9ーロリ魔女王、アプリーレを救出3ー
『モーガンはまだかのう』とか今頃言ってそうなマーリンの姿がありありと浮かぶ。戻ったらきっとベッドに腰掛けてアホ面晒して待っているであろうマーリンにこう言ってやる。
早く寝ろ、と――。
「アプリーレ!」
【イフリート・ランス】で吹っ飛ばした破落戸の片腕がアプリーレの足元に落ちたせいで、仕掛けられていた罠が発動してしまった。瞬く間に地面に走った魔術式に焦燥に駆られた。
魔術方陣の範囲内の地面が徐々にアプリーレを縛る棒を飲み込み、更に周囲にいるモチモチをも飲み込んでいく。罠にかかった敵を異空間に封じ込める魔術。【解析】で偽モーガンがB級魔術師と出ていたのを思い出す。名前は出鱈目でも階級はやはり出鱈目ではなかった。
危機を察知したモチモチ達が次々に巣の中へ逃げていく。
「くそっ!」
足裏に身体強化の魔術を施して地面を跳躍し、アプリーレが縛られている棒の上に立った。逃げ遅れたモチモチ達は這い出ようと必死に足掻いていた。その証拠に、モチモチの名の由来となったもちもちした身体が溶けていた。モチモチは普通のスライムと違い、危機的状況になると体を液状化して逃走する事が可能だ。こいつらの何が厄介かって、一匹だけなら何ともないが大量にいる状況で液状化されると辺り一面液状化されたモチモチに埋め尽くされ、そこへ足を踏み入れると粘着が強力で動けなくなるとこ。また、攻撃魔術を放っても瞬時に液状化して攻撃を逃れ、水が流れるが如くの速度で足元に来て人の足を奪う。
アプリーレを縛る縄に手をかけた所で気付いた。
「こりゃあ、鋼鉄かい」
成る程。仮にアプリーレの元に辿り着ける、又は想定外に本人が目覚めても簡単には縄を外させない魂胆か。悪党が考える姑息な手段な事だ。
が。
「それが何だってんだい」
縄が鋼鉄製でも、何の術式も掛けられていないのなら身体強化の魔術を施して引き千切ればいい。
ふと、昼路地で拾ったリーフのバッジを服のポケットから取り出した。宿屋で始末した奴の記憶を見てついでに知ったが昔は名のあったギルド『リーフ・ソード』は、知らない間に闇ギルドへと転落していた。
正規ギルドが闇ギルドへ転落する例は珍しくない。強い魔術師が所属しなければ、報酬が高額な依頼は殆ど来ない。また、ギルドそのものの知名度も低いと意味がない。どんなに強く優秀な魔術師がいても同じ。
鋼鉄製の縄を千切り、即アプリーレの両脇に手を入れて抱えると跳躍した。ヘルーガのいるとこで着地し、彼女を地面に寝かせ様子を見た。
彼女自身は眠らされているだけで特に魔術を掛けられている様子もない。時間が経つと自然的に目を冷ますだろう。
「却説、戻るか」
「ガウ」
「ああ、あんたは戻りな。力を借りたくなったら呼ぶよ」
ヘルーガの頭をポンポン撫でて送還した。
さてと、戻るか。
◆◇◆◇◆◇
◆◇◆◇◆◇
アプリーレを抱えて戻ったあたしを出迎えたマーリンはアイスブルーの瞳を丸くして首を傾げた。
「おや? アプリーレではないかえ。どうしたのだ?」
「色々あってね」
マーリンの横を通り、二つある内の一つのベッドにアプリーレを寝かせた。
もう一つのベッドに座ったマーリンが隣をポンポン叩く。座って事情を説明しろって顔に書かれている。
応じてマーリンの求める説明をすると、成る程のう~と暢気な声が発せられた。
「モーガンの偽物か。偽物の割には、実力はあまり良くなったのかえ」
「長居する気もなかったから、一気に片を付けただけさね」
「お主の名を騙るのなら、それこそ“五大王”級の力が必要だからのう。時にモーガン。アプリーレを此処で寝かせるのは構わんが、お主と我輩は何処で寝る?」
ベッドは二つしかない。一つはアプリーレを寝かせたので残るは当然一つ。あたしはあっけらかんと答えた。
「決まりきった事を言うでない。あたしとあんたは一緒に寝るんだよ」
「昔は一緒に寝たいと言っても聞き入れてくれんかったくせに……」
拗ねた様なアイスブルーの眼を向けてきたマーリンに当たり前だと睨み返した。こいつの言う昔は、マーリンが卵になる前の話だ。相手は大人の男。あたしは大人の女。いくら何でも大人の男女が一つのベッドで眠るのは良くない。といか、こいつと一緒に寝ていたら何をされるか分かったものでもない。
「しょうもない事言ってないで寝るよ。明日は『カシス街』を出るよ。魔導汽車の時間は気にしないが早く起きるよ」
「むう。我輩まだいたいのじゃ」
「文句を言わない。連中の気配がなくても、一つの場所に長居するのは危険だと言ったのはマーリン、あんただよ」
「はあ~。面倒なのだよあやつら。我輩嫌いじゃ」
遠い昔から『賢者』と因縁のある連中から卵となった『賢者』を守るのも『守護者』の役割。
「面倒ったらないね」
「悲しい事を言わんでおくれ。我輩モーガンに嫌われたら立ち直れん」
「はいはい」
モーガン~! と情けない声を上げるマーリンを無視してあたしは目を瞑った。
――翌朝、地味に面倒な事になるとは思いもせず……。
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