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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
一章 箱庭の神様見習い
14/33

14.アルケミスト


「ザトシさんは寒くないか?」


 コタローの背中、私の後ろにピタリとくっついたザトシさんに声を掛けた。

 意外と“上”は風が強く寒かったのだ。


「寒い暑い以前の問題だよ……トンボさんを信用しちゃいるが、怖いものは怖い」

「コタローが跳び跳ねようが、私の壁は割れないから安心しなよ」


 今私達はコボルトのいる森に来ている。

 正確にはその“上空”だけど。


 壁(床?)を階段状に張って、その上を歩いて空に登っただけの単純な話だ。

 コタローがやっていた風の足場を作るのを応用したのだ。


 分身のコタローだと出力不足で、人間二人を乗せて空を駆けるのは無理なんだとか。

 なので代わりに私が足場を作っている。


 理由はもちろん罠回避の為だ。

 コボルトがどんな罠をどこに仕掛けたのかわからないなら、確実に罠が無い所を進めばいい。

 

『前方左斜め下にコボルトを発見、今度は三匹でござる』

「んー…………」


 これで10匹目ぐらいかな?

 《気配察知》スキルを持っているコタローに索敵をお願いしているのだが、本当によく気付いてくれる。

 先にコタローが発見して、方向を教えてもらってから私も探し始めるが、ウォー○ーを探せ並みに発見が困難だ。


「あー見えた、よろしくコタロー」

 

 木々の隙間からコボルト達の姿が見えた。

 コボルトは犬頭と聞いていたけど、実際は毛は少なく、犬っぽい形をしているという生き物だ。

 そのため可愛さはゼロ。


 そして視線の先、その醜悪な顔がポロリと地面に落ちた。


 もちろんやったのはコタローだ。

 風の刃でコボルトの首を切り裂いたのだ。

 元々コタローは《風操作》の前に《風魔法》のスキルを持っていたので、風を操り以前使っていた風魔法を再現しているらしい。

 今のはウィンドカッターというやつだろう。


 しかも、《風操作》になり射程距離が伸び発現場所も自由になった為、今みたいに木々に邪魔されずにコボルトだけを狙えるのだ。


 こういう操作スキルを繊細に操り攻撃に利用するのは、魔法を使った事のないピンやエメトにはまだ難しい、野生で生きていたコタローの強みだな。

 

『むっ? 前方このまま進んだ先にコボルトの気配が集まっているでござる』

「うーんコボルトは鼻も良いらしいし、血の臭いで異変に気付いたのか?」

「確かこの先には洞窟があった筈だ。各個撃破を避けるために巣に集まったって所だろうか?」

「たぶん……私達の場所まではバレてないみたいだし、集まってくれたなら丁度いい、このまま進んで奇襲しよう」


 コタローに指示を出して、念のため更に上に登りながら進んでいく。


 眼下に切り立った岩山が見え、洞窟の入口を確認できる場所に着いた。

 コボルト達は入口を守る様に武器を構えて並んでおり、その真ん中に普通の個体より大きなコボルトがいる。

 あれが指揮官か?


 どうやらまだ私達には気付いていないらしい。


「コタロー行けるか?」

『少し数が多いでござる。一度に殲滅するのに十分な威力を出すには、下に降りた方が確実でござる』

「なら一気に降りて殲滅する。指揮官は私が殺るからコタローは他をよろしく」

『承知したでござる』

「ザトシさんはコタローにしっかり掴まっていろ」

「一気に降りるって本気かよ……ついてくるんじゃなかったぜ」


 泣きそうな声を出したザトシさんがコタローにしがみついた。

 それを確認してからコタローに合図を出す。


「行けっ」


 声と同時にコタローが壁から飛び出した。

 私が空中に張っていく壁を、三角飛びの要領でコタローが蹴りながら降りていく。 

 影が射してようやくコボルトが私達に気付いたが、もう遅い。

 

 並んだコボルトと指揮官コボルトの間にコタローが着地する。

 それと同時に私とコタローの攻撃が放たれた。

 

「くらえ『蜻蛉切り』!」

『風よ切り裂けでござる!』


 指揮官コボルトは吠える間もなく、私の蜻蛉切りによって真っ二つに。 

 残りのコボルトは、コタローが作り出した風のミキサーに巻き込まれ、ズタズタに切り裂さかれていった。

 

『ごしゅじんもこたろーもつよーい!』『ーーん!』


 ポーチから顔を覗かせたピンとエメトがはしゃいでいる。

 ザトシさんは声を出さないように、目を固く閉じてコタローに必死にしがみついていた。

 その目がうっすらと開かれ、周りを見渡した。


「お、終わったのか?」


 周囲には原型を留めていないコボルトの死体と血溜まり。

 やっておいてなんだけどかなりグロい。

 

「かな? コタローどう?」

『あと一匹、洞窟の中にいるでござる』

「まだ一匹? 洞窟の中か……」

「……一匹。トンボさん気を付けろ、もしかしたら上位種かもしれん」


 コボルトの上位種ってコボルトキングとかコボルトジェネラルとか?

 キングだったら王冠とか頭にのせてるのか?


『出てくるでござる』


 どうやら御大自ら出てくるらしい。

 私が少しだけワクワクした気持ちで洞窟を見ていると、暗がりからコボルトの足が覗いた。

 さて、何が出る。


 そして、コボルトの全貌が顕になった。

 

「はぁ?」

「あれはまさか……」


 のそのそと背を丸めながら出てきたのは、普通の個体より一回り小さいコボルトだった。

 腰に色々な器具を提げているけど、威圧感とか迫力は全く無い。

 これがコボルトの上位種?

 それとも上位種なんていなかったのか?


「ヤバいぞトンボさん、あれはコボルトアルケミストだ!」

「コボルトアルケミスト?」


 アルケミストって、確か錬金術師の事だっけ?

 ザトシさんが言う程ヤバそうには見えないけど。


「コボルトアルケミストは、ある条件下でキングと同等の厄介さを発揮する!」

「条件?」

「魔法銀が発掘できる場所だと、とんでもないもんを作り出すんだ!」


 コボルトアルケミストが吠えた。


 すると、大地を揺るがすような地鳴り、いや足音? が洞窟の奥から近付いてくる。

 ザトシさんが言った通り、なんかヤバそう。


「魔法銀って何?!」

「ミスリルだよ! ただコボルトは、ミスリルをコバルトって鉱物に変えちまうんだ!」


 どんどん地響きが大きくなる。


「そんで?!」

「コボルトはコバルトの治金が得意でな! その中でもコボルトアルケミストはコバルトを使ってあれを作るんだ!」


 ゴリゴリと洞窟の外壁を削る音が聞こえてきた。

 もう近い!


「あれってどれ?!」

「あれだよ!」


 ザトシさんが指差した先、その巨体で洞窟の入口の一部を吹き飛ばしながら、“あれ”が姿を現した。

 鈍い銀色の鉱物を子どもが出鱈目に組み合わせたような物体。


「コバルトゴーレムだ!」

「でかーい! 説明不要!」


 錬金術!

 考えてみればセヨンのご同輩。

 そりゃ魔法生物はお手のものですよね!

 魔法生物だからコタローの《気配察知》にも引っ掛からなかったんだ。


「コバルトゴーレムはBランクの魔物だ! どうするトンボさん! 一旦引くか?!」

「ダメだ! 引けばそのまま村まで来るかもしれない。周囲の被害を気にしないで済むここで仕留める!」


 コボルトアルケミストが私達を指差しながら吠えると、コバルトゴーレムが動き出す。


「壁六枚! 重なれ!」

 

 コバルトゴーレムが歩きながら腕を振り上げた。

 ヤバい! 動きは遅いけど、大きい分攻撃範囲が桁違いに広い!

 私は咄嗟に壁を六枚重ねて防御した。

 ちなみに咄嗟に出す場合は、箱を作るのに必要な六枚が限界なのだ。


 コバルトゴーレムの拳が壁にぶつかる。

 熊の突進とは比べ物にならないぐらいの衝撃と轟音が響いた。

 しかし、壁に大きなヒビは入ったが割れはしなかった。

 もしかして《壁魔法》のレベルが上がって頑丈になってるのか?


 コバルトゴーレムは硬い壁を殴った反動で、後ろに倒れ込んだ。  

 チャンスだけど、蜻蛉切りであの硬そうな体を切れるだろうか?


『ーーん!』

「んっ? エメトも戦いたいのか?」

『ーーん! ん!』


 その時、ポーチの中からエメトがアピールしてきた。

 そういえばエメトはまだ戦った事なかったな。

 以前約束したし、エメトが考えなしで挑むとも思えない。


「なら、任せた! いけッエメト!」

『ーーん!』

 

 ポーチから飛び出したエメトが、そのまま起き上がりかけたコバルトゴーレムに飛びかかり、小さな拳を振るった。

 

「は?」

「え?」

『わう?』


 私とザトシさんとコボルトアルケミストが、揃って間の抜けた声を出した。


 だって、エメトと比べる子犬と象程も大きさに差があるコバルトゴーレムが、エメトに殴られ吹き飛ばされて岩壁にめり込んだんだから。


 なんてこった。エメトが《怪力》スキル使って本気で殴るとああなるんだ。


 しかし、強すぎる力で拳を硬い物に叩き込めば、当然自分に跳ね返るものだ。

 事実《怪力》の有り余るパワーを込めて殴った衝撃で、エメトの腕も弾けていた。

 まぁ、それも《土操作》で即座に修復。実質被害なしなんだけど。


『えめとすごーい!』『流石エメト兄でござる!』『ーーん!』


 ピンとコタローに称賛されて勢い付いたエメトが、コバルトゴーレムに追い打ちをかける。

 コバルトゴーレムの足を掴んで振り回し、地面に叩きつけはじめたのだ。

 大地にコバルトゴーレムがぶつかる度に、身体が飛び上がるような震動が伝わってくる。


 あっ、コボルトアルケミストが巻き込まれて挽き肉になった。

 これもう戦い終わりですね。


「ザトシさん、主が死んだ場合って魔法生物はどうなる? 止まるのか?」

「この光景を前に気にする所がそこかよ……主登録した者が死んだ場合、魔法生物は野良化する。大抵が主人の最後の命令を守り続けるらしいけどな」

「つまりこの場合は私達をぶっ殺せって命令が生きてる訳だ」

「それももう関係なさそうだけどな」


 確かに。

 すでにコバルトゴーレムは、ベコベコに潰された空き缶みたいになっている。


「エメト、ストップ!」

『ーーん!』


 私の指示でエメトが止まると、響いていた轟音も震動も止みようやく森に静けさが戻った。

 すでに叩きつけの衝撃で核が壊れていたらしく、コバルトゴーレムの残骸が動くことはなかった。


「これでコボルト退治は終わり?」

「あ~、たぶん……」


 アクシデントはあったけど、結構あっさりとコボルト退治は終わった。

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