◆007 始動!アウトドア編①
「……環ちゃん?」
「はい」
「何か言うことは?」
「いえ、あのですね、その――……陰キャバスのみんなは大喜びでしたよっ!」
「言うに事欠いて自己弁護!?」
「……どげんしたと? なしてそげん怒っとーと?」
「本編見てみればわかるよ……」
「はーい、陰キャバスの皆さん、こんサキュバス!」
「「「こんサキュバス!」」」
アルマの構えるカメラに向けて、皆で手を振る。
春の日差しを受けて輝く深緑の森を背景に、久々に手を通した『あまねチャン(と)ネル』特製ジャージがモニターに映し出される。
おれの横にいるクリスがずずいと前に出て、これから行われることを説明する。
「さて、本日はアウトドア部の活動だ。アウトドアに必要なものは分かるか?」
本当にクリスなのか疑わしいレベルの長文。実はカメラが回る前に台本に目を通し、二回くらい練習をしていた。
クリスらしからぬ行動を思い出し、によによしてしまう。
いや別に勇者やってるときも演説の練習とかはしてたみたいだけども。
「あまね、何?」
「ヴェッ?! あっ」
「判断が遅い。罰ゲーム」
「ヴァッ!?!?」
どっかの育手みたいな台詞とともに罰ゲームが宣告される。
確かに環ちゃんが『部長ですし、何か不適当な言動があったら罰ゲームって言っちゃって良いですよ』って言ってたけども!
「き、厳しすぎない……?」
「甘いな。アウトドアは命がけだ」
「いやそれはサバイバルでしょ!?」
「まぁまぁ。部長の判断なんで諦めましょうあまねさん」
葵ちゃんがなんとなく執り成しに入るけれど、カメラの外にいる環ちゃんが満面の笑みだから罰ゲームをやる方向に持っていきたいだけなの分かってるからね……!
ぐぬぬ顔をクリスに向けたところで決定が覆る様子はない。ぽんぽんと頭を撫でたクリスはそのまま説明を続ける。
「サバイバルに必要なのは拠点だ」
「もうサバイバルって言うてしもうてるね」
「大差ありませんものね」
苦笑気味の柚希ちゃんに何故かニコニコしながらもおれと環ちゃんの様子を窺うリア。
環ちゃんはルルちゃんと一緒に画面外で待機なので、この五名が今回のメンツだ。もちろん入れ替わりはするけれども、基本的に環ちゃんはアウトドア部には参加しない方針、らしい。
「魔力ないから無理です。建材一本ですら持てないです。というかその後に罰ゲーム執行とかやらないといけないので時間が足りないんですよ」
やたらイイ笑顔で言われたんだけど、毎回罰ゲーム考えるの大変だろうし、無理しなくて良いんだよ?
そんなこんなで確定したメンバーでさっくり説明をして、さっさと作業に入る。
まったくの説明なしというのもどうかと思うけれども、作業系の動画なのに説明が冗長になるのも動きが無くて面白くないとの判断である。
……もちろん環ちゃんの。
良いんだよ! おれはおれで頑張るから!
頼れるところは頼る方針なの!
「とりあえず拠点としてログハウスば作るっちゃん」
「手順としては、まず整地ですわね。そのあと基礎を打って土台作りをしますわ」
その後は丸太を積んでって屋根まで頑張り、内装だ。
ちなみにおれの役割は応援と、作業終了時にぱたぱた飛んでってブルーシートを掛ける役だけだ。
……おれだって魔力使えるし、図工とか技術の評価は結構良かったんだけどなぁ。
皆にも分かってもらおうと思って試しにノコギリとか釘打ち機を触ろうとしたんだけどほぼ全員から止められた。
解せぬ。
「電気関係と薪ストーブは免許とか安全性確保の関係もあるので業者さんにお任せしますが、あとは全部ボクたちでやります」
キャラ付けの一環としてこっそりボクっ娘になった葵ちゃんの説明で〆て、さっそく作業に入る。
「じゃ、整地だ。――リア」
「はい」
名を呼ばれたリアが、大剣を握りながら一歩前に出る。
眼前に広がる雑木林。これが、おれたちがログハウスを建てるための土地だ。おれの別荘にはもっと適した平地もあるんだけども、初回はインパクト重視ということでわざわざここを選んだのだ。
「では、僭越ながら」
ゆらりと魔力の揺らめきを放ったリアは腰溜めに剣を構え、そのまま勢いよく振り抜いた。同時、魔力の斬撃が木々を根元から断ち切り、大地をめくるように切り裂く。
魔力全開の一撃で行う、異世界式の整地である。
いやこんな整地向こうの世界でも一般人には無理だし、普通にただのゴリ押しだけど。
「さて、こんな感じで如何でございましょう」
ズズン、と一拍遅れて樹木が地面に落ちる。今日はこれを片付けて、残った根っこをクリスと柚希ちゃんが焼いたり引っこ抜いたりしておしまいの予定だ。
何故だが知らないけれどもここだけはおれも手伝って良いとのお達しが出た。
作業的にはちょっと物足りないけどせっかくだから頑張ろう!
「《小火》」
「頼んだけんね!」
クリスが根っこを燃やしたり、柚希ちゃんが管狐を使って土を退かしながら持ち上げたりと大活躍する横で、おれはせっせと丸太を運んでいる。
葵ちゃんが適当なサイズにカットしてくれているのでギリギリ引っ張れるけども、水分を含んだ丸太は重たい。
「ぐぬぬぬぬっ……!」
「アルマ! あそこ! あそこズームで! 撮れ高ですよ!」
「かしこまりました。このアルマめにお任せを」
枝葉は枝葉で大きくて持ちにくいしめちゃくちゃ大変である。
くそー!
普段から魔力を使う練習をしておけば良かった!
外野がうるさいけれども、事前のリサーチによれば作業系の動画は作業が少しずつ進んでいく様子を淡々と映すのが良いらしいので、魔法でズババンよりもおれみたいに頑張ってる方が良いのは間違いない。
環ちゃんの邪念を感じるけれども理屈的には正しいはずだし放置だ放置。
「ふぎぎぎぎっ……!」
とはいえ、軽々と持ち上げているリアや、サクサク切ってる葵ちゃんを見るとおれももっと訓練とかしとけば良かったと本気で思う。
いやでもクリスの訓練は人間には無理だしなぁ……もうちょっと良い感じの訓練とかないんだろうか。
何気に柚希ちゃんとか葵ちゃんも脳筋な鍛え方しかしないから初心者向けというか、楽しみながら、みたいな感じで鍛えられないのが悩ましいところだ。
現実逃避しながらも一生懸命丸太を引いて、枝葉を集める。
「顔を真っ赤にしながらもちょっと汗ばんだ感じのあまねさんは美味しいですよぉ!」
「おいしい、です……?」
なんか邪悪さを隠す気もなさそうだけど無視だ、無視。
っていうかさ。
いないことになってるはずのルルちゃんの声、普通に入ってないかコレ。いやリスナーさんにはルルちゃんのファンもいるだろうから別に良いんだけども。
ちなみにログハウス作りは定点カメラを置いて撮影して、早送り編集したものを投稿したり、生配信をしたりと色々織り交ぜる予定だ。野外で活動してると陰キャバスの皆からのコメントも拾えないし、ヤマ場みたいなのもないからね。
編集の類は環ちゃん監修のもとでアルマがやるので楽ちんだ。
「あ、そこもっとヒキで。デデンって感じの効果音と字幕で説明つけて」
「かしこまりました――こんな感じでよろしいですか?」
「うんうん。あ、別窓でみんなの表情もちょっと見れるようにしといて」
雑というか適当な指示を出す環ちゃんもすごいけれども、それに嬉々として応えられてしまうアルマもまたすごい。
料理部は柚希ちゃんに任せきりだし、おれはおれでゲーム部をどうやって盛り上げるか考えていかなきゃ!
そうと決まればこういう単純作業はさっさと終わらせて、何のゲームが流行ってるかとかを調査しないとね。
よし、やる気出てきた。
「あ、アルマ! あれです! うなじの流れる汗! 貼り付く体操服! 撮れ高ですよ! ほら余すところなく!」
……おれはやる気だそうとしてるんだよっ!
「ってなわけで、後で映像見てみたら作業そっちのけで汗だくのおれしか映ってないんだもん」
「さすがに何しよーかわからんのは良うなかねぇ」
「あ、アルマ。何か良い感じにフォローできない?」
「うわっ。無茶ぶり過ぎる……!」
「可能です。このアルマめにお任せいただければ、あまねさまの御能に微弱な電流を流し記憶を――」
「却下ァッ!!! 何でいっつもマッドな方向に行くんだよ!?」
「電極付きん針持っとーとがまたえずかね」
「そもそもどこから出したんだよ……」




