◆019新メンバー加入
「環とルルは、あまねについててあげて。魔力不足だから」
「はいです!」
「わかりました。魔力不足なら、ナニかしてあげた方が良いんですよね?」
「……気が変わった。環は、最初は私について尋問の見学」
「エッ」
「いつか役に立つかも」
「役に立つ場面が想像できない……!」
「……んぅ」
意識が、ふわりと浮かび上がるように覚醒する。鼻腔をくすぐるのは甘さが感じられる体臭に、花のようなシャンプーが混ざった香り。目を開けると、おれは拠点のベッドで眠っていた。
おれはルルちゃんにしがみつくように寝ており、そんなおれたちを背中側から環ちゃんが包んでくれていた。
ルルちゃんはおれと一緒に寝眠っているようだけれど、環ちゃんは起きていたらしい。
おれが起きたのを感知してか、耳元にくすぐるような吐息がかけられる。
くぅ、魔力が回復する……くつじょく……!
「起きましたか。大丈夫ですか?」
「うん。ありがと。ここまで運ぶの、大変だったでしょ?」
「いえ。クリスさんが全部やってくださったので」
言いながらスマホをいじる。
どうやら連絡をしてくれたらしく、剣を携えたクリスがすぐに入ってきた。
「大丈夫?」
「うん。ありがと」
「心配させないで」
やや拗ねた感じで言われて、ごめんと謝る。
それからおれが気を失った後のことを訊ねたが、どうにも歯切れが悪い。どうにかこうにか聞き出したところによると、おれたちがいたのは見たことのない魔法だけれど、結界魔法の中であったらしい。
ある種の別次元をつくることで、他の人間とおれを隔離するのが目的のものらしい。
そして、おれの魔力に変調を感じたクリスが無理やり割り込んで、あの博多弁の女の子から守ってくれたんだとか。
「日本にも魔法使いはいるのだな」
聞いた話と随分違うんだけど、と探るような視線のクリスだけど、環ちゃんがフォローしてくれた。
「少なくとも一般的ではないです。私もだい……兄貴も魔法とかモンスターとか、そういうのは空想上のものだと認識してましたから」
環ちゃんのことばに納得したのかどうかは不明だが、クリスは無表情のまま頷き、ベッド脇に腰掛けた。スプリングの振動が伝わってきてルルちゃんのうさ耳がおれに当たる。
おいしそう。
「はむっ」
「……ぴゃあぁっ!?」
「ふょふぁよふ」
「耳っ! 耳はァっ! ってあまね様! 起きたんですね!? もう大丈夫ですか? 痛いところないですか?」
おおう。
寝てるところに悪戯したのに怒られるどころか心配してくれる。魔力とともに罪悪感が湧き上がってくるね。
とりあえず耳を口から離したところでクリスにひょいっと抱き上げられる。
これは嫉妬ですかなクリスさんや。
クリスはそのままおれを後ろから抱っこすると、つむじの辺りにぐりぐりとあごを押し付ける。痛い。でも嫉妬するクール系女子かわいいから許す。
「あのモンスター、仕留め損ねた。次は殺る」
あー、何となく逃げたような居なくなり方だったし、まぁしょうがないね。
というか素手であのバケモノとやりあってたクリス本当に強い。さすが勇者。
「それから、あまねを最初に襲ってきた魔法使いの女なんだけど」
「ああ、うん」
魔法使いっていうか、巫女? になるのかな。
なんか管狐っぽいのを使ってた子だよね。
「とりあえず剥いて、泣くまで虐めたからもう心配ない」
「エッ」
「土下座してましたね、最後は」
何普通の顔してヤクザみたいなことやらせてんの!? このバイオレンス集団、怖い。
クリスって迫力ある系の美人だし、腕っぷしもあるからそりゃ泣くよね。そこにナチュラル・ボーン・ドS娘の環ちゃんまで加わってるんだから、あの博多弁娘のメンタルが心配だよおれは。
「はいってきて」
と思ったらシャワー浴びてたのかホカホカした感じの博多弁娘が入ってきた。
「さっきはすまんやった。てっきり海外ん妖魔かて思うたと」
「あれ? クリスと環ちゃんにしこたま虐められて号泣してたのでは……?」
「泣いたばい。なしてか服も取られたしえずかったけん。ばってん泣いて反省したら切り替えないかん」
おおう。何だこの陽キャというか光属性みたいな感じは。悪役令嬢モノのラノベとかに出てくる聖女とかこんな感じなんだろうか。おれの周りには今までいなかったタイプの人間だ……!
「剥いたのは、魔道具を隠してないか確認するため。念のために燃やしたけど」
「どうせ血まみれで捨てないかんかったけんちょうどよか」
太陽というか、何か浄化されそうな陽の気配に圧されていると、そのまま自己紹介をしてくれた。
「ウチん名は有栖川柚希。福岡から移住してきた、飯綱使いばい」
「飯綱使い……」
「管狐っていえば分かると? 信州に端を発する由緒正しか家系ばい」
「なんで信州出身で博多弁を……?」
「おとぉの仕事ん都合ばい」
聞けば、母親の家系がそういう霊能的な技術を受け継いでいたらしい。意外と日本中に残るらしい本物の霊能力者の家系だが、母の代で権勢を失って追い落とされ、一般人の父と結婚したのだとか。そして父の実家がある福岡に引っ越して、柚希ちゃんが生まれたとのこと。
柚希ちゃんは生まれも育ちも福岡ながら、高校卒業を期に首都圏に越してきたんだとか。
「……もしかして、家の復権とかそういうのを狙って?」
「アイドルになりたかー、言うたら、おとぉが都内が有利って言うとったけんとりあえず下見に来たと」
あ、ダメだ。
この娘、ぽんこつ臭がすごい。
というかこの娘18歳なのか。すごい童顔だな。
「そげしたら、あまねちゃんば見つけたけん。こりゃいけん思うて」
「そんで襲ってきた、と」
「悪かて思うとるとー」
あまり悪いと思ってるようには見えないけれど、クリスと環ちゃんが本気で泣かせたって言ってたし反省してるんだろう。
……少なくともその時はしていたんだろう。
まぁ結果的に大事には至らなかったし良いかな、とも思ったんだけど、柚希ちゃんの話はそこでは終わらなかった。
「そいで、提案なんやけど」
目をきらっとさせた柚希ちゃんがおれの手を包むように両手で握ってくる。
「ウチばここさ住ませて欲しか!」
「却下! 福岡に帰りなさい!」
「なして!? クリスさんもルルちゃんもここに住んどーって聞いとるよ?」
「二人は良いの! っていうかお説教されてただけじゃないの!? なんでそんな詳しくなってるのさ!?」
「あ、それ私が話しました」
環ちゃんが犯人でした。
「ほら、配信から芸能界に入る人もいますし、せっかくならメンバー多い方がいいと思いまして。美人ですし」
おう。
ルルちゃんを紹介する前にさらに新メンバー加入か。
いや確かに美人だと思うけどさ。おっぱいも大きいし。
ちなみにおれとクリスは若干おれの方が大きい感じで、環ちゃんはおれよりさらに大きいけど、手にぎりぎり収まるという丁度いいサイズだろう。ルルちゃんは今後に期待だ。
話がそれたけれど、そんな環ちゃんと比べるまでもないサイズのものがたゆんと主張している。それこそメロンくらいのサイズがあるんじゃなかろうか。
「……ちなみにおれの事とかは」
「まぁ一通りは話しました」
一通りってどこまで!? まさか夜のことまで話したのか!?
あ、でもそもそもおれが人間じゃないことには気付いてたし……うーん。頭を抱えそうになっていると能天気ぽんこつ娘から爆弾発言が飛んだ。
「添い寝したりお風呂で背中ば流して家賃ば払うとは嫌やなかばい! 小さか頃、背中流すん上手って言われとー」
「ちょっとぉおおお!?」
「嘘はついてないです」
もっとディープな感じのこともしてるでしょうよ!?
これ絶対騙されてる系の奴だよね!? 素人を騙してAV撮るヤクザか何かなのかおれたちは!?
「おとぉに生活費は自分で稼げって言われとー。ばってん貯金がなか」
「く、クリスは?」
「三位以降なら良い。戦力にもなるし」
ああああまた始まった謎の順位付け!?
いや、なんとなく分かってるけど! けども!
おれはおれの性欲を信じらんないんだよ! だから周囲に止めてもらいたいのに誰も止めてくれない!
「ルルちゃんは」
「一緒に住む、ですか? 家族増える、です。嬉しいです!」
「だ、大悟は……」
「アイツは今動画編集頑張りすぎて頭痛いって寝てます。でも絶対反対はしませんよ?」
だよなぁ……あいつ可愛い女の子への防御力ゼロだもんなぁ。あと百合好きだし。
ましてや環ちゃんが賛成してるんだから、最初は反対してくれても寝返る可能性すらある。
「と、とりあえず親御さんの許可をもらってからで」
味方がいないことを悟ったおれは日和った発言をしながらぼすんとベッドに倒れ込んだのだった。
「そいじゃ、ウチ、すぐ許可もらってくるけんね!」
「あ、ちょっ」
「待っとって!」
「ちょっと!」
「あ、服ば貸してくれてありがとうね。洗って返すけん」
「待って……って行っちゃった」
「台風系っていうか、エネルギーの塊っていうか……すごい人ですよね」
「うん」
「おっぱいもすごかったですね」
「うん……エッ?」
「……あまね?」
「アッ、こら! 諮ったな!?」
「さて、魔力回復しましょう。新しい歯ぶらし出してこなきゃ。――兄貴」
「う、うっす。ルルちゃん、自分と文字のお勉強するっす」
「はいです!」
「い、嫌だ! いやだぁ――!!」