オンボロ橋の向こうに
逆さ虹の森に住む、怖がりのクマはとても困っていました。
なぜかというと、お母さんにずっと会えないからでした。
森に住むクマと、お母さんクマの間には、大きな川があるのです。川をわたるには、オンボロ橋をわたらなくてはいけません。
クマは今よりずっと小さなころに、その橋をわたってから、戻れなくなってしまったのです。
お母さんに会いたくてしかたがないクマは、せめて手紙を届けたいと思って、お人好しのキツネにそうだんしました。
「キツネさん、ぼくの代わりにお母さんに手紙を届けてくれないかな?」
キツネは困った顔で言いました。
「わたしはクマくんよりも小さいけれど、あのオンボロ橋はわたしがわたっても、きっとこわれてしまうよ」
クマがとても悲しそうにするので、キツネはあわてて言いました。
「もっと小さい子にたのんでみよう。リスくんならきっとだいじょうぶだよ」
そこでクマとキツネはリスのところへ行きました。
いつもは怖がりのクマをおどろかせておもしろがっている、いたずら好きのリスです。
でもクマがあまりにもしょんぼりしているので、今回ばかりはまじめに言いました。
「オンボロ橋はボクだってわたりたくないよ。ボクじゃあ小さすぎて、オンボロ橋のすきまから落っこちちゃうよ」
クマとキツネはがっかりしました。
「でもヘビならきっとわたってくれるよ。あいつはほそい道を進むのがとくいなんだ」
三匹はヘビに会いに行きました。
とちゅうで食いしん坊のヘビのために、たくさん木の実をあつめます。
ヘビはたくさんの食べものにうれしそうでしたが、こう言いました。
「オンボロ橋はロープも板もオンボロすぎて、わたったらわたしの体がきずだらけになっちゃうからイヤだよ。だからコマドリにたのむといいよ。あいつは空をとべるんだから」
四匹はコマドリに会いに行きました。
とちゅうでアライグマを見かけましたが、クマはさっとかくれてしまいました。
怖がりのクマは、暴れん坊のアライグマがにがてだったのです。
木の上にいるコマドリを、ヘビが見つけました。
歌がじょうずなコマドリは、歌うように言いました。
「いいよ。いいよ。手紙をかしてごらん。わたしがお母さんクマにわたして来てあげる」
そうしてコマドリはクマの手紙を、みごとお母さんクマに届けてくれたのです。
お母さんクマからも返事をもらったクマは、大よろこびでした。
怖がりのクマはしばらくのあいだ幸せでした。
でも、ある日とてもつらそうな顔をしていたので、キツネもリスもヘビもコマドリも、おどろいて理由をたずねました。
「お母さんがびょうきになっちゃったんだ。どうしよう、ぼくお母さんに会いたいよう」
ぽろぽろと泣き出してしまったクマに、みんなはとほうにくれました。
どうすればクマとお母さんクマを会わせてあげられるのか、だれもわからないのです。
泣き止まないクマのためにいっしょうけんめい考えたリスがいいことを思いつきました。
「みんなでドングリ池に行こう!」
逆さ虹の森にはふしぎな場所が二つありました。
一つはドングリをなげいれて、願いごとをするとかなうと言われているドングリ池。
もう一つはうそをついたら根っこがつかまえにくる、根っこ広場。
五匹は願いごとをかなえてもらうために、ドングリ池に向かうことにしました。
「アライグマはさそわないの?」
お人好しのキツネがクマにたずねました。
「ぼく、暴れん坊のアライグマが怖いんだ」
キツネはアライグマが悪いやつではないと知っていましたが、暴れん坊なのも本当のことなので、しかたがないと思いました。
ドングリ池に着いた五匹は、ドングリを池になげいれます。
「クマとお母さんクマが会えますように」
キツネもリスもヘビもコマドリも、しんけんに願いごとをしてくれています。
ドングリがとうめいな池にゆっくりと沈んでいきました。
それを見ながら、クマの目から涙がぼろぼろとこぼれて、止まらなくなってしまいました。
だって、ただ願いごとをしただけで、オンボロ橋がピカピカのじょうぶな橋になるはずがないのです。
怖がりのクマが、オンボロ橋をわたれる勇気あるクマに、なれるはずがないのです。
クマは自分が怖がりなことが、とてもとても悲しくなったのでした。
そのころ、逆さ虹の森の、もう一つのふしぎな場所、根っこ広場にはアライグマがいました。
アライグマはたくさんの木の根っこに向かって、大声でさけびました。
「キツネはいやなやつ! いじわるキツネ!」
根っこがうそをついたアライグマをつかまえるために伸びてきました。
アライグマは根っこから逃げだすと、またさけびます。
「リスは体がでかすぎ! ずんぐりむっくり!」
たくさんの根っこが、アライグマをつかまえようとして伸びてきました。
アライグマは根っこをけったりなぐったり、むちゃくちゃに暴れながら逃げていきます。
根っこ広場を出ても、根っこはまだ追ってきました。
アライグマがずっとうそをつき続けているので、怒っているのでしょうか。
ひっしに逃げているのに、なぜかアライグマはうそをつくのをやめませんでした。
そんな様子を、ドングリ池にいた五匹が見つけます。
「あっ、アライグマが根っこにおそわれているよ!」
「たいへんだ! 助けなきゃ!」
五匹はアライグマを追いかけました。
そんな中でも、アライグマはやっぱりうそをつくのをやめません。
「ヘビはごはんがきらい! なんにも食べない!」
やがてアライグマはオンボロ橋にたどり着きました。
根っこからにげるには、もうオンボロ橋をわたるしかありません。
「あぶない!」
だれかがさけびました。
でも、アライグマは橋がオンボロなことなど知らないみたいに、すごい速さで走ってわたってしまいました。
そのあとをたくさんの根っこが追いかけたので、根っこはこわれかけた橋の代わりに、こっちの岸と向こうの岸をつないでしまいました。
五匹は根っこの上を走ってアライグマを追いかけます。
アライグマは向こう岸に着いたとたんに、根っこにつかまっていました。
ぐるぐる巻きにされて、とても苦しそうです。
クマもキツネもリスもヘビもコマドリも、アライグマを助けようとして、根っこを引っぱります。
「こいつ! はなれないよ!」
「どうしてアライグマをつかまえるんだよ!」
「アライグマがうそをついたからだよ!」
「本当のことを言わなきゃ、アライグマ!」
みんながくちぐちに言うので、アライグマは泣きそうになりながらさけびました。
「クマとお母さんクマを会わせてあげたかったんだよう!」
すると根っこは、するするとアライグマからはなれていきました。
アライグマが本当のことを言ったからです。
クマはびっくりしてアライグマを見つめました。
いつのまにか、自分がお母さんクマのいる、向こう岸にいることに気がついたのです。
「ぼくのために、根っこに追いかけられてくれたの?」
アライグマはてれて、そっぽを向きました。
「早くお母さんに会いに行きなよ」
「ありがとう。アライグマくん!」
クマは大よろこびでお母さんに会いに行きました。
ようやく会えたクマとお母さんクマは、うれしくて泣いて抱きあいました。
そうして怖がりのクマとはなればなれになったことが悲しすぎたせいで、びょうきになってしまったお母さんクマは、みるみる元気になっていったのです。
それから、あのアライグマを追いかけた根っこは、なぜか根っこ広場に帰らずに、ずっと橋の代わりをするようになりました。
おかげで森の動物たちはいつでも、あっちの岸とこっちの岸を行ったり来たりすることができるようになったのです。
「どうして帰らないんだろう」
ヘビが首をひねりました。
「ドングリ池が願いごとをかなえてくれたからだよ!」
リスがとくいげに言いました。
そうかもしれません。
でもクマの願いをかなえてくれたのがだれなのか、クマはちゃんとわかっていました。
「ぼくの願いをかなえてくれたのは、アライグマくんだよ。アライグマくんはとてもゆうかんなんだ!」
アライグマはクマの大切な友達になったのでした。
今日も逆さ虹の森では、クマとキツネとリスとヘビとコマドリとアライグマが、楽しそうに遊んでいます。