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◆046 最終決戦”害霊”

 安倍晴明が環ちゃんと色々打ち合わせをしている間に、おれたちは戦闘の準備をがっつり済ませた。

 全員が超古代文明時代の強力な装備を持ち、特性を把握。

 さらにはアルマ謹製の”完全栄養ジュース古代文明バージョン”なる飲み物で魔力と体力を回復させた。

 ここの設備なら何でもできますね、とのことだったんだけど、虹色に光っててゴポゴポ泡立った液体は食物に分類しちゃだめだと思う。

 ちなみに無味無臭でした。

 逆に怖いよ!?

 そんなわけで最終決戦の準備は着々整っている。


「あ、そういえば」


 安倍晴明に質問。


「マリの”霊視”を使ったりループしたりして、害霊に勝てる未来を探したんだよね?」

「ええ、そうです」

「じゃあ、おれたちって勝てる?」

「……実は分かりません。害霊の力が強すぎて未来が安定しないのです」

「そりゃそうか……勝ち確定だったらもっとのんびりしてるもんなぁ」


 うまく行かないもんだ、と唇を尖らせたところで安倍晴明が笑った。


「未来とはままならないものです。結果を知っているか否かだけでも変わってしまうことがあるのです」


 うん?

 つまり何か知ってるけど話せない的な……?

 いや、考えすぎか。


 諦めがついたところで耳をつんざくような絶叫とともに呪符の山がはじけ飛んだ。

 すでに水槽など影も形も見当たらない。それどころか月島すらいなかった。

 代わりに、ぶすぶすと煙のように闇を噴き上げる黒い影が立っていた。


 それを見た瞬間、鳥肌が止まらなくなって吐き気がこみ上げてきた。

 それまでに出会ったことのあるどんな怪異よりもずっと強烈だった。


 ……アレは、この世にあっちゃいけないものだ。


 何の根拠もないのに確信できた。煮詰められた悪意のような存在だった。



「カミ……ナル……完全……存在……」

全知全能(むちむのう)になってきてる証ですね……!」


 環ちゃんが茶々をいれるも、影になった害霊はよたよたと歩き、呪符の残骸に埋まっていた葵ちゃんの剣を拾い上げた。

 ……アレも本当に厄介だよな。

 一応、呪いの一種っぽくておれが解呪と一緒に回復魔法を使えば治癒しないことはない。それでも治りは遅いし、おれ以外じゃ回復不能なだけでもずいぶんなものだと思う。


「皆さん、よろしくお願いします」


 安倍晴明が呪符で魔法陣を作り出し、影を捉える。動けてはいるけれど、何かしらの弱体化(デバフ)が掛かっているっぽい。


「いくか」


 最初に動いたのはクリスだ。


 クリスの細剣”清廉なるファリス”が影の体を斜めに両断する。

 手ごたえもなくぬるりと抜けていく刃先を見てクリスは飛び退く。


「気を付けろ、実体がないぞ」

「やったら魔力攻撃やな」


 代わりに金属製の口紅みたいな人工精霊砲を構えた柚希ちゃんがありったけの魔力を込めて害霊へと放った。

 柚希ちゃんの魔力を思う存分取り込んだ人工精霊がミサイルみたいな勢いで飛び出し、地面と壁を削りながら影に直撃する。

 周辺の煙みたいな部分が吹き飛ぶものの、中身が見える前に再びぶすぶすと煙のような闇が吐き出されていく。


「安寧……ワタシ、ノ……民……」

「リア、合わせて!」

「承知いたしました!」


 葵ちゃんが飛び出す。

 手に握った一対の”哄笑するリリンリリ”がまとった魔力に合わせて高速振動を始めた。甲高い笑い声のような音を発したそれがぶれると同時、害霊の体にいくつもの筋が走る。

 特に四肢を中心に狙っているのは回避も反撃もさせないためだろう。


「食らいなさいなっ!」


 ひし形の金属板を繋ぎ合わせたような武骨な大剣”竜髄”を大上段から振り下ろすリア。

 地面にそれが振り下ろされると同時、床が蜘蛛の巣状にひび割れて、そこを埋めるように雷撃が奔った。


「か、回避、です!」


 ルルちゃんが叫ぶと全員が飛び退いて距離を取る。

 それとほぼ同時に害霊が腕をむちゃくちゃに振り回しながら暴れていた。人間の形をしていたはずだが実体なんてないんだろう。

 鞭のようにしなりながら伸びた腕が碌に相手をみることすらなく周囲を削っていく。


 が、来るとわかっていて受ける者は一人もいない。


「防御はお任せを」


 おれたちの前に立った安倍晴明がバチバチと魔力を散らしながら呪符で結界を張ってくれた。


 防ぎ、避け、弾いたところでさらなる攻撃を加えていく。そのどれもが古代文明の力を得ているだけあって災害みたいな威力を誇るはずだが、いまいち害霊に効いているのか分からない。


「……これ、倒せるのか……?」

「んー……精神的な攻撃の方が良いっぽいですね」

「精神的なって……環ちゃん得意そうだね」

「あまねさん、あとで話がありますからね」


 言いながら、葵ちゃんの後ろにいた環ちゃんが害霊に呼びかける。


「あなたは神ですかー!?」

「ソウ……ダ……カミ……私……神」

「じゃあさっさと『そこにいて』『そこにいない』状態になって空気に溶け消えてください!」


 ぶわり、と影が霧散する。

 同時に害霊が絶叫し、自分の体を抑えるように抱きかかえた。


「イ、嫌……ダ……カミ……違ウ……!」

「神じゃないってんなら理不尽防御やめてください。そんな能力がある生物は神しかいませんよ」

「神、ジャ、ナイッ!」

「じゃあさっさと倒されろっ!」


 り、理不尽すぎる……!

 言葉の暴力でしかない環ちゃんの発言だけれど、己の輪郭を失いつつある害霊には効果があったらしく、もがき苦しみながら膝をついていた。


「攻撃の手は緩めないでください! 神になっていないのならば魔力を散らすだけでもいつかは終わりが来るはずです!」


 安倍晴明の言葉に従い、災害のような攻撃の津波が害霊を襲う。

 建物が吹き飛んで瓦礫の飛沫になるが、それすらも地面にたどり着くことなく蒸発していく。


 おそらく、異世界のどこにいても見えてしまうだろう。

 下手すると天変地異や世界の終わりを想像している人すらいるかもしれない。

 建物が基礎から消滅し、浮遊島に亀裂が入る。

 だが、それでも誰ひとりとして攻撃の手を緩めなかった。


 どれほど攻撃を重ねただろうか。


 いまだに滅ばない害霊だが、その身は確実に消えてきていた。


「攻撃を無効化するために神に寄りすぎていますね」


 環ちゃんの言うところの”全知全能"で”いるのにいない”存在になってきているということだろう。


「かみ、カミ、神ィ……!」


 闇をまき散らしながら虚空に手を伸ばした害霊。

 その手が、ほろりと崩れる。


「あっ」


 指先からほどけるように崩れた害霊は、そのまま空気に溶けて消えた。


 あっけない、とは言わない。

 でも、あまりにも唐突な終わりだった。


「島、めちゃくちゃになっちゃったな……これ、時間遡行とかできるのか?」

「。この施設は自動修復機能がついておりますし、そもそも大切なのは地下に埋まっている統括装置です。このアルマめがいる限り、ガワなどなくても支障はございません」


 相変わらずムチャクチャな技術だ。

 でもまぁ使えるなら良いか。

 それよりも、だ。


「やった、のかな……?」

「あまねさん、このタイミングでフラグ立てるのは有罪(ギルティ)ですよ」

「そんなつもりじゃないよ!?」


 誰が好き好んでそんな縁起悪いことするかっての!


 そう叫んだのもつかの間、浮遊島がゴゴゴ、と揺れ始めた。


「あまねさん!?」

「おれのせいじゃないよ!?!?!?!?」

 

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