◆022配信は順調だった 配信の時にはね
「環ちゃん反省してる?」
「……してます」
「基本やらかし系だよね」
「……はい」
「たまき様、何かしたです?」
「ああうん。読んでみればわかるよ」
「はいです」
さて、お気づきの方もいるかと思いますが、我が配信のメンバーが増えました。
その経緯なんだけれど、ずいぶんと大きな問題も起きたのできちんと整理しようと思う。
シェアハウス案に対して日和ったおれの発言を受けて、素直に帰った柚希ちゃんは三日後にパンッパンのスーツケースを持って再び来襲。
しかもママン同伴。
ママンは柚希ちゃんそっくりの朗らか美人で、やっぱり大きかった。
いやでも柚希ちゃんの方が大きいか?
うーん、神秘。
来る前に連絡しろって思ったけど行動力ありすぎて連絡先交換する前にいなくなったから無理だったんだよなぁ……。
ともかく、陽キャ二人が唐突に来襲してきたせいで、割と暗めの曇天なのにすっごいパワーを感じた。陽キャってすげぇ。
「あまねちゃんな安全な妖魔って言うたっちゃけど確認したかーって言うけん連れてきた!」
「娘がお世話になります」
あ、そうか。ママンは福岡出身じゃないんだっけか。
柚希ちゃんの顔で標準語だー違和感あるー、と思っていると目が合ってにっこり微笑まれた。ちなみに菓子折りに博多土産として有名な暗月堂の通るもんをもってきてくれた。白あんからバターとミルクの香りがふわっとして、すごくおいしかったです。
歓待の意も兼ねてお茶請けに出させてもらいました。
「あまねさん、と申しましたか。娘の言う通り此方の存在とは少し違うようですが、妖魔特有の穢れは感じられませんね……どちらかというと精霊に似た存在なのでしょうか」
うーん、日本……というか地球にもこういう方面が本当に存在してたんだなぁ、と改めて感じる発言だ。精霊っているんだね。トイレとかにもいるのかな? いや、あれは神様か。
精霊じゃなくてサキュバスです、とも言えずにしどろもどろになったおれだが、クリスがさらっと助けてくれた。クリスも同居人として挨拶をしただけなんだけども、
「クリスさんは随分と清らかな雰囲気を纏っていらっしゃる。穢れにとっては近づくだけで毒になりましょう。ならばあまねさんが穢れていないというのも頷けます」
クリスが清らかなのは事実ですが、おれは穢れというかえっちな邪念ならたっぷりあるんですけど。おれの生命力にも直結してるし。
あ、でもクリスに限らず、誰に何をしてもブチっとはしないようにしてるからそういう意味では清らかだね! 大悟以外は全員ユニコーンにも乗れます!
初日にサキュバスのお姉さんから伝授された技が役に立ってる!
……尊厳を削られた甲斐もあったってもんだ……はぁ。
ちなみにお風呂とか添い寝とかは環ちゃんが口止めしてくれていたらしく、家賃の一部を持つ、ということで決着した。あ、流石に大悟には外してもらってるよ。
大悟に人を襲うような度胸はない(断言)けど、高校を卒業したての娘が男もいるシェアハウスなんて心配になるだろうしね。
そんなこんなで柚希ちゃんは我が家で暮らすこととなりました。
クリスは三位以降、と順位を確認して終わり。
環ちゃんはにこっと笑いながら邪な視線を向けていた。多分何かやらかすだろう。
そしてルルちゃんはぴょんぴょん跳ねながら喜んでいた。ルルちゃんとしては、一緒に住む=家族、で、家族は多ければ多いほどいい、という考えらしい。
やったねルルちゃん、家族が増えたよ!
というわけなのだが、問題が一つ発覚した。
「こっち来るにあたってちょっと関東圏の祓魔師協会に連絡を入れたんですけど、ちょっときな臭いことになってるみたいなんで気を付けてくださいね」
祓魔師協会、というおれの厨二心をくすぐるワードが出てきたんだけど、どうやらこないだ柚希ちゃんと一緒に遭遇したカエル頭の半魚人――ああいう邪悪なモンスターをこちらでは妖魔と呼ぶらしい――以外にも、全国的にそういった妖魔がらみの事件が増えているのだとか。
クトゥルフ的な見た目してたし出来れば二度と出会いたくはないんだけど、柚希ママン曰く「あまねちゃんからは妖気を感じるから、それを頼りにして寄ってくるんじゃないかと思います。あと可愛いし」とのこと。
いや半魚人の美的センスで可愛い扱いされたら逆にヘコむんだけど。
ちなみにクリスも清らかなオーラが出ていて割と存在感があるんだとか。まぁクリスは強いし襲撃されても大丈夫でしょうけども。むしろクトゥルフ的なSAN値チェックがあったら怖いかも知れないけど。
「ほら、柚希って術そのものはきちんと使いこなせるけど、実戦経験ほとんどないでしょ? だからぜひ、あまねさんとクリスさんには柚希のことをお願いしますね」
柚希ママンはにっこり笑って、天気が本格的に崩れる前に、と帰っていった。
あんだけ自信満々におれに対して管狐ブッパしてたのに実戦経験ないんかい!
「……というか、よくおれのことを祓魔しようと思ったね?」
「ほら、東京はえずかところだって聞いとったし、あまねちゃんがこげん良か子やと思わんかったけん」
あ、やっぱり何も考えてない。
アイドル目指して関東来たのもそうだけど、基本的に直感と勢いだけで動いてるぞコイツ。見た目大和なでしこなのに完全にあっぱらぱーのノープラン娘だ。
おれに攻撃してきたこともそうだけど、親子ともども楽観的で能天気なのちょっと腹立つ。
っていうかそもそも柚希ちゃんはおれが回復魔法掛けてなかったら結構やばかったんじゃないか?
お腹って臓器たくさんあるし、ヘタな臓器が傷ついてたら助からない可能性は十分にあったと思う。あのクトゥルフ半魚も遊んでた、的なこと言ってたし。
危機感が薄い。
薄すぎてイラっとしてきた。
観光に送り出した先で死ぬなんて、親御さんからしたら悪夢でしかないだろう。
「このぽんこつなでしこ! 怪我してたらどーすんだよ!? クリスが助けてくれたから良かったようなものの、あの半魚人に突っかかって返り討ちとか普通にあり得たんだよ!?」
「すまんて。反省しとー」
「反省が感じられない! もし何かあったら残された家族がどう思うか考えろよ! そもそも倒す必要ってあるの!? 枕返しとか一反木綿とか無害なの多いじゃん!」
「危なか奴もおるばい! おかぁな、積極的に狩れっていっとった」
「だったら練習くらいしてからにしなさい!」
「おかぁにお墨付きもろうとー」
「死にかけてたじゃん! おれがいなかったら死んでたよ!?」
怒ったおれに、環ちゃんがこそっと耳打ちをする。
「反省してないようなので、わからせてあげましょう。今日は私の番なので一緒にご招待して、しっかり反省させるんです。ベッドの上でお説教です」
「わかった、ベッドの上でお説教だ! 今夜、環ちゃんと反省させる!」
「えっ」
「えっ」
「よかよ、あまねちゃんのベッド広かけんね」
クリス、ルルちゃんがびっくりする傍らで、何も分かってない柚希ちゃんからはOKが出た。言質は取った。取ったから本気で反省するまで環ちゃんといじめてやる!
「あ、あの、ルルは、ルルも?」
「アッ、かわいい」
なんでちょっと不安そうな上目遣いでおれを見つめてるの。
違うよ、仲間外れとかじゃないんだよ。これは反省させるためなの。ルルちゃんはいい子だからそんなことしなくても大丈夫なんだよ。おねだりされたらするけど。
……ってよく考えなくてもこれ三人プレイだよね? なんかすごい開けちゃいけない扉の気配がして来たんだけど、もしかしておれ……
「私が一位なんだけど」
「エッ、アッ、ハイ」
あっ。
クリスが怒ってる……。冷や水をぶっかけられたような心持ちで、急に頭が冷える。
あ、ハイ。やらかしちゃったんだね、おれ。
「ばか」
そのまますたすたと出て行ってしまうクリスの後ろ姿を見送りながら、おれは頭を抱える。
これ完全にやっちゃった系だぁ!!!
……何でおれはこう、アツくなるとまともな判断が下せなくなるんだ!
そもそもベッドの上でお説教ってなんだよ。どう考えても環ちゃんがおれを出汁にしてえっちなことしたいだけじゃん! なんで気付かないんだよおれ!
というかこの場の収拾、どうつけるんだよ……。
ルルちゃんは頭を抱えるおれとクリスが出ていった扉を交互に見つめておろおろしている。多分ケンカを仲裁したいけれどどうすれば良いか分からないんだろう。
環ちゃんはおれと同じく頭が痛そうな顔をしていた。
これは柚希ちゃんを百合ロードに引き込もうとしたのが失敗したからだね。
しかもクリスの地雷を踏みぬいて。
うん、おれも正直ちょっと恨んでる。まぁおれの場合は逆恨みだけども、焚きつけられたのは事実だ。
まぁその結果、とんでもないことを言った挙句、ルルちゃんに対して「かわいい」とか脈絡なく言うし、そりゃクリスも呆れるよ。
「あの、あまね様! クリス様、追わなくていいですか!?」
「あ、うん。そうだね。皆は待ってて。ちょっと探してくる」
とりあえずクリスを追って謝ろう。
「ええと、とりあえずポイント、入れてもらいます?」
「どうして!? どうしてこのタイミングでお願いできると思ったの!?」
「環……さすがに図太すぎるっす」
「でもポイントは欲しかー」
「うん。ちょっと黙ろうか」
「ツッコミ入れてないでクリスさん追った方が良いんじゃないっすか?」
「ハッ!? クリスぅぅぅぅ!!!」