◆016方針会議
本話から二章が開始となります。
それでは本話もお楽しみください。
また、次回から前書き・後書きの形式が変わります。※前書き後書きは読まなくても大丈夫です。
クリス指導のもと、おれは妖怪を視認するための訓練をした。
メッチャ訓練した。
正味40分くらい。
そしたら何か妖怪的なの見れるようになりました。
やっぱりサキュバスって魔力を扱う才能に溢れてるのね。正直使い道あんまりないけど、まぁ主人公補正というかチートというか。あって困るもんじゃないしいいね。
むしろないと困るちんちんが無いのはどういうことなんだろうか。
……やめよう。ドツボにはまりそうだ。
今はそんなことよりも昨晩の仕返しを優先するべきだ。
「ほら、そこ。笑ってるぞ」
「どどどど、どこですかッ!?」
「いない。タマキは騙されてる」
おれが環ちゃんをからかっていると、クリスが見事に真実を暴露してしまった。おかげで環ちゃんから若干冷たい視線を向けられている。
現在おれは環ちゃんの部屋にいる。
というのも昨日の動画配信の録画版を見た環ちゃんが半泣きで「枕返しってなんですか!? どうやって退治するんですか!?」としがみ付いてきたからだ。
普段強気の娘がよわよわなのかわいい。
ベッドの上で肉食獣な環ちゃんが涙目なのかわいい。
と思いつつ虐めていたのだがさっそくバラされてしまった。
「で、でも動画では――」
「今はいない。さっきダイゴの部屋にいった」
「エッ」
大悟が変な声をあげるが無視だ。
「せ、戦略的撤た――」
「確保」
「く、クリス! 裏切ったな!?」
「嘘をついたら、ごめんなさいは大切」
「まぁ逃亡しようとてるし、もう謝罪しても効果は低いと思いますよー? してみます、謝罪?」
にっこりと笑みを浮かべながらも、氷点下みたいな視線でおれを見つめる環ちゃん。
「いやでも、昨日おれは男の尊厳を踏みにじられたから――」
「あまねさん。電動歯ブラシとゆで卵、どっちか選ばせてあげます」
「ヴェッ!?」
何に使うの!? ねぇ、何に使うの!?
「選ばないなら山芋も使います」
「ヴォッ?!」
だから何に!? 何に使うの!?
「大悟ぉ……!」
「環、さすがにそれはダメっす」
「何か文句あるの?」
大悟! 負けるな! おれを助けろ!
環ちゃんの視線に負けて目を逸らすな! 頑張れ!
「た、食べ物はダメっす! 食べ物は食べるためにあるっす!」
「……食べ物以外なら?」
「……まぁ、個人の判断で」
「そ、そうじゃないだろォ!? おれを助けろよ!?」
「たたた、たまき、様……! ルルが、ルルがあまね様のかわりをするです!」
ぷるぷる震えながらおれを庇うルルちゃん。
流石に罪悪感が生じるのか、環ちゃんが若干困ったような視線を向けたあとに大きく溜息を吐いた。
「分かったわ。電動歯ブラシじゃなくて、普通の歯ブラシにする。それも柔らかめ」
「です? そ、それなら、あまね様、大丈夫、ですか?」
「うん、大丈夫。だからルルちゃんは気にしなくて大丈夫よ」
「騙されてるゥー! ルルちゃん騙されてるよー!」
「先輩、ルルちゃんを生贄にするっすか? 多分ルルちゃんなら本当に生贄でも志願するっすよ?」
「ウゥッ……!」
「ルルは大丈夫です? よ?」
「分かった、分かったよ。歯ブラシで良いです! ルルちゃんは終わったらおれを慰めて! 全力で!」
「わかりました! 全力、です!」
ふんす、と気合を入れるルルちゃんがかわいい。
たすかる。
そんげんを失っても、きっと、たすかる。
環ちゃんが納得したからなのか、クリスが俺を離してくれた。
くそう。裏切者め。
責める視線をクリスに向けるけれど、当の本人はおれにしか分からない程度の薄い笑みを浮かべた。
「もうだめって言ってからも、責められ続ける気持ちを知るといい」
あ、これ私怨だ。
一昨日の×××責めがダメだったのか? それともその前の昼に▲▲▲するまで●●●し続けたことか?
うーん。心当たりが多すぎる。
クリスも涙を流してよろこんでたし、WIN-WINだったはずなのに。
解せぬ。
おれは諦めて環ちゃんのベッドを背もたれにして、ぺたんと床に座り込んだ。最近気づいたんだけど、この身体になってから股関節がやわらかくなったらしく、普通に女の子座りが楽だ。
胡坐より背筋が伸びるし、結構好きな姿勢かも知れない。
まずは気を取り直して周囲を見回す。
おれの隣にはクリスが座り、斜め後ろにルルちゃんを抱っこした環ちゃんが座る。勉強机に付属の椅子には大悟が座っている。
「さて、それでは『第一回配信企画会議』を行います」
妖怪の件もあって急遽、場所が環ちゃんの部屋に変更になったけれどこれは普通にみんなで相談して決めたことだ。
主な相談内容は三つ。
・スパチャ始まるけどモニター見れないと反応できない。
・思いっきりサキュバスの姿を晒してみたけど、バーチャルの体でいくかどうか。
・異世界の映像とか物品とか出すかどうか。
一つ目に関しては、割とあっさり決まった。
「パソコン内蔵のカメラを使った近距離撮影と、外付けの全身を映すカメラを使い分けるっす。自分、切り替えやるっすよ」
大悟のことばに、目からウロコがぽろっと剥がれた。
確かに、どっちかで固定しなきゃいけない理由はないもんな。今後、資金が貯まったらアクションカメラとかも買いたいと思ってるし、切り替えは必須だ。
続いて二つ目と三つ目だけど、これは意見が割れた。
「バーチャルの体でいくべきっす。作り物である前提で、もっと異世界を全面に出すっす。異世界の風景とか、それだけで人が集まるに決まってるっす。男のロマンっすよ」
「あまねさんなら素の魅力で売れると思う。異世界とかそういう要素は設定にとどめるべきです。変な輩が捨て身で異世界を目指してあまねさんに襲い掛かりでもしたら貞操の危機です」
あー、うん。
現状、おれの貞操を一番ピンチにしてる原因が何か言ってる。
いやまぁ言ってること自体はすごく正しいんだけどさ。異世界に行くためにおれに突撃とかされても困るよなぁ。でも、大悟のいう通り異世界にはロマンがあるんだよなぁ。
ちなみにこの件に関してはクリスもルルちゃんも意見はない。
というか彼女らにとっては日本が異世界なのだ。何も言えないだろう。しいて言うならルルちゃんがおれの尻尾と遊んでいるくらいのものだ。
「異世界は誰も知らないコンテンツだから絶対にバズるとは思うんだよな」
「でも危ないですよ。ましてあまねさんは美人なんですから、ストーカーみたいなのが寄ってきてもおかしくありませんし」
「うぅっ……」
思い出すのは異世界で逃亡兵に襲われたことだ。
魔法を使う余裕なんてなく、普通にメチャクチャ怖かった。きっとおれは性格的に魔法でドーンとかズバーンみたいなのは向いてない。
特に人間にそういう危ないことをするのにはすごく抵抗があるし、咄嗟にできることではない気がする。
でも自衛はした方がいい気がする。
環ちゃんのいう通り、と言っていいかはわからないけど、おれ、美人だし。昨日の動画でも割と可愛いってコメントあったからおれの自意識過剰ではないはず。
朝、歯磨きのあとに鏡の前でポーズとったりしてるのは内緒です。
「とりあえず室内で出来ることやって、バーチャルなのかリアルなのかはギリギリまで断言しないようにしようか。異世界のやつは、まぁ動画の企画を考えてからだけど、とりあえず使わずにできること考えようか」
大悟はちょっと不満そうだけど、まぁしょうがない。
ちなみに、少し前に大悟に「異世界行きたい?」って聞いたことがある。
大悟は何とも形容したがい顔をした後で頭を抱えてうずくまり、
「……自分みたいなヘナチョコがチートなしで行ったら一瞬で死ぬ自信あるっす」
絞り出すように断念していた。
うん、分かる。
異世界って夢と希望に溢れてるよね。おれもそう思ったもん。
ちんちんを失うまでは。
「んじゃ、改めて企画について考えようか」
(・ω..:..:..::..:.::.::ヒョウカ…ブクマ・・・
それではまた次回もお楽しみに!