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美受肉してしまった! ~俺の異世界魔法少女伝~  作者: 於田縫紀
第1章 俺達、街へ行く

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第8話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドは基本的に辺境や田舎程大きくて賑わっている。

 都会や大都市は軍だの衛士だのが頑張っているから活躍の場があまりない。

 またそういった場所は開けているので魔獣だの魔物だのが出る事もあまりない。

 要人護衛や商隊護衛なんてのも大体既に固定的な雇用関係が出来ている。

 つまりそういった人的インフラ的存在が不足していて、かつ魔獣や魔物が出るような場所でしか冒険者ギルドなんてのは存在できない訳だ。


 なお冒険者ギルドそのものは立派な国営機関。

 各冒険者ギルドの支区長(マスター)は軍を引退した百卒長(セントリオ)クラスか同じく引退したB級以上の冒険者あたりが務めている。

 その程度の力が無いと運営できないからだ。

 つまりはまあ、ならず者等を金と腕力で手懐けて足りないインフラ代わりをしていると思えばいい。

 とは俺の記憶にある冒険者ギルドだ。

 以前の俺はこういった場所とは縁が無かったようなので実態はよく知らない。


 さて、実際はどんなところから。

 そう思いながら地図の通り歩くとスティヴァレ王国の国章と冒険者ギルドの紋章が入ったそこそこ大きな建物があった。

 これだな。

 開けっぱなしの扉をくぐる。


 うむ、思ったより事務的な部屋だった。

 造りとしては衛視庁だの国王庁だのといった役所に似ている。

 カウンターがいくつかあって掲示板があって待合室風のベンチがある。

 そんな建物だ。

 タチの悪い冒険者がたむろっているとかそんな事は無い。

 考えて見れば今の時間は11時過ぎ。

 その日暮らしの冒険者の皆さんは今頃魔獣狩りだの依頼仕事だのに出向いているのだろう。

 あるいは仕事にあぶれて安酒屋で飲んだくれているか。

 こんなお役所みたいな処にいないのも当然だ。


「こんにちは。仕事の依頼ですか」

 一見二十歳くらいの受付嬢が俺を見て声をかけてきた。

「冒険者の新規登録をお願いしたいのですがこちらで宜しいでしょうか」

 とりあえずこの見た目にふさわしい口調で尋ねてみる。

「ええ、こちらです。3番の受付ブースにお願いしますね」

 お、このお姉ちゃん、俺を見た目で判断しなかったな。

 あるいは見た目で判断しても態度には出さないのか。

 思った以上に質がいい職員のようだ。

 

 そんな訳で3番のブースへ。

 他の係員が来るかと思ったらさっきの受付嬢がこっちへやってきた。

 少数精鋭なのか人手不足なのか……ってことではない模様。

 事務所内には他に何人も職員がいるし。

 単に下っ端だから優先的に受け持っているのかな。

 そう思った瞬間、遅ればせながら俺は気づいた。

 この受付嬢、見た目通りの年齢じゃない。

 そう言っても俺みたいに若返った訳じゃない。

 この受付嬢、長寿族(エルフ)だ。

 特徴的な耳を魔法で隠している。


「それではこの申請書に必要事項を記載して下さいな。文字が書けなければ代筆しますがどうされますか」

「いえ、大丈夫です」

 動揺を隠しつつ俺はそう答えて申請書を書き始める。

 典型的な長寿族(エルフ)なんて王都ラツィオでも普通に目にしない。

 人と関わらない種族だからだというのもあるがそれだけではない。

 普通の人間の前に出ている時は大体特徴を隠しているから気づけないのだ。

 魔法なり手術なり幻惑だので。

 長寿族(エルフ)の魔法や技術はかなり進んでいるのでよほどの事が無い限り見抜く事は出来ないのだ。

 

 さて、この受付嬢の場合はどの程度の腕なのだろう。

 俺が何とか見抜ける程度の魔法を使用しているからといって、この受付嬢の腕が劣っているとは限らない。

 わざとわかる者にはわかる程度に魔法を調整している可能性が高いからだ。

 注意した方がいい人間、今日は2度目だなと思ってため息をつく。

 ちなみに1番目は勿論あの服屋だ。


「こちらで宜しいでしょうか」

 名前欄にジョアンナ、職業は魔法使い、年齢は取り敢えず15歳。

 出身地はフィアンの村としておいた。

 どれも本当ではないが正しい名前も年齢も出身もわからないので仕方無い。

 まあ何とかなるだろう。


「それではこの精霊石に左手を載せて下さい」

 これは素行証明だ。

 強盗だの殺人だのある程度以上の犯罪を犯しているとこの精霊石が反応する。

 そうなったら登録中止で最悪の場合は衛視庁直行という訳だ。

 俺自身の過去の記憶はないけれどまあ大丈夫だろう。

 そう思って手を載せてみる。

 セーフだった。


「わかりました。ジョアンナさん、15歳、魔法使いで登録させていただきますね。ところで冒険者ギルドの規則についての説明は必要でしょうか」

「大丈夫です」

 実態はともかく規則は一応知っている。

「それでは通常はAからEまであるランクのうちの、Eランクからスタートになります。ただし受付ギルドで認めた場合はDランクからスタートする事が可能です。

 ところでジョアンナさん、私に対して質問はありますか」


 あっ、来たなと思う。

 この質問というのがきっと曲者だ。

 この受付嬢に見える女性は『私に対して質問』と確かに言った。

 しかもランクの話をした後だ。

 この流れはつまり……


「わかる程度の魔法にしているのはわざとなんですね」

 対象をぼやかしつつあえて質問では無く確定形で言わせて貰う。

「もう少し具体的に言っていただけると助かりますわ」

 それならば。

「お姉さん、耳が隠れる髪型ではなく耳が出るショートにしているのもわざとなんですね」


 彼女は頷いた。

「Dランクからのスタートで宜しいですね」

「ありがとうございます」

 彼女は微笑む。

「こちらこそ。即戦力になる方に来ていただけたようで助かりますわ。すぐにCクラス以上にあがられるとは思いますけれど。

 これからも当ギルドを宜しくお願い致しますね」


 やはりわざと魔法をわかるようにしていた模様だ。

 まったく油断も隙も無い。

 思わずため息をつく。

「どうされました。ジョアンナさん」

「この街は油断も隙もない人が多いのでしょうか。まだ来たばかりなのですけれど」

 思わず言ってしまう。


「他にはどなたにお会いしましたの?」

「『アメリア洋服店』のお姉さんです」

 あ、知っているらしい。

 一見受付嬢が苦笑した。

「アメリアさんでしたら仕方無いですわ。大分丸くなったのですが今でもわかる方にはわかるようですし。

 アメリアさん以外にも色々あって中央から来た人は何人かおります。でも本当に怖い方はそう何人もいませんしそう表にも出ていませんからご心配なく。何人もいていただいた方が私としては仕事が助かるのですけれどね。

 申し遅れましたが私、当冒険者ギルドの支区長マスターを務めておりますラシアと申します」

 やはり彼女がここのギルドの支区長マスターだったか。

 何となく途中からそんな予感はしていたのだけれど。

 取り敢えず俺も頭を下げておく。

「こちらこそ宜しくお願いします」


 そう言ってふと疑問を感じたので聞いてみた。

「もしも魔法使いでは無く戦士が相手だった場合、どうするんですか」

 今の見分け方は魔法使いはともかく剣士や戦士相手だと使えないだろう。

「私と戦っていただきますわ。こう見えても私、実は剣の方が自信があるんです」

 やっぱり怖い人だ間違いない。

 この人にも取り敢えず逆らわないようにしておこうと思う。

 まあ冒険者ギルドの支区長マスターなんて怖い人なのも逆らえない相手なのも当たり前なのだけれど。

 なんだかなあ。

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