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Episode10:倍速機動モード



『今ココデ死ヌ貴様ガ知ル必要ハナイ!』


 だがビアンカがそんな事を考えている間にも事態は進む。ブロック……ルルゲーデがその蟹の口から巨大な泡玉をいくつも吐き出してきた。泡は不規則な軌道を描きながらまるでアダムを取り囲むように迫る。


 だが一つ一つの泡の動きは遅い。アダムなら余裕で回避できるはずだ。彼が回避しつつルルゲーデに反撃を繰り出そうとすると……


「……!!」


 まるで挟撃するようにスキアタンが残っている3本の触腕で攻撃してくる。触腕は鞭のような速さでありながら、巧みにルルゲーデの泡の間を縫うようにアダムに襲い掛かる。


「ちぃ……!」


 アダムが初めて舌打ちして咄嗟に触腕を回避しようとするが、そうなると当然周囲に漂う泡玉に接触してしまう事になり……


「ぐぬっ!」


「ア、アダム……!?」


 接触した泡玉は爆ぜて強酸を撒き散らす。咄嗟に身を引いた事で直撃は避けたものの、その飛沫までは避けきれずにアダムの皮膚を焼く。彼の顔が若干だが苦痛に歪む。これも初めての事であった。



 その様にビアンカは格子に取り縋って悲鳴を上げる。そして再び自らを閉じ込める『檻』の格子を蹴り付けるが、無情にも『檻』は小動(こゆるぎ)もしなかった。


「くそ……!」


 彼女は悪態を吐いて再び格子に取り縋る。彼女の見ている前で、2体の中級悪魔の連携によってアダムが一方的に傷ついていく。


 アダムが泡玉に対処しようとするとスキアタンの触腕の攻撃を受ける。触腕に対処しようとすれば周囲を囲むルルゲーデの泡玉の餌食になる。彼もまた泡の檻に閉じ込められているようなものだった。そしてその檻の外から触腕によって一方的に攻撃され続けている。


 このままではアダムが危険だ。だがビアンカはそれに加勢する事も出来ずに『檻』の中から見守っているしかないのだ。焦燥ともどかしさに呻吟するビアンカ。



『クハハ……我々ガ罠ヲ張ッテイル事ニ気付カナカッタ貴様ノ負ケヨ』


『安心シロ。『天使ノ心臓』ハ、我々ガ丁重ニ主ノ元ニ献上シテヤルサ』


 2体の悪魔が傷ついて膝を着くアダムの姿に哄笑する。だがその当のアダムは追い詰められているはずなのに妙に静かな様子であった。



「ふぅ……仕方がない。負担が大きいので余りやりたくはなかったが……『緊急用倍速機動モード』に移行する」



 アダムが嘆息しつつそう宣言すると、彼の目が赤く光り……いや、目だけではなく全身(・・)が淡く赤い光に包まれた。まるで彼の身体全体から赤い光の波動が噴き上がっているかのような不可思議な現象であった。


『ナ、何ダ、ソレハ……?』


『構ウナ、虚仮脅シダ! 早ク止メヲ刺セ!』


 ルルゲーデに促されたスキアタンが今度こそアダムを仕留めるべく、3本の触手を同時に撓らせる。勿論周囲には相変わらずルルゲーデの泡の包囲が健在だ。3本の触手の同時攻撃を受けたら今度こそアダムが殺される。その光景を想像してビアンカは思わず目を閉じた。だが……


「ふっ!」


 アダムがその場から消えた(・・・)。ビアンカだけでなく悪魔達も目を疑う。


『ナ、何……ドコニ……?』


『……ッ!? 後ロダ!』


 スキアタンが警告した時には、ルルゲーデの後ろにアダムの姿があった。まるで瞬間移動したかと見紛うような速さであった。


『ヌガ!? 貴様……!』


 ルルゲーデは慌てて向き直ると、その巨大な鋏でアダムを挟み込もうと突き出してくる。だがアダムは片手だけでその鋏を軽々と受け止めてしまった。


『……!』


 体格で勝るルルゲーデがどんなに力を込めても鋏が動かない。そこにアダムが右手のブレードを一閃。硬そうな甲殻に覆われたルルゲーデの腕をあっさりと斬り落とした。


『ウガアァァァァ!! 貴様ァァァッ!!』


 腕を失ったルルゲーデは絶叫しながらも口から大量の泡を吐き付けてくる。だが再びアダムの姿が消えた。


『……!』


 3メートル近い体躯のルルゲーデの更に頭上を影が覆う。その高さまで一瞬で跳び上がったアダムは振りかぶったブレードをカニ悪魔の脳天に振り下ろした。強固な甲殻に覆われているカニの頭が、まるでナイフを入れられたケーキのスポンジのように抵抗なく斬断された。


 頭部を一刀両断されたルルゲーデは、脳漿のような体液をぶち撒けながら息絶えた。 



『バ、化ケ物メ……!』


 スキアタンが狂ったように触腕を振り回して攻撃してくるが、アダムは文字通り目にも留まらぬ速さでブレードを走らせ、それらの触腕を全て切断してしまう。


『ヒ、ヒィィッ!!』


 攻撃手段を失ったスキアタンが踵を返して逃げようとするが、当然アダムがそれを逃がすはずがない。左腕の光線銃を展開させると、逃げるスキアタンの背中に向けて連続で発射した。通常時(・・・)よりも太い、赤みがかった光線が何条も発射されて、スキアタンの胴体にいくつもの大きな風穴を穿った。


『ギウォォォ……』


 奇怪な呻き声を上げながらスキアタンも床に倒れ伏す。そしてルルゲーデと共にその死体が消滅していく。ビアンカは信じられないような思いでその光景を見つめていた。 




 2体の中級悪魔を容易く屠ったアダムが、『檻』に閉じ込められたままのビアンカの方に視線を向ける。


「ア、アダム……?」


「すまん、ビアンカ。今、助ける」


 圧倒的な強さで悪魔達を殲滅したアダムが、その割には余裕の無さそうな口調と表情で『檻』まで近付くとビアンカに下がっているように手振りで伝える。彼女が慌てて『檻』の反対側の縁まで下がると、アダムは骨の格子を断ち切るようにブレードを薙ぎ払う。


 するとあれだけ強固であった『檻』の格子があっさりと切断されて地面に転がった。そして『檻』自体も死んだ悪魔と同じで空気に溶け込むように消滅していく。



「ぬぅ……」


「アダム……!?」


 『檻』を消滅させると、アダムの身体から噴き上がっていた赤い光が収束する。それと同時に彼が苦し気に呻いてその場に膝を着いてしまう。『檻』が消滅して自由になったビアンカは慌てて彼に駆け寄る。


「……『緊急用倍速機動モード』は文字通り緊急時に使う物で、使用後の身体への負担がかなり大きいのが難点だ。使えば必ず敵を殲滅できるという確信が無ければ使用できん諸刃の剣だ」


「そ、そうなのね」


 あれほどの力だ。何の反動や代償も無しに使えるものではないだろう。事実今のアダムは歩く事も辛そうな様子であった。


「とりあえず他に敵はいないみたいだし、一旦ホテルに戻りましょう。立てる?」


「ああ、なんとかな……」


 悪魔の結界が解けたので、そう間を置かずここにも人がやって来るだろう。今の内にこの場からなるべく離れておきたい。ビアンカは辛そうな様子のアダムに肩を貸しながら、可能な限り急いでスタジアムを後にするのだった。

 

次回はEpisode11:最後の容疑者

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