもこういうのは無理かな」
「ははは、破裂しました! ぱちんって! イカの人は無事ですか!?」
ルルちゃんがおろおろしだしたので視聴終了。
分かっていたことだけど、こういうゲームをやるにはある程度の技術力が必要である。
もちろん、ヘタなところから始めて上手になっていく、というのも楽しみの一つなのかもしれないけれど、ゲーム実況だけをやるわけでもないので上手くなれるか微妙なところである。
というわけで、代わりに今度は難しいテクニックなどがほとんどない奴を視聴する。別の意味で難しいけれど、これも最近大人気のゲームだ。
『between us』、略称ビトアスは開拓村や外洋船、塔の中などの簡単な二次元マップの中でいわゆる人狼ゲームをやるものだ。
善良な村人は狼におびえながらも生活のためにマップのあちこちにあるタスクを行う。
狼は村人のふりをしつつ、生活を脅かす妨害工作で村人を散り散りにして、目撃されないように村人を殺す。
死体が見つかると皆で議論をして狼らしき人物を一人だけ追放。
こんな流れを繰り返していき、狼を全員追放するか、生活のためのタスクを全て終えれば村人の勝ち。
逆に追放しきれないまま村人が狼と同じ人数になるまで減らされてしまうと狼の勝ち。
そんなゲームである。
ちなみにプレイヤーは分かりやすいように色分けされているのだが、意外と見間違いや見落としが多い。
村人になるとタスクを行わなければならないんだけど、画面の八割を埋めるような別窓が開いたりしてしまい、なかなかに視認性が悪い。
その結果、一緒にいたはずの人物を視認できていなかったり、間違った目撃情報をあげてしまったりするわけだ。
人間の主観的な情報が如何に信用できないものなのかを認識させられるゲームである。
「……これなら、できるかも?」
ゲームが好きなクリスが興味を持ったので、おれのパソコンにインストールしてあるビトアスを起動し、実際にプレイしてみる。
ちなみに追放のための会議はチャットか、もしくは通話アプリを使うのが主流で、今回は通話アプリ使用のコミュニティに飛び入りで参加させてもらった。
『女の子だ!』『声可愛い!』と盛り上がる中でゲームが始まる。
「えっと、緑と赤が一緒に行動していて、茶色はさっき集会所にいたはずだから」
『あー、多分これ、ピンクが怪しいっすね』
『エッ。私一人でしたけど、狼じゃないですよー?』
会話をしていると、ルルちゃんがすすっと寄ってきた。
「青の人と、ピンクの人、嘘吐いてます」
「エッ」
「声が嘘の声です」
ちなみに結果はルルちゃんの言った通りでした。その後、三回ほどやってみたものの、全て的中。
中には、一度も死人が出てないのに狼を全て言い当てるという離れ業をやってのけた回もあった。
うさ耳すげぇな。嘘つけないじゃん。
ってことはおれの尻尾が自律しているって嘘も、バレてる……?
試しにパソコンをいじってる振りをしながらルルちゃんのぱんつに尻尾を突っ込んだら、可愛らしい悲鳴とともに飛び上がって、その後おれの尻尾に正座で向き合ってお説教していた。
可愛いし、嘘もバレてなさそうなのでセーフ!
クリスにちょっと冷たい目で見られたけどセーフなんです!
最近積極的だし環ちゃんから色々学習してるから夜が怖いけど精神的な収支はプラス!
「最近さぁ……クリスが構ってくれないんだよ……」
「どうしたんです? 唐突に」
「いや、何かゲームにはまり始めてさ。見てるだけで面白いんだけど、ちょっかいかけると怒られる」
「さびしいんですか? 私がいますよー。ベッド行きます?」
「(チラッ)」
「ひっ……私、今いません。ちょっかいかけてきて怒られたついでに許可取ってきてからにしてください」
「おー、ビビってるっすね」
「(チッ)」
「ヒィッ!?」
「(ほんと、この兄妹はちょいちょい似てるんだよなぁ)」