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◆012 環の夜

「ほ、ホントに! ホントにもう! この作者は!!!」

「あまね、何を怒っている」

「読めば分かるよ! 分かるけどもう本当に! くっそぉぉぉぉ!」


「あまね様……ルルは頑張ってきたのです! ほめてほしかったのです! なでなでもして欲しかったのです……!」


 夜。

 あまねさんの《転移》によって合流したルルちゃんや葵ちゃんを迎え入れて、ほぼフルメンバーで埼玉の宿に泊まる予定の私たちはある問題に直面していた。


 それは、主役たるあまねさんの不在である。


 栃木では板台(ばんだい)餅に稲荷寿司。群馬では御切込(おきりこ)みに焼きまんじゅうとグルメに舌つづみを打っていたあまねさんを待ち受けていたのは、まぁ予想通りに腹痛だ。

 一応、整腸剤の類も用意はしておいたし食べる量も私やクリスさん、柚希さんが途中で取り上げたり一口取ったりして減らしていたんだけども、やっぱりスムージーが限界のあまねさんには厳しかったらしい。


「さ、さすがに宿屋でトイレに籠るのは迷惑だから」


 げっそりした顔のあまねさんはそう言うと、ルルちゃんたちの送迎をして栃木の別荘のトイレに籠ることとなった。

 落ち着いたら合流することにはなっているけれども、正直今日中に合流できるか怪しいというのが私の見立てだ。

 あまねさんのお腹は夜の柚希さん並によわよわだから仕方ない。


「戻ってきたらいっぱい褒めてもらいましょう。きっとたくさんなでなでしてもらえますよー」

「なでなで、です!」


 土御門さんのところで嘘発見器(アルバイト)をしてきたルルちゃんが札束の入った封筒を前にしょんぼりしていたので慰めてハグしてあげる。夜の冷え込みにルルちゃんの体温とシャンプーの香りが染みる……!

 あーでもあまねさんがいないってことは今日の夜はどうするんだろう。


 嫌いってことないだろうけども、基本的にあまねさんのために、というのが建前だ。だとすればもしかしたら今夜はお預け……グループデートみたいな昼間を過ごしてきただけに、ここでお預けなのは辛い。

 デートは家に着くまで――否、床に()くまでですよ!?


 デートと言えば梓ちゃんと兄貴。

 日光でイチャコラして群馬でイチャコラして埼玉の宿屋まで来た二人は、その場で現地解散となっていた。

 といってもあまねさんが梓ちゃんを送るから現地からお家までゼロ(ふん)なんだけども。

 ザマー見ろ、である。

 兄貴はタブレットやらノートパソコンやらを持ち込んでいたので、いつも通りヲタ活に勤しんでいることだろう。葵ちゃんは元・男の娘ということで割と兄貴と仲が良いので色々聞いているらしいけれども、


「アニメ系のサブスクに片っ端から登録して、観られるだけ観てる感じでしたよ」


 とのこと。

 何かいかがわしいことをしているならすぐにでも梓ちゃんに密告してやるというのに、極めて平和で退屈な奴である。

 あまねさんに聞いたらすっごい反応してたから何かしらしてるんだとは思うけれど。


「ななななな何でもないよ?! だ、大悟もいわゆる生物学的な見地としましては男という分類になる可能性があるわけでございまして――」


 なんか謎の言い訳始めたけど擁護とかにもなってないよね。まぁそういう部分も可愛いんだけど。

 惚れた弱みだなぁ、としみじみ思いつつもゾロゾロと食堂に移動する。

 温泉旅館ということもあって基本的には和風なんだけれども、食事は部屋に運んでもらってお膳で食べるか、モダンな造りの食堂まで出向いてテーブル席で食べるかの二択だ。

 どちらかと言えばテーブル派が多かったのと、あまねさんの《転移》を見られたくないという判断から今回はテーブル席だ。

 異世界組も順調に箸とか正座とかできるようになってるから、本当にどっちでも良いのは間違いないけどね。


「おー、懐石! 豪華やなぁ」


 配膳された料理を見て、柚希さんが()()()とテンションをあげる。

 うん、眼福。

 こんなのがあったら夜に我慢できるはずもない!

 そんなことを思いながらもタングステンの精神で我慢していると、ひょっこり現れたリアが柚希さんの隣に座り、もたれかかるようにして甘え始めた。


「柚希おねえさま」

「どげんしたと? 甘えん坊さんやなぁ」


 ぐりぐりしたりスリスリしたりと猫みたいな動きで甘えるリアだけれど、私の目は誤魔化せない。頬とか頭とか色んなところで柚希さんの質量兵器を堪能している……!


「リア――」


 あ、目が合った。

 ちょっと潤んだような、期待したような熱っぽい視線を私に送ってくる。

 ……これ、私からのお仕置きが欲しいときのムーブだ。うらやまけしからん動きで私を徴発することで、お仕置きされようとしているのが見え見えである。

 が、欲しがってるからあげるなんてことはしない。

 それではお仕置きにならないのだ。

 というかリアの嗜好がエクストリームな方向に極まってしまうのもちょっと困る。

 あまねさんは勘違いしているけれどもリアのこれは私のせいではない。きっかけは私かも知れないけれども、私の想像を超えて暴走しているだけです。

 つまるところ、才能がありすぎたのだ。

 途中泣き叫んだりとか気絶したりとかもしてたけども、そういった苦難を乗り越えて覚醒してしまったのだから、もうリアの才能としか言えないだろう。

 ……うん、やっぱり私は悪くない。


「そんなに柚希さんが良いなら私からのお仕置きは要りませんね」

「ええ!? そ、そんな……!」


 お預けはお預けで嬉しそうにしてるんだけど、どーしたもんかなコレ。

 もう何をしても……否、されなくても喜ぶんじゃなかろうか。


「嫉妬しとーと? 環ちゃんも愛らしかね」


 何故か誤解されて柚希さんに抱き着かれてなでなでされた。うーん、私は真面目にリアのことを案じてるんだけども、棚ぼたで大ボリュームなのが身体に当たるからまぁ結果オーライ。

 リアじゃないけどこれは確かに四六時中堪能したくなる。

 どこまでも沈んでいきそうなのにぷるん、たゆんと張りがある。これぞまさに神の与えたもうた奇跡……!

 モーセの十戒にも『(なんじ)、チチを敬い(たま)へ』ってあるし。母ってワードもどっかに入ってた気もするけど、母がついたチチ、それはつまり母乳ということだろう。

 うん、紀元前から伝わる教えなのだからそれだけ人の本能に根差したものということだろう。

 私やリアが柚希さんに夢中になってしまうのも致し方ないというものである。

 とはいえ私を差しおいて堪能していたリアを許したりはしないけれど。


「嫉妬してるのでもっと構ってください」

「ええよー? でもリアちゃんもね」

「ゆ、柚希おねえさま……!」


 三人でイチャイチャしていると、ルルちゃんも突撃してきた。


「ルルちゃんも甘えん坊さん? 珍しかね」

「そろそろ――むぐっ! むがががっ!?」


 ひょいっと持ち上げられたルルちゃんはそのまま柚希さんの中に埋まった。

 ……羨ましいけれども、このまま放置しておくと待っているのは羨ま()い結果である。

 止めようかと思ったけれど藻掻くルルちゃんによって柚希さんのご神体がもにゅ、と奇跡的な変形をしている姿を眺めているのも捨てがたい。

 介入すべきか悩んでいたところで、席についていたクリスさんと葵ちゃんから声が掛かった。


「柚希。ルルが死ぬぞ」

「ルルちゃんは混ざりに行ったんじゃなくて、ご飯だから座ろうって言いに行ったんですよ」


 そう言えばもともとご飯食べる予定だった。

 完全に忘れていたけれどもあまねさんのリクエストでわりと豪華な夕食になっているはずなのだ。本人不在なのがまたなんともコメントし辛いけれども。

 席に着くとクリスさんに、遅い、と小言を言われてしまったけれども仕方ない。軽く謝ってご飯にしよう。

 和食ということで津々浦々(つつうらうら)の食材を使ってはいるけれども、前菜に添えられたのらぼう菜のお浸しやメインのぼたん鍋なんかは埼玉の郷土料理になるらしい。

 ぼたん鍋ってイノシシ肉だよね? あんまり埼玉ってイメージはなかったけれども宿の人がそう主張しているならそうなんだろう。


「はふっ、はふっ、おいひい、れす!」

「んん~美味しか」


 良い感じに美味しかったので文句はない。

 臭いとか硬いとか、そういうイメージが強かっただけに意外だ。いや、確かにジビエって言い方をすればそうなのかもしれないし、天然モノと言えば微妙に希少で高級なイメージにもなるけど。

 あ、後であまねさんにぐぎぎってなって欲しいから写メ撮っとかないと。まぁ本当にぐぎぎだけだと可哀想だからお子様ランチ的に美味しいものちょっとずつまとめたセットも作ってもらうけどね。

 ……あまねさん、早く戻ってこないかなぁ。


「いやーご飯美味しかったです。最高でしたね!」

「ううっ……! お腹弱い設定とか絶対要らないでしょ……!」

「ち・な・み・に! デザートは自家製の柚子シャーベットでした♪」

「ぐぬぬぬっ……!」

「あまねおねえさま」ヒシッ

「あ、リア……ありがとう」

「る、ルルもなのです!」

「ルルちゃんもありがとう」なでりこ

「ウチも混ぜてほしかー」

「正妻は私」

「あ、柚希ちゃんも! クリスも!」

「えっと、その、ボクも……」

「葵ちゃんも! みんなありがとう!」

「えーっと……あまねさん? 私もいますよ?」

「……」

「何ですかジト目で」

「アルマ。環ちゃんのお世話してあげて。朝まで」

「かしこまりましたッ……!」

「ヴェッ?! あまねさん!?」

「アルマの料理じゃなくて宿の料理を堪能してたみたいだし、ここは一晩掛けてじっくりしっぽりアルマの優秀さを理解(わか)らせてあげないと!」

「あまねお嬢様……! このアルマ、お嬢様のご期待に応えるべく全身全霊を掛けて環さまのお世話を――」

「あまねさぁぁぁぁんッ!?!?」

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