◆013 二日目の道程
「更新更新♪ ……って環ちゃん? 何か怒ってる?」
「あまねさん! 不潔です!」
「ヴェッ!? 何で!?」
「タイトルを読んでみてください!」
「ふつかめのどうてい……?」
「私たちは女子です! あまねさんも! 女の子です!」
「なんでおれだけ強調するの!?」
「こんな不潔で汚らわしいワードは兄貴にしか似合いませんよ!」
「ぐふっ!?」
「待って!? 大悟なにも悪くないのにめちゃくちゃダメージ受けてるよ!?」
「私たちに合わせるならタイトルはズバリ二日目のしょ――」
「言わせないよッ!?」
「もがっ! もごーっ!」
「あ、柚希ちゃん。管狐で抑えてくれてありがと」
「ええよー」
トイレとお友達になった夜をなんとか超えて朝。
「んぅ……」
カーテン越しの柔らかい朝日を浴びて目を覚ますと、目の前に女神様の寝顔があった。思わず啄むような軽いキスをしてしまったのは絶対におれのせいじゃない。
眠りの邪魔をしてしまったのかクリスが微妙に嫌そうな顔して寝返りうったのがちょっとショックだったけども。
深夜に旅館へと戻ってきたおれは、お子様ランチ用のプレートに色んなものが乗っけられた豪華なセットを出されて食べた。お子様ランチプレートなのはちょっと気になったけども、お腹も減ってたし豪華な料理が少しずつ盛られていたので一応食べたいものは食べられた。
朝ごはんは食べ放題とのことなのでちょっと物足りないけど我慢である。
環ちゃんがアルマに命じてカメラ4台で撮影されまくったけども、美味しいものは美味しいから気にしないのだ。そもそもおれは配信者な訳だし、カメラくらいでは動じないのだ!
「あ、良いですよその角度! ぺろっと見える舌がまたなんとも……! アルマ! ハイスピードカメラは!?」
「バッチリでございます」
……動じない! 動じないぞ!
撮られた映像にそこはかとない不安を感じるものの、なんとか食べ終えれば今度はお風呂だ。
皆は入り終わっていたらしいけども、おれのために二度目のお風呂となり、みんな揃ってのぼせるくらい入った。
いやまぁ上がりたくなってもリアとかに引きずり込まれて出られなかったってのが正しいんだけども。
ともかく色々堪能した後で寝て起きたのが今という感じだ。
「あまねさん」
耳元で、吐息たっぷりの囁きに呼ばれて思わず背筋をゾクゾクさせる。
振り返るまでもなく環ちゃんの声だ。
「クリスさんにはキスするのに、私にはなしですか?」
「いや、あの、背筋が――」
「おっきな声出すと、みんな起きちゃいますよ?」
「~~~ッ!?!?」
なんで注意しながら背中をつぅってやるんだよ!?
って、あ、コラ! 首はダメ! 耳の裏から首元に移動するのはズルい!?
クリスをはじめとしてみんなを起こさないように静かな抵抗を繰り広げていると、鋭敏な五感をもったルルちゃんが目を覚ましておれのところまでやってきた。温泉のロゴが入った浴衣の襟元からちらりと覗く白い肌が――って角! 角の根元はホントにダメっ!?
「……おはようございます、です?」
「ルルちゃん。あまねさんがスッキリ目覚められるようにお手伝いしてください」
「お手伝い、です?」
「ルルちゃんの受け持ちは太腿です。頑張ってくださいね」
「がんばる、です!」
おれが何も言えずにいた間にルルちゃんが敵として参戦してきた。っていうか受け持ちって何!?
もぞもぞとくすぐったい感覚から逃れようとするけども、環ちゃんにも責められているのでなかなかうまくいかない。
こうなれば形振り構ってなどいられない!
「あまねしゃ……ふぁあ!? し、尻尾さん!? ルルはいま忙しいのです! あまね様のために――きゃうんっ!?」
「あまねさん……やってしまいましたね……!」
「えっ!?」
角に伸びた手が止まり、いつもの邪悪な笑みを浮かべる環ちゃんに、何か嫌な予感を覚える。でも責められすぎて辛かったら反撃するしかないじゃん!
寝起きだし、このままだと柚希ちゃんコース一直線だったんだよ!
嫌な汗を掻き始めたところで、環ちゃんがおれから手を離す。
「さて問題です」
「……な、何?」
「ルルちゃんが悲鳴を上げたということは、皆だいたい起きます。――何が起きるでしょう?」
「ヴェッ?!」
おれが悲鳴を上げたところで、寝ていたはずのクリスとばっちり目が合った。
「えーっと……お、おはよう」
「おはよ」
クリスはゾクゾクするような視線でおれを睨みつける。
「朝から私抜きで」
「ヴァッ?! ま、待って!」
おれは襲われた側! 被害者だよ被害者!
確かに魔力はぎゅんぎゅんな感じだけども頼んでないし何なら逃れようとしてたよ!?
「おはようございますおねーさまがた」
「ふぁー……良う寝た。皆朝から仲良しやなあ」
「おはようございます。とりあえずボクはお風呂の準備してきますね。参加はその後で」
「葵様、そのような雑事はこのアルマめにお任せを」
ぜ、全員起きてきた……!
しかも当たり前の如く参加してくるとかどういうことなの!? 朝だよ!?
結論から言うと、朝ごはんは食べ放題でした。おれの。
納得いかないっっっ!!!
「さて、すったもんだあったけど出発だ!」
「すったというか吸われましたし、もんだというより揉まれてましたけどね」
葵ちゃんが何かオヤジギャグみたいなこと言い出したけど無視だ無視!
っていうか環ちゃん微妙にウケてるんじゃないよ! 環ちゃんが良い反応したら葵ちゃんは張り切ってさらにそっち系のネタを引っ張るでしょうが!
こほんと小さく咳払いすると、カメラの一つに視線を向けてビシッとポーズを決める。
今日のおれはシニヨンに髪をまとめているので強そうに見えるはずだ。気分は、そう、どっかのアーサー王である。
問おう、あなたが私のマスターか、とか言いたいけども、誰がマスターになってもひどい扱いを受ける未来しかみえないので言わないでおく。
今朝はそれくらい酷かったもんね……。
過去を振り切って出発の合図を出す。
「さぁ、いざ鎌倉!」
小町通りをちょろっと歩いてしらす丼を食べるだけの予定だけども、有名な観光スポットを巡れるのは普通に楽しみだ。
その後は富士宮でやきそばをゲットしてから浜松。浜名湖付近でめっっっちゃ美味しいと有名なウナギのお店に行く予定なのだ!
本当は横浜の中華街や伊豆半島、甲府のほうにも足を伸ばしたかったんだけどもさすがに遠回りしすぎだし、
「まぁ転移でまたくればいいじゃないっすか。自分、いくらでも車出すっすよ」
とのことだったので今回はパスだ。
ちなみに後でぼそっと梓ちゃんが一緒なら、とか付け加えていたのでどこかで処す予定である。彼女とはいえ、まだ高校生の女の子を全国津々浦々に連れまわすなんてうらやま――けしからん!
学業もあるというのに!
なんか大悟にすんごいもの見る目で見られた後に環ちゃんを指し示されたけども環ちゃんがどうしたんだろ。もう環ちゃんに処される予定があるってことかな?
そんな経緯もあり、今は鎌倉を目指している。
「しっらす、しらすっ♪」
「あまね……よだれ」
「エッ?!」
「食いしん坊さんやねぇ」
「またお腹壊しますよ?」
「か、加減するし!」
ちなみに朝は食べ放題されたので、おれの朝食は抜いてある。皆は食べたみたいだけど魔力はいっぱいだったし、体力はカラカラだったから家族風呂に入りながら休ませてもらった。
さすがに悪いと思ったのか、皆して入れ替わり立ち代わり入ってくれたけども。
ちなみに、なんだけども。
おれの回復が目的なのにリアと葵ちゃんは当たり前のようにいつも通りのお風呂をしようとしてきて、クリスと環ちゃんに叱られてました。
本当にブレないよね君たちは。
欲望に忠実すぎるでしょってツッコミいれたら一同から鏡を指さされたけども。
……解せぬ。
「そういえば、ですけど。何か新作投稿するとか言ってませんでした?」
「言うとったねぇ」
「まにあわなかった、です?」
「何か今日の環ちゃんキレッキレだね。前書きの大悟といい、後書きの作者といい、クリティカルヒットだよ?」
「じゅうまんもじかいたのにこーせーが、です?」
「脱稿してなければ書いてないのと一緒です」
「いやホントにキレッキレだね」
「私、怒ってるんです」
「どげんしてはらかいとーと? 今話んタイトルばそげん気に入らんと?」
「いえ」
「え? じゃあ何に?」
「ロリサキュバスの更新の遅さに!」
「うっ」
「あっ」
「……ぐふっ、です……?」
「楽しみに待っててくれてる読者さんに申し訳ないとか思わないんですか!?」
「本気でド正論すぎる」
「ここはもうババンとドバンとあまねさんのサービスシーンを――」
「おっけ、目的がハッキリした。いつもの環ちゃんだ」
「50万文字くらいで!」
「まって。サービスシーンだけで本編の本文と同じ分量?!」
「ええ! 私が試したいあれこれをあまねさんに試していればそんなのすぐです!」
「ヴェッ!? おれ!?」
「当たり前です! ここは民主的にメンバーで投票しますか!?」
「それは民主主義じゃなくて数の暴力でしょ!?」
「あまね。ルルが」
「ん? ルルちゃん?」
「ごめんなさい、がんばります、かいてます、かきます、がんばります、ごめんなさい……です?」
「また変な電波を……って作者病んでない?」
「扁桃炎やら何やらで大変だったらしい」
「まぁ作者も作者なりに頑張ってるってことで」
「あ、環ちゃんが折れ――」
「サービスシーンは10万文字くらいにしときます」
「――てないね。ホントぶれないな」
「本編にごきたい、です?」