◆006 アウトドア部の準備
「おお、まずはアウトドア部からか! いやぁ楽しみだなー!」
「……」
「あれ、大悟?」
「……先輩、自分は手伝わないっすからね」
「いや、一応配信用の企画だし、やるのはおれたちだけど」
「本当に撮影しかしないっすからね」
「……まって? 何をさせられるの!?」
「本編で確認するっす」
最近のネット通販はすごい。
何しろ、ログハウスが売ってるんだから。
しかも組み立ては自分で、と来たもんだ。プラモデルや三段ボックスじゃないんだからそう簡単にはいかないでしょうに、と思うけれども、ネット上には意外とそういうキットを使ってログハウスを組み立てるような動画が転がっていたりする。重機やら道具はレンタルできるし、何なら操縦者込みで借りられるというのもすごい話だ。
テレビの企画で芸能人が作ってたりもするらしく、やってみれば案外いけるもんなのかな、なんて頭を捻っているのがおれの現状だ。
そもそも、なんでおれがこんなことを考えているかと言えば、
「コレ安い、です! 八〇万円です!」
「折角建てるなら豪華なのが良いですよ。こっちの四五〇万円のはどうです?」
「んー……こっちの、丸窓と屋根が可愛かぁ」
アウトドア部でログハウスづくりをすることになったからだ。
難易度高ぇよ……と思ったけれども、環ちゃんが色々調べた結果、クリスやリア、葵ちゃんや柚希ちゃんが魔力全開で作業すれば重機なしでも意外といけるんじゃないか、とのことだった。
確かにリアなんかは華奢な身体をしてるのにとんでもないサイズの剣を振り回してるもんね。多分だけどあの剣ってリアの体重より重たいと思う。
となれば、ここは魔力も使えて唯一のおとこであるおれの出番だ。
うんまぁ色々思うところはあるけど、おれは精神的にはおとこだからね。こういう時に頼れるところを見せる!
そして魂の内側からにじみ出る男らしさを手に入れるのだ!
「魔力ならおれも使えるぞ!」
「ほ、ほら、あまねさんは、その、精神的に応援と言うか、その、手は出さない方が――」
「駄目。ドジっ娘属性だから足引っ張る」
……た、環ちゃんに気を遣われた……くつじょく……!
いやクリスみたいにド直球ストレートでデッドボールみたいなのもどうかと思うけどさ。
ぶーたれていると、クリスにぐしぐしっと頭を撫でられた。乱暴な感じだけども、気を遣ってくれてるのはなんとなく感じた。
正直納得いかないけど、気持ちいいので我慢してやるとしよう。
ちなみに今はどんな形のログハウスにするのかを各々スマホで調べ中である。アルマが中継してくれているので、気になったものがあると大きなモニターで共有できるという便利仕様だ。
口からケーブルがペロンって出てて怖いけど。
なんでWi-Fiにはそらで接続できるのにそういうとこだけアナログなんだよ。
「あっ」
珍しく大きな声をあげた葵ちゃん。すかさずアルマがスマホ画面をモニターに映し出すと、
『おやじ』
土御門さんからのメッセージだった。自動でポップアップされたそれには、
『面倒な預かりもの頼まれた。宗谷どのに連絡を取って欲しい』
端的に厄介ごとの気配がする文言が記されていた。
っていうか面倒って言ってる時点でおれに振るのは止めて欲しい。
どうやって断ろうか考えながら葵ちゃんに視線を向ける。
が。
「――こっちの二七〇万円のキットとかどうですか?」
スワイプしてナチュラルにメッセージを消した葵ちゃんは何も無かったかのようにログハウス探しを再開していた。
「エッ!? 土御門さんからの連絡無視して良いの!?」
「いやだって、コレ絶対厄介ごとですよ? 今の親父が面倒とか言うのって、カトリック教会とか国外組織ですからね?」
確かに、夏の一件で大きく勢力を伸ばした土御門さんならば大抵のことはパワープレイで押し切れるはずだ。その土御門さんが『面倒』というのだから、権力の及ばない相手だったり、何かしらのしがらみがある相手なんだろうな。
嫌そうな表情の葵ちゃんに続き、環ちゃんもしたり顔で頷いている。
「だいたいあまねさん、何の話が来てもほぼ断るの決定ですし良いんじゃないですか?」
「いや、まぁ確かにだいたい断ってるけども」
あれは持ってくる依頼が悪いと思うんだよなぁ。
もう少し安全なものだったりパンフレットのイメージキャラとか広報的なのだったら別に嫌じゃないし、何なら着飾ったみんなを見れるから二つ返事でOKなんだけども、
「住んだら呪われると噂の多重事故物件があってな――」
「取り壊して駐車場にしましょ! 住むから呪われるんです!」
「飾ると呪われると噂の絵画があってな――」
「美術館に死蔵してもらいましょ! もしくはお焚き上げ!」
「人を斬ると呪われると噂の妖刀があってな――」
「斬らないでよ!? 普通に倉庫にINして! もしくは鋳つぶしましょう!」
「髪が伸びる日本人形が――」
「時々散髪してあげて! っていうか実質無害じゃん!」
「飲み物の味が変わる呪いのマグカップが――」
「廃棄してよ!? マグカップくらい他の奴買いなよ! それなんか変な成分とか溶けだしてるだけじだったりしません!?」
何でもかんでもおれのところに持ってくるのは本当にやめて欲しい。あとさりげなく三条さんに運ばせて、実物を見せながら説明したりとか断りにくくするのも厄介だ。
ちなみにルルちゃんの嗅覚を使えば呪いの有無は一発なんだけれども、呪いは臭うらしくて辛そうだから本当に可哀想だ。
「くしゃい……れす……!」
その度に臭いを中和するために肩とか髪とかをくんくんされるおれの気持ちにもなって欲しい。
ルルちゃん的にはおれの香りが一番良い? らしいんだけども、きちんと洗ってるから多分石鹸の香りしかしないはずなんだよ。でも嗅覚鋭いから何か感じてたら恥ずかしいなぁ……クリスの甘い香りとか、柚希ちゃんの花みたいなシャンプーの香りならおれもわかるんだけども。
ちなみに最後のマグカップに関してはホントに呪いでもなんでもなく、使っちゃいけない金属が入っていたらしく、味が変わってるだけだった。健康被害が怖いけどアンティークの鋳物で一点ものっぽいので処分して終了だった。
話がずれたけれど、とにかく面倒臭そうなのはだいたいパスしてるのが現状なのだ。
だからまぁ葵ちゃんの反応も間違いではないんだけれども、ここまでぞんざいだと本当に良いのかすごく不安になる。
「ちなみに国外組織ってどんなのがあるの?」
「んー、宗教系はだいたい魔術系の組織を抱えてることが多いですよ。公にしてるか、秘密にしてるかは別として」
「秘密結社ばよう作っとーもんね」
「魔術は研究が難しい癖して秘匿技術が多いからな。小さなコミュニティを作るのは私の世界でもよくあった」
「研究内容を秘匿するために特殊な契約を結んだり、魔術そのものを血統に書き込んだりしますものね」
こっちの世界も異世界も、なんかごちゃごちゃしているらしい。
まぁサキュバスになっちゃっただけで知識的にも技術的にもほぼ素人のおれには分からない言葉が多すぎる。
タチが悪いことに、こういうのは質問すると、その回答にまた知らない単語が含まれていることだ。おれはそんなに頭が良い方でもないし、興味だってそれほどないのでパスだ。
それよりログハウスを選びたい。
「あー皆が何言ってるか全然分かんないしやめやめ! 葵ちゃん、土御門さんには悪いけどよろしく伝えといて」
「あ、はい。了解です」
「ようし。そしたらログハウス選びだ! これはどう?」
葵ちゃんがさらっと言うので流したけれど、まさかこれが大きな問題になるとは思いもしなかったおれは、呑気にログハウスの選定に戻ってしまうのであった。
「ログハウス……いや、難易度高くない……?」
「えー、楽しみやなかとー?」
「いや、楽しみではあるけどすごく大変そう……そ、そもそも電気の配線とかは? あれって免許制だよね?!」
「大丈夫です。――はい兄貴」
「ヴァッ?! 何っすかコレ?!」
「何って、電気工事士の問題集だけど」
「ヴォッ?! これ、自分が取るっすか!?」
「最近、梓ちゃんとのイチャイチャが多くてウザいからしばらく部屋籠って勉強してて」
「ちょっと待つっす! 完全に私怨じゃないっすか!」
「うん。そうだよ? さ、あまねさん。問題は解決したのでログハウス選びに戻りましょー」
「……ナチュラルに酷いな……」
「先輩ェ……!」
「エッ!? おれは何もしてないよ!? 何かあるなら環ちゃんに言ってよ!」
「……梓ちゃんに連絡して慰めてもらうっす……」
「(そういうところだと思うよ)」




