閑話「今日は何の日? 6月25日編」③
「六月も今日で終わりだね」
「せやねぇ」
「でもまだ六月二五日の閑話が終わらないね」
「せやねぇ」
「おおらか柚希ちゃんを前書きに配置することでなんとなく許されようとする作者の意思を感じる……!」
「あまねちゃん、考えすぎばい」
「ううーん……いや、でも」
「そげんこと考えてなかと思うばい」
「そうなのかなぁ」
「あまねさん、あっさり思惑に乗ってますよ」
「ヴァッ!?」
「さて、それでは二回戦! 今度はシンプルかつスピーディ! ジャンケン対決です!」
いや、どっかの国民的アイドルグループじゃないんだから、ジャンケンだけで盛り上げるのは無理でしょ。
思わずジト目で環ちゃんを見るけど、何やら取っ手付きの厳ついカメラをセットし始めた環ちゃんはトーナメント表をぴらりと広げた。ここまで用意してるってことは何かしら勝算があるってことだろう。
「さて、古より雌雄を決するときに使われるじゃんけんですが、ちょっと不思議なことがあります」
ジャンケンにそんな言い伝えはない。
あと雌雄は決するまでもなくおれが雄で皆が雌です。うん。少なくとも精神的にはそうだし。そうに決まってる。
「それはクリスさんやリア、アルマといった異世界組の勝率です!」
モニターがおれたちの画像からグラフに切り替わるけれど、クリスはまさかの勝率八割。リアとアルマで七割だった。
『まてwwwあまねはwww』『サキュバスは異世界出身では……?』『【¥2828】あまねはジャンケンクソ雑魚やろ』『じゃんけんというかあまねが、な……』『リズム感なくてジャンケンできない、まである』『【¥10000】ピストル出してさいきょー!とか言いそう』『しょうがくせいすぎるwwすこすこのすこ』
やらないよ!?
ピストルって人差し指と親指を立てたやつでしょ?
グー・チョキ・パー全部の要素があって最強とか確かに小学校時代にやってたけども。おれを何歳だと思ってんだよ、まったく。
「異世界組のジャンケン強者な秘密も丸裸にしたいと思います!」
確かに、魔力とかが原因なら柚希ちゃんとか葵ちゃんも強くて良いはずだしね。
トーナメント表をもとにじゃんけんを始めた。予定調和というかなんというか、まぁ和気あいあいといった感じなので悪くないけどイマイチかなぁ、なんて思っていたら唐突に待ったがかかった。
「クリスさん、それからアルマ。ちょっと集合」
「?」
「いかがなさいましたか? 何かお世話されたいことが――」
「早くして!」
二人がきたところで、パソコンに接続された厳ついカメラを指差す。
「さて、このカメラですが」
「非理知的な作りの俗物ですね」
「ハイスピードカメラです」
ナチュラルにディスるアルマを完全にスルーして告げた環ちゃんはカタカタとパソコンを操作。
じゃんけんをしているときの手元が映し出される。
「クリスさん。『最初はグー』のあとで七回も手を変えるのはズルくないですか?」
「相手の手を見て勝てるものにしている」
超スピードで後出しをしてるってことである。
いやそれをズルって言うんだよ……。っていうかどういう動体視力してんだよ。
クリスだから驚かないけども。
どうせアルマも似たような感じだろう。
「アルマに至ってはもう意味わからないんですけど、これ何してるんですか?」
続いてモニターに写されたアルマは、ちょっと眉をひそめたくなるような動きだ。
すなわち、
「手首から先が袖にしまわれてる?」
「とりあえず解説して」
「かしこまりました。じゃんけん型手首G型を装着していたのですが、ルル様がチョキを出すことを確認しましたのでじゃんけん型手首P型へと換装しました」
「いや、じゃんけん型手首って何……?」
おれの呟きに、アルマが懐――というかおっぱいの間からマネキンの手首みたいなのを取り出す。
それぞれぐー、ちょき、ぱーの形をしてるからこれがじゃんけん型手首なんだろう。
マネキンの手首なら良かったんだけども、神代の技術なのか血色良さげで指紋まで見えるような手首が三つ。
控えめに言って猟奇殺人の現場である。
もしくは植物みたいに穏やかな生活を望んでる爆弾系スタンド使いの恋人か。
「いや怖いよッ?!」
「そ、そんな?! アルマの技術を結集して作った手首ですよ?! 遠隔で動かすことも可能です!」
三つの手首がそれぞれもぞもぞ動き出す。
「余計に怖いわッ!」
「仕方ありません……かくなる上は環様のお誕生日まで隠しておく所存だった手首タップダンスを――」
「私の誕生日をホラーにする予定だったんですね」
「それ、右手だよね? 右手に擬態した宇宙人で人の頭をまるかじりとかしないよね?」
手首だけが自立して謎のダンス的なのを始めた辺りで本格的なスプラッタホラー動画の完成である。
もうじゃんけん大会とか言ってられないので、環ちゃんはアルマをお説教。おれはクリスをお説教することになった。
「クリス」
「駄目?」
「うぐっ……!」
何この可愛い生き物……!
普段はキリッとかっこいい系のくせしてこてんと首を傾げたりとか、破壊力高くない?!
「あまねを独占したかった」
「ヴェッ?!」
「……駄目だったか?」
「だ、駄目じゃないです」
駄目じゃないけどおれの理性が駄目になりそうだよ!
クリスがベッドの上で嬉し泣きするくらいサ――――ビスしてあげたくなってしまう……やると本気で怒られるからしないけども。
解せぬ。
何はともあれ上目遣いのクリスにほだされつつも、じゃんけんでは最初に決めた手を出す、ということで落ち着いた。
「さすがに優勝候補二人が脱落するのはイタイよね……」
「人数少なすぎて盛り上がりに欠けますし、ここは減点くらいにしときますか」
打算と妥協により、二人をがっつり減点して最終種目に移ることにした。
ちなみにじゃんけん大会の優勝は柚希ちゃんで二位がルルちゃん、三位が葵ちゃんでした。
【2回戦後の得点】
アルマ: 0点
クリス:-3点
ル ル:11点
柚 希:11点
葵 : 5点
リ ア:失 格
「さて、それでは最終種目です」
配信も長くなってきたので最終種目で盛り上げてさっくり終わりにする予定だ。
そしたらおれはクリス食べ放題……あれ? おれが食べ放題だから、えーっと……まぁお腹も心も満たされる一時を過ごすことになります!
良いんだよ、WIN-WINだから!
「本当は最終種目だけ一位が一億点になる予定だったんですけども」
「バラエティでよくあるやつじゃん」
それまでの頑張りを無に帰すやつね。どべになっている芸人とかが一発逆転を掛けて笑いを取るイメージがある。いやまぁこの配信もある意味そんな感じではあるけども。
「アルマとクリスさんがやらかしちゃったしそこまでやると他の皆がかわいそうだよね」
「ですです。そこで一位が二〇点、二位が一五点、三位は一〇点とします」
誰でも優勝できるけども、ルルちゃん、柚希ちゃん、葵ちゃんはアドバンテージがある感じか。
ちなみに葵ちゃんのやる気が微妙なのは、一対一で食べ放題するよりも、環ちゃん含めて複数で混ざった方が好きだから、とのこと。
うん。ホントにブレないよね君も。
そんなんだからリアに呼び出されたらホイホイついてってお風呂場とかで悲鳴をあげる羽目になるんだよ。
いやお互いに満足してるみたいだから良いけどさ。
「さて、それでは最終種目! ドキドキ、いちゃいちゃ、おさわり禁止とか言ってられないあのゲームです!」
そう言って、どこか見覚えのあるシートを取り出した。
「何話やるんだよおおおおおおお! 本編は!?」
「書いてる」
「クリスは不満とかないの!?」
「ないな。あまねがいればそれでいい」
「ヴェッ!?」
「あまねは私じゃ不満?」
「ふ、不満じゃないです……!」
「る、ルルも不満はないのです!」ヒシッ
「なんかあまねさん丸め込まれる率高くないですかね……」
「一番丸め込んどー環ちゃんが何ば言いよーやら」