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◆010配信準備 異世界編2

鬱回といえば鬱回かもしれないですが、悲劇にはなりませんのでご安心ください。

それでは本話もお楽しみください。

 紹介された魔道具屋さんと武具屋さんを回って、今日のところはおしまいだ。

 魔道具はいくつか購入したけど、武具の方はサイズの調整があるため明日までまってくれ、と言われた。金貨4枚あれば半年くらいは良い宿に泊まっても遊んで暮らせるらしいんだけど、そのうち三枚が吹き飛んだ。まぁ武具は実用品ながら見栄えもするものを買ったし、魔道具は元々高価なものばかりだからしょうがないんだけども。

 明日には受け取れるので、わざわざ地球に戻るのも手間かと思って宿を取りました。魔力使うしね。

 ちなみに夕食はシュラスコみたいなでっかいお肉の串焼きをそのままバンッと出されたのと、野菜がとろっとろに煮込まれたスープ、そして細長い感じのパンだった。飲み物は薄いのに渋いという不思議な味のワイン。

 クリスと二人、お腹いっぱい食べて(おれは飲み物オンリーでも良いんだけど怪しまれるので)ベッドで……と思ったんだけど、


「疲れたから嫌」


 どうやら異世界に転移するときにはしゃぎ過ぎたらしく、断られてしまった。

 しょうがないので普通に寝ることにする。といってもクリスは寝ているときに抱きつく癖があるらしく、おれは抱き枕として一夜を過ごすこととなる。

 うーん、素晴らしい香りともちっと柔らかいクリスの身体に包まれると魔力がじわじわ回復していくぜ。


 スッキリ起きて朝。

 井戸で顔洗ったりして身なりを整えると、軽くサラダを摘まんで外出する。

 すでに必要なものは全部買ってあるし、最後の鎧は午後とのことだったので用があるわけではないんだけれども暇なのだ。

 物見遊山(ものみゆさん)に朝市にでも、とクリスがデートに誘ってくれたのでホイホイついていくことにする。


「ふおぉぉ! 野菜が売ってる!」


 マルシェというのだろうか。屋台のようなところにぎっしりと積まれた野菜。


「おお!? 大道芸?」


 あまり一般的ではないタイプの魔法を使った見世物らしい。


「あれ……食べるの……? 食べれるの?」


 おれを丸のみに出来そうな蛇型モンスターの頭が飾られた謎の串焼き屋台。食材ですか? 飾りですか?

 もうテンションはち切れそうなくらい面白いものが多くて、クリスを引っ張りながらあちこちを覗き込んでいる。噴水が設置された広場を中心に多くの出店があり、くるくる回ってるだけでも楽しいのだ。

 昼に差し掛かろうかというときに、噴水前にちょっとした台みたいなのが作られた。

 わくわくしながらそれを見てると、クリスから微妙な視線を感じる。


「興味あるの?」

「ある! 何だか全然分かんないけど、すごく興味ある!」

「あれ、奴隷市(どれいいち)だぞ」


 奴隷市!? 奴隷ってそんな気軽に売買すんの!?

 イメージ的には薄暗い牢屋みたいな建物に鎖で繋がれた裸の人間たち、そして案内役の奴隷商は胡散臭い笑顔を張り付けたぶよっぶよに太ったじじい、って感じなんだけど。

 こんな青空の下で大っぴらにやるものなんだろうか。


「あそこで売られるのは奴隷商で買い手がつかなそうな奴隷たちだ」


 クリスが話してくれたのは、要するに奴隷にも需要があるということだった。犯罪者とその係累、あるいは借金額が大きくなりすぎた者、敗戦国の者などが奴隷になるのだが、男は戦闘や重労働に就く。

 女は娼館のスタッフだったり傭兵団の飯炊女、見目が良ければどこかの貴族の愛人となることもある。

 しかし、そういった大きな需要が見込めない者もいる。

 老人や子供、そして傷病者だ。

 老人の場合はそもそも奴隷にされることがほとんどない。将来性を考えると奴隷にする手間や面倒をみる手間が掛かるだけでマイナスが大きくなってしまうからだ。

 傷病者も同様だ。

 そうすると必然、将来性はあるもののまだ役には立たない子供が多くなるとのことだった。

 話を聞いているだけでげんなりしてきた。

 子供を売り買いするってどういうことだよ。

 見るのやめてご飯食べに行こうとするが、すでに時遅く、完成した台の上で奴隷商がぺらぺらとまくし立てていた。

 が。


「大丈夫。だいたい買い手が見つかるから」


 おれの表情を察したのか、クリスが頭を撫でてくれた。

 将来性がある、ずっと仕えられる、という点で子供はそれなりのところに売れるらしい。従業員の多い商店だったり、多くの召使いを抱える貴族だったり、鍛冶なんかの技術職の助手になることもあるらしい。

 それでも売れなければ戦場か鉱山に送られることになるようだけれど、そんなことは滅多にないのだとか。

 クリスを勇者に祭り上げた聖教でも何人かは買われるらしく、クリスの知り合いにも奴隷の子がいたらしい。

 身なりの良い夫婦や神父らしき老人などがやいのやいのと参加し、子供たちが次々に売られていく。


「……思ったよりは、マシかも?」


 買われていく子供たちも、それほど酷い表情をしているわけではない。

 中には商人らしき男に買われたのが希望通りだったのか、快哉を叫ぶ子までいた。

 よく考えたら江戸とかであった丁稚奉公(でっちぼうこう)も住み込みで給与はほとんどなし、とか聞いたことあるし、おれが思っていたほど酷いことにはならないのか。

 ほっとしながら子供たちが引き取られていくのを眺めていると、最後の一人で声が止まる。

 視線の先にいるのはロップイヤーのような下に下がったうさ耳を生やした、おれより年下に見える女の子だった。

 どういう訳か、誰の声も挙がらない。


「コニーリョ族か。魔族側に与した獣人族で、それ以外にも悪いイメージが強い種族だ」


 クリスの端的な説明によれば、コニーリョは力が弱く、元々立場の弱い獣人だったらしい。彼らの仕事は溝浚(どぶさら)いや下水の掃除などばかり。

 随分前の話になるが、そんなコニーリョ族が原因と思われる伝染病が蔓延し、大きな都市が壊滅状態になったらしい。

 そこから先はさらに待遇が悪くなり、結局彼らは魔族側に与することとなったようだ。

 この世界の下水はあまり発達していない。きっと衛生状態も最悪なんだろう。そんな場所での仕事を強いられた挙句、伝染病の責を押し付けられたとなれば、魔族側につくのも分からんでもない。

 まぁこれはおれが戦争やら疫病の被害を受けてない第三者で、衛生なんかに関してこの世界の人たちよりかは知識があるから言えることなんだけれど。

 怒りにも似た感情に心が揺れる中、見物客からの言葉がおれの耳朶に刺さる。


「汚らわしい。わざわざ市場に持ってくるなよ」「さっさと鉱山なり戦場なりに送ればいいのに」「流石にちょっとあれはなぁ」「魔領に投げ込んでやれば良いんだ」「レアイダ病の原因ってあいつ等だったんだろ?」「当家の名に泥を塗るわけにはいかんな」「逃げられたら魔族の(はら)になっちまう。さっさと殺せよ」「商売はイメージ重視だからな。近づかれただけでマイナスになっちまう」


 台の上で晒しものになっている女の子は、白から茶色のグラデーションがかった大きなうさ耳をぺたんと降ろして俯いていた。俺の目には、彼女の頬を光るものが(つた)っているのが見えた。

 見えてしまった。

 だから、


「買う! おれが買うぞ!」


 怒鳴るように宣言し、手を挙げた。


「大の大人が揃いもそろって小さな女の子相手に何やってんだ! 伝染病? 魔族? この子自身が何かしたのか!?」


 クリスに袖を引かれるけれど、おれは止まらない。


「小さな女の子一人を見殺しにして、お前らは自分の家族に立派なことしたって、胸張って言えるのか!?」

「あまね」

「伝染病に罹りたくて罹る人間がいるのか!? この子自身が病気だって証拠でもあるのか!?」


 あ。

 あれ? またやっちゃった系?


「ええと、その、だから……うちで引き取って、清潔にして、きちんと育てます、はい」


 好奇と驚異、そして若干の侮蔑や怒りの視線を感じて尻すぼみになってしまった。変な空気が広場を支配するけれど、台に昇っていた奴隷商が助け船を出してくれた。


「それでは! 勇敢で純粋なお嬢さんがお買い上げになるそうです! ぜひともこのコニーリョ族も、お嬢さんのように清廉な人格者に育ててください! 皆様もぜひ、ぜひとも高潔なお嬢さんに拍手をお願いします!」


 いい話にまとめようとしているのか、それともおれを揶揄しているのかはわからないけれど、とてつもない数の好奇の視線と、何となくの拍手がパラパラと起こったところでおれはそそくさと奴隷商の元へと向かうのであった。

 せめて道連れにしようとクリスの腕を引っ張りながら。


ストックが切れるまでは毎日最低一話ずつ更新します!

更新無かったら予約ミスってんなコイツ、くらいの生温かい目で見てやってください。


ブクマや評価等を頂けますと作者のモチベーションと血圧が上がりますので、ぜひともお願いします。


それでは次回もお楽しみに!

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