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Episode5:アラスカを覆う暗雲

「ありがとう、助かったわ。ウォーカー大統領が私の訴えを気に掛けてくれて、大統領府からこうして人を寄こしてくれたという事実があれば、あいつらもこれ以上無体な真似は出来ないでしょうから」


 ルース議員の自宅の応接間。低いテーブルを挟んで向かい合って腰掛けてから、ルース議員……エマがホッと一息ついた様子で力を抜いた。そして改めて互いに自己紹介を交わす。


 見るからに凄腕のアダムとリキョウは分かるが、まだ年若い女性であるビアンカがしかも一行のリーダーのような形でいる事に驚いた様子のエマだったが、


「あなたも何か凄い力を持っていたりするのよね? まあウォーカー大統領が間違った人を寄こすはずがないから私もあなたを信用するわ」


「ど、どうも……」


 特にそれ以上の疑問を抱く事無く握手に応じるエマに、却ってビアンカの方が罪悪感を感じてしまう。確かに巧妙に正体を隠している悪魔達を誘き寄せられるという意味では『凄い力』なのかも知れないが…… 


 しかしどうもエマがダイアンに心酔しているというのは事実のようだ。ダイアンとしてはこういう議員をもっと増やしたい所だろう。



「それで……彼等は実際に何の用事であなたの元を訪れていたのでしょうか?」


 ビアンカが聞くとエマは顔をしかめた。


「CIAはウォーカー大統領の弱みを探そうと躍起になってるのよ。全く……どこの国の機関なんだか。私が今回あなた達を呼んだ入札法案の件で、ロシアの介入が疑われるかもって懸念を伝えていたのが漏れたみたい。それで独自の調査(・・・・・)をするべく私の所にも来たって訳。でも今のCIAはこの国を中国やロシアに売り渡したがってる自由党の手先みたいなものだから信用できないわ。案の定、私に大統領への訴えを取り下げろって脅しにきたのよ。でもそこの丁度あなた達が来てくれた事でもうその脅しに意味がないと解って引き下がったけど」


「そ、そうだったんですね……」


 流石に連邦の上院議員だけあってその辺りの内部的な事情にも通じているようだ。リキョウが咳払いした。


「まあ彼等に関してはとりあえず置いておきましょう。ルース議員、我々をここに呼び寄せた本題(・・)に入りませんか?」


「あ……ええ、そうね」


 エマも居住まいを正す。元々そちらが本題のはずだ。



「エネルギーの採掘権に外国企業が参入できるようになるとか?」


「そうなのよ。既にアラスカ州議会の下院を通過してしまって、上院の方も何だか怪しい雰囲気なの。このままだとその法案が可決されるかもって危機感を抱いた州内のエネルギー関連会社の役員や株主たちが合同で陳情してきてね。私も当選にあたって彼等の世話にはなってるし、私自身もこの法案には大いに疑問や不審を感じたから、大統領に調べてもらえないか頼んでいたのよ」


 そこまでは今回の案件の舞台背景のようなものだ。


「今回の件にロシアが絡んでいるかも知れないという懸念については?」


「一目瞭然よ。入札にロシアの企業が参加している場合、そのロシア企業に対しては入札額の30%までは補助金(・・・)が出るという内容だから」


「な……」


 ビアンカは絶句した。確かに余りにもあからさまだ。そんな一方的な優遇措置では不満が続出しそうなものだが……


「その代わりアメリカの企業もシベリアでのエネルギー採掘権への入札を認めるという互助的な内容になっているからね。一応(・・)は」


「……ロシアは民主化したと言いつつ、実態は未だに大統領が強大な権限を持った独裁国家に等しい。議会や自治体政府などあってないような物だ。そんな国で例え採掘権を落札した所で、大統領の鶴の一声で難癖をつけていとも容易く採掘権を没収したりできるだろう」


 アダムが低い声で唸る。エマは顔を顰めながら同意した。


「そういう事。名目上は互助的な内容の法案だけど、実際には得をするのは一方的にロシア側という訳よ。民主主義はこういう時は辛いわね」



「…………」


 それはアトランタにおける中国の介入実態を知った時にも感じた事であった。中国にしてもロシアにしても強烈なトップダウン型国家で、政府の強権を武器にどんな遠大な国家戦略も自由自在だ。

 

 そういった国ぐるみで仕掛けてくる謀略や工作に対して、民主主義は余りにも脆弱に思えた。企業や議会が強い権限を持っているから、大統領がどんな素晴らしい国家戦略を立てたとしても議会に反対されたらそれで終わりだ。ましてやアメリカは州の自治が強く、今回のように州議会が連邦政府の意思を無視した決定を下してしまう事もできる。


 企業も目先の利益だけを追い求めた拝金主義で、平気で国家を裏切りかねない。


 無論、逆に暴君のような大統領や無能極まる大統領が現れたとしても、三権分立によってその被害を最小限に抑制できるという強みもあるのだが。


 いずれにせよ少なくともビアンカが遭遇しているようなケース、状況においては、民主主義は悪い方向へと働いていた。


 だが強権的な独裁国家を是とする気はビアンカには無かったし、民主主義は人々が長い歴史を掛けて勝ち取ってきた民衆の自由の象徴だ。自由という事はこれ程に脆弱な物なのかと日々思い知らされるビアンカだが、それでも何としてもその脆弱な自由社会を守りたかった。


 ビアンカは気を引き締め直した。



「……ルース議員。この危機を防ぐ為に私達が出来る事は何でしょうか。我々はここで何をすべきでしょうか」


 ビアンカの真剣な気持ちを感じ取ったのか、エマも表情を改める。


「そうね。やっぱりまずは州議会ね。なぜこんな法案を通したのか、または可決しようとしているのか。私も何人かの州議員に話を聞いてみたんだけど、皆この話題を露骨に避けて怖れているようにさえ見えたわ。確実に何か裏がある。私が大統領に訴えを上げたのはそれも理由だったのよ」


「なるほど……」


 やはり一番の大元はこの法案を可決しようとしているアラスカ州議会にあるようだ。州議員たちの身辺から当たっていくのが良さそうだ。


「しかしアラスカは下院も上院も国民党が過半数を占めているはずですね? そしてこのような法案を通す為には、過半数どころかそれぞれの議会の3分の2の賛成が必要なはず。となると自由党の議員たちは勿論ですが、国民党の議員たちにも多数の賛成者がいるという事になりますね。……アルマン氏の護符で悪魔の侵害からは保護されているはずの国民党の議員たちに」


「……!」


 リキョウの言葉でビアンカもその不審点に気付いた。まさにこのようにカバールの悪魔達に超常の力で議会や政府を掌握されないように、ダイアンは腕利きの退魔師であったアルマンをヴァチカンから招聘して、少なくとも国民党の要人には彼が作った護符を渡してあるはずであった。


 それを鑑みると……議員たちの背後にいるのは悪魔ではない(・・・・・・)可能性が高い。


「……まさかロシアの仕業?」


「それはまだ何とも。しかしその可能性も考慮して調べた方が良いかもしれません」


 早速ロシアが関与しているかもしれない可能性が出てきた。それに先程会ったCIAのマチルダの事も気にかかる。このタイミングでエマに脅しをかけていた事からも今回の件に無関係とは思えなかった。



「ベーコン知事はこの件に関しては何と?」


 アダムがアラスカ州知事の動向について確認するが、エマは皮肉気に唇を歪めてかぶりを振った。


「彼に何か期待しても無駄よ。ジュノーの郊外に建てた自分の『宮殿』に引きこもって出てこないから。彼が関心があるのはその『宮殿』内の温室にある植物園とオンラインゲームだけよ。まあ変に邪魔したり横槍入れてくる心配がない分むしろマシかも知れないわね」


 どうやら州知事は全く当てにならず、この件に関与もしていない様子だ。それで良く知事に当選できたものだと思うが、エマによるとお飾り(・・・)のトップを据えておく事で得をする連中がいるらしく、その辺りの政治的思惑によって知事になったようだ。



「なるほど、ではやはり州議会から調べてみたいと思いますが、ルース議員の方で何かアドバイスなどはありますか?」


「私はその辺は素人だけど……調べるならやはり州上院ね。下院はもう可決されてしまったから、今後もし何か工作があるなら、もしくは既に工作が進められているなら確実に上院の議員たちが対象になるはずよ。特に上院議長のイザベラ・ブルーメンタールが要注意ね。上院の国民党を纏めてるのは彼女だし、腹黒い所はあっても愛国心は強い女よ。彼女にこんな法案を賛成させようと思ったら確実に工作(・・)が必要になるでしょうから」


 お飾りの知事を据えたのもこのイザベラ議長の意思による所が大きかったらしい。そんな人物だがその仕事ぶりはエマも評価しているようだった。幸い彼女の自宅もこのアンカレジにあるので身辺調査はしやすそうだ。



 方針が決まったビアンカ達は顔を見合わせると椅子から立ち上がった。そして手を差し出す。


「ありがとうございました、ルース議員。大変参考になりました。伺ったお話を参考に調査を進めていきたいと思います」


「宜しく頼むわ。そして……可能ならこのアラスカを、ロシアやカバールの手から守って頂戴。それが出来たなら、私は今後何があってもウォーカー大統領に付いて行く事を誓うわ」


「お約束します。絶対に奴等の思い通りにはさせません」


 エマも立ち上がって3人と握手を交わした。ビアンカは彼女の手を握り返し、力強く請け負うのであった。


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