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01

 曾祖母はその季節になると、駅に行きたいという。

 夏の一番暑い、八月の真ん中あたりに。






 駅は昔とすっかり様変わりした。

 さすがに、JRの主要線なのだから、ということもあるだろうが、片田舎の駅ですら、この変わりようだ。

 外観だけみると、まるで氷上にすらりと立つスケーターを思わせるような、粋なたたずまいだった。


 以前ならば、そう、黒々とずんぐりした二階建てが目立つ駅舎の頃には、車いすでホームに入るとなるといちいち駅に電話連絡を入れて、何時何分、車いすで駅を利用します、とお伺いを立てなければならなかった。

 電車に乗るとなると、さらに到着駅にまで連絡が必要だった。


 今ではそんなことはない。駅舎は昨年暮れにすっかりリニューアルされ、おしゃれなエレベータが改札口の脇までついている。そして、改札からホームまでにも、短いながらしっかりとしたエレベータが整備されている。


 ―― 事前連絡ですか? いえ特に必要ありません。電車にお乗りになる場合も特に。

 駅員に一声かけていただければ、もちろん何かしらのお手伝いはさせていただきます。


 若い駅員の判で押したような応答だったが、菜々美はほっと胸をなでおろす。

 またあのおばあちゃんですか? と言われずに済んだからだ。

 車いすで駅に入るのはすでに五年以上前からで、以前はいちいち名前を確認され、名前を告げるたびに電話の向こうから嘆息が聞こえてくるような気がしたのだが。


 駅員がなんと言おうと、エレベータがあろうとなかろうと、曾祖母にそれだけの情報はまったく不要だ。

 彼女はただ、駅のホームに行きたいだけなのだから。

 そしてそこで、ずっと過去になったその日、見送ったはずの長男を、また、見送るためにそこに立つだけなのだから。



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