8―ロリ魔女王、アプリーレを救出2―
久しぶりの更新ですみません……!
――モチモチ。
魔物図鑑415頁に記載されている魔物。種類はスライム。プニプニっとした普通のスライムと違い、モチモチとした体が特徴なスライム。攻撃力は普通のスライムと同じく世界最弱で攻撃方法も転がる以外ない。だが、モチモチにはスライムと違う性質があった。それこそ、あたしがモチモチを面倒だと思う理由。だからと言ってアプリーレを見殺しにする理由にはならない。
モチモチの巣入り口一歩手前で太い木の枝に降りて様子を窺う。
強面の男が元凶だろう。男の腕に抱き付いている娼婦みたいな女を【解析】した。
「は……?」
瞳に浮かび上がった結果に間抜けな声が出てしまった。
魔術階級B級。所属ギルド無し。そこまではいい。問題はその先――女の名前。モーガン、と出ている。
「あたしと同名がいるとは」
と思う筈がない。更に詳しく見ると、どうもあの女は自分がモーガンだと偽ってあの男といるようだ。馬鹿か。あたしに成り済ますなら、せめて魔術師階級S級にしろよ。まあ、幼女の姿となった今S級に勝てるかは知らんがな。S級魔術師相手となると、魔術だけでなく身体能力も必要になる。
なので、怪力馬鹿のコロネロとは絶対に戦いたくない。その為にもアプリーレを無事に救出する必要がある。
魔術で周囲を一気に吹き飛ばす方が楽だが、アプリーレが危ない。
「仕方ないわな」
あたしは木から降りて正面から向かった。
○●○●○●
○●○●○●
周囲に警戒を巡らせ、神経を全開に研ぎ澄ませているであろう連中の前に堂々と出てきてやった。「あの餓鬼!!」とデブが叫ぶ。黒幕の強面の男と娼婦みたいな女がデブの声に釣られてあたしを見た。
「あんな幼女にやられたの? 情けないわね」
「ほう。売ればちょっとは高く売れ飛ばせそうな小娘だな」
「ボス! 姐さん! 油断はしてはんらねェ! あの餓鬼、大した魔術師だ!」
「馬鹿野郎。おれ達には伝説の魔女王がいるんだ。それにたった1人で何が出来る?」
その魔女王は一応あたしだけどな。言ってやらんが。
あたしはちらっとモチモチに囲まれているアプリーレを見た。まだ目を覚ましていない。このまま眠っていた方がアプリーレの為だ。「野郎共!!」強面の男の呼び声で周囲に隠れていた破落戸が一斉に現れた。
「まずは小手調べだ。こいつ等を蹴散らせたら、モーガン。お前が相手をしろ」
「んもう。その時はボス。今夜のお相手をちゃんとしてくださいよ?」
「皆まで言うな」
強調した胸に強面の男の腕を押し付けた。すっかりと鼻の下を伸ばした男といい、あたしの名を騙る女といい、はあ、面倒で気に食わない。
面倒だし、さっさと終わらせよう。
「行け!!」と強面の男の掛け声で破落戸が一気に押し寄せた。罠の魔術式が気になりつつも左手を翳した。
「《炎》」
左手から、小ぶりな多数火珠を生成。行け、と放って破落戸共へ直進。1人直撃すると大きな爆発を起こし、炎が周囲を巻き込み飲み込んでいく。炎は初歩的な炎の魔術。本来は、対象を火傷程度の傷しか負わせない最下級魔術。魔力容量と魔力濃度が桁違いなあたしが使うと、こうして甚大な被害を齎す中級魔術に発展する。
逃げ惑う破落戸共へにぃっと口端が歪む。
「なんだよこれェ!!」
「知らねェぞ! あの餓鬼、炎って言ったよな!? 何であれでこんな威力が!!」
実力の差だよ阿呆共。中心にいる3人も驚きを隠せないでいる。
「只でさえあの馬鹿の面倒を見るだけで大変だって言うのに、いらん面倒を持ってくれるな。モチモチに出て来られるのも面倒なんでお前ら全員――《《吹っ飛んでしまえ》》!」
アプリーレの周囲にだけ強固な結界を展開したと同時に連中へ向けて炎の魔術【イフリート・ランス】を投げつけた。炎の精霊イフリートの名を模したこの魔術は、自由自在に形を変え敵に向かって放つ。シンプルだが高威力な為に魔力消費も激しい。
地面に刺さった瞬間爆発的勢いで広がる炎がモチモチの住処にまで影響を及ぼすのを避けようと範囲を最小限で抑えた。断末魔の悲鳴も聞こえない。奴等とあたしじゃ実力が違い過ぎるのさ。但し、アプリーレを守る為の結界の中にはモチモチまでいる。
さて、眠っているアプリーレを連れて帰るか……と足を一歩前に踏み出した瞬間――炎の渦から紫雷の刃が飛んできた。足先すれすれで刺された紫電と大事な部分を隠す布しか残らなくなった状態でモーガンを名乗る偽物が立っていた。その表情には確りとあたしに対する憎悪があった。
「が、餓鬼の分際でッ!!」
「その餓鬼に簡単に重傷になった奴が何を言っても負け犬の遠吠えさね」
「私はモーガンだ!! この世界で最も偉大で強い――!!」
「……偉大……?」
不快な単語を聞いて顔を歪めた。偉大……何時からあたしは偉大になった。
偉大なんかじゃない。
あたしは……。
「《強欲の精霊・汝の空腹を満たす・汝の食料を食せ》!」
これは召喚魔術――【サモン・ヘルーガ】。呪文の通り、空腹状態の狼精霊ヘルーガを喚び出す。地面に展開された魔術式から、口を涎で濡らし、低い声で唸る巨大な狼が出現した。
【解析】で見た通り、魔術階級B級の実力は伊達じゃない。
あたしの名前を騙る実力はある程度はあるみたいだ。
「行け!!」
「ガルルルル!!」
餓えを満たしたいヘルーガが、女の声と同時に驚異的跳躍力で地面を蹴った。涎まみれな鋭い牙があたしを狙って上空から迫る。
ちらっとアプリーレの方へ一瞥をくれた後ーーあたしは素早く左手を女へ翳した。
「《失せな》」
一言で脳内に描いた術式を具現化。女の上空に巨大な氷の塊を出現させた。一瞬で周囲が暗黒となった女は、悲鳴を上げることもなく氷の塊の下敷きとなった。
次いでヘルーガには、
「伏せな」
強烈な殺気を食らわせてやった。
狼精霊ヘルーガは常に空腹で、術者が敵と認識した相手を骨も残らないまでに食い尽くす。力としても上級精霊の部類に入るから無駄に強い。
無駄な魔力と体力を使わずにヘルーガを倒す方法。殺気で大人しくさせる。これに限る。
あたしに睨まれたヘルーガは、さっきまでの威勢はどこへやら。殺気を食らった途端勢いを無くし、空中で縮こまってそのまま落下した。地面に着地しても縮こまって震えるだけ。
「あんた」
「きゃうん!」
「何もしていないのに鳴くんじゃないよ」
「きゅうん……」
契約していた術者が死ねば、契約者がいなくなった精霊はフリーとなる。なら。
「あたしと契約し直さないか?」
狼精霊ヘルーガは、空腹状態を除くと非常に有能な精霊だ。特に通常の狼の数百倍の嗅覚は尋常ない程に利になることが多い。無駄に長く生きているが生憎と精霊ヘルーガとはまだ契約をしていない。
縮こまっていたヘルーガは契約と聞くと、そっとあたしに近付き始めた。
「契約条件としては、喚び出す度にあんたの空腹を満たす食事を提供する。これでどうだい?」
「ガウ!」
上級精霊だが使役する魔術師が少ないのも狼精霊の特徴。理由は、あたしが提示した契約条件。
ヘルーガの食欲はとんでもない。平民で例えると一食で一月分の食費が飛んでいってしまう程。
金だけは無駄にあるから、食費の心配はない。
あたしの提示した条件に満足げに鳴いたヘルーガに頷き、素早く契約を交わした。
「《我はモーガン、汝との契約を望む者、我が捧げる贄と力をもって、汝の力を欲する者》」
精霊との契約で必要な詠唱を唱えた。どの精霊とも、この詠唱は重要だ。一文字でも間違えれば失敗となり、二度と同じ精霊とは契約出来なくなる。
魔術師と精霊の契約はそれほどまでに重要で大事な儀式となる。
凛々しい咆哮をヘルーガが上げた。
ヘルーガとあたしの体の一部に契約の証である模様が浮かんだ。精霊によって異なるそれは、牙の形をしていた。
ヘルーガとの契約の印は牙なのか。
「これで、今日からあたしがあんたの主だ」
「わふん!」
まさかヘルーガと契約出来るとは思わなかった。アプリーレを救出しに来たついでに良い拾い精霊をした。
……などと呑気に思っている場合ではなかった。
「ガウ!」
「! しまった!!」
眠らされて、鉄の棒に縛られたアプリーレの地面に瞬く間に魔術式が走った。見ると【イフリート・ランス】で吹っ飛ばした破落戸の片腕がアプリーレの足元にある。
あれのせいかっ!!
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