第21話 指名依頼
今日は週に4日のお休みの日。
休みが多すぎると思わないでくれ。
俺達があまり真面目に働くとこの辺の魔獣が全滅しかねないのだ。
既に狼魔獣の姿を見かけなくなったという事で、一般市民の皆様からは喜ばれ、冒険者の皆さんからは煙たがられている。
だが面と向かって俺に言ってくるような度胸のある奴はいない。
なので俺達はあくまで俺達の都合で働き具合を決めている。
さて、俺達が泊まっている宿屋『黄金の鶏亭』は飯が美味い。
なので1週間を過ぎてもついつい滞在したままだったりする。
本当は家を借りたり土地を借りたりして住んだ方が今後の事を考えたらいいに決まっている。
でも飯がうまいのでついつい居着いてしまっている訳だ。
無論週ごとにちゃんと宿代は前払いしているけれど。
今日はこの後久しぶりに石鹸やトリートメントを作ろうかな。
そう思いつつ3人で朝飯を食べている時だった。
正確にはぎりぎり食べ終わりそうな時というべきか。
「すみません。冒険ギルドの支区長から緊急です。ここに泊まっているジョアンナさん達を喚び出していただけますか」
そんな聞き覚えのある声がカウンターの方から聞こえた。
見ると毎度お馴染みカルミーネ君。
俺達とお揃いの強化衣装とショールを着て見た目には完全に女の子いや男の娘だ。
「おーいカルミーネ、こっちこっち」
食堂側から手を振ってカルミーネ君を呼ぶ。
「あ、みんな、大変です」
嫌な予感がしたのでささっと朝食の残りのパンを口に押し込む。
行儀が悪いが食べそびれるよりはいい。
「どうしたの?」
「支区長から緊急依頼です。タイカンの村付近にゴブリンが出たそうです。襲撃が近い可能性があるので一番足が速い冒険者として指名依頼が入りました。これが指名依頼指定状です。受けてくれるなら直接現場に向かってくださいとの事です」
「行く!」
カタリナが真っ先に立ち上がった。
続いてサリナも。
「行きましょう。何かあってからでは遅いですから」
かつて村が襲われた時の事がやっぱり残っているようだ。
「わかったわ。行きましょう」
仕事道具の例の衣装は基本的に皆ポシェットに入れて常時持ち歩いている。
ちょっと恥ずかしいが急ぐから仕方ない。
「メタモルフォーゼでメイクアップ! 水色の風!」
飛行するために衣装を装着。
思い切り注目を集めたがまあ仕方ない。
サービスタイムと割り切ろう。
それに魅せる事も実は快感になってきつつあるし。
宿の外へと出る。
「ゆんゆんやんやん風の精たん どうかお空を飛ばせてね!」
この呪文はカタリナのチェック入り最新版だ。
時間を少しでも節約するため宿屋の前から木戸まで飛行、衛士に依頼書を提示。
「こんな訳で先を急ぎます。後程冒険者ギルドへ連絡をお願いします」
「わかりました。交代時に連絡させていただきます」
「ありがとうございます。それではいってきます」
タイカンの村は東側に10離程の場所。
フィアンの村と同時期に開拓された開拓村だ。
「急ぐよ。ゆんゆんやんやん風の精たん どうか速く速くお空を飛ばせてね!」
いつも以上の速さで東へと飛ぶ。
空中で俺は指名依頼指定状を確認。
ついでに内容説明を兼ねて読み上げる。
「内容をざっと読むから皆聞いていてね。
依頼ランクはC、場所はタイカンの村及びその近辺。
昨日から村周辺で多数のゴブリンを確認。近いうちに村襲撃の恐れがあると判断したので早急に付近を捜索し、ゴブリンを掃討せよとの事よ。
依頼達成条件はゴブリン20匹以上の討伐、または群れの長である大ゴブリン討伐、もし村が襲われた場合は防衛しゴブリン全部を撤退させることだって」
「間に合うかな」
「間に合わせるわ。それにゴブリンが動くのは主に午後夕方に近い時間から夜早い時間。だから今から行けば大丈夫な筈よ」
心配そうなサリナに俺はそう答える。
ゴブリンは基本的に遅寝遅起きタイプだ。
フィアンの村が襲われたのも確か午後3時過ぎ頃。
そしてこの速度で飛べば3半時間程度で村に着くはずだ。
今朝依頼が届いたならまだ襲撃にまでは至っていない筈。
そう思いたい。
なお指名依頼状とは依頼者に持ち主が『ギルドの支区長以上から指定され、直接依頼を受けた』事を示すための証明書だ。
別に無くとも仕事は出来るが、これがあった方が依頼者にスムーズに接触出来るし信用もされ易い。
特に俺達のパーティはどう見ても強そうに見えないからあると大変有り難い。
実際女子供ばかりだからな。
最年長に見える俺ですら十代半ば程度の容姿で胸も……
いやまだまだ身体は若いしこれから成長するはずだ、きっと。
毎日揉めば成長するかな。
ならカルミーネ君にやらせようか。
すごく恥ずかしそうな顔をするだろうが俺のお願いは断れまいひひひひひ……
あ、いかん、今はお仕事中だ!
楽しみは風呂場へとっておこう。
そう自分に言い聞かせる。
村が見えてきた。
「大丈夫そう」
「うん、僕もそう見える」
「まにあった」
木戸や木塀が破れていない。
ただちょっと木塀も木戸も貧弱に見える。
フィアンの村にあった物よりかなり落ちる感じだ。
この辺は山から多少遠いので、ちょうどいい木材なんかも貴重なのだろう。
山の方の木材は真っ直ぐ高く伸びて年数が経てば太くなる。
でもこの辺の森の木はあまり太くならないしすぐ曲がってしまうのだ。
成長が早いしよく燃えるから薪なんかには便利なのだけれども。
「捜索前にこの村の防護措置ももう少し固めた方がいいわね」
「僕もそう思う。この塀じゃ狼までは防げてもゴブリンだと破れそうだ」
「後で魔法で何とかしましょう」
「カタリナも手伝う」
「ありがとう。それじゃ取り敢えず村長に会って事情を聞いてから、色々やる事にしましょう」
演出効果を考えて、村の木戸のすぐ前で空中から降りる。
さっと警戒する見張り2人に指名依頼状を提示して説明。
「シデリアの冒険者ギルドから指名依頼を受けた『ふわふらたんぽこ』です。まずは村長さんにお会いしてお話を聞きたいと思いますが、どちらにお出ででしょうか」
このパーティ名、名乗るたびに恥ずかしいんだよな。
でも今変えるわけにはいかないけれど。
俺達の見かけはともかく、魔法で飛んできた事と指名依頼状とで見張り2人は信用してくれたようだ。
「私が案内しましょう。こちらです」
見張りの片方が案内してくれる事になった。
そんな訳で村の中でもそこそこ大きめの家へと案内される。
「失礼します。シデリアの冒険者ギルドから指名依頼を受けた冒険者パーティ、『ふわふわたんぽぽ』の皆さんをお連れしました」
あ、まずい。
「ふわふわたんぽぽ、じゃない。ふわふらたんぽこ!」
こだわるカタリナから訂正が入った。
「あ、すみません。『ふわふらたんぽこ』の皆さんをお連れしました」
見張りさんが素直な方でよかった。
俺はほっと胸をなで下ろす。
中は何人かで会議中のようだった。
見張りの台詞で全員がこっちを見る。
あ、視線が痛い。すごく痛い。
何せこの衣装だ。
しかも見かけはまさに女子供だし。
そう思ったのだが。
「ひょっとして貴方は先日フィアンの村を襲ったゴブリンを全滅させたという、あの魔法使い様ですか」
その事を知っている人がいたか。
ならば話が早い。
「ええ、私です」
考えてみればその事が知られていても不思議ではない。
ここもフィアンの村もシデリアを中心にした同じ開拓村だし。
「これがギルドからの指名依頼状になります」
村長らしき人が前に来て受け取り一読する。
「なるほど、署名も間違いないですな」
「それでは現在までの状況を説明致しましょう。どうぞ皆様おかけになって下さい」
俺達が依頼を受けた事に納得してくれたようだ。
その辺ちょっと心配していただけに有難い。
ただ俺もだけれど他3人はちょっと居心地悪そう。
村の偉いさんばかり集まっている感じだしな。
それならばだ。
「その前にちょっとうちの3人に仕事をさせたいので宜しいでしょうか。申し訳無いですがここの木塀や木戸はゴブリンへの防護としては少々弱いと感じます。ですので壕や土塀を作らせて少しでも防護を固めたいと思うのですがよろしいでしょうか」
「よろしいですか。出来るのであればむしろお願いしたい処です」
俺は自信ありげに頷く。
「大丈夫です。ただこの村には不案内なので、出来れば案内を1人つけていただけると助かります」
「わかりました。クレイト、頼めるか」
「わかりました」
よし、それじゃ一応指示をしておこう。
「それじゃ3人はクレイトさんに案内して貰って回りを強化して。基本的にカルミーネが穴を掘ってカタリナが水を出して壕にする感じで。ただ今日の午後には戦闘があるかもしれないから出来るだけ手早く、魔法を節約しながらやるんだよ。その辺はサリナ、指示宜しく。あと魔力が足りなそうなら最低限弱点になりそうなところから固めて。その辺の案内はクレイトさん、よろしくお願いいたします」
「わかりました」
「わかりました」
「了解です」
「カタリナもわかった」
「頼んだよ」
4人が出ていくのを見送り、それから椅子に座り直す。




