◆011 出発とお仕事
「おっまたせ! 新作ばでけたけん、読んでなー!」
「遅くなってごめんな! おれたちも色々頑張ってるんだけどやることが多くて……」
「サボり、ですかね? そうだったらお仕置きが必要ですね?」
「た、環ちゃん? サボってなんかないよ?」
「そうばい。作者もできればたくさん書きたか時期だって言いよったもん」
「……時期? そんな時期があるんですか? 何かの発作とか?」
「いや、もうすぐ1万ptだからガンガン更新してはやく突破したいっていってた」
「あー……」
「そげなことやけん、応援お願いね♪」
「うわ、柚希ちゃん強い……でも本当に応援お願いします!」
「うーん。やはりルルちゃんに言わせるのが効果高いような……いやでも何かしら理由をつけて罰ゲームであまねさんを泣かせるのも――」
「アウトぉ! 絶対に騙されないからなぁ!」
何はともあれ、出発だ。
大悟を運転手にマイクロバスを走らせ、おれたちは栃木から沖縄を目指す。本当なら飛行機を使うのが楽なんだろうけども、空路では万が一の際に逃げ場がないし、そもそも全国津々浦々にあるセーフハウスを確認するのも目的だからね!
急いだほうが良いのか環ちゃんが確認を取ってくれたんだけども、
『腕利きの護衛を派遣しております。島外に出るときに狙われると空路・海路ともに逃げ道がないので宗谷殿の《転移》を頼らせていただきたいのです』
とのことだったので急ぐ必要なし!
何なら転移先を増やすためにグルっと観光してくれた方が良いとのことだったので言われた通りに観光しまくるぜ!
乗ってるマイクロバスも三条さんと土御門さんがお金出して改造してくれたもので、後部座席をコの字型になっていたり小さいながらも冷蔵庫がついていたりとかなり良い感じの仕様になっている。
ロケバスみたいでドキドキだね!
窓はマジックミラーになっているので中を見られる心配もなし!
「旅のお供ですし、せっかくですからこのマイクロバスにも名前を付けてあげましょう!」
どっかの麦わら系海賊みたいなこと言い出したと思ったけれども、そこは環ちゃんだ。やたら良い笑顔で推して来たのはマジカルミラー号、略してMM号とのことだった。
理解できたのはおれと大悟だけなのがまたタチが悪い。
皆して「別に良いよそれで」的なノリになってしまったのでどうやって阻止しようか考えていたんだけれども、
「……お嬢様がたを移動させるのに振動すら誤魔化せないような駄車両に名前……このアルマめと同格ということですか……これはもう格の違いを分かっていただくためにも誠心誠意お世話しなければなりませんね……!」
「……アルマ?」
「環さま! 脳髄コースと脊髄コース、どちらになさいますか!?」
トチ狂ったこと言い出して勝手に流れた。
うん、ありがとうアルマ。今回ばかりは助かったよ。
でも脳髄も脊髄もお世話には関係無いからね?
そんなアルマは、名前をいただけるのは特別な証ですから特別なご奉仕を、とか言い出してカメラ六台を同時操作してメンバー全員が映るように画角を調整し続けるという作業をこなしてくれている。
口からコードがびろっと出てるのは普通に怖いけれども、やってくれてることはありがたい。
今日の旅行部は葵ちゃんとルルちゃんが欠席なので六人でピッタリだ。大悟は完全裏方ってことで映らないしね。
あとリアは爆睡しております。すぅすぅ可愛い寝息立てて丸まってるので尻尾でいじめたくなるけども、リアはそういう方面ではブレーキがついてない。車内でスイッチが入ると不味いことになるので我慢だ。
なにしろ、助手席には梓ちゃんも乗っているしね。夜は自宅まで送る、という制約付きだけども。
土御門さんが発狂していたけれども夫人がGOサインを出したことと、葵ちゃんが後押ししたこと、そしてそれまでのお付き合いで大悟の素行が良かったことが決め手になったらしい。
おれたちが真面目な人助けのために真剣な気持ちで全国をまわると言うのに、梓ちゃんを巻き込んでデートをするなんて大悟はけしからん奴である。
まったく、人の命がかかってるんだぞ。
何はともあれ最初の目的地は華厳の滝、そしてその足で日光東照宮に寄る予定だ。
せっかく栃木に本拠地があるのにどっちも行ったことなかったからね!
そのあと群馬から埼玉の方に抜けて、太平洋側を通って九州まで行く予定である。鹿児島から沖縄への移動はちょっと特殊な感じになるけど、帰りは日本海側を通って転移できる場所をじゃんじゃか増やしていくのだ。
今回の一件が片付いたとしても、これで全国に旅行し放題である。
ちなみに東北・北海道はマリエールちゃん――正直めっちゃ疑ってるけど大学生らしいし喜屋武さんって呼んだ方が良いかな――と合流してから、栃木の別荘をベースにして回る予定である。
旅行と言えば産地の食べ物が醍醐味。
牛肉豚肉に地鶏も良いし、海鮮なんかも楽しみだ。野菜だって全国に出回らないものもあるだろうし、美味しい郷土料理なんかもあるかも知れない。
おれも堪能したいからいつまでもよわよわな胃腸を抱えているわけにはいかないのだ!
ぐっと握り拳を作って車窓を眺めていると、不意に声を掛けられた。
「あまねちゃん随分はしゃいどーねぇ。元気なんな良かことや」
「ヴッ?!」
柚希ちゃんから微笑ましげな視線を向けられ、艶やかな指先で頭を撫でられた。
後光が差しそうな光属性に、母性的なバブみを感じる……!
理性と精神年齢が浄化されそうになるのを必死に堪えて、観光地やら何やらが載っている雑誌を開く。
このままでは色々流されて新しい扉を開いてしまいそうなので、気を紛らわせる作戦だ。
「け、華厳の滝かー。楽しみだなぁ」
「そうやねぇ」
「いやーあまねさん流石ですね」
「エッ? 何が?」
「華厳の滝、実は寄りたかったんですよ――心霊スポットですし」
「ヴァッ!?」
自殺者がけっこういるらしく、祓魔師協会で調べたところ穢れが溜まっているんだとか。おれの《闇瘴祓》で浄化してほしい、なんて話らしいけどもそもそもおれは怖いのが苦手である。
ゲームですら武装できないものはちょっとノーセンキューなのに、現実世界でいくはずもない。
「け、華厳の滝はまた今度に――」
なんとか回避しようとしたおれの言葉を遮るように取り出したのは、『宗谷殿へ』と筆で書かれた手紙だった。
おれがそれに目を通している間に、環ちゃんがカメラへと視線を送る。
「なんと! あまねさんにクライアントワークです! 俗にいう案件って奴ですね!」
ちなみに手紙には、旅費出すんだから寄ったところの浄化くらいはよろしくね☆的なことが書かれていた。土御門さんの直筆である。
浄化が必要な場所は環ちゃんに伝えているけれども、『浄化のために立ち寄る』のではなく『立ち寄ったついでに浄化』となれば断る理由が見つけにくい。
ある意味案件と言えば案件なんだけど、配信者の案件って意味が違う気がするんだよな……まぁでも説明は環ちゃんに任せておけば良いか。
「ちなみにこういった浄化系の案件のほかにも案件が来てます。内容的に煮詰まってないので詳細は内緒ですけどね」
「エッ!? ホントに!? 案件来てるの!?!?」
「来てます来てます」
そう言いながら耳打ちされた内容に、おれの顔が露骨にひきつる。
「むり。ぜったいむり」
「えーそんなことないですよ。あまねさんのイメージに似合うものになるよう協議してますから」
「嫌だよ! 下着モデルなんて絶対無理!」
「まぁあまねさんは後で説得するとして――」
……駄目だ。環ちゃんの説得は色々駄目だ……!
「あまね、落ち着け」
「クリスぅ……!」
クリスが珍しくなでりこしてくれるので大人しく膝の上に収まることにする。うーん、温かくて気持ちいい。健康的な太腿は細いのにむちっとしているし余計な肉はないのに柔らかいし、もう全ての矛盾を内包した究極の美である。
いやおれも何言ってるか分かんないけど、本当にそうなんだよ。
撫でて揉んで頬ずりして舐めて挟まれて吸ってみればわかる。おれ以外のやつがそんなことしようとしたらソッコーでなますだろうけども。
「夏に水着を着たな? 要はあれと同じだ」
「ヴェッ!?」
「水着が恥ずかしくないなら下着も恥ずかしくない。どちらも似たような形状だし防御力にも差はないからな」
「差はないっていうか、どっちも防御力で言えば無ですよね」
いやあれは水着じゃん!? ぱんつじゃないじゃん!
日本には古来から『ぱんつじゃないから恥ずかしくないもん』ってことばがあるんだよ!
つまり逆にぱんつは恥ずかしいということでもある。
恥ずかしいんだよ……!
異世界ルールと地球ルールが混ざったせいか、羞恥心が絶滅しかけているクリスにがるるる、と反抗していると、横にいた柚希ちゃんが助け船を出してくれた。
「そげなことやなかばい。下着ばみらるーったい恥ずかしかことなんよ」
うんうん。そうなんだよ!
「特に女ん子にとってはね。クリスちゃんも普段から気ぃ付けた方が良かよ」
「そうなのか? 特に危険はないと思うが」
「そげん意味やなか。女子としてん心持ちん話ばい」
「ですねぇ……着ている衣服そのものよりも、恥じらう姿こそが良いって側面もありますし」
ああうん。柚希ちゃん的には普通にマナーとしての話だよね。クリス、変なところで男らしいというか、さっぱりしすぎてる感じするから。
いやだからこそベッドの中でのギャップがたまらないんだけども。
「……恥じらう姿が良いなら、あまねはこのままで良いのか……?」
「アッ、確かにその方が良いですね……失敗しました。案件の内容は当日まで伏せておくべきでしたね……!」
「そげんことせんだっちゃ、あまねちゃんならきちんとお願いすりゃ頑張ってくるーばい」
何を!?
おれは何を頑張るの!?
柚希ちゃんからの期待で心が痛いぜ……!
「この前後書きって随分文字数すごいですよね?」
「せやねぇ」
「ぶっちゃけ、一部~最新話までをカウントしたらそれなりの文字数になりません?」
「数えたことないけど、確かに多いかもね。おれは毎回呼び出されるの納得してないけど!」
「ファンサービスやて思う」
「ですね。読者さんのことを考えたら別に苦じゃないです」
「ぐっ……! お、おれだって別に嫌とは言ってないし!」
「ですよね。はい、あまねさんコレ」
「およ? ナニコレ? カーテン?」
「コスチュームですね」
「アッ!? ホントだ?! レースだから気付かなかったけど普通にワンピースだ!?」
「きわどかぁ……」////
「っていうかナニコレ!? 着ないよ!?」
「えっ」
「えっ」
「何それ怖い」
「だって読者さんへのサービスですし」
「いや違うじゃん! そういう意味じゃないでしょ!?」
「えー。この作品の見せ場はあまねさんが脱ぐところですよ?」
「違うよ! クリスに柚希ちゃんにルルちゃん、環ちゃんとリア、アルマ、葵ちゃんたちが組んヅ解れつするところでしょ!」
「二人とも、えっちなんな良うなか」
「アッ、ハイ」
「アッ、ハイ」
「(あまねさん)」
「(何?)」
「(今回の見せ場は柚希さんによるお説教ですね!)」
「(……ブレないなぁ)」