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1ーロリ魔女王とショタ賢者、汽車を降りるー


短編「いつか『賢者』が孵化するまで」をそのまま載せてます。既読済みの方は次の話からどうぞ。

 

 ――嘗て世界には『賢者』と呼ばれる人間がいた。


 あらゆる魔術を極め、あらゆる知識を得た、叡智を極めし人間が。


『賢者』の姿を知る者は表世界には存在しない。裏の世界でのみ、彼の存在は語り継がれていく。


 世界に大きな異変が起きる時、『賢者』が目覚める時。

 1つの時代が終わる時、『賢者』が眠りに就く時である。


 目覚めと眠り――。


 その2つを見守り、見届ける存在は『守護者』と呼ばれ、この世界で最も名誉ある称号として尊ばれる。



「でもなあ……」

「どうした」

「なんでも」



 ――あたしは思うのである。喉から手を出してでも欲しがる連中にこう言ってやりたいと。



「此奴の世話なんぞ苦労しかないぞ、と」

「何の話じゃい」

「自分で考えい」



 流れる様に変わり行く景色を車窓越しから眺めつつ、目の前に座る奴に確りと聞こえる様に呟いた。あたしの呟きの内容に食い付いた奴の声を跳ね返した。本当の意味を教えれば非常に面倒臭いから。



「モーガンは意地悪だ! 意地悪! 意地悪! 意地悪ー!!」

「喧しい! 子供か! ……子供か」

「そうだ!我輩は子供なのだ。大切に……あ、これを言うとお主も子供であったなモーガン」

「そうだ。あたしも子供だ。マーリン」



 私の名前はモーガン。目の前にいる奴はマーリン。()()()モーガンとマーリンとして旅をしてかれこれ5年経過する。

 子供の姿をしている癖に喋り方が爺臭いのは、中身は完璧なる爺だからである。



「のう、モーガン」

「ん?」

「次は何処へ行こうか」

「さあ?あんたの好きな所に何処へでも付いて行くよ。それがあたしの仕事なんだろ?」

「うむ。そうじゃのう」



 菫色の肩で切り揃えられた綺麗な髪、冷たく見えても何故か温かみを感じるアイスブルーの瞳の美少年の姿をしたマーリン。奴の正体を汽車に乗る奴等が知れば、一体何人の奴等がマーリンに平伏すのか。


 世界には嘗て『賢者』と呼ばれ、畏敬の念を集めた男がいた。あらゆる魔術と知識を兼ね備えながらも、どの国にも、どの種族にも属さぬ完全なる中立を貫く存在。

『賢者』の力を欲し、知識を欲した者は数知れず。



「前にいた国は争いが絶えん場所だったからな。次は、平和で楽しい国に行きたい」

「好きな所に降りたらいい。あんたが行きたいと思う場所へ」

「うむ。そうじゃな」



 完全無敵と畏れられる『賢者』にも弱点が存在する。1つの時代が終わりを告げる時、『賢者』の能力は最低ラインにまで落ち、最強とされる力は最弱となってしまうのだ。無事生き残れれば良いのだが、殆どの場合目の前の男は1つの時代の終わりと共に生涯を閉じる。そして、新たな『賢者』の卵として生まれ変わる。その為に『守護者』という、世話役にして護衛役の存在がある。

『賢者』が死する時、『賢者』が所有する力全てを一旦『守護者』が預かるのだ。卵として生まれ変わり、何時か孵化するまで『賢者』を守り、力を守るのが『守護者』の役目。不本意ながら、前回の奴の死に目に立ち会ったせいで当代の『守護者』はあたしになってしまった。



「はあ」

「溜め息を吐くと幸せが逃げるぞ?」

「誰のせいだと思ってんだか」

「我輩は嬉しいぞ?お主が我輩の『守護者』になって」

「ちっとも嬉しくない」



 行儀が悪いのを承知で椅子に足を立てて膝に頬を乗せた。靴はちゃんと脱いでいる。案の定、マーリンに行儀が悪いと指摘を受ける。受けても直すつもりはない。



「のう、モーガン」

「なんだい」

「お主まで我輩に合わせて子供に成らずとも良かったのではないかえ?大人の方が便利であろう?」

「良いんだよ。あたしはあたしの好きな様にするだけさね」

「そうか」



 今のあたしの体は【セルフ・ポーション】という、特殊な若返りの体で子供となっている。その気になれば大人に戻るのも可能だが手順が面倒だ。幸い、肉弾戦は辛いが魔術戦ならば何の問題もないので子供でも十分戦える。


 卵になってしまった『賢者』マーリンが前の人生を終えたのは5年前になる。

 5年前、世界は外宇宙から召喚された邪神の分身とも呼べる眷族と人間との戦争が勃発した。圧倒的な力を有する邪神の眷族と人間の戦いは、本来ならあっという間に此方が蹂躙され世界は終わりを迎える筈だった。……だが、2つの奇跡が一度に重なった故に世界は守られた。


 先ず、1つ目。世界は、稀に大きな偶然を生み出す時がある。1つの時代に『人外』並の規格外の実力を有する5人の英雄が存在した。


 “覇王”アレース=アウトレイ

 “天空の姫王”ウーラノス=シルヴァニア

 “月の女王”セレーネ=フルムーン

 “銀の狼王”アヌビス

 “冥王”ケリドウェン=アルトリエ


 後に『五大王』と呼ばれるこの5人の活躍が表の栄光と例えるならば、もう1つの奇跡は影の立役者と例えてもいい。その影の立役者が(因みにこれ、目の前のマーリンがそう言うだけ)“魔女王”モーガン。あたしである。

 正直に言うと私は()()何もしていない。昔からの付き合いがあるマーリンと共にいただけ。そのせいで奴の死に目に立ち会い、赤ん坊(たまご)となってしまったマーリンを助け、育て――今現在に至る。最初から記憶だけは確りとしているせいで苦労は無かったが、やれミルクが薄いだの、温いだの、服の着心地が悪いだのと我儘放題で何度いらっとして置いて行ってやろうかと思った。何度も苛立ちを乗り越え、最初の状態に戻ったマーリンを育てて早5年。時が流れるのは早いものだ。



「おお、そろそろ街が見えてきたぞい。次はどんな冒険が待っているのかのう」

「さあね。ねえ、マーリン」

「なんぞい」

「あんたにずっと聞きたかった。あたしがあんたの『守護者』になって不満はないのかい?」

「……」



 卵となった『賢者』が目覚める(孵化)する時『守護者』は、預かっている力を全て『賢者』へ返さなければならない。返還方法は単純。『賢者』に喰われる。肉体も、魂も、『守護者』の全てを喰らう事で『賢者』は本来の力と姿を取り戻す。喰らわれた『守護者』は彼の中に永遠に生き続ける。

 あたしがこんな事を聞くと思っていなかったのか、普段の阿呆面を丸出しに目を丸くするマーリン。軈て、ふんわりと微笑み。



「ある筈がない。我輩はずっとな、モーガン。お主が欲しかった」

「……」

「お主と最初に会ったのは、前の自分だから……もう100年以上も前になるのう。7千年近く生き、世界を渡り歩いて初めてだった――……異性に惚れたのは」

「その口振りだと、同性に惚れた事はあるってかい」

「違うわい。自慢じゃないが、我輩女に生まれた事はない。ずっと男だ。

 絶世の美女、傾国の美姫と、沢山の見目麗しい女を見てきた。だが、モーガンと会った時程の衝撃はなかった。何故か、お主と初めて会った瞬間、こう……上手く言えんが我輩は感じたんじゃ。お主とずっといたい、と」

「……」

「だが、我輩は良くも悪くも死にやすい。1つの時代が終わると共に死に、新しい時代が始まれば再び生まれる。その度に、代々の『守護者』は我輩を守り、最後は我輩の中へ返っていく。永遠に我輩の中だけで生き続ける。その時思った。モーガンもそうなればいいと」



 見た目子供の癖に、自分がとんでもなく狂ってる発言をしている事に奴が気付いているのか。否、気付いてて態と言っているのか。



「のう、モーガン。お主が我輩の中に入るのも良い。……だが、暫くは傍にいてくれるよな?」

「さあ……約束出来ないな。あたしを喰らうか、喰らわないかは、マーリン。あんたが『賢者』になるか、ならないかだ」

「……解っておるよ」



 知っているよ。あんたがあたしを好きな事位。

 知っている筈だよ、あたしがあんたを好きな事位。


 だから、あたしはあんたの傍にいた。きっと、あんたが死ぬと思ったからずっと傍にいた。そして、次の『守護者』になるように傍にいた。

 結果は全てあたしの思い通りになった。


 見た目は子供、中身は『賢者』。否、賢い皮を被ったただの獣か。



「マーリン」

「なんじゃ」

「次の街でも、次の次の街でも、世界の果てへ行く事になっても、何処までもあんたの傍にいてやるよ。『守護者』は『賢者』といるのが仕事みたいだからねえ」

「うむ。そうじゃそうじゃ。我輩の傍にいておくれ。お主がいないと寂しくて死にそうじゃ」



 子供特有の無邪気な笑み。美貌の少年の笑みの真意を果たして何人の人間が理解出来る? 答えは簡単、零。あたしでさえ、その真意を読み取れないのだから、あたし以外の奴がマーリンの真意を知れる訳がない。


 汽車の速度が落ち始めた。もうじき、次の街へ到着する。自然に囲まれた豊かな街には、どんな驚きと冒険が待っているのか。



「さて、降りるぞい」



 少ない荷物を背負い、席から降りたマーリンが差し出した手を握り、今日も共に行く。



 ――何時か、目の前の子供(たまご)が『賢者』として孵化するまで。


 あたしはこの馬鹿といよう。



「今馬鹿って言った?」

「気のせいだ」






読んでいただきありがとうございました!


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