4ーロリ魔女王とショタ賢者、デザートを買いに行くー
人々に恵みを、時に害を及ぼす太陽が今日も爛々と輝いて地上を照らす。今日はマーリンと目星を付けた店へデザートを買いに行く日。昨日のあの大きな腹は見る影もなく、いつもの真っ平な腹に戻った。ミッドナイトを出て目的地を目指した。
「最初は何処にする?」
「近い場所から回るよ。先ずは、最後に目印をつけた『ドルチェ:アルバーノ』へ行こう」
「うむ」
ミッドナイトを出て左の道を歩き、通りに出て更に右へ行くと『ドルチェ:アルバーノ』と看板を掲げた煉瓦造りの建物があった。店の前には、若い女性客が沢山いた。成る程、やはりデザートは若い娘達に人気なのだな。彼女達の隙を縫い、何とか店に入ったあたしとマーリンは、ショーウィンドウの中にあるデザートに目が釘付けとなった。
「美味しそうじゃのう!」
「モーガンの気持ち、分かるぞい! さあ、目的の品を買おうぞ」
ここの店でチェックをいれたのは、カシスジェラートを巻いたロールケーキ、カシスとストロベリーを使用したホールケーキ、最後にカシスを贅沢に使用したカシスパフェ。ホールケーキとロールケーキは1個ずつにして、パフェは2つにしよう。顔を上げて店主を呼んだ。
「すまんが、これとこれとこれをくれ」
「毎度! 店から家はどれくらい掛かる?」
「ああ、保冷の心配かえ?心配無用じゃ。このコンテナに入れれば溶けん」
そう言ってコンテナを見せれば、店主だけでなく店内にいる従業員や客達の目が剥いた。?と頭に大量の疑問符を飛ばせば「モーガン……」と横からマーリンに呆れた声で呼ばれる。
「お主、自分の実力を理解しておるかのう?」
「無論じゃ」
「なら、コンテナを仕舞え。目立って仕方無いぞい」
奴に叱られるのは癪に障るがここは素直に従った方が良いの。店主、と呼べばハッと意識が戻った店主にもう一度同じ注文をし、慌てて包装を始めた。丁寧に梱包されたデザート達を再びコンテナを開いて置いた。デザート単体に“保冷”を付加した。元々、“永久保存”を付加してあるが念の為。
「コンテナを開いたくらいで大袈裟な連中じゃ」
「彼の者達の反応は当然ぞい。抑、コンテナとは錬金術の中で最上級の代物じゃ。並大抵の術者では、編み出す事は出来ん。存在だけが認知されてある超逸品ぞい」
「まあ、材料が阿呆並に最高難易度の物ばかりなのは認めるが作成その物は簡単じゃ。要は、材料がアレだからそう思われているのではないかえ?」
「一理あるかものう」
材料だけで世界最高難易度を誇るのはコンテナだけでない。『エリキシル剤』に『鳳凰の宝玉』、いつぞやマーリンが遊び半分で作成した石が年月を経て『賢者の石』と呼ばれておる。
はて、あの石は結局どうなったのじゃ?
抱いた疑問をそのままマーリンにぶつけるとアイスブルーの瞳を丸くした。
「『賢者の石』とな? あれなら、どっかの森に埋めたぞい」
「埋めた? またどうして」
「我輩には必要のない物だったからぞい。そんな事より早く次の店へ参ろう!」
「お、おい!」
人の腕を引っ張って走り出したマーリンに足を躓きつつも着いて行く。慌てなくても店は逃げないと諌めても「店は逃げなくても商品がなくなる!」と返された。ふむ、一理ある。
次に訪れたのはムースケーキの種類が豊富な『パティスリー~ノワール~』
白い塗料が塗られた純白の建物の前にも若い娘達が大勢いた。アルバーノと違い、皆律儀に並んで店内に入れるのを待っていた。此処は順番待ちになるか。
「マーリン。先にもう1つの方へ行くかえ?」
「ふむ……。そうだ、ここは二手に分かれよう。モーガンは此処で、我輩はもう一軒の『スノードルチェ』へ。それなら、デザートを買える確率が上がるかもしれん」
「あんたを1人で?」
「大丈夫心配するでない。危ないとこには行かんし、今の所カシス街では物騒な気配もない。の? 我輩の案で行かぬか?」
「不安しかないのだが……」
「お主の心配も理解しておる。デザートの為に我輩の案を呑んでくれぬか?」
「それであんたが死ぬ様な事が起きたらどうするんだい!」
「その時はモーガンを呼ぶ。我輩の危機には必ず来る。そうであろう? “魔女王”よ」
「……」
「では、行ってくるぞい」
人の了承も聞かぬまま、金貨を何枚か持ってマーリンは『スノードルチェ』へ行った。マーリンの言った通り、カシス街に不穏な気配は感じられない。だが、万が一というのもある。子供と言えど、元は『賢者』。早々と死ぬ目には遭わんと祈る。
「あの」
「!」
不意に後ろの女性に声を掛けられ、ビクッと肩が跳ねた。前を見ると前の人から間が開いていた。
「ああ、すまぬな」
後ろの女性に一言謝り前へ進んだ。
店へ入ったのはそれから10分も経たない内。店内は、テイクアウトから購入したデザートをその場で食べるカフェ二つの形式であった。
「いらっしゃいませ!」
あたしの番が回ってきた。『スノードルチェ』でチェックを入れたのは、カシスオレンジジュースとカシス&ストロベリータルト、数種類の果物を贅沢に使用したフルーツタルトの3点。カシスオレンジジュースは2本にして他は1つずつで良いじゃろ。店員に目当ての品を注文し、金額分の金を渡した。カシスオレンジジュース2本は子供の体ではちと重いの。片手に2種類のタルトを梱包した袋ともう片方の手にはカシスオレンジジュースの瓶2本。不安定な歩き方で店を出て、人目が届かない場所を探した。誰もいない場所ならコンテナを開いても問題はない。
目の前の雑貨屋とパン屋の間が丁度路地になっているのを発見し、そこへ移動した。薄暗い路地の真ん中辺りで歩を止め、誰もいないのを確認してコンテナを開いた。荷物を全部コンテナに仕舞い、ふうと息を吐く。
「マーリンの方はまだなのかえ」
選んだ店2店共客で賑わっている所を見るとマーリンが行った『スノードルチェ』も繁盛しているに違いない。マーリンを迎えに行くべく、後ろを振り返ったあたしは息を呑む。
「よお、お嬢ちゃん。こんな所で1人何してんだい?」
「お、こいつよく見たらかなりの上玉だな。一緒にいたあのガキも男のくせに中々綺麗な顔をしてたな。こいつァ高く売れるぜ」
「……」
こいつら……ミッドナイトで昨日、階段を上がるマーリンの横を通ろうとしてマーリンを落とそうとした男共か。偶然あたしを見つけて後を着けたか、或いは最初からか。まあ、どっちでもいいか。
「お嬢ちゃんはひょっとして貴族の子供かい?でないと、あんな大金普通は持ってねェよな?」
「……」
「おい、何とか言ったらどうだ」
「……」
「怖くて言葉も出ないか?強気な顔してるくせに中身は……」
「《失せろ》」
律儀に男共の戯れ言に付き合う義理はない。適当な呪文で放った魔術が男共をあたしの目の前から消した。殺してはない。此処よりずっと遠い場所へ飛ばしただけ。場所の指定もしなかった。面倒極まりない。
「ん?」
男共がいた場所にバッチが落ちていた。拾ってよく見るとリーフが刻まれたそのバッチは、あるギルドに所属している証として配布されるバッチだった。おつむは最悪でも腕利きの冒険者だったのか。世の中はほんとに分からん。
「おっと。マーリンと合流しよう」
路地を出て『スノードルチェ』へ足を向けた途端、両手に紙袋を一杯提げたマーリンがあたしを見つけて大股で来た。走ったら折角のデザートが崩れると過去の教訓で学んでいる。
「探したぞいモーガン! 何処へ行っていたのかのう?」
「あんたに人前でコンテナを使うなと忠告されたからね。人目のない場所を探していたのさ」
「成る程。なら、買い物は終わったから宿へ戻ろう! 早く食べたいのう!」
「そうだね」
リーフが刻まれたバッチをスカートのポケットに入れ、片手分の荷物を持ってミッドナイトへ戻った。
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