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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
一章 箱庭の神様見習い
25/33

閑話.王都から見たAランク冒険者?


「俺様が死王の凌墓を攻略したんだ! だから褒賞金をくれよ!」


 城の入口で一人の男が騒ぎ立てている。


 男の話を聞いている門兵はうんざりした顔で、きっと何度も繰り返したであろう言葉を口にした。


「褒賞金はダンジョンコア持ってきた者に与えられる。貴様がダンジョンを攻略したならば、当然ダンジョンコアを持っているハズだな」

「だからダンジョンに置いてきちまったんだよ!」

「ならば諦めろ」

「んだと!」


 門兵に一も二もなく言われた男が、門兵に詰め寄ろうとした。

 しかし、門兵の持っていた槍を向けられ、足を止めてたじろいだ。


「あまりしつこいと引っ捕らえて牢へ入ってもらうことになるぞ……まぁ、ダンジョン攻略したのなら、我々門兵を軽くあしらえるだろうがな」

「くそっ! 覚えてろよ!」


 男は捨て台詞を吐くとその場から走り去って行った。


「……もう覚えきれないっての」


 似たような輩が毎日何人も来ているのだろう。

 門兵が愚痴るようにそう溢した。


「王族相手に詐欺を働こうなんて、ホントよくやるわね」

「ただの……馬鹿?」

「“大”を付けてくれ。私は馬鹿だかそんなことはしないぞ」

「お疲れ様です。毎日こうなんですか?」


 僕達『獅子のたてがみ』は走り去る男と入れ替わるように門兵に話し掛けた。


「これは獅子のたてがみの皆様! はい、最近はずっとこれが続いています。ダンジョン攻略して頂いた方には悪いですが、さっさと名乗り出ろと言ってやりたい気分です」

「ははっ、それは大変だ。今日は殿下から依頼を受けて来ました。通ってもいいですか?」

「はっ! 話は聞いておりますので、どうぞお通り下さい。中で係りの者が待っていますので……」


 僕達はそのまま城門を抜けて王城に入った。

 すると、僕達の到着を待っていたメイドが城の一室に案内してくれた。


 何故僕達のような一冒険者が城に入れるのかと言うと、殿下……つまりこの国の王子様と知り合いだからだ。

 

 殿下は……なんというか、その、ある意味女好きなため、お忍びで城下に降りる際には、女だけの冒険者パーティーに護衛依頼を出すように命じたそうで、それに僕達『獅子のたてがみ』が選ばれ、知り合うきっかけになった。


 お忍びなのに命じたと言うと矛盾している様に思うかもしれないが、“民の暮らしを肌で感じる事も必要だ”と言う王様公認のお忍びらしく、毎回僕達以外にも影から護衛をしている者の気配もあるぐらい厳重に警護されている。


「待たせたな。そのままでいい」


 部屋に人が入ってきた。

 慌てて立ち上がろうとした僕達を手で制したのは、殿下ではなかった。


「……何故宰相様が?」


 若くして国王様の右腕を務める敏腕と名高い宰相様だ。


「すまんな。君達から聞きたい話があったので、殿下に言って時間を分けて貰ったのだ」

「聞きたい話……ですか?」


 いまいち話の展開が見えてこない。


「君達が殿下に語ったという冒険者の話だよ」

「トンボさんの?」


 確かにこの前殿下とお茶会を開いた時に、トンボさんの話をした。

 でもそれが何故、宰相様がトンボさんの話を聞きたがる事に繋がるのか、僕にはわからなかった。


「……今、城下で“ある噂”が広まっているのを知っているか?」

「はい、『死王の凌墓』が実は攻略されていない……という噂ですよね」


 長らく冒険者達を退けてきた、王都付近の高難度ダンジョン『死王の凌墓』が攻略された。

 その朗報は瞬く間に、王都中に広がった。


 王都に住む人にとって潜在的な脅威であった『死王の凌墓』を攻略した冒険者は、新たな英雄として名声を得られるのだ。

 王都民はどんな冒険者が攻略したのかと、お祭りのように盛り上がっていた。

 しかし、いつまで経っても攻略した者は出てこず、最近では自分が攻略したと騙る者も出てくる始末。 

 そこで人々が噂しはじめたのだ。

 本当に死王の凌墓は攻略されたのだろうか。実はまだ死王の凌墓は健在なのではないか……と。


 僕達のように、実際に強制転移させられた一部の冒険者は、『死王の凌墓』が攻略された事が事実だと知っているけどね。


「そうだ。そしてその噂は王家への不審となりかねない。既に『死王の凌墓』は消えたと正式に発表してしまったからな……」

「それで宰相様自らダンジョン攻略した冒険者を探していると……?」

「ああ……だが調べた結果、君達には失礼だが現在王都の冒険者ギルドに居る冒険者の中で、『死王の凌墓』を攻略できるだけの実力者がいるとは思えなかった」

「まぁ……僕達も少しずつ降りる階層を増やしていきましたが、まだまだ先は長かったですからね」


 僕達だって一応Bランク冒険者の中では強い方なんだけど、それでもAランクや人外のSランクと比べると見劣りする。


「でも、宰相様がトンボさんの話を聞きたい理由がわかりました。王都以外の場所で活動する実力のある冒険者なら……と考えての事ですね」

「殿下から『死王の凌墓』に別の入口があったという話を聞いて、その可能性が一番高いと思ってな……」


 『死王の凌墓』が消えた日に、別の入口から入ったという冒険者がいた。

 それを聞けば誰だって思うさ。

 あのダンジョンを攻略したのはトンボさんだってね。


 ならば宰相様にも語ろう、トンボさんの素晴らしさを!

 

「宰相様! 『死王の凌墓』を攻略したのは間違いなくトンボさんですよ! あのどこまでも突き進むという意志を宿した瞳! ミノタウロスを一撃で葬った実力! 友を助けるためダンジョンに入った慈愛の心! 普段は凛としているのに、笑った顔は年相応の可愛らしさが残ってて……何よりトンボさんを前にすると、僕の《直感》が囁くんです! この人が僕の運命の人だと!」


 僕は思いの丈を宰相様に語った。

 こうして口に出すと想いが募る。

 嗚呼……またトンボさんに会いたい。


「だから……そのドキドキは……恐怖のドキドキだってば」

「しっかりしなさいよ! すみません。ウチのリーダーあの冒険者の事になると頭おかしくなるんです」

「そ、そうか……それで、そのトンボという冒険者の情報が欲しいんだが……」


 何故か宰相様は僕を可哀想な者を見る目で見てきた。


「リーダーの言った通り、その力は確かでしたね。大きな狼型の魔物を従えていましたが、本人もミノタウロスを一撃で倒せる実力者です」

「従魔の名前はコタロー……あとで調べたら……Bランクのストームウルフだった」


 ストームウルフは森を縄張りにする魔物だ。

 狼型には珍しく群れを作らず単独で活動する魔物で、風魔法を巧みに使い、森の木々を利用した立体的な軌道で獲物を翻弄するハンターだ。

 

「ふむ、Bランクの魔物を従魔にしている時点で、それより高ランクのAランク冒険者だとわかるな」


 ちなみにSランク冒険者は、世界に六人しかいない。

 その中にトンボという冒険者はいないため、宰相様はAランクと判断したのだろう。


「……友を助けるためと言うのは?」

「彼女はダンジョンではぐれた仲間を探していたらしく、仲間はドワーフで、樽のような鎧を着ているそうですよ」

「ドワーフの戦士か、まだまだ絞り込めんな」

「名前はセヨンって言うらしいですよ」


 トンボさんがドワーフの名前を呟いたのを、僕はしっかり記憶していた。

 僕とトンボさんの出会いの場面だから、何度も思い出していたんだ。


「ドワーフで……セヨン……どこかで聞いた事がある気がするが……それなりに名の通った冒険者なのかもしれないな」

「あの冒険者に繋がりそうで、私達が知っている情報はもうないと思います」

「話を統合しよう。つまりトンボという冒険者は」


 Aランク以上の冒険者。

 仲間にセヨンというドワーフの戦士がいる。

 コタローというストームウルフを従魔にしている。


「という事でいいな?」

「恐らくは……」

「ふむ……とりあえずはそれでテイマーギルドと冒険者ギルドに問い合わせてみよう。最後に一つ……君達から見てトンボという冒険者は危険そうか?」


 宰相様の最後の質問に、僕の《直感》が警鐘を鳴らしてきた。

 

「ダンジョン攻略した英雄なら、陛下と謁見する可能性があるからですね?」

「そうだ……陛下なら面白がって会おうとするだろうが、危険は避けるべきだ。最悪見つからなかった事にする」


 嘘を吐くと駄目そうだ。

 多分宰相様は嘘を見抜く術を持っている。


「さっき言った通りですよ? トンボさんは素晴らしい人です。でも、美しい薔薇にはトゲがあるもの……手折ろうとすれば怪我をしますよ」

「敵対すべきではないと?」

「きっと不敬になりますが、本音を話しても?」

「構わない。許そう」

「ありがとうございます……トンボさんと敵対するぐらいなら、国に反逆した方が気が楽ですね」


 僕の本音に宰相様が目を見開いて驚いている。

 あまり表情を変えない方だと思っていたので、こんな表情もできたのかと感心してしまった。


「根拠を聞いてもいいかね?」

「宰相様は僕が《直感》というスキルを持っているのは知っていますよね?」

「知っている。だからこそ殿下の護衛に君達を抜擢したのだからな」

「今その《直感》が言ってるんです。宰相様がトンボさんと敵対するなら、さっさと見限って離れないととばっちりを受けるぞって……」


 僕の《直感》がどこから来ているのか、それは僕自身わかっていない。

 昔は自分の今までの経験から導き出した答えを、《直感》という形で伝えているのだと思っていたけど、最近はこう思うようになった。


 《直感》とは、一種の未来予知なんじゃないかって……。

 

 トンボさんの従魔を見て武器を構えた瞬間、頭の中に流れてきた直感は明確な死のイメージだった。

 その中では、何故か僕と仲間達は溶かされて死んでいた。

 まるで経験してきたかのようにハッキリとイメージできた。


 もしあの時、武器を構えたまま敵対の意思を持っていたら、僕達は“そう”なっていたんじゃないかって思うんだ。


 そして、それは今も変わらない。

 宰相様がトンボさんと敵対しても、宰相様はトンボさんに絶対勝てない。

 そして、僕達は宰相様にトンボさんの事を喋った冒険者として、トンボさんに嫌われてしまう。

 そんな事になったら、僕は悲しみと恐怖でどうにかなってしまうかもしれない。

  

「だから、トンボという冒険者と敵対するなと……?」

「するにしても僕達の事は絶対に黙っていてください」


 あんな思いは一度で十分だからね。


「まぁ、悔しいけどリーダーの言った通り、私達じゃ手も足も出ないですね。多分並のAランク冒険者でも同じだと思います」

「首ちょんぱは……いや」

「譲れない事は絶対に譲らなさそうだが、話し合いで解決しようとする意思は感じましたから、上手く折り合いをつけるのが一番かと」


 三人もトンボさんと敵対したくないのか、宰相様を説得するように考えを伝えた。


「……留意しておこう。時間を取らせたな」


 そう言って宰相様は席を立ち、足早に部屋から出ていった。


「まったく……リーダーが不敬罪で捕まるんじゃないかって、ハラハラしたわよ」

「でも……彼女と敵対したくないのは……事実だよね」

「確かに。敵には情けを掛けないタイプみたいだったからな……」

「ああでも……トンボさんに罵られるのも、それはそれで……」


 あの鋭い視線に射抜かれる所を想像するとゾクゾクする。

 僕の言葉に三人が一斉に身を引いた。


「あんたそんな趣味まで……」

「そのゾクゾクは……感じちゃダメな……ゾクゾク」

「やはり部屋は別けような」


 でも、宰相様には言い忘れたけど、トンボさんの装備は随分と安物に見えた。

 高ランク冒険者は有名になる分、見た目にも気を使うようとギルドから言われる。

 僕達はBランクだけど、珍しい女だけの冒険者パーティーという事で、王都ではそこそこ有名だから言われた事がある。


 だから、もしかしたらトンボさんは強いけど低ランクの冒険者なんじゃないかって思ったりもしたけど……。


 そんなわけないよね?

 

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