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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
一章 箱庭の神様見習い
4/33

4.ペット(従魔)


 異世界転生した翌朝。

 私は良い匂いに釣られてベッドから起き出した。

 窓からは日の光が差し込んでいる。

 

 箱庭世界から出てきた時は夕方だったはずだから、どうやら昨日あのまま横になって、朝まで眠りこけていたらしい。


 腹の虫が鳴った。

 食欲をそそる良い匂いだ。


 私は自室から出て一階に降りる。

 一階に降りると、丁度テーブルの上にスープとサラダが置かれる所だった。


「……誰だ?」


 寝ぼけて頭が回っていないだけで、昨日セヨンに紹介されただろうか。

 褐色肌に美しい銀髪をツインテールに結った小さな女の子が、次はパンの入ったバスケットを出して、テーブルに乗せている。


 私の呟きに気付き、女の子がこっちを見る。

 その紫色の瞳と目が合うと、女の子は笑って「おはようトンボ」と言った。


「は? まさかセヨン?」


 その声はセヨンのものであった。

 昨日は樽鎧を着て少し声がこもっていたが、おそらく間違いないだろう。

 背丈も同じ位で、なによりその紫色の瞳に覚えがあった。

 あの樽鎧から覗いていた瞳の色だからだ。


「ん? そういえば鎧ば脱いだ姿ははじめてか? 本当は昨日ん夕食ん時にでも見せるはずやったんだばってん、ぐっすり寝とって起こすんな可哀想やったけんそんままにしたんや」


 それで朝まで眠っていたのか。

 そして、本当にセヨンだったのか。

 あの樽鎧の中身がこんな美少女だったとは、驚きである。

 そんな私の感動を他所に、ぐぅ。と私の腹の虫が再び催促をしはじめる。


「ははっ、まずは朝食にしようか!」


 それもそうだ。

 私はテーブルにつくと手を合わせ、異世界ではじめての食事を食べた。

 サラダにドレッシングは無いし、パンは少し固かったけど、スープは美味しかった。

 セヨンの手作りだろうか?


 私はこの世界の食文化が地球とそれほど違っていなさそうで、少し安心した。


 朝食を食べながら、セヨンと今日の予定を話し合う。

 仮の身分証は明日いっぱいまで有効なので、私は先に買い物をしておきたかった。


 それとカルーア工房のセヨンに頼みたい事ができたので、セヨンにはそっちの依頼をした。

 出した依頼は、ある物の作成だ。


「わかった。トンボが買い物しとー間に準備しとくばい」

「よろしく。じゃあ行ってくる」


 でもまずは買い物が先だ。

 私はカルーア工房を出てから、大通りの店舗をいくつか回った。


 まずは食器類。

 セヨンの家には一人分しか食器類が無く、今朝もスープが、セヨンと私で皿とどんぶりに別れて出てきていたからだ。

 とりあえず自分の分と、二人で使える大皿なんかも買っておく。


 次は服屋だ。

 ただ、この世界では服屋はオーダーメイドが当たり前で、私の求めていた古着類は雑貨屋にあるのだとか。

 服屋の店員が教えてくれた。


 なので雑貨屋に。

 雑貨屋では様々なジャンルの物が節操なく売られていた。

 日本にもなんとかファクトリーとか、色んな種類の中古品を扱う店があったけど、正にそんな店だった。 

 あまり服に頓着は無いので、自分に合うサイズの服をいくつかテキトーに見繕う。


 買った荷物は全てアイテムボックスに入れておいたので、買い物は随分と楽に済んだ。

 結局、食器も古着もそれほど金がかからなかった。


 買い物を終えてからカルーア工房に戻り、セヨンのいる工房に顔を出す。


「おっ! お帰りトンボ。こっちはちょうど核ん準備が終わった所や」

「そんなに早くできるものなのか? 魔法生物の核って」


 核は核でも当然兵器の方じゃない。


 私がセヨンに依頼したのは、魔法生物の作成だ。

 セヨンは《錬金術》スキルで、スライムやゴーレムなどの魔法生物を作れる。

 そう昨日聞いたから、依頼したのだ。

 ある目的のために。


「トンボが一番小型ん奴でって依頼するけん、用意する核も極小サイズや。それなら小一時間で作るーばい」

「セヨンってもしかして天才?」


 セヨンはまだ小さいのに、実験をしたり、工房を継いだり、魔法生物の核をあっという間に作ったり、とても多才で色んな事をやっている。

 こういう人間を天才児と言うんだろうな。


「はぁ?! な、何言うてんばい! うちが天才な訳なかやろ!」


 顔を赤くして照れるセヨンは年相応の姿をしていた。

 なんだか妹ができたみたいだな。


「それよりこっち! 依頼通り水属性と土属性、二つん核ば用意したぞ」

「ありがとう。ちなみにどんな魔法生物がオススメとかあるか?」

「土属性ならシンプルなゴーレム系、水属性ならスライム系……かな」

「じゃあそれを一体ずつ」

「土属性が強かゴーレムは、アイアンゴーレム、ロックゴーレム、クレイゴーレム、サンドゴーレム、アースゴーレムがあるばってんどうするばい?」


 ゴーレムだけでそんな種類があるのか。

 

「ミスリルゴーレムとかになると光属性が強かけん含まんかっただけで、まだまだゴーレムは種類があるばい」


 虫図鑑を思い出した。

 魔法生物目ゴーレム科アイアンゴーレム。みたいな?


「多すぎる。カタログは?」

「そげん物はなか! 用途はなんなんや?」

「土いじり……?」

「土いじりって、畑仕事でもさせるんか? それならゴーレムはあまりオススメしないぞ?」


 セヨンが言うには、畑仕事にゴーレムを使う場合、鉱物系ゴーレムでは繊細な動きが出来ず、不定形系ゴーレムは作物を汚したり傷付ける為、向いていないらしい。


「ん~正確には土木工事になるのかなぁ」

「要領ば得らんな。うーん土木工事ならアイアンゴーレムが一番かな。他んゴーレムやと穴堀させたら自分ん身が削るーけんな」

「その場合大きさは?」

「極小サイズん核やけん……親指サイズ?」


 小さ過ぎるわ! 親指サイズで土木工事もくそもあるか!


「却下! 一番大きいゴーレムが作れるのは?」

「アースゴーレムばい。ばってん両手ん平に乗るサイズばってんな!」


 それでも小さいな。

 しかしこれもお金をケチって、極小サイズの核を頼んだ私が悪いんだよな。

 ガックリと肩を落としつつアースゴーレムで決定する。


「じゃあ、次はスライムばい。スライムは元々水属性で、特殊個体になると別ん属性が混じるぞ」


 つまりはシンプルイズベストってことか。

 

「ならスライムはそのままで」

「よし、じゃあ早速作ってしまうぞ?」


 そう言うと、セヨンは魔方陣の書かれた布を工房の床に敷き、その上に核と器に入った土と水を乗せた。

 

「“錬成”」


 セヨンが魔方陣に魔力を流しながら唱えるように言うと、魔方陣が輝いて核と器を包み込んだ。

 

「おお凄いな! これが錬金術か!」


 光が収まると、魔方陣の上に置かれた器の中にゼリーと土人形が現れていた。


 丸くうっすら青みがかった透明なゼリー。

 ゼリーの中には、核と思われる赤いビー玉が浮かんでいる。

 こっちがスライム。


 茶色の土で作られた寸胴な一頭身の身体。

 目のような部分に穴が空いており、黄色く光っている。

 こっちがアースゴーレム。


「うん、よか感じだ。トンボ、主人登録するけん二体に魔力ば流してくれ」

「わ、わかった!」


 セヨンはあっさり流したが、私にとっては凄い光景だったのだ。

 興奮覚めやまぬまま、私は二体の頭? に手を置き、壁魔法を使う時の様に魔力を流した。


「ぴぴー!」「ーーー!」


 すると、二体……いや二匹は命が宿ったように動き出した。

 私が主人だとわかっているのか、スライムはぷるぷる震えて、アースゴーレムは両手を上げて挨拶してきた。


 なにこれ可愛い。


「……ん~? まぁよかや、これでそん二体はトンボん従魔や! 可愛がってくれや!」


 セヨンの言葉に、うんうんと頷いて応えたが、私の目は二匹に釘付けだ。

 可愛い上にファンタジー極まる生き物。

 こんなの興奮しないわけがない!

 先程の錬金術と合わせて私のテンションは爆上がりだ。

 

「あー、そんー、気に入ってもろうたんなよかばいが、そろそろお会計ば……」


 そうだ、名前を付けないと!

 どんな名前がいいかな?


 可愛い系にするか。

 カッコいい系にするか。

 いっそ和風なのもいいかもな!


「聞こえとーかー? おーいトンボー?」


 ここは前世の知識から相応しいのを持ってくるのが一番かもしれないな!

 ヤベー! 迷うー!

 

「……こりゃあかんわ」


 こうして私はスライムとアースゴーレムという二匹の魔法生物をペットに迎えた。


 コイツらはこれから、私の箱庭の住人になるのだ。


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