表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

7ーロリ魔女王、アプリーレを救出1ー

※少しグロい描写があります。苦手な方はご注意下さい


 


 風呂は命の洗濯と言うが正にその通りである。1日の疲れを熱いお湯に浸かる事でじわじわと溶け、シャワーで髪と体を洗って再度風呂に浸かって極楽気分を味わう。最高級の宿屋だからこそある設備にあたしもマーリンも大満足。……で、だ。



「おい」

「はあ~癒されるのう~。……うん? 何ぞいモーガン」

「何ぞい、ではない。何でお前まで入ってるんだ」



 子供()と言えど中身は『賢者』マーリン。大人の時でさえ、こいつは普通に人がお風呂に入っていてもやって来る。何が悲しくてこいつと一緒に風呂に入らねばならんのだ。


 じぃーっとあたしを……ではなく、あたしの胸辺りを凝視するマーリンに嫌な予感を抱きつつ何処を見ていると告げると。



「モーガンの触り心地抜群の胸は何処へ行ったのかえ?」

「《死ね》」

「ぎゃぷん!?」



 予想通りの台詞に微かな殺意を抱き、両手を勢い良く合わせた。するとマーリンの顔が見えない衝撃に挟まれ変な悲鳴を上げてお湯の中へ沈んだ。ぶくぶくと水泡を出すマーリンを放置し、あたしは先に上がった。


 自分の体を見下ろした。大人の姿だとマーリンの母親に間違われる。それが嫌で同じ歳の幼女に変身したんだが……。大人の時と同じ豊満な胸は見る影もない。あるのは、ぺたんこつるつるな幼女の胸。



「……」



 世の中には幼女趣味と言って、幼女だけを好む変態がいる。そんな奴に会ったら最悪だ。


 はあ、と溜め息を吐いて濡れた体をタオルで拭いた。


 マーリンが復活するのに時間は掛からなかった。服を着ている最中騒がしい音が背後からしたので自分で洗っているんだろう。パチン、と指を鳴らして髪を一瞬にして乾かした。



「……ちっ」



 食堂で夕食を食べていた時から感じていた視線がまたあった。それも強く、近く。マーリンを1人にする訳には……。部屋を破壊せず、静かに、迅速に隠れている鼠を捕らえる魔術(やつ)といえば。



「《えい》」



 左人差し指をくいっと曲げると天井から人が落ちてきた。顔に見覚えがあった。昨日ミッドナイトで階段を上がるマーリンの横を通る振りをしてマーリンを落とそうとした挙げ句、今日デザートを買いに出掛けた先で1人になったあたしを拐おうとした奴の1人。落ちた際に顎を強く撃ったらしく、痛そうに顎を擦る人相と顔色が最悪の男の頭を跳躍して踏みつけた。


 ちゃんと加減もした。「ぎゃぴ!」と変な声を出したが気にする程じゃない。あたしは「おい」と話し掛けた。



「お前は昼間の内の片方だな?もう片方のデブはどうした」

「んぐぐ、んぐぐぐぐ~」

「ん?ああ、床に顔をめり込ませ過ぎたな。もういい面倒だ。お前の頭の中、視てもらうぞ」

「んぐ!?」



 男の頭を踏んづけたまま【透視】で記憶を盗み見た。……ふむ、これはいかん。


 最後とばかりに一際強く男を踏みつけるとぐちゃっと嫌な音が鳴った。同時に足に不快な感触が伝った。頭蓋骨が砕け、中の脳漿が溢れ出て脳味噌も散っている。力を入れすぎた。これでは、マーリンに「怪力ロリばばあ」等という不名誉な二つ名を付けられる。指を鳴らしてコンテナを開いた。中から、死体隠滅には打ってつけの道具を取り出した。


 一見、白い風船にしか見えないそれに空気を入れて膨らませる。毛糸玉程度の大きさに膨らませると脳が潰れた男に近付けた。すると、白い風船に凶悪な牙が多数生えた大きな口が開いた。口は男の顔全体を口に入れるとパスタの麺を啜る様にチュルチュルと吸い込んだ。げぷ、と満足げな風船に労りの声を掛けると「不味い」と文句を零される。



「すまんな。今度はマシなのを用意する」

「楽しみにしている」



 こいつの名前はバルーン・イーター。風船の形をした悪魔だ。どんな物でも食べてくれるあたし専用の掃除風船。空気を出すとまた元の風船へと戻った。風船をコンテナに戻し、後始末を終えるとベッドに腰掛けた。マーリンは恐らく、また湯船に浸かっているのか。シャワーの音がしない。


 問題は、あの男の記憶で見たもの。あたしの目が確かなら……。



「はあ……やれやれ」



 見たからには無視は無理。


 浴室の前まで行くとマーリン、と声を掛けた。



「ほえ?」

「ちょっと出掛けてくる。留守番宜しく」

「おや、何処へ行くのかのう」

「ちょっと面倒事でね。すぐに戻るから部屋から出るんじゃないよ。誰か来ても出るなよ」

「モーガンがそこまで言うのなら従おう。気を付けてのう」



 扉の陰越しから手を振るマーリンに頷く。


 窓を開け、縁に足を掛け飛び越えた。身体強化で2階から飛び降りたので無傷。



「さて、と」



 記憶で見た通りなら……。



「アプリーレ……」



 あたし達と出会ったばかりに面倒な事に巻き込んでしまったねえ。


 あの人相と顔色が最悪な男の記憶から読み取ったのが、アプリーレ誘拐の現場と片目に縦傷を負った強面の男が昼間見た2人組の男にあたしとマーリンを拐って来いと指令を下す場面。誘拐の記憶では、ミッドナイトで宿泊しているアプリーレの部屋へ忍び込み、背後から彼女に睡眠薬のスプレーを嗅がせ眠らせた。その後、デブの方がアプリーレを麻袋に押し込め、あたしが殺した男があたし達の部屋に忍び込み天井に隠れた。


 奴の記憶には勿論続きがあった。強面の男が2人に最後、こう告げていた。



『その小娘(ガキ)をモチモチの巣へ連れ出して来い』



 モチモチの巣……と言えば、『カシス街』の西側にあるアレか……。ああ……彼処に行かなきゃならんのか……。巻き込んでしまったアプリーレには申し訳ないが、正直に言うと行きたくない。……ないが。



「行かなきゃアプリーレがな」



 彼女はコロネロがマスターを務めるギルド『フェニックス』のメンバー。メンバー全員を本当の家族の様に大事にするコロネロ。1人でも何かあればコロネロの怒りが大陸に響き渡る。“五大王”ケリドウェンと互角の力を持つコロネロを怒らせたい馬鹿はいない。あたしも相手が面倒なので絶対に嫌だ。


 モチモチの巣が嫌でも助けに行かないといけないのだ。


 とん、と地を蹴ったと同時に飛行魔術【スカイ・フライ】を使用。全身に風を纏わせ目的地へと急いだ。


 上空を駆けながらもカシスの香りが鼻孔を擽る。朝も昼も夜も関係ない。この街には、常にカシスの香りが漂っている。


 変わらない街並みを見下ろしながら飛び続ける事約3分。街の外へ出て速度を緩め視線を忙しなく動かす。夜でも満月の光が照らす明かりのお陰で余計な手間が掛からない。西の方角にある森へ上空から入った。奴等モチモチの巣は上空からの方が圧倒的に探しやすい。特に、こういった森に巣を作るのが基本な上目立つから。



「あった」



 黒と緑が交ざった夜特有の不気味な森の上空を駆けていると、浮いて目立つ白を発見した。速度を早め、そこへ飛んだ。入り口一歩手前で太い木の枝に降りた。広がる葉の間から下の光景を窺った。


 開けた場所の真ん中でモチモチに囲まれ、鉄の棒を軸に両手を上げるように縛られたアプリーレと黒幕の強面の男と実行犯のデブがアプリーレの周囲を囲う様にいた。



「ん?」



 強面の男の側に大胆に胸元が開いたドレスを着た青い髪の女が強面の男の腕に抱きついていた。胸を押し付けるその様、何処の娼婦だ、と毒を吐く。縛られているアプリーレに目をやるとまだ眠ったまま。見る限り、怪我を負わされた形跡もなく、嗅がされたのもただの睡眠薬だと思ってもいい。毒が入っていれば、普通に寝てはいられない。


 ふと、アプリーレのいる地面がキラリと光った。


 罠か。


 ここから魔術でアプリーレを除いた奴等全員――勿論モチモチも含めて――吹き飛ばすのは容易。しかし、アプリーレに被害が及ばない保証がない。あの罠がどういった罠なのか不明な今、迂闊に手が出せない。


 ここはいっちょ、態と敵の前に姿を見せるか。


 そう決めたあたしは木から降りた。






モチモチの説明はまた次回。


読んで頂きありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ