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番外編 バレンタイン(葵編)

「番外編だー!」

「っすね! バレンタインっす! 最高っス! アーメンハレルヤピーナッツバター!」

「無法地帯で営業してるご機嫌な商会の社長みたいなセリフだな。っていうかテンション高くね?」

「自分、家族以外からチョコもらえるなんて人生初めてっすよ!?」

「ああ、梓ちゃんね……チッ」

「舌打ち!? 先輩だって絶対もらえるでしょ!?」

「それはそれ、これはこれ。っていうかさ、見栄張るの止めなよ」

「見栄……? いやいやいやいや、自分、梓ちゃんからもらえるっすよ!? くれるって宣言してたっす!」

「いや、そこじゃなくてさ。まぁ、ちょっと後書きで答え合わせしようか」

「なんか、そこはかとなく不安になるヒキっすね……」

 そわそわ。

 わくわく。

 どきどき。

 何て言い表すのが良いのか分からないけれど、おれは浮足立っていた。もう背中の羽根も出してプカプカ浮くくらいに浮足立っているのだ!


「いや、それ物理的に浮いてるじゃないですか」


 ややジト目の――多分、昨日の夜やりすぎたことを根に持っている――葵ちゃんに突っ込まれたけれども、そんなちっちゃなことは気にしない。

 なんたって、


「明後日は二月一四日なんだよ!? そりゃわくわくドキドキするに決まってるじゃん!」


 小学校時代に母親からもらって以来バレンタインなんぞに縁がなかったおれだけども、今年は違う!

 クリスでしょ、ルルちゃんでしょ、環ちゃんに柚希ちゃん。リアに葵ちゃんもくれるだろうし、もしかしたら梓ちゃんも大悟のついでにおれにもくれるかも知れない!

 これだけもらえると分かっていればウキウキしてしまうのも致し方なかろうなのだ!

 あ、アルマ?

 アルマはなんかチョコに変なの混ぜそうだからちょっと……いやまぁもらえるなら貰うけどね!

 とまぁチョコを貰える、貰えないというのは男である(・・・・)おれにとっては大問題だ。この大問題を共有できるのは男だけなんだけども、大悟は梓ちゃんとのデートを取り付けたとか言って朝から日本語通じないレベルでテンション高くてウザいし、三条さんや土御門さんは歳が離れすぎてて話し辛い。

 正樹さんには一応メッセージ送ってみたんだけども、ラナさんを称えるポエム的なサムシングが200行くらい送られてきたので読むのを止めた。逆転したラナさんの権能のせいで純文学と哲学を混ぜたような感じになってた。

 そうなると、おれがチョコを自慢できる相手は元・男の娘である葵ちゃんしかいないんだけども。


「……?」

「エッ!? なんか反応薄くない!? 二月一四日って言ったら――」


 いまいち反応が鈍い葵ちゃんに畳みかけようとしてハッと気づく。

 今でこそ葵ちゃんは完全無欠の女の子だけども、そもそもは男の娘だ。トラウマ級の主砲をぶら下げていたとしても見た目は完全に女の子だった。

 だとすれば、バレンタインデーとかはむしろ周囲の男子からチョコレートを強請られたり、もしかしたら告白とかされて嫌な思いをしていたかも知れない。

 どうしよう。

 なんかすごく悪いことをしてしまった気分だ。

 なんとか話題を逸らさなければならない。


「に、二月一四日といえば、ニボシの日だよね! ニボシ(214)って」

「親父はふんどし(214)の日って姉さんが幼稚園の時に教えてたみたいですけど」


 どっちにしろ1のごろ合わせに無理があるんじゃないかな……「ボ」とも「ど」とも読まない気がする。っていうか土御門さん、それ絶対に梓ちゃんがチョコを誰かに渡すのを阻止するためでしょ。

 流石に心狭すぎないかなぁ……。


「でも最初にニボシが出てくるなんて渋いですね。普通はバレンタインとかじゃないんですか?」


 気を遣ってるんだよおおおおおお!?


「バレンタインに嫌な思い出とかは……?」

「ああ。貰い過ぎてお返し準備するのが大変でした」


 勝ち組かっ!

 確かに可愛い顔してるもんね! クソー!

 許さん、許さんぞ!

 今夜()覚悟してもらうからね!


「はい、バレンタインなんて関係ありません。ニボシの日です」

「もしかして、ニボシが好きとか?」

「ヴェッ!? あ、うん! 好き好き。チョコよりニボシ派なんだよ、カルシウム取れるし」

「そうですか。じゃあ用意してきたチョコは無駄になっちゃいましたね……これはクリスさんに――」

「あああああああああっ!? 何で!?」

「えっ……ちょっと怖いんですけどどうしたんですか?」

「おれに用意してくれたんじゃないの!? なんでクリスに渡そうとするの!」

「なんでちょっと怒ってるんですか……ちなみに他の皆さんもチョコ用意してると思いますけど」

「知ってるけど! 全部食べます! 一ミリグラムたりとも他の人には譲りません!」

「だからなんでそんなに必死なんですか……」


 なんか微妙にドン引きされてるんだけど。

 解せぬ。

 夜になると葵ちゃんはリアの命令に従って×××させられたり環ちゃんの命令に従って▼▼▼させられたりしてるじゃん! しかも命令されてまんざらでもない感じになってるじゃん!

 それに比べたらおれがチョコを楽しみにするのなんて普通だよ!

 ぷんすこしていると、何かしら危ないお薬でもキメたんじゃないかってくらいテンションが高い大悟が入ってきた。


「ゆ・め・のっ! バレンタイーンっ! 行け、行け行けヴァーレンティヌスー! チョコを贈る日、ハッピーだ♪ 実は処刑日、命日だ~!」

「何その歌。気でも狂った?」

「バレンタイン純情愛歌っす。昨日寝れなかったんすけど、朝四時半ごろお告げがあって四〇秒で出来た歌っす」

「要するに徹夜ハイじゃん。お告げっていうか彼方からの電波でしょそれ」

「あまねさん何で大悟さんが来たとたんにスンッてなるんですか。テンションの落差すごいですよ?」

「家訓で可愛い女の子からチョコを貰うやつには厳しい対応をすることにしてます」


 梓ちゃんからの本命チョコが確定している大悟に慈悲はないっ!


「いや、先輩も貰うっすよね?」

「そう! そうなんだよ! 聞いてくれよ大悟!」


 おれが如何にたくさんのチョコを貰えるのかを語ろうとしたところで、大悟は何とも言えない表情をしていることに気付いた。


「……大悟? 何か言いたいことある?」

「……な、ないっすよ?」

「嘘つけっ! 確実にあるだろ! 言ってよ!」

「言えないっす! 環に殺されるっす!」

「やっぱりあるんじゃん! しかも環ちゃん絡み!? 何を企んでるの!?」

「い、言えないっす……もし密告し(チクッ)たのがバレたら梓ちゃんとのデートを全力で邪魔されるっす……!」


 ああうん。そのくらいは平気でやるよね、環ちゃんだし。

 でもおれの尊厳とかそういうのも守りたいんだよ! だから何とかしないと……!


「あ、葵ちゃん?」

「何も聞かされてないです。きっと環さんのことなんであまねさんのことを心から想った素敵なサプライズですよ」


 ……うん、誰の話してるの?

 急に異世界にでも迷い込んだかと思って大悟を見れば、大悟もチベットスナギツネみたいな顔で葵ちゃんを見ていた。


「大悟、おれの知り合いに環って名前の子。二人いたっけ?」

「いないっす。もしかしたら葵ちゃんは幻覚をみているのかもしれないっす」

「大悟さん。環さんに言いつけますよ?」

「先輩……先輩のことを一途に想ってる自分の妹をディスるのやめて欲しいっす」


 秒で裏切ってるんじゃねーよ!?


「良いもんねー! リアにスパイしてもらうもんね!」

「リアお姉さまなら午後から環さんに呼ばれてましたけど……多分あまねさんが接触する前に気を失ってるんじゃないですかね?」

「チクショー! 対策会議だ! 対策会議するぞ大悟、葵ちゃん!」

「自分、デートのイメージトレーニングで忙しいんで」

「チョコ、まだ本命(たまきさん)の分が完成してないんで」


 味方ァ! おれに味方はいないのかっ!

 あ、明後日が不安すぎる……!

 ちなみにクリスやリア、ルルちゃんなどの異世界組は柚希ちゃん主催の『ハートと心と胃袋をわしづかみ♡ ばりばり美味(うま)かスイーツ作成教室』なるものに参加している。ハートと心が別枠って、心臓でも掴むんだろうか。

 いやまぁ、柚希ちゃんらしい意気込みは感じるし、なによりおれのためにみんな頑張ってくれてるので文句はないけれども。

 文句はないけれども邪魔もできない……!

 くそう! このままじゃ絶対環ちゃんに何か碌でもないことをされる!


「どうすりゃ良いってんだ!」

「受け入れたら良いと思いますよ」

「諦めたら良いと思うっす」


 ち、チクショー!

 絶対に回避してやるからな!

 絶対にだッ!



「さて、そんなわけで大悟の見栄に関する証言者を連れてきました」

「(ちっ)」

「た、環……? なんでキレてるっすか?」

「本編に出番がなかったから」

「そ、それは作者のせいっすよ!?」

「あとバレンタインのチョコを『家族から』って、私あげたことないんですけど?」

「うぐっ!?」

「お母さんから、が正解でしょ」

「そ、それはそうっすけど――」

「はぁ……梓ちゃんってば何でこんなのに……」

「(せ、先輩! 何かクダ巻き始めたっすよ!? これどう収集つけるっすか!?)」

「(と、とりあえず告知だ!)」

「(っていうとまさか第三部――)」

「は書き終わってないそうです。この作者マジ何してんのよ」

「じゃ、じゃあ何の告知を!?」

「バレンタインにまつわる番外編は何話か続くらしいです。『書けた日の夜21時に更新する』とか言ってましたけど日和(ひよ)ってないで毎日更新しろって感じですよね」

「更新無かったら察してってことっすか……?」

「らしいね……活動報告とTwitterで更新の報告するから、お気に入りユーザー登録とかフォローよろしくって言ってた」

「なんか……作者のTwitterってわりと碌でもないっすよね。ほぼ大喜利ですし」

「最近は大喜利すらなくなってますけどね」

「環……そういうこと言うから出番がなくなるんすよ」

「(ちっ)」

「(びくぅっ)」

「あー、コホン。執筆が予定通りに進めば明日の21時に、それが無理そうなら明後日の21時に更新します! ぜひご覧くださいねっ!」

「……めちゃくちゃ愛想良くなってる……」

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