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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
一章 箱庭の神様見習い
19/33

19.ダンジョンアタック


 ダンジョン入口を潜ると、中は行き止まりの小部屋になっていた。

 

「行き止まり?」


 呟いた瞬間、床の魔方陣が輝き出す。

 箱庭への移動でよく馴れた感覚が身体を包む。

 そして確信した、これは転移の魔方陣だ。

 

「なるほど、これでダンジョン内にご招待って訳か」


 私の身体は、光るの魔方陣に吸い込まれるようにその場から消えていく。


 次に視界に映ったのは、薄暗い石造りの通路だった。

 どうやらここからがダンジョンの本番らしい。


「コタローセヨンの匂いはあるか?」

『うーん……死臭が強すぎて判別つかないでござる』


 そういえばダンジョンの入口に『死王の凌墓』とか刻まれていたっけ?

 死王ってのがダンジョンマスターなら、名前的にアンデット系の魔物が多い可能性がある。

 それで死臭が強いのかもな。


「ならとりあえず進みまくるぞ! コタローは《気配察知》を全開! 罠は私の壁で防ぐ! 遠方の敵はピンが《水操作》と《成分変換》で溶かせ! 近づいた敵はエメトが《怪力》で殴る!」

『わかったー!』『ーーん!』『敵もセヨン殿も見つけるでござる!』

「待っていろよセヨン! 今行くぞ!」


 私達は、今できる全力の布陣でダンジョンを進みはじめた。



ーーー


side.獅子のたてがみリーダー



 僕達『獅子のたてがみ』がこの『死王の凌墓』へ挑戦するのは今回で三度目。

 王都の近くに現れたこのダンジョンは、長らく冒険者挑戦をはね除け続けてきた難関ダンジョンだ。

 といってもその名前で呼ばれるようになったのは最近で、王都の偉い学者が来てダンジョン入口の古代文字を解読したことで、ようやく判明したらしい。

 それまでは『墓地ダンジョン』なんて呼ばれていたけど、あまり変わらないよね。


 名前通り出てくる魔物はアンデット系が多く、落とす素材にうま味は少ない。

 それでも挑戦者が多いのは、下層にある手付かずの宝と、王都近くにダンジョンがあるのを憂いた王様が多額の報酬を用意したからだ。


 当然僕達『獅子のたてがみ』もそんな報酬を目指しているわけだけど。


「リーダーがまた考え事してる。その癖治しなさいよ」

「確かに……ダンジョンで考え事する……危険」

「まぁ待て、一応あれで警戒はしているぞ?」


 仲間の三人が僕に注意をしてくる。 

 何もないと考え事をしてしまうのが、僕の癖だ。

 そして考え事をしていると黙るので、彼女達にはいつもすぐにバレる。


「いやー、ダンジョンは不思議だなって思ってさ」

「なにがよ」

「魔物を倒したら、一部の素材を残して死体が消えるだろ? あれってなんでだろうね?」

「ダンジョンマスターが……魔力を還元していると……言われてる」

「そうなのか? 私は解体の手前が省けて楽だな位にしか思わなかったぞ」

「僕も知らなかった」


 物知りの仲間がいるとためになるなぁ。

 

 それにしても暇だ。

 

 十階層毎に配置されている階層主と呼ばれるボスには、基本的に一組しか挑戦できない。

 その為、前の組が挑戦している間は扉の前で待つしかない。


 ここは二十階のボス部屋前。

 ここまで潜れる冒険者は少なく、挑戦者の数はもっと少ない。

 なのに他の冒険者とかち合ってしまい、仕方なく向こうに挑戦権を譲り、休憩しているんだけど。


 その時、ボス部屋の扉とは反対方向から、とてつもない悪寒を感じた。


「警戒! 背後から何かくる!」


 僕は仲間に警戒を促した。

 僕のスキル《直感》が、今すぐこの場から逃げ出せと警鐘を鳴らしている。


 仲間も僕のスキルを知っているから、素早く対応して武器を構えてくれる。

 その姿は頼もしく、彼女達とならどんな敵でも戦えるという自信があった。

 しかし、拭いきれない不安が背中にこびりついて離れない。


「来たわよ! あれは……シャドウウルフ?」

「群れ……でも問題ない」


 やってきた魔物はシャドウウルフの群れだった。

 このダンジョンで出る、数少ないアンデット以外の魔物だ。

 影に潜り死角から群れで連携攻撃してくる厄介な魔物だけど、僕達の敵ではない。

 

 シャドウウルフに《直感》が働いた?

 

「まて! 様子がおかしいぞ! シャドウウルフが影に潜らず向かってくるなど……あれはまるで」


 何かから逃げているようだ。

 

 その言葉が仲間の口から出る前に、いきなりシャドウウルフが姿を消した。


「影に潜ったわ!」

「違う! 倒されたんだ!」


 シャドウウルフが姿を消した所に、毛皮が落ちている。

 あれがシャドウウルフのドロップアイテム。


 本当にシャドウウルフ達は逃げていたんだ。

 背後から迫りくる何かから、影に潜る事すら忘れる程必死に。


 そしてシャドウウルフの背後から、大きな狼が姿を現した。

 その狼は凄い速さでシャドウウルフを追いかけている。


「何あれ?! シャドウウルフの親玉?!」

「違う……毛の色が……白い」

「威圧感も比べ物にならんぞ!」

「ダメだ! あれと敵対しないで!」

 

 その姿を見た瞬間、僕の《直感》が手を出すなと、頭痛を伴う程明確な死のイメージを叩きつけながら、警戒を呼び掛けてきた。

 今まで僕の《直感》が外れたことはなかった。

 それを知っている全員が、咄嗟に武器を下げた。


 シャドウウルフの群れは全てドロップアイテムに変わり果てている。

 その大量のアイテムを無視するように、白い巨大な狼が迫る。


 もし《直感》が外れたら、皆揃って死ぬかもしれない。

 一瞬そんな思いが脳裏を過った。


「止まれコタロー!」


 その時、凛とした声がダンジョン内に響き、狼が急停止した。


 眼前に狼の凶悪な顔がある。


「なんで人間がいるんだ……入口が他にもあるのか? まぁいいや、スマンが人を探してる。樽みたいな鎧を着たドワーフを見なかったか?」

「狼が喋った?!」


 そこから声が聞こえたんだ。


「違う、後ろに乗ってるだろ」

「えっ?」


 言われて気が付く。

 狼の背に女の子が乗っていた。

 この辺りでは珍しい黒髪を短めに切り揃え、髪と同じ黒色の瞳をした鋭い目つきの、可愛いというより格好いい女の子だった。

 首にかけたネックレスに付いているガラス玉も黒色だ。


「……人?」

「少なくともアンデットじゃないな。……一度死んでるけど」

「じゃあ君は一体?」

「冒険者のトンボだ。あんた達も同じだろ? それより質問に答えろ。樽みたいな鎧を着たドワーフを見なかったか?」

「見てない、です」


 強気な彼女につい敬語で返してしまった。

 僕も若いけど、彼女はもっと若そうなのに。

 少し太めの眉と相まって凄い眼力だ。

 それに樽みたいな鎧ってどんな鎧だよ。


 仲間達も彼女と狼を警戒して黙ったままだ。

 テイマーなのかもしれないけど、冒険者だというのにドロップアイテムを無視するなんておかしい。

 人探しが本当かもわからない。


「そうか、邪魔したな」


 彼女は途端に興味を無くしたように言うと、ボス部屋の扉に向かった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そのボス部屋に次に入るのは私達よ! 順番を守りなさい!」


 しかし、僕の仲間がそれを止めた。

 ダンジョンに潜る冒険者には、暗黙の了解がある。

 ボス部屋の順番待ちもその一つだ。

 順番を守らないとダンジョンに潜る全ての冒険者から睨まれるのだ。


「ああ? ボスなんかに興味ねぇよ。通るだけだ」

「ボス……倒さないと……通れない」

「それにまだ先客が戦っているから入れないぞ」


 話せる相手とわかり、皆が彼女に説明している。


「面倒臭い仕様だな……しかし、それならセヨンは通っていないか? いや、はじめの転移が必ずしも同じ場所に飛ぶとは限らないか」

「君の探している人は転移陣の罠に引っ掛かったのかい?」


 彼女の呟きを聞く限り、そんな状態だと判断して、話を聞いてみる。

 冒険者は助け合いだ。

 どうやら彼女が人を探してるのは本当みたいだしね。


「ダンジョン入口の転移陣だ」

「このダンジョンの入口に転移陣なんてないわよ」

「……勝手口が開いてたんだよ」


 勝手口?

 もう一つの入口があったのかな?


「聞いたことある……稀にダンジョンには複数の入口が存在する……らしい」

「多分それだ。で、転移先は同じなのか?」

「わからない……どっちの可能性もある」

「なら下に行く。上に飛んだならセヨンの鎧で十分生き延びられるだろ」

「つまり、我々とボス部屋の権利を争うと?」


 また一触即発の空気が流れる。

 一度は鳴りを潜めた《直感》がざわりと騒ぎ出す。


「あんたらは戦いたくてダンジョンに入ったのか? それとも稼ぎにか?」

「そ、それはもちろん稼ぎにきたんだよ。僕達だって冒険者なんだから」


 普段ならカッコつけて“スリルと冒険を求めて”なんて返していそうだけど、睨み付けるように僕を射抜く彼女の視線に、冗談でも嘘は吐けなかった。


「なら一緒に入ればいい。私はここを通りたいだけ。あんたらは魔物から落ちる物を手に入れたいだけ。倒した後の物に私は興味はない……どうだ?」

「どうって……ダメよ! いきなり他人が入ると連携が乱れるわ!」

「なら私だけで戦う。あんたらは見ているだけでいい」

「この階層のボス……ミノタウロス……一人じゃ勝てない」

「ああ、かなり危険な相手だ。逆に私達が戦い貴女が見守るというのはどうだ?」

「悪いがそれだと時間が掛かりそうだ」

「……まるで自分なら簡単に倒せるみたいな言いぐさね」


 あぁ、どんどん険悪なムードになっていく。

 今日ほど仲間の事を羨ましく思ったことはない。

 彼女達にはこの《直感》の警鐘が聞こえないのだから。


 そして、遂に先客の戦いが終わったらしく、扉から鍵の外れるような音が聞こえてきた。

 彼女もそれに気付いたのか、まるで僕達の前に壁のように立ち塞がった。

 

「選べ……大人しく一緒に入って私に戦いを任せるか、私の邪魔をしてここで待つ事になるか」

「あんたねぇ、わた「わかった! 戦闘は君に任せるよ!」」


 僕は仲間の口を塞ぎそう叫んだ。

 この扉を前にした時の《直感》より、彼女を前にした時の方が遥かに《直感》が騒ぎ立てる。


 止めろ。敵対するな。と。

 つまりこの先のミノタウロスなんかより、目の前の彼女の方が余程危険という事だ。


 仲間が何か言いたげな視線を送ってくるけど、僕はリーダー権限で認めさせた。

 そして、彼女の後を追ってボス部屋に入ったのだ。


 前に部屋に入った者がどうなったのかはわからない。

 戦いの痕跡も、ミノタウロスの傷も死も、全て元通りになるのがこのダンジョンなのだから。


『ブモオォォーー!!』


 ボス部屋の中央には巨大な斧を持った五メートル程のミノタウロスが立っており、恐ろしい雄叫びをあげている。

 

 ミノタウロスは雄叫びだけで身体が震える程の威圧感を放っていた。

 発達し過ぎた筋肉は鎧の如く、その豪腕から振り回されるミノタウロスの身の丈に合わせた巨大な斧の一撃は、僕達の装備すら簡単に引き裂き叩き潰す威力があるのだろう。

 

 本当に彼女はこんな怪物に一人で挑むのか?


「うるせぇ、こっちは急いでるんだよ」


 彼女は全く怯えた様子も見せず、指をパチンと鳴らし「トンボキリ」と呟いた。


 すると何か透明な板のような物が、ミノタウロスの手にした斧ごと、その首を通過したように見えた。


 途端にあれだけ聞こえていた雄叫びが急に止み、ゆっくりとミノタウロスの頭と半分に切られた斧が、ダンジョンの床に転がった。


「え?」

「なっ?!」

「これは……」

「……誇張など無かったのか」


 本当にあっさりと決着した。

 彼女が何をしたのかさえ、僕達にはわからなかった。


「あっ!」


 そして彼女は宣言通り、狼に乗ったまま、ドロップアイテムに変わるミノタウロスの横を無視して通り過ぎていく。


「割り込んで悪かったな! 助かった!」


 そう言い残して、開いた次階への扉を潜りその姿を消したのだ。

 去り際にはじめて見せた溌剌とした笑顔と共に。


「……何だったのあいつ」

「冒険者って……言ってた」

「とてつもなく強かったな」


 仲間の三人が口を揃えて感想を口にする。


「それにしてもリーダーの《直感》を信じて正解だったな」

「はじめに攻撃してたら……首ちょんぱ」

「怖いことを言わないでよ! 想像しちゃったじゃない!」


 でも僕は彼女の消えた扉をじっと眺め続けた。


「リーダー?」

「だめ……止まってる」

「どうかしたのか?」


 三人が心配そうに声を掛けてくれるけど、僕は大丈夫だよ。

 ただ、気付いただけだ。


「彼女……いや、トンボさん格好よかったなぁ……」


 これは《直感》の警鐘ではなく、僕の胸の鼓動なんだ。

 トンボさんを想うと胸が締め付けられるようだ。

 トンボさん、また会えるかな。


「げっ、あんたそっちの趣味があったの?!」

「それは……恐怖からくる胸の鼓動……なんじゃ」

「はははっ、今度から部屋を分けるか」

「あぁ……トンボさん」



ーーー



 まさかこのダンジョンで人に会うとは思わなかった。

 コタローを止めるのがあと少し遅かったら、魔物だと思って攻撃していたかもしれない。


 考えてみれば確かに、ダンジョンマスターが人をダンジョンに引き入れたいなら、入口は複数あった方がいいだろう。

 あの洞窟の入口もそんな入口の一つなんだろう。

 

 あの冒険者パーティーの魔女っ子みたいなのも言っていたし。


 ボス部屋入るのも話し合いで解決できてよかった。

 ボス部屋の仕様を聞いた時に、暗黙の了解みたいなのがありそうなのはわかったけど、こっちだって譲れないからな。

 壁で通せんぼして先に入る手もあったけど、出来れば穏便に済ませたかった。

 話のわかる良い奴らでよかったよ。

 

 それにしてもあの冒険者パーティー。

 女四人組でリーダーが僕っ子とは、マニアックな。

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