◆017企画を考えたら、あとは下請けの仕事
ほのぼの回です。
企画として出てきたのはこれまた三つ。
まず、おれの案としてゲーム配信。実際に何かのゲームをプレイしながら盛り上がるのは生前もよく見ていたコンテンツだ。盛り上がるに違いない。問題点は相方のクリスがまだ難しいゲームはできないことだ。指で繋いでいくタイプのパズルゲームとかならできるんだけど、赤い配管工のやつは平面の横スクロールのやつでも結構苦戦していた。目下練習中である。
二つ目の案は環ちゃんからで、ガールズコレクション。カッコいい名前がついてるけれど、実態はファッションショーだ。これはお金が掛かるっていうのと、カメラをフルショットにしないといけないのでコメント欄を見れないのが問題点だ。何かいい方法ないかなぁ。
そして三つ目は大悟の案。
「歌ってみた配信っす。前の先輩はともかく、今の先輩は美声っす」
「おれの前世に余計な評価つけるなよ。思い出は美化しなさい」
「生き返って本人が美化されてるんで思い出はそのままっす。あと、クリスちゃんも一曲くらいなら覚えられるはずっす」
「クリス、歌は歌える?」
「勇者候補時代に、一通りは習った」
可もなく不可もなく、とクリス本人は言っていたけれど、向こうの世界で歌を習うのってオペラ系だろうか。それとも讃美歌みたいな感じ?
「とりあえず音域見ながら選曲してみないっすか?」
そんなわけで、急遽というか、カラオケ大会が始まることとなった。音源はユアチューブで、大悟の部屋にあるウーハー付きのスピーカーを持ってきて、一階のリビングを会場にする。
せっかくなので環ちゃんやルルちゃんも巻き込む。
ちなみにルルちゃんは字が読めないので、今はおれや環ちゃんが教えている。クリスは普通に読めてたから元の世界での識字が関わっているんだろうか、とも思うけど、正直よく分からない。
クリスは日本語は読めて英語はほんのちょっと、その他の言語はからっきしって感じだったし。
そもそもなんで日本語話せてるん?
まぁ困ってないというか、むしろ助かってるから良いんだけども。
ルルちゃんは何としてもおれの役に立ちたいらしくヤル気はめちゃくちゃあるので、ひらがなはなんとか読めるようになっている。なでなでするとえへへって笑うのかわいい。
「とりあえず、有名なものから練習してみるっす」
「おい。初っ端からエロゲのテーマソングか」
「えっ。ダメっすか?」
「ダメじゃないけど。好きだけど」
「じゃあ良いじゃないっすか」
「大悟、そういうとこだぞお前」
「先輩もそういうとこっすよ」
馬鹿なやりとりをしながらも、まずはバラード系と言うか、あんまり激しくないのを歌っていく。何度か聞いて、おれが歌って、環ちゃんやルルちゃん、クリスも代わる代わる歌っていく。何曲かに一度は大悟も好きなものを歌う。おれも前世のときによく歌った曲なので一緒に歌ったけれど、
「女の子とデュエット……たとえ先輩でも嬉しいっす」
ちょっと涙ぐんでいた。ちょっと引いた。おれの横で環ちゃんも引いていた。
それ以外の時は大悟は歌詞をひらがなに変換してルルちゃんに見せていた。マメな男なので、環ちゃん相手にやらかしたような変なところでのチョンボとかが無ければモテてもおかしくは……いや、おかしいか。
大悟だし。
同じ曲がループしているだけのはずなのだが、歌い方に違いがあって楽しい。環ちゃんは歌い方を知ってるいまどきの女の子って感じで、どの曲も安定して上手だ。
ルルちゃんは早い言い回しが苦手のようで、ゆっくりなものならきちんと歌えた。完全におれと大悟の偏見で選んだ、元気な曲も一曲だけ練習している。田舎に引っ越してきた女の子姉妹が森のメタボ妖精と仲良くなるアニメ映画の主題歌だ。
そして意外というか、すごかったのはクリスだ。
休憩時に大悟が歌った男性曲がビビッと来たらしく、原曲を何度か聴いたと思ったら見事に歌いあげていた。
すっごいカッコいい。やっぱりオペラというか、きちんと歌唱の練習をしていただけのことはある。
ちなみにおれはそれなりだ。
それなりだけど、
「あまね様、かっこいいです」
「あまねさんの声、しあわせ」
「上手」
と女性陣から大好評だった。大悟のコメントが気持ち悪くなる可能性を感じ取ったらしく、環ちゃんがコメントをカット(物理)していたのでノーコメント。
ただ、みぞおちを押さえながらも親指をグッと出してくれたので、たぶん聴けない程酷いってことはないだろう。
「よし、それじゃあ曲を決めて練習しようか」
「あ、それなんすけど先輩。生配信って厳しくないっすか? 本番って緊張しません?」
「え、じゃあどうすんの?」
「別撮りして編集しとくっすよ。配信もMCだけやれば良いんで楽だと思うっす」
ということで、何日か練習と録音を繰り返して臨むことになった。
もちろん練習は昼間だけだけども、これだけ歌って苦情一つ来ないって一軒家はすごいな。家の中は筒抜けだけども。
生前おれが住んでいたアパートなら壁ドンされすぎて隣と開通するレベルだ。
「まうす、です。くりっく、です」
ちなみにルルちゃんはもう少し落ち着いてからの登場予定なので、パソコン係になってもらっている。
といっても音源と録音ボタンを押すだけなんだけど。
何もしないでいると不安になるようで、仕事を申し付けたらふんすっと鼻息も荒く気合を入れていた。なんだこのかわいいいきものは。
あとは大悟が音源と合わせて作ってくれるようなので、それを待って次の配信だ。
「というわけで今日は外出します」
「外出、です」
「というわけで?」
「どんなわけですか?」
おー、と拳を振り上げた俺に合わせて目をキラキラさせるルルちゃんをよそに、クリスと環ちゃんからは冷静な突っ込みが入る。
「いや、ほら。暇だし」
「直球ですね」
「人に見つからない方がいいのでは」
うわ、本気で反対されてる。
でも諦めないもんね!
「とりあえずおれの認識阻害魔法もあるし」
「まぁそれは確かに」
「それでもあまねさん、目立ちますよ? 同じ女の子の私でもハッとするくらい美人なんですから」
いや、君は同じ女の子って言っても百合百合しいセンサーを内蔵してるじゃん。
普通の女の子とは目の付け所が違うでしょ。シャープでしょ。
「これ」
「ああ、なるほど」
おれが見せたネックレスに、クリスは忘れてたとばかりに頷いた。
はてなマークが頭の上に乗っかっている環ちゃんとルルちゃんに簡単な説明をする。
「これは魔道具です。といっても髪の色を変えるくらいしかできないんだけど」
とりえずルルちゃんは髪をロップイヤーと同じように茶色くして、根元側の白っぽいところは見えないように髪の中に入れる。これで大丈夫だろう。
クリスは見た感じ普通の女の子なのでこのままで大丈夫。
そしておれはこれを使って黒髪に戻る。
黒髪、それは大和なでしこの証だ。
おれとしては大和なでしこになりたいんじゃなくて大和なでしこな感じの娘が出てくる同人誌を読みたいんだけども、まぁ言ってもしょうがない。
問題点としては、自分の分だけではなくルルちゃんの分にも魔力を注ぎ続けないといけないので魔力の消費が結構激しいこと。それから認識阻害+魔道具二つでおれのキャパシティはいっぱいいっぱいなので戦力ゼロになってしまうことだ。
まぁここ日本だし、そんな危険なことにはなるまいよ。
フラグじゃないからな!?
「実際問題、ルルちゃんの服も見に行きたいし、このまま外出しないってのも無理じゃない?」
「うーん……それはそうですけど」
なおも渋る環ちゃん。
おれたちのことを心配してくれてるのが分かってるだけにあんまり強引にはできないしなぁ。できれば納得の上で協力して欲しい。
「ほら、外なら食べ歩きデートとかできるよ?」
「どこがいいです? 中華街? それとも原宿?」
「いや、もうちょっと落ち着いたところにしようか」
そもそも中華街にはチャイナ服くらいしかないでしょ。(偏見)
環ちゃんがチョロかったのでエナジードリンクを片手にパソコンに齧りついている大悟に後を託しておれたちは外にでることにする。
とはいえ髪型や服装に関しては環ちゃんの監修が入ることとなった。
まずおれ。
清楚系というのだろうか。青のワンピースにカーディガンを合わせて、革のポシェットを袈裟懸けにした。黒に変化させた髪はハーフアップにしてくれたので、お嬢様です、と言った感じの出で立ちである。靴はローファーみたいな感じの革靴。光沢があるやつだ。
薄っすら化粧もしてくれたので、余計にいいとこのお嬢様感がある。
「あまね様、すてきです!」
全肯定少女ルルちゃんが耳をぴこぴこさせながら褒めてくれたので頭をぐりぐり撫でてあげる。
続いてクリス。
薄手の白セーターをざっくりと着て、下はスキニーシルエットのデニムと少しだけヒールが高くなったショートブーツ。ボーイッシュ寄りなのに可愛いってズルいと思う。ちなみに髪はコテ? アイロン? とかいうので簡易パーマになっている。
気に入ったらしく、姿見の前でいくつかポーズを取った後におれに向き直って「どう?」って聞いてきたときはちょっと変な声出た。
内心を読まれてるのか、何故か満足げに頷かれたけど。
最後にルルちゃんだ。
髪でうさ耳を隠そうとしたんだけども、流石にちょっとこんもりしちゃうし難しかったので環ちゃんの持っていたキャスケット帽をぼすんと被って、中にしまうことにした。
ちなみに服はおれ用に(大悟の金で)買ってあったサロペットスカートに長袖のTシャツを合わせた感じだ。これは素直に可愛くて、「どうですかっ!?」って聞かれて思わず抱きしめてしまった。
そのあとクリスに脇腹をつっつかれたけども。
最後に環ちゃん。
無地の白Tシャツにデニム生地の上着を羽織り、黒のスキニーチノを履いた姿は、バンギャっぽい環ちゃんにすごく似合う。
まぁ環ちゃん曰く、「アピールしなくても良くなったんで、髪色普通に戻そうと思ってます」とのことだ。ピアス穴も幸いにして小さいものばかりらしいので、外しておけばそのうち塞がるだろうとのこと。
「アピール?」
「こっちの話なのでお気になさらず」
さらっと躱されたけど、何か意味ありげな視線を向けられたのは気のせいではあるまい。
うーん。
まぁ考えてもしょうがないだろう。
環ちゃんはきちんとしてるから、何かあれば相談してくるだろう。ヘタに突いてベッドの上で逆襲されたくはない。
あれは、ほんとうに、つらい。
色々消耗するし、あれで魔力が回復する意味がわからないもの。
「よし。それじゃあ楽しもうか」
足代わりの大悟がパソコンと融合しているのでバスと電車を乗り継いで近所にある大型のショッピングモールに足を運ぶ。最近流行りの、郊外に作る代わりに一日じゃ回りきるのも辛いくらいの大きさと、とんでもなく大きな駐車場が付いたタイプのモールだ。
「んー、あまねさんとルルちゃんの服なら、年代的にはハーチーズとローリーズパスチャーですかね。あと、ウエストボーイとかも一応見てみますか。ああでも甘い感じならリスリザも外せませんね。クリスさんはシンプル系が似合うと思うのでmicro universeとか24区辺りを回ってみますか。私もこれからはそっち系で攻めようと思うので」
「ヴェッ!? そんなに回るの!?」
「当たり前です。カワイイは作れます。でも作るのには労力がいるんです。あとユニシロとM&Hも見ましょう。普段使い用に着回ししやすいのがあると思うので」
これ、絶対無限に服を試着し続けるやつだ。
おれには分かる。
家に残って大悟の手伝いすれば良かった……まぁルルちゃんの魔道具に魔力を注ぎ続けないといけないから無理だけど。
「あ、これ着てみましょう」
「んー、レース系も悪くない気がします」
「あ、店員さーん。すみません、これのワンサイズ小さいのあります?」
「わ、可愛い。これはルルちゃんと色違いで双子コーデしましょう!」
「こっちよりもさっきの方が良かったですね。もう一回さっきの着てみましょう」
「あ、せっかくだから靴も見ましょう。オシャレは足元からです」
「着れました? うん、良い感じですね。これ、待ってる間に見つけたんで次は着てみてください」
「これだけの美人なんですから、甘ゴスっぽい雰囲気はあってもいいですよね」
「大人っぽくていいです! 次のデートではこれ着て欲しいです!」
「もしかして、ちょっとハズシた感じでギャップを狙うのもありですかね?」
「タマキ」
「はい?」
「あまねが限界」
「あっ」
「あまね様あまね様!」
「ん、どうしたの?」
「作者がついにまえがき? と、あとがき? を放り出すそうです!」
「はぁ……まぁおれたちには関係な――エェッ!? ナンデ!? ここ後書きじゃん!」
「落ち着いて。作者はポイント欲しさにアンデッドになって崩れ落ちてたから仕方ない」
「エッ、ハイ……じゃなくて! 後書きなんて何を話せばいいんだよ!」
「大丈夫。二万文字までなら何でもフリートーク」
「そんなに話せないよ!? しかもメタい!」
「じゃあホラ、あまねさん。ラジオ配信だって思えばいいんじゃないですか?」
「あああ、環ちゃんもそんな簡単に……」
「顔出しないなら私も手伝いますよ?」
「る、ルルも! ルルもお手伝いする、です!」
「ア”ェッ……かわいい」