閑話「今日は何の日? 6月25日編」④
「やった! 第三部完!」
「何言ってるんですか? これ、閑話ですよ?」
「いや、そういうネタなんだよ……!」
「あー……兄貴辺りが食いつくネタですか」
「うん。えっ? 違う違う、エロゲじゃないよ!」
「私は何も言ってないんですけど。あまねさんの中での兄貴のイメージってやっぱりそうなんですね」
「ヴェッ!?」
「梓ちゃんにもそう証言してください! 目を覚ましてもらいましょう! そしてなし崩しに――」
「しないよ!? 絶対にしないからね!?」
シートに描かれているのは二〇センチくらいの丸。
赤・青・黄・緑に塗り分けられたそれを地面に敷くと、セットになっているであろうルーレットを取り出す。
ルーレットのマスには各色と四肢が描かれている。
一応、環ちゃんの手作りらしく丸が歪んでいたり、ルーレットマスの大きさが微妙に違ったりしている。
「えーっとこれは――」
「はい! 名前は内緒です! 良いですか? 大人の都合で内緒ですよ?」
ああうん。手作りしたってことは名前を出すのが微妙な感じなのね。
っていうかそんなグレーゾーンなゲームをやるんですかね……?
普通に別のゲームをチョイスすれば、と思わなくもないけれども、皆が組んづ解れづするのはとても美味しい。
もうきっと見てるだけで魔力が回復するに違いない。
「……ってアー!? これじゃおれが参加できないじゃん!?」
「? あまね様は、見てるじゃない、です?」
見てるだけだと事故のフリしてみんなのあんなところを触ったりそんなところに顔をうずめたりできないじゃん!
「陰キャバスの皆さん。聞きましたかこの堂々たる恥知らずムーブ。闇属性だけあって自分の欲望に一直線ですよ?」
「ヴェッ!? い、いやホラ! 欲望というかおれがチャンネル主だし! 率先して身体を張って頑張らないと!」
「ええ。ですから人身御供として身体を張ってもらってます」
ぐぬぬぬぬぬぬっ……!
『【¥20000】いいわからせ』『てぇてぇ』『声出して笑ったw』『こwれwはw』『【¥5000】環よくやった』『本気で悔しそうなの草』『理想的なサキュバス(新人未経験)』『【¥4545】サキュバスたそ興味津々』『ワロタ』『参加できないじゃんは笑う』
納得いかない表情のおれを無理矢理椅子に座らせてゲーム開始だ。
もちろん全員が参加するのは難しいので、何回かに分けて行うのだけれど。
「これ、は……んっ!」
「ルルちゃん! ちょっと頭ばさげてもらえん?!」
「はははっ、はい、です……!」
それぞれがもう絡まっているといっても過言でない姿をさらしており、身体の奥底から魔力が滾々と湧いてくる。
今なら名を得たモンスター相手でも一撃で倒せるレベルな気がする……!
「はーい、柚希さん。次は、右腕を、緑にお願いします」
「緑……緑ッ!?」
「ですです。ほら、頑張らないと負けになっちゃいますよー」
「負けんばい!? ちかっぱ負けんけんね!」
言いながら無理矢理を身を捻って手を緑に伸ばし――
「むぐっ……むがっ!?」
「ひゃんっ!? こしょばいけん、きゃっ!?」
「はいアウトでーす。一回戦はルルちゃんの勝ちですねー」
「勝ち、ですっ!」
クリスを乗り越えようとしておっきなお胸様が思い切り引っ掛かりました。
それも顔に。
動けないクリスの吐息が谷間にあたってくすぐったかったのか、逃げようとした柚希ちゃんがバランスを崩した。当然ながら下にいるクリスも巻き込んで倒壊となりました。
お、おれも混ざりたい……!
くすぐったがって笑う柚希ちゃんとか、ゲーム中でどこかに手とかが当たっちゃっても抵抗できないクリスとかめっっっっっちゃ堪能したい……!
勝ったことで嬉しそうにしているルルちゃんをなでなでしつつ二戦目、三戦目と繰り返していき優勝が決まった。
「はい、優勝は柚希さんですね! 全てをなぎ倒す姿は圧巻でした!」
「バリ納得いかん……!」
はい。
一回戦こそおっぱいアタックで自爆したけれども、その後は胸に吐息が当たろうが顔をうずめられようがしっかり我慢してました。
誰かを思いきり押して潰したり、顔を収納して窒息させかけたりと八面六臂の大活躍……いや活躍だよね?
まぁとにかくすごく強かったのだ。
当たり前だけどもスプラッシュはしていない。
してたら放送事故だけども、柚希ちゃんなのに我慢できることに衝撃を受ける。
これは是非とも一晩掛けてどのくらい我慢できるか検証せねばなるまい……!
ちなみに二位は遠隔手首を使って無理な体勢を回避していたアルマ。途中で怒られて遠隔手首は封印されたけども、身体が柔らかいのかかなり善戦していた。下手すれば優勝していてもおかしくなかったレベルである。
ならば何故二位なのかと言えば。
「環ちゃん?」
「はい? 何かご不満でも?」
「アルマに『負けろ』って命令するのはズルくない!?」
そう、環ちゃんは最終戦でアルマに負けるように命じたのだ。彫刻のように動かなかったアルマはその瞬間、限界を迎えたかの如く綺麗に崩れ落ちた。
「えー、ズルくないですよー」
「罰ゲーム回避でしょ!? ズルいよ!?」
「アルマ。私の命令に何か不満ありましたか?」
「いえ。このアルマ、環様のご命令に従うことこそ至上の喜びですので」
「だそうですよ?」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ズルい。絶対にズルい。
けどもおれ以外の全員が受け入れている以上は多数決でひっくり返すのも難しい気がする。
「はい、それでは優勝賞品の授与に移りたいと思います。――アルマ」
「かしこまりました」
俊敏な動きでおれの後ろに回ったアルマは、どこからか取り出した縄でおれをグルグル巻きにした。そのままひょいっと持ち上げたところでBGMまで流れる。曲名までは知らないけれど、運動会とかで賞状もらうときのアレだ。
動けないまま柚希ちゃんの前に差し出される。
「ばり可愛かぁ……!」
あっ、埋まる……!
「ふぃふぁふぁふぇ……」
幸せだけど息が! 息ができないけど呼吸したらおっぱいが離れちゃう……!
わたわたと藻掻くふりをしながら柚希ちゃんのあちこちにタッチしていたら、唐突に脇の下に手を入れられてひょいっと持ち上げられた。
振り返れば、そこにはクリスがいた。
「柚希。あまねが死ぬ」
「えっ!? あ、ごめーん!」
「ぷはっ! だ、大丈夫!」
「大丈夫じゃない」
「エッ!?」
ぐるんとおれの身体を半回転させて向き直る。
「私は怒っている」
「ええ」
「一位取れなかった。あとあまねは柚希にデレデレしてる」
「ええええ」
後半はともかく、一位を取れなかったのはおれのせいじゃないし!
後半だって不可抗力だよ! だっておれ縛られてて動けないし!
「そげんはらかかんで。半分こしよ」
「ヴァッ!?」
半分こ?!
待って、半分こってなに!?
「柚希おねえさま……」
「る、ルルも! ルルもちょっとだけ分けて欲しいのです!」
「良かよ」
いきなり四等分になりました。
当然ながらそれに葵ちゃんや環ちゃんまで乗っかってきた。いやもういつも通りじゃん。
「さて、一件落着したところで今日の配信はこの辺にしておきますか! なんたってこのあとはあまねさんの食べ放題のお代わりし放題ですからね!」
「まって!? 分けるってなに!? どういうことなの!?」
おれの疑問を無視した環ちゃんが適当に閉めようとしたところで、大人しく機材をいじっていたアルマがカットインしてきた。
「あまねお嬢様」
「んー?」
「不遜を承知でお願い申し上げます」
キリッと深刻な顔をしたアルマ。
「少しで構いませんので、このアルマめに環様を分けていただけませんか……?」
「あー……」
ちらりと環ちゃんに目を向ければ結構な焦り顔で首を横に振っている。
まぁ電極でお世話とか嫌だよね。
嫌だろうけどもアルマは最終的に環ちゃんの嫌がることはしないはずだし、少しくらい良いか。
「うん。じゃあ半分こで」
「ありがとうございます……! 分け方は上下ですか!? それとも左右ですか!?」
「物理的に分けようとするなよ!?」
ある意味予想通りだけども、アルマの発言はいつでもエキセントリックだ。
ズレてるけどブレないというかなんというか。
「さて、今日の配信は楽しかった? このあとおれは! お・れ・は! みんなとビュッフェを楽しむからそろそろ配信閉じないといけないんだ」
「あまねさん! 助けてください! あまねさん!?」
「それではみなさん、早寝早起き適度な運動! 健全配信、あまねチャン(と)ネルでした! んではサキュバいばい!」
「待ってください! 本当に待って!」
いっつも不敵で余裕のある環ちゃんの追い詰められた顔がかわいい。
当然ながら、このあとアルマを止めるのに物凄く苦労した。最終的には皆の説得と提案のおかげで、いつも通り皆でベッドに入ることで決着したけれども、就寝時間が予定より一時間以上遅くなってしまった。
アルマのご機嫌取りも兼ねて環ちゃんとアルマが二人羽織(比喩表現)でおれを食べたり、アルマを説得するのにめっちゃ苦労したクリスやリアにまで食べ放題されてしまうのはまた別のお話。
なんでだ!?
たまにはおれが責めてもいいじゃんか!
「あっ……えっ……あっ」
「ルルちゃん、どうしました?」
「掲示板回? をやるか迷っている、です」
「また彼方からの電波を受信しちゃったのか……」
「純真なルルちゃんが汚染されないように対策が必要ですね」
「例えば……?」
「頭にアルミホイル巻いたりとか」
「ヴェッ!? そんなので!?」
「作者如きの電波ならなんとかなりそうな気がしません?」
「あー……」
「アルミホイル、です? 被るです?」
「ごめんねルルちゃん。そんなもの被せないから安心して良いよ」なでりこ
「ほぁぁ……ありがとうなのです」