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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
一章 箱庭の神様見習い
9/33

9.納品と報酬


 白狼の名前は『コタロー』になった。


 ござる口調だし、元々が“風”属性の“魔”物であるストームウルフと言うらしいので、忍者と風魔で小太郎。この世界の発音に合わせコタローになったのだ。

 メスだけど。


 何故怪我をしていたのか。

 本人? 本狼? が言うには、運悪くマーダーグリズリーの番との戦闘直後に、別のマーダーグリズリーに遭遇してほぼ相討ちになったらしい。


『あやつら風属性に耐性を持っているので、キライでござる! それさえ無ければ拙者の方が強いのにぃ!』


 思い出して苛立ったのか、前足で地面を叩きはじめるコタロー。

 そういえばセヨンがマーダーグリズリーは風属性に耐性があるとかって言ってたような。


 それで、深い傷を負ってもうダメだと思っていた所に、ピンとエメトがやってきたので、ダメ元で助けてほしいと頼んだという訳か。

 よくスライムとゴーレムに助けを求めようと思ったもんだ。魔物同士で言葉は通じるのか?


『拙者位になれば、一目見ればだいたいの力量はわかるでござる。ピン殿とエメト殿を見た瞬間、絶対に勝てないと悟り、命乞いをするしかなかったのでござるよ』


 ああ……助けてっていうのは、命だけはお助けを! ってやつだったのか。

 ピンとエメトはそれをコタローが助けを求めていると勘違いした訳だ。


『そしたら、そんなピン殿とエメト殿を沢山引き連れた主殿が現れて、後は知っての通りでござる。あの時は傷とは別に死を覚悟したでござるよ』


 なるほど、ピンとエメトの主だとわかったから、私に敵対の意思を見せなかったのか。


『ぼくつよい? ぼくつよい?』『ーーん?』


「うんうん、二匹とも強いし偉かったな」


 私が誉めると二匹は私の肩の上で、ぽよぽよ形を変えたり腕をぶんぶん振り回したりと大はしゃぎだ。


『拙者ももっと強くなるでござる!』


 意気込むコタロー。

 しかし、風の管理者になったからか、既に色々ステータスが変化しているのだ。

 ちなみにこれがコタローのステータスだ。



○コタロー ストームエレメントウルフ(分身)・メス 13歳


 職業・トンボの従魔


 スキル

 《風操作lv2》《土属性耐性lv2》《爪撃lv3》《気配遮断lv1》《気配察知lv3》《分身》


 称号

 《風の管理者》《箱庭の住人》



 コタローは野生で生きていた分、実はピンやエメトよりスキルは多いのである。

 風魔法が使えたらしいが、どうやらそれは《風操作》に統合されたらしい。

 《操作》系スキルの方が上位互換なのかね?

 

 はじめから《風操作》のレベルが少し上がっているのは、風魔法を統合したのが原因だろう。


 逆にピンとエメトのような魔法生物ではないため、《分体》ではなく《分身》のスキルになっており、一度に作れる分身は一体だけらしい。

 そして、分身には《物理無効》はついていないため、物理攻撃されると普通に傷が付く。

 だからといって本体にダメージは無いんだけど。


 つまり、もう十分強いんだよな。


「うーん私のペット達がどんどん強力に……」


 まぁ、悩んでても仕方ないか。

 薬草は沢山取れたし、とりあえず街に戻ろう。



ーーー



 街まであと少しという所で、五人の男達が街道脇から出てきて、通せんぼするように私の前に立ち塞がった。

 

「待ちな! よくも恥をかかせてくれたな! てめえだけは許さねぇぜ!」

 

 男達の中から一歩前に出てきたのは、ギルドでからんできたあのチンピラだ。

 どうやら今朝のお礼参りに来たらしい。

 やっぱり来たか。という思いが強く、あまり驚きはしなかった。

 

「恥って、自業自得だろ? それに本当に盗られたなら堂々としてればいいんだよ堂々と」

「うるせぇ! てめえの所為で冒険者の資格を剥奪されちまったよ!」

「脅そうとしたのがバレたんだ? あんた流れてきたって噂されてたけど、どうせ別の冒険者ギルドでも似たような事して、ギルドに気付かれる前に街を移動したとかなんじゃないか? 今回の事で前科でも調べられたのか?」

「ぐっ、うるせぇ! てめえだけは許さねぇ! 痛め付けた後で奴隷にして売ってやる!」


 図星なんだ。

 というか冒険者ギルドの調査力が地味に凄いな。こんなに早く調べられるなんて。


 それにやっぱり奴隷とかあるんだな。


「てめえがよくわからねぇ魔法を使うのはわかってんだ! だか、街で雇ったゴロツキ共と同時に掛かりゃ関係ねぇ! お前ら、やるぞ!」


 いやらしい笑みを浮かべたゴロツキ共が私を囲むように動き出す。


 私はそれを見て溜め息を吐いた。 

 なんで同時に掛かれば大丈夫だと思ったのか、全く根拠が無いぞ?


 このまま私自身を壁で囲んでしまえば、街まで普通に帰れるけど、ここまで言われて黙っている必要はない。


 敵だと思う奴に容赦はするな。

 そう私のお袋がよく言っていた。

 私の平穏を邪魔するならコイツらは敵だ。

 つまり、容赦はしない。


「ピン、死なない程度の麻痺毒に《成分変換》して、あいつらを痺れさせてやれ!」


『まかせてー! いくぞー!』


 私の指示を聞いて肩から飛び上がったピンが、体を一度波打たせるとその身を弾けさせた。


「うおっ?! なんだこいつ!」


 水飛沫の様に無数に広がるピンが、チンピラ共に付着して身体を伝っていく。


「なんだこれ掴めねぇ! 誰か取ってくれ!」

「剣も効かねぇぞ!」

「魔法で引き剥がせ!」

「バカ! 自滅するぞ!」

「そもそも魔法なんて使えねぇよ!」


 チンピラ共がピンを必死に払おうとしているが、自由に動く水であるピンを止められる訳もなく、次々顔に貼り付かれていった。


「くっ、口から入っがぼっ……ぼぼっ!」

「が、がぼぼ……!」

「か、かららがしひれ……」

「助……けて……」

「あ……あ……」



 そして麻痺毒が効いたのかバタバタとチンピラ共が倒れていった。


 これやろうと思えば、そのまま窒息死もさせられたな。


 チンピラ共から離れた水が、逆再生のように私の肩に集まり再びいつものピンの形に戻った。


「よしよし! 偉いぞピン! よくやった!」


 ピンの戦い方は意外とえげつなかった。

 でも頑張ったから褒めてやる。


『やったやったー!』『ーーん』『拙者も戦いたかったでござる……』


 生まれて初の戦闘に興奮しているピンと、残念そうに肩を落とすエメトとコタロー。


「ははっ……次があったら二匹にも活躍してもらうから、今日は我慢してくれ」


 次なんて無い方がいいんだけど、寂しそうに体を丸めるエメトと尻尾の垂れたコタローが可哀想で、ついそう約束してしまった。

 まぁ、どうにかなるだろう。

 それよりもまずは目の前の事を片付けよう。


「コイツらをどう街まで運ぼうかね……」


 

ーーー



「お、お嬢ちゃん! そいつはなんだ?!」


 ラプタスの街の門にまで帰って来ると、顔見知りの門番が駆け寄ってきて、私の後ろを見ながら聞いてきた。


 チンピラ共は結局私の壁魔法で運ぶことにした。

 方法は簡単で、地上から少し浮かせた壁を床代わりにして、そこにチンピラ共を乗せて動かして来たのだ。

 出した壁を動かせるのはわかっていたので、できないか試してみたらいけた。

 ちなみにチンピラ共を乗せるのには、エメトの《怪力》が活躍した。


「冒険者ギルドで登録する時に因縁付けられてたんだけど、薬草採取の帰りに待ち伏せされて襲われたから、返り討ちにして運んできた」

「あ~、マーダーグリズリーを倒すお嬢ちゃんに因縁吹っ掛けるなんて、コイツらも運が無かったな。怪我はないか?」

「大丈夫。それよりこういう場合はどうすればいい?」


 いまいちこの世界の刑罰はわかっていない。

 神様からもらった知識があるだろと思うかもしれないが、頭に入っていても、分厚い辞書を渡されて中身を把握しろと言われている感じで、使い勝手が悪いのだ。

 ぶっちゃけ人に聞いた方が早い。


「取り敢えず確認だ」


 門番が例の魔道具『カルマチェッカー』を取り出して、拘束されて(拘束はエメトの《土操作》で硬い土の拘束具を作ってもらい、それを使用した)動かないチンピラの手に触れさせた。

 するとカードが赤く点滅した。


「おーおー、真っ赤じゃねぇかよ。犯罪者確定だな。それも結構やってるな」


 門番が呆れたような声を出した。

 言い方からして、カードの点滅具合でどれくらい犯罪を犯したのかもわかるらしい。


「コイツらはこっちで引き取ろう。余罪の追及もするが、まず間違いなく犯罪奴隷落ちだろう。売った後は報償金も出るから、支払い準備ができたら冒険者ギルドを通して連絡がいくようにしておくよ」


 奴隷落ちかぁ。怖いな。

 こっちの世界では当たり前の様に奴隷落ちがあるんだよな。

 私は犯罪を犯さないようにしよう。


「ありがとう。じゃあ、あとよろしく!」


 私はチンピラ共を門番に引き渡して冒険者ギルドに向かった。


 ギルドに入り、納品受付に行くとエルがいた。


「あっ! トンボさんお帰りなさい! 今朝の件ですが相手の冒険者記録を調べたら、前のギルドでも恐喝などの疑いがあるのがわかって、あの後すぐに冒険者の資格を剥奪しました。セヨンさんの証言もあり、あのマーダーグリズリーはトンボさんの物と証明されましたよ!」

「ただいまエル。それなら帰り道で襲撃受けたから知ってるよ。それより薬草の納品よろしく」

「はい! はい?! ちょ、襲撃って大丈夫なんですか?!」

「大丈夫じゃなかったらここにいないだろ。返り討ちにして門番に引き渡してきた」

「うわぁ、トンボさんやっぱりお強いんですね……」

「やったのはうちの子だけどな」


 私がピンを自慢するように見せると、エルの目が細められた。


『ぼくがんばったー!』『ーーん』『拙者も活躍したいでござる!』


 ピンが伸ばした触手を振って、エルに向かってアピールしている。


「小型のスライムですか? 信じられませんけど、トンボさんが言うと本当っぽく聞こえます」


 失礼な! 私は詐欺師か!

 でも小さいピンが倒したって言っても、普通は信じられないよな。

 気持ちはわかる。


「うちの子は優秀なんだけどなぁ……納品していい?」

「あっはい、ではカウンターの上に薬草を出してください」


 私はカウンターの上で、中にアイテムボックスを隠したポーチをひっくり返した。

 アイテムボックスから指定された薬草が雪崩出る。

 カウンターの上に十本一束にまとめられた薬草が、文字通り山盛りになった。


「ちょ?! ちょっと待ってください! なんですかこの薬草の量は?!」


 盛られていく薬草を目を丸くして見ていたエルが、慌てて問い詰めてきた。


「何って、納品?」

「なんでたった半日でこんなに採取できるんですか!」

「この子達が手伝ってくれたから」

『いっぱいとったー!』『ーーん!』


 私はエルに見せつけるように、ピンとエメトをカウンターの上に移動させて自慢する。

 二匹はエルに向かって揃って手をあげて挨拶した。


「またこの子達? 小型に見えて核が高性能なんですか?」

「うちの子は優秀だからな。とにかく早く査定。他にも買い取りしてほしいものがあるんだから」

「他にも、ですか? ちなみに何かお聞きしても?」

「マーダーグリズリー三体」


 コタローが仕留めた奴だ。

 本狼はいらないって言うので、森に残していくのもあれだし持って帰ってきたのだ。

 

「ま、またですか? もしかしてそれも?」

「優秀だから、うちの子。それよりはやく査定」


 ジト目を向けてくるエルに短く返答して、私は査定を促す。


 エルは不服そうに口を尖らせながらも、手早く薬草の状態を確認していく。

 その作業スピードは素人目に見ても早かった。そしてきっと正確なのだろう。

 さすが受付と査定係を兼任するだけはある。 

 

「はい、査定終わりました。薬草530本納品。一部採取が雑な物もありましたが、それ以外はいずれも状態良好ですので、銀貨5枚と銅貨30枚になります」


 ぐっ……その一部は私の取ったやつだなきっと。


「それにしても凄いなエル。こんなに早く査定できるなんて」

「いえいえ、トンボさんは薬草を十本一束にまとめてくれたので数えやすかったですし、余計な土も落とされていて、すぐにでも薬剤ギルドに持ち込める状態でしたから。他の冒険者さんは土なんて気にしませんけど、薬剤ギルドは調薬時に異物が混入しないようにと、かなり神経質に気にしますから、あっちに持ち込む前に冒険者ギルドで落とすようにしているんですよ?」


 残業で。と恨めしさすら感じる笑みをうっすらと浮かべて言葉を締めたエル。

 誰かに愚痴りたかったんだろうけど、ちょっと怖い。


「すみませんでした続けますね。今朝のマーダーグリズリーは首以外に傷がありませんでしたから、かなり高めに査定させていただきました。そこから解体代を引いて、支払いは金貨1枚と銀貨22枚になります。薬草と合わせて金貨1枚と銀貨27枚と銅貨30枚になります」


 おおー、大金だ。

 マーダーグリズリーってそんなに高いんだな。


「元々マーダーグリズリー自体、肉は食用、皮と爪と牙は武器防具や装飾品、内臓は薬にと、捨てる所がないですからね。ただ生命力が強くて普通は倒すまでに傷をつけてしまいますから、ここまでの高額査定は珍しいですよ?」


 なるほど、魔物の素材を納品するなら傷は最小限にって事か。

 まぁ私は安全第一でいくから、襲ってくる魔物相手に気を使うなんてしないけど。


「査定に問題が無いのでしたら、こちらが報酬になります」


 カウンターの上に硬貨が積まれた。


「問題ないよ。ありがとう」


 私は報酬を受け取り、ポーチにまとめて仕舞い込んだ。

 今日だけで昨日の買い物代を余裕で取り返した。

 これからもこの調子で稼いでいこう。


「ではマーダーグリズリーの追加は、こちらに出してもらってもいいですか?」

「はいよ」


 私は指定されたカウンターにマーダーグリズリーの死体を積み上げた。


「うわぁ、本当にマーダーグリズリーが三体……」

『ふふん! 拙者が倒したんでござる!』


 今回は叫ばなかったが、代わりに呆れている様子のエル。

 熊を倒したコタローは上機嫌だ。

 

「でも、今回のはかなり傷付いていますね。これだと先程の査定ほど高くはなりませんよ」

『なんとっ?!』


 それはそうだ。コタローは死にかけながら戦っていたんだから、素材だなんだと気にする余裕なんてなかっただろしな。

 尻尾を垂らして落ち込むコタローをなでて慰める。


「構わない。ただ食用になるなら、肉を10キロぐらい回して欲しいかな?」

「では、次回来られた時に受付で渡せるようにしておきますね」


 コタローには食事が必要だし、がんばったご褒美に熊鍋にして食べさせてやろう。


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