閑話「今日は何の日? 6月25日編」②
「ジェン――」
「しーっ! 木製ブロックです!」
「どげんしてそげんこと気にしとーと?」
「商標が怖いんです!」
「あー……確かにジェン――も商標やね」
「あとオセ――とかもだよね? リバーシって言わないとだめなんだよね」
「二人して自ら踏みにいかないでくださいよ!? 商標の管理者に使用料を年間10万円払えって言われたらどーするんですかっ!?」
「どーかしてるのは環ちゃんだよね!? 炎上ネタぶっ込んでくんのやめようよ!」
「木製だけに燃えやすいってことですかね。高度なダブルミーニング……流石環さんです」
「葵ちゃん……本編の出番削るからね」
「エッ!? 何でですかッ!?」
「さて、では改めて木製ブロックで遊びましょう! 本編へどうぞ!」
「さて、そんなわけで早速企画といきましょう」
ぽんと手を打った環ちゃんに合わせてアルマがちゃっちゃか準備を始める。
「第1回戦! チキチキ・どっきり・ブロック崩し!」
「いやこれジェン――」
「長方形の木製ブロックですよあまねさん! 余計なこと言うとあまねさんに副賞で私好みのコスチュームつけちゃいますよ?! 身動き取れない系でヌルヌルの透け透けですからね!?」
さ、最悪な脅し方をされた……!
環ちゃん好みって多分だけど、裸より恥ずかしいやつでしょ?!
こないだの、大事なところだけレースになってるベビードールもそうだけども、なんか痴女感あるというか変態みがヤバいというか。
ヌルヌルの透け透けって時点でもう服なのか怪しいしね。
戦慄するおれをよそに、コメント欄はコスチューム予想で大盛り上がりしてる。
『ぬるぬる? ローション的な?』『【¥1919】ボディスーツきぼんぬ』『緊縛系はわからせには必須』『さるぐつわはオプションですか?』『手錠か縄か、それが問題だ』『あああああ何で俺はもう満額スパチャしてるんだ!?』『【¥5000】ヌルヌルすけすけでぴんく希望』
欲望に忠実と言うか、ノリが良いというか。
陰キャバスのみんなを無視して環ちゃんはゲーム説明を続ける。
「はい、ちなみにこのブロックですが、側面に罰ゲームが書いてあります」
参加する予定だった皆がぽかんとした顔で環ちゃんをみてる。
うん、そうだよね。
罰ゲーム付きなんて聞いてないもんね。
三本ずつ格子状に組まれたブロックが塔みたいになったところで準備完了だ。
環ちゃんの説明によると、六面ダイスを振って出た数字の数だけジェン……もとい、木製ブロックを引き抜いて上に乗っけるとかなんとか。
大学の飲み会みたいなノリだよな……。
厳正なるじゃんけんの結果、1位がクリスで2位がリア。その後葵ちゃん、柚希ちゃんとなっていて、ルルちゃんはブービーだった。アルマは自主的に最後を選んだので実質ルルちゃんが一番不利である。
「ふむ、二本か」
ダイスを振ったクリスがどれを抜こうか思案し、あろうことか一番下の段、三本ある内の真ん中以外を同時に引き抜いてしまった。
「これで良いだろう」
難易度爆上がりしてません?!
二番目のリア……は嬉しそうに両手で頬を押さえてるから放置するとして、葵ちゃんも柚希ちゃんも苦笑いだ。
ルルちゃんはやや顔色を悪くしてるけども、普通に考えて魔力使いこなしてる組がトリッキーなことしまくったあとに自分の番とか普通に嫌だよね。
可哀相だし暇だったのでルルちゃんを手招きして膝の上に乗っけてあげる。まだまだ出番は先だしこのくらいは良いだろう、となでりこし始める。
「ふにゅ……ふぁ……っ! あまね様、ありがとうなのです! あっ、えっ、尻尾さん?! 今ルルはあまね様になでなでしてもらうのに忙しくて――」
ルルちゃんが頬を染めながら、尻尾から逃げようとちっちゃなお尻をくねらせた辺りで背後に殺気……!
やや恨みがましい声がかけられた。
「あまね」
クリスだ。
が、甘い!
今日のおれはキレッキレなのだ!
あの環ちゃんでさえ罠に嵌められるほどに!
「クリス! 早く優勝して! 待ってるからね!」
「む? ああ、頑張る。待ってて」
お説教しようとしていたに違いないクリスだけど、おれの声援に納得したのか頭をポンポンして戻っていった。
コメント欄がてぇてぇで埋め尽くされてるのはルルちゃんを呼んだ辺りからずっとなのでもう気にしないことにする。
まぁ東京ドームでキスする動画流しちゃったし『てぇてぇ』『たすかる』辺りは分かるんだよ。
分かるんだけどさ、『hshs』『prpr』は違うだろ。っていうか何を嗅いだり舐めたりするんだよ!
クリスを舐めたり嗅いだりするのはおれの特権だからな!
絶対に譲らないぞ!
「クリスさん、あまねさんが『待ってる』だそうです! ここは全身全霊であまねさんを悦ばせないといけませんね!」
ちょっと待って。
クリス、邪悪の誘惑に誑かされちゃダメだよ!
おれはいつも通りなクリスが好きだからね?
「ほら、いついかなるときでもクリスさんが一番だって理解らせてあげないと!」
「あとで相談」
あっさりとクリスが悪墜ちした……!
なんてやっている間に勝敗がついた。
「ああっ、手が滑って……! この罰は如何様にも!」
リアさんや。貴女いま、思いっきりデコピンしてたでしょうよ。
これは多分だけど、なにもしてない、まったく悪くない、どう考えても無罪なはずのおれが環ちゃんに陥れられそうになったのをみて、羨ましくなったんだろうなぁ……。
助かったといえば助かったんだけど、動機が酷すぎてお礼を伝える気にはなれない。
「リア、あとで罰ゲームなしね」
「えっ、そんな……えっ?! なしですの?!」
あ、演技なしのビックリ顔。普段眠そうにとろんとしてるのでビックリした表情は新鮮だ。本当は目もおっきいしぱっちり系なんだよね。これはこれで可愛い。
「だって罰ゲーム用意すると率先して受けに来るし」
「そんなぁ……ブロックも罰の内容を吟味しましたのに……!」
ほっそりした指でつままれたブロックにはただ一言『はいちゃダメ』とだけ書かれていた。
いや、これきっと違うよね?
靴とか靴下だよね?
もしくはスカート禁止でズボンだけとか、その逆とか、そういう健全な罰ゲームだよね?!
「環ちゃんッ?!」
思わず推定犯人の名前を呼ぶも、どうにも普段と雰囲気が違う。
「おかしいですね……私、こんな罰は設定してないですよ?」
「エッ?!」
「リア?」
環ちゃんの鋭い視線に、リアが身をくねらせる。
「はい。環おねえさまのために、リアが一筆したためました」
まさかのセルフ罰ゲームである。自ら提案して自ら受けるとか極まりすぎでしょうに。
「えーっと……あまねさん、判決は?」
「有罪! リアは今日明日一人で寝なさい! 誰かが寝た後に潜り込むのも禁止で、お風呂も一人! あと今回のゲームも不戦敗!」
「そんなぁ……!」
よよよ、と泣き崩れる振りをするリアだけども、あんまり反省してなさそうなので放置だ。
さて、ビリが抜けたところで仕切り直したけれども、難なくこなした葵ちゃんに比べて、なんと柚希ちゃんは即効でオチた。
いや、あの……胸がね……事故でね……。
「納得できーん!」
「まぁまぁ。試合には負けましたけど勝負には勝ってますし」
ぷりぷりぷるぷるたゆんたゆんと怒る柚希ちゃんだけども、確かにそのお胸様の存在感的にはもう優勝である。なんなら殿堂入りまである。
ちなみにコメント欄もすごいことになってた。スパチャ的にも発言的にもね。
コメント管理はアルマがやってくれてるんだけども、流石に慣れているだけあって引っ掛からないすれすれの言動が多い。ちなみにおれが思わず噴いたのは『アルプス山脈震度7』だ。
閑話休題。
長丁場も何度かあったけれど、ルルちゃんが三位、クリスが二位で、一位はまさかのアルマだった。
コメント管理やりながら一位取るってすごい、と思ったけどアルマは自動人形だし精密動作とかはやっぱり一日の長があるのかなぁ。
「この場合、賞品は二位のもので良いのか?」
「そうだね。アルマは環ちゃんのお世話でおれにちょっかい出してる暇ないだろうし」
「ま、まだ一回戦ですから! あと二回ありますから!」
ナチュラルにクリスにも勝ったことでアルマが優勝の本命に躍り出た。別にアルマとは賞品がぶつからないから、クリス以下全員が余裕の表情である。
このままストレートに優勝してもおかしくないことに気付いたのか、珍しく環ちゃんが焦っていて大変かわゆかったです。まる。
【一回戦の得点】
アルマ:10点
クリス:7点
ル ル:4点
柚 希:1点
葵 :1点
リ ア:失格
「ボクの出番、本当にゼロだったんですけど……」
「まぁ次回があるさ! ほら、次回からはリア不参加だし」
「リアおねえさまはゲームに参加しなくてもキャラ濃いじゃないですかー! ボクなんてただでさえキャラ薄いのに……」
「ちょっと待って」
「はい?」
「ボクっ娘、(元)男の娘、陰陽師、百合……これでキャラ薄いは無理あるでしょ!?」
「環さんの琴線に触れないのが多いじゃないですか! ボクは! もっと! 環さんとイチャイチャしたい!」
「いやあの……いくら後書きでももう少し誤魔化さない?」
「あら、葵さんは私のことはどうでも良いとおっしゃるの?」
「り、リアおねえさま……!」
「誰が手取り足取り教えてあげたのか、思い出させてあげなければなりませんわね」
「ひっ!?」
「大丈夫ですわ。すぐにまた病みつきにして差し上げますから」
「あー……そういやよく一緒にいるもんね」
「あまねおねえさまも――」
「パスッ! おれは景品役で忙しいからパス!」