眠くて楽しい勉強会
今日もガウンテの工房で、作戦会議兼勉強会だ。シーラッカもイリヤも分厚いノート片手に、ラハトバッサ周辺の自然で出くわす害獣たちの勉強をしている。
「これ、全部覚えるのは無理」と早くも戦意喪失しているシーラッカ。
「アーターキー山のサルをやっつけるのが最終目的だから、そこだけ暗記すればいいんじゃない」と手抜きの提案をしだすイリヤ。
「だめだ。現地に行くまで様々な獣に出くわす。知識がなくて対処できるか?」と二人ににらみを利かせるガウンテが、手にした細い棒で二人をこづく。
「頭をすっきりさせるために、フェシテアニのカフェに行きたいわ」
「そう勉学の友には、濃いお茶が必要」
「手製の目覚まし花のお茶があるけど作るか」とガウンテは台所で作業を始めた。
出てきたお茶は、毒々しい青い色でなにやら苦い煎じ薬のような香りがした。
「目を覚ますにはこれが一番。経験上知っている」とカップを二人に配る。
「「これ美味しくなさそうなんだけど」」二人はハモって返答した。
「騙されたと思って飲んでみろ!」
仕方なく口をそっとつけて、ちびりちびりと飲みだした二人だったが。
「げっ!絶対無理!」
「地獄の獄卒のようなまずさだわ」
しかし、薬効は確かなようで数十分後、二人は睡魔から解放された。
「ところで何か新しいミニマム攻撃はないの」頭が回り始めたシーラッカが尋ねる。
「害獣の虫歯をつつくってのを教えたばかりじゃない」とイリヤが諭す。
「探してる間にガブリされるよ」シーラッカは反論する。
「今、遠隔操作でつねる道具を考えているんだ」とガウンテが答えた。
「つねる!それは確かに弱い攻撃よね」
「だけど操作が難しそうだな」
「長い火ばさみのようなものを作って、挟もうと思っている」
「動きの速い獣なら、ちょっと無理かも」
「他に何かないだろうか」
「冷たい物を握ってもらうのはどうかしら」
「そんなのわざわざ握る物好きはいないだろ」
「それこそアーターキーのサルに使えるかもしれない。奴らは光るものに目がないからな」
「さあ雑談が終わったら、学習に励めよ」ガウンテは手を叩いて雑談を終わりにした。
と同時にお茶の薬効が切れて、二人ともとろんとした目つきに戻った。
「「あーやっぱり記憶物はしんどい」」再度ハモる二人の発言。
「ごめんください」
来客が来たようだ。玄関を見ると、光り輝くパール色のローブを着た大柄な女性がこちらをみてお辞儀をした。彼女はまぶしそうな金髪で、ターコイズブルーの瞳をしていた。
「ああ、これは、リダ・ミーヒムさん。ご注文の品はできてます」
「素敵な投げナイフね。素晴らしいできあがりだわ。わたしの希望通りよ。ありがとう」
「お褒めいただいて光栄です」
「では、代金はこちらに置いておくわね」
「またのご来店をお待ちしております」ガウンテは丁寧にお辞儀をした。
「ずいぶん、あたしたちと態度が違うんですけど」とガウンテの方をチラ見して、イリヤは察した。
「まあお客さん相手だからな」とシーラッカが意に介さずにつぶやく。
「そ、か、彼女はここの常連客だ。オーダーメイドで武器を作っている」
「(彼、彼女に惚れているみたいよ)」小さな声でシーラッカの耳元でささやく。
「そうかい、それは良かったね」と棒読みで返答した。シーラッカは他人の恋愛には興味がない様である。
「この教室は善意でやってる。忘れるな」ガウンテは大きい声で念を押すように話した。
その後、鏡の前に立ち、顔や全身をチェックしている。
「それは、会う前にやっとくことなのに馬鹿ね」と皮肉交じりにガウンテに聞こえないように口に出した。
「だけどさ、ガウンテから安値でいろいろ教えてもらってるんだから、少しは感謝しないと罰が当たるよ」
「別にあたしは頼んだつもりもないし」
「勉強は確かにしんどいけど、これ全部覚えられたら、一人前の狩人として自活できると思う」
「でもさ、魔法のことを批判されたのは腹立つわよ。どれを覚えようがあたしの自由じゃない」
シーラッカは徐々に、ガウンテの協力を有難いと感じていたが、イリヤはまだまだ、最初に抱いた“いけ好かない感”が抜けていない様だった。