◆020【第二回配信】
「はい、それではまずマシュマロにお答えしましょう!」
「『身体の部位で最初に洗う場所』か」
「うーん。この質問に答えることでより清潔な状態を保てます。伝染病予防、つまり健全!」
「健全、です!」
「おれは左腕! 右利きだからね。ルルちゃんは頭からだよねー」
「おみみは良く洗わないといけないってママにならったのです」
「クリスは背中!」
「洗うというか、あまねが洗ってくれる」
「柚希ちゃんは……ちょっと言いづらいとこだよね」
「あ、汗がたまるけん仕方なか!」
「溜まるってすげぇな……今度手伝ってあげるね。肩こるだろうからマッサージも」
「ふぇ? 良かと?」
「良か良か。ちなみに環ちゃんはシャンプーとコンディショナーが最初で、体は首からです」
「効率的な感じやね。ざばーって一気に洗うとるよ」
「あ、あまね様……新しいましゅまろ? が……」
「『どうしてみんなの洗う場所に詳しいんですか?』」
「……み、みんなの身体を清潔に保つためです! 健全な行為です!」
「あまね、手汗」
「はーい。それでは第二回配信を始めたいと思います! たくさんのお気に入り登録ありがとうございます! おかげ様で収益化が始められる運びとなりました!」
「ありがとう」
撮影用の部屋。今回はローテーブルにローソファという組み合わせで、クリスと身を寄せ合うようにして座っての配信だ。
『前回よりちかい。これはご褒美』『【¥1919】収益化記念』『【¥4545】二人の距離が百合百合しくてすこ』『クリスたんに踏まれたい』
気付くの早いな。
ええ、色々ありまして、クリスとはより親密というか、ツーカーというか、きちんとした関係になったんですよ。クーデレ系女子から見事なクーデレデレデレ系くらいに変化しました。可愛くて辛いぜ。
「あ、さっそくスパチャありがとうございます。何かスパチャがすごく中途半端な数字なんですけどー、どうしてこういう数字になったのかおれに教えてもらえますかー?」
『ノリノリ過ぎワロタ』『草』『絶対意味わかってる。さすがサキュバス』『【¥50000】おれっこてぇてぇ』『未経験サキュバスあざとい。好き』『これはえっち』
「ヴァッ?! さっそくありがとうございます! ございますけど、金額すごいことになってますよ? 大丈夫ですかこれ」
さて、(大悟の作業を)待ちに待った第二回配信だ! 予定外の作業もあったのでおれも結構作業することになったけど、動画つくるのってメチャクチャしんどい。
ちなみに今回は上半身だけ映す感じにしておれたちもパソコンモニターを覗けるようにしている。そう。
今告知した通り、収益化というかスパチャまで解禁できたからだ。
『上限ニキすげぇ』『おれっ娘ガチ恋勢か』『バングルかわいい』『ほんとだ、おそろ?』
「バングルめざといね。お揃い」
クリスが右手に嵌めたバングルを掲げたのでおれも左手首に嵌っているそれを掲げて見せる。クリスとお揃いの意匠で、〆て金貨八枚という超高額な逸品だ。
まぁ希少な鉱物でできてて魔道具にもなるレベルだからそのくらいはしょうがないんだろうけども。
『ゆりっこてぇてぇ』『あまねたんの笑顔で鬼畜攻め希望』『【¥721】他意はない』『他意しかねぇだろwww』『1919も4545も取られたもんね』『クリスの無言鬼畜責め萌え』
「スパチャありがとうございます。でもこれ、最初にゼロが足りなくないですか? これじゃ読めないですよ?」
『耳年魔www』『背伸びしてる感が非常に良い』『小悪魔の本領発揮』『あまねたんにも踏まれたい』『耳年魔ワロタ』『だれうま』『踏まれニキは相手が誰でも良いだろwww』『これは攻めの発言』
「さて、このままお話するのも面白そうなんですけど、今日は歌の配信をしようと思います! 流石に一発撮りは自信がないから歌だけ別撮りですが、おれもクリスも頑張ったから聞いて欲しいです」
「うん。楽しかった」
「歌の後には重大発表もするので、よろしくね!」
おれの言葉を聞いたルルちゃんが、マウスをクリックする。
あ、今小さい声で「くりっく、です」って言ったの入ったかな? まぁいいや。
モニターに配信されるのはまずおれ。
選曲は大悟おすすめのエロゲ主題歌ながら国歌にすべきとまで言われた名曲『烏の歌』だ。
『こwれwはw』『名曲過ぎるwww』『三十路のおれにド刺さり』『【¥20000】コンデンサマイク使うといいよ。可能性を感じる』『声綺麗』『みみがしあわせ』『魂が浄化される』『涙出てきた』『【¥10000】純粋にうまい』『ガチ歌勢か』『スゲェ』『【¥500】おうたうまい』
すごい速度でコメントが流れていく。結構良い評価を貰えているようで何よりだ。とりあえずスパチャ投げてくれた人の名前を確認してメモっておく。
せっかく投げてくれたんだからお礼くらいは言わないとね。
うーん。プロが白い部屋で行う一発撮りの奴よりはずっとショボいけど、中々さまになっているんじゃないかと思う。
特にロングトーンは、音域が合っているのかスカーンと気持ちよく伸ばせたので大満足である。
は、と軽く息を弾ませた動画内のおれが、カメラに手を振る。
「というわけで私の歌でした。スパチャありがとうございます!」
「次は私」
続いてクリス。
二度目の『くりっく、です』のあとに画面が切り替わる。マイクを片手にヘッドホンを耳に当てるクリスの姿が映る。
クリスが歌うのは大悟が歌ったやつから選んだ男性歌手の曲で、ヒーローもののアニメの主題歌にもなった『Vサイン』である。かなりアップテンポながらも少しハスキーな感じのクリスの凛としたかっこよさが前面に出る良いチョイスだ。高音でも力強く出せるのがまたカッコいい。
言葉がぎゅっと詰まっているのもまったく気にならないらしく、リテイクも三回くらいでとんでもない仕上がりになった。
純粋にカッコいいだけあって、コメント欄もずらずらっと称賛の言葉が並んでいく。スパチャも結構な勢いで飛んでくる。
くう……おれもスパチャしたい。
なんだろう。カラオケとかじゃなくて、ちゃんと自分の歌にしてる感じがすごくする。
陶酔するように聞きほれている間に、曲はあっけなく終わってしまう。寂しい気持ちもあるけれど、MCとしての仕事をこなさねば!
「さて、二曲聞いてもらいましたが如何でしたか?」
「あ、すぱちゃ、ありがと。嬉しい」
「本当はたくさん歌いたい曲があるんですけど、今日は余裕もないので重大発表に移りたいと思います」
くりっくです、と三度ルルちゃんが呟いて、別撮り映像に切り替わる。
そこに映っているのは、
『新キャラ?』『こないだ言ってた新メンバーか』『大和撫子』『これは可愛い』『えっ』
『ダンス付き!?』『うま』『すげぇ』『これ歌だけアテレコ?』『【¥1000】支援』『でっっっか』『【¥50000】ダンスに合わせてばるんばるん』
言わずと知れた、有栖川柚希ちゃんである。アイドル志望というだけあって、歌もダンスもすごく上手であった。
黒のロングヘアを結い上げるようにまとめた柚希ちゃんは、ドラマの主題歌にしてダンスでバズった『愛』を振付け付きで完コピしている。きちんと笑顔な辺り、相当な練習をしているのだろう。
そして何より。
たゆん、たゆん、ってすごい。
何これ別の生き物? みたいなサイズだ。
『すげぇ』『これもバーチャル?』『本物だったら巻頭グラビアレベル』『【¥50000】祈りが通じた』『圧巻過ぎて歌が入ってこない』『これは大迫力』『【¥50000】眼福』『ロリサキュバスよりサキュバスしてる』『餅? スライム?』『あまねたんよりCGを疑うレベル』『上限ニキすげぇ』『上限ニキ複数湧いとるがな』『ご神体』『これは可愛い』『大和撫子なのに和服絶対似合わないだろ』『もはや暴力』
おっぱい。
それは男ならば誰もが登頂を目指す高い頂き。
なぜ山を登るのか? そこに山があるからさ。
おれも一人のアルピニストとしてこう言わざるを得ない。目標は、大きければ大きいほど良いのだ。
あ、やばい。哲学的な思考にふけってたら曲が終わった。
「はい、という訳で聞いて頂きました。『愛』。カバーしてくれたのは本日初登場の新メンバー、有栖川柚希ちゃんです!」
おれのことばを合図に、カメラ外からたたっと走ってきた柚希ちゃんがクリスと逆側、おれの横で止まる。
「初めましてやなぁ。有栖川柚希ばい。歌うて踊るーアイドルば目指しとーけん、応援よろしゅう!」
『これは可愛い』『博多弁か』『ぐうかわ』『【¥36000】きょぬー、和風美人、方言で三倍満』『親三倍満でワロタ』
「柚希ちゃんはこれからおれとクリス、それからまた後で紹介する新メンバーと一緒に配信をやってくれることになりました。拍手ー!」
『888888』『【¥8888】888888』『はくしゅー、かわいい』『ぱちぱち』『さらに増えるのか』『スパチャ上限が足りない』『8888』
「おー! ウチ、応援されとー!」
「ヴッ……浄化される……!」
『配信主が邪悪で草』『【¥50000】強く生きろ』『【¥5000】あまねたんからは俺と同じ陰キャの匂いがする』『すぅーはぁー、クンカクンカ、ほんとだ!』『くんかくんかすんなwww』『同情で上限は草』
「同情ありがとうございますー! いいもんね、配信終わったらクリスも柚希ちゃんもリアルにクンカクンカしてやるもんね!」
「え、何それ」
「恥ずかしかけん、嫌ばい」
「あー拒否されたぁ! 見てろよー! 次の配信でぎゃふんと言わせてやるからなー! 必ず見てねー!」
「それじゃあ」
「「「ばいばーい!!!」」」
三人でカメラに手を振る。
大悟がグッと親指を上げたところでおれと柚希ちゃんから大きなため息が漏れる。どっと疲れが出たような気がする。
「緊張したー!」
「そうやなー! ウチ、おかしゅうなかとやったか?」
「いや、最高っす。三人ともメッチャ雰囲気有ったっす」
「にしても、クリスは緊張とかしないの?」
おれの言葉に、ルルちゃんから受けとった麦茶を飲んだクリスは涼しい顔で一言。
「勇者のとき、数千人規模の国軍の前で演説とかしてたから」
あー、もう!
勇者ってチートすぎるだろ!
「あまね様のうた、何て読むです? 『とりの――もがっ」
「ダメ。危険」
「そうっす。横棒が一本足りないのでこれは『とり』じゃなくて『からす』っす。良くみるっす」
「ふぅ……危うく色々怒られるところだったぜ」
「ギリッギリっすよね? この会話のメタさも含めて本気でギリッギリのライン攻めてるっすよね?」
「『前後書きはパッションで書くから整合性もメタも気にしない』」
「なんすかそれ」
「作者の遺言」
「じゃあ何が起きても作者の責任っすね」
「おう。作者、風化して塵になったけどな」
「塵をきちんと集めて《再誕》を使えば……」
「えっ、なにそれくわしく。ちょっと厨二心うずく」
「高等儀式魔法。術者かいけにえの生命力と魔力をトレードオフして発動させる」
「エッ」
「あの作者のためにいけにえとかないっす。キュウリとか特売の豚肉じゃダメっすか? 新鮮っすよ」
「この新鮮さ……いける」
「エッ」
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