◆036 異世界配信(後)
「はい、それでは今から実食です!」
「……こないだの格付けのやつを彷彿とさせるシチュエーション……」
「あ、今回は目隠ししませんよ?」
「じゃあ自分で食べれるじゃん! 何でマリが箸とかスプーンとか持ってるのさ!」
おれの突っ込みに、なぜか照れ始めるマリ。
「あーんすしぇーはじかさしがあまにさぬんかいならうっさいびーんやー」
「訛ってる訛ってる……! もう何言ってるか全然わかんないよ!?」
「琉球王国由来ですし、実質外国語ですからねぇ。ちなみに今のは『あーんは恥ずかしいけどあまねさんになら嬉しい』とのことです」
「えっ、あ、ありがと……じゃなくて! 何であーんが必要なのさ!」
おれの突っ込みに応えたのは環ちゃんではなくまさかのクリスだ。
「頑張って取ってきた。怖気づかれたら悲しい」
「うっ……そ、それは確かに」
「ルルが」
クリスが、じゃないのかよ。いやまぁルルちゃんの方が責任を感じて落ち込みそうではあるけどさ!
「おれだって一応気を遣ってるんだよ? 柚希ちゃんが料理してる間に味とか食感を調べたりしてさぁ」
『スマホ見ながら悲鳴上げてたじゃん』『最終的に鏡見ながらブツブツ言ってたな』『涙目で自己暗示かけてたのクッソワロタ』『るるたそ泣かさないでね』
言わなくていいことまで言うなよ!
クリスとかルルちゃんにはかっこつけたいんだよおれは!
コメント欄に言い返している間に運ばれてきたのはホクッと湯気を上げた巨大な蜘蛛の脚。
「待って!? 揚げるんじゃないの!?」
「こっちの方が美味い」
「揚げる、です? 食べてみたいです!」
なるほど。異世界でメジャーな食べ方ってことか。柚希ちゃんに視線を向けるとつぅっと逸らされた。おそらく柚希ちゃんも調理方法が分からな過ぎてクリス達の言う通りにしただけなんだろうな。
なんか見た目の威圧感が半端ないんだけれども、目の前で柚希ちゃんが包丁を入れて殻を取ってくれた。
中に入っていたのは真っ白な繊維質だ。
……いや、最初からコレで持ってきてよ! その方が絶対に食べやすかったよ!
「最初の企画ではゲテモノとコピー食品を出して食べ比べする予定だったんですが、さすがに食感が分からな過ぎて……」
「環ちゃん。その企画やってたらおれはしばらくの間環ちゃんと口を聞かなかったと思うよ」
怖すぎて味が分からなくなるって。
「とりあえず召し上がってくださいな」
マリが箸で解しておれの口に近づける。
決心してあぐ、と頬張ると、
「……えーと。……んー……カニ?」
「確かにそんな感じだな」
「見た目もそっくりです!」
いやそんなわけはないと思うんだけど、異世界だしモンスターだしで進化の系譜というかそういうのが全然違うんだろう。
うん。
見た目が蜘蛛っぽいだけでこれはカニ。
陸ガニみたいな種類なんだよきっと。
「あまねちゃん? 何で遠くば見つめとーと?」
「自分に折り合いをつけてるんですよきっと」
「現実逃避だな」
環ちゃんもクリスもうるさいよ!
おれは今、必死に自分と戦ってるんだよ!
「続いて蛇ですね」
「頑張って捌いた」
「る、ルルもお手伝いしました!」
こっちはかなり食べやすい見た目をしている。
……というのも、筒状の肉を開いて骨を取り、食べやすいサイズに切り出してあったのだ。その上、良い感じにタレもついているのできっと食べやすいはずだ。
まぁつまり、一言でいうならウナギのかば焼きっぽい見た目である。
「ほかほかご飯! うなどん、です!」
「バリ美味しかよー!」
「ですね。美味しかったです」
「待って。何でこっちは皆食べてるの!?」
「いやぁ、だってまさかあまねさんが本当にクモを食べるとは思わないじゃないですか。絶対無理って泣き出したところでかば焼き風を出せばまだ頑張れるかなって」
「エッ!? 食べちゃったじゃん!」
「いや、食べれたならそれで良いじゃないですか。好き嫌いしないのは素敵なことですし」
悪びれもせずに笑う環ちゃん。周囲の皆も知っていたらしく、苦笑いしたり目線を逸らしたり。多分だけど知らなかったのはルルちゃんだけだなコレは。
とりあえず主犯には正義の鉄槌を下しておくことにする。
「……アルマ。今日から三日間、環ちゃんをがっつりお世話してあげて」
「ヴァッ!? あああああまねさん!? なんてことを言うんですか!」
「環ちゃんは断ろうとするだろうけどおそらく多分きっとメイビー日本人の美徳的な謙遜だから、気にせずしっかりお世話してあげてね」
「かしこまりましたっ……!」
「あまねさぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
アルマがカメラを三脚に固定して環ちゃんを引きずっていく。
うん、悪は滅びた。
「ルルちゃんは知らなかったとして、柚希ちゃん?」
「ウチは蜘蛛も食べたばい。料理したら残さんのがうちんルールやけんね」
「あー……柚希ちゃんも食べてるのか。なら無罪だな」
やはり環ちゃん。環ちゃんがすべての元凶っぽい。
「ちなみにクリスは?」
「食べれるならその方が良いと思った」
環ちゃんと同じか。
叱ろうとしたところで、寡黙なクリスにしては珍しく言葉が続く。
「……異世界でキャンプデートしたかったし」
「ヴェッ!?」
「二人で野営。焚火囲んで、ご飯食べて、夜空見たり」
「……」
「川で洗いっこしたり」
「…………」
「テントで一緒に寝たり」
「………………」
「駄目?」
「…………………………む、無罪ッ!」
そんな可愛いこと言われたら許しちゃうに決まってるじゃん!
環ちゃんは悪・即・世話されたことだし、これ以上深堀するのはやめておこう。
「えーっと、あとメイン食材は? ほら、翼を授ける系の赤い牛を狙ったわけじゃん」
「もちろんある」
「それがメインやけんね。バーベキューにする予定で野菜とかご飯も用意したばい」
おお!
なんか久々のバーベキュー!
いつの間に用意していたのか、でっかいお肉と野菜やキノコが鉄串に刺さっていたり、ホタテやエビなんかがまとめて盛られていたりと本格的なバーベキューのセットがあった。
マシュマロまで置いてある辺り、さすが柚希ちゃんである。
大悟と一緒に財力にものを言わせて買った本格バーベキューコンロにそれらを並べると、外側にはタレを塗ったおにぎりとか薄くスライスしたバゲットなんかも置いておく。
くぅぅぅぅ、お腹減ってきた!
最後に柚希ちゃんがアルミホイルの塊をどかんと置いて準備は完了、らしい。
「それ、何?」
「後んお楽しみやね」
これまた大悟と買った紀州備長炭のパワーで良い感じに焼けたところで、アルミホイルをオープン。
「おおお!?」
「カマンベールチーズやね。上だけ削って焼くと簡単チーズフォンデュになるばい」
流石柚希ちゃんだ。めっちゃ美味しそう……!
みんなでぱちんと手を合わせる。
「いただきます!」
なお、可哀想だったのでご飯が終わってから環ちゃんを救出に向かってあげた。