毒ガエルはいい奴になりました
シーラッカとイリヤは、戦闘のコンビネーションの練習のため、パツングマ湿地帯へと再度向かった。水生植物が生い茂る岸辺に、でんと構えて害獣が出現するのを待つ。草むらからのそのそと、現れたのは赤と黒のまだら模様の毒ガエル三匹だった。前回相対したのとほぼ同じ大きさで、大人の足のつま先からかかとぐらいまであるやつだった。大した相手ではないので、ガウンテは今日はお休みである。
「早速戦闘ね」
「ああ、直に触ったら皮膚が溶けるから、魔法援助頼む」
「わかった。まかせといて」
「レッグフリーズ」イリヤは呪文を唱えると、毒ガエルの動きが止まった。
とそこへ、タオルを頭に巻き、シャツの腕をたくし上げた労務者風の男がシーラッカたちの後ろに立ち、看板を指さした。
「研究の結果により、毒ガエルは、ハエや蚊などを主に捕食する益獣と判明したので、ハンティング対象外になった」
「え、どれどれ」
二人で看板を見ると、確かに毒ガエルは、ハンティング対象から外れるとの注意書きが書かれていた。
「ということは、毒ガエルを捕まえただけで……」
「ペナルティの対象だね」
「でもこいつは毒があるんだよね」シーラッカが聞き返す。
「でも役所で決めたことには従わないといけないし。もともと毒ガエルは、好戦的ではないだろう」
「確かにそうだけど」イリヤが力なくつぶやく。
「害獣なら、他にもたくさんいる。獰猛なカメや、血を吸いまくる巨大ヒルなんかはどうだ」
男はそう伝えると、ゆっくりとした足取りで沼地から去って行った。
イリヤは魔法を解除して、毒ガエルを逃がしてやった。
「ねえ、カメやヒルを相手にするなら、水の中に入らなきゃ」
「僕はいいけど、イリヤは嫌だろう」
「当然よ。あたしだけ船の上なら考えなくもないけど」
「水草が多いから船は無理だぞ」後ろの方からガウンテの声がした。
「毒ガエルが害獣指定から外れたと聞いて、伝えに来たんだ」
「じゃあ今回は解散ってことで」シーラッカがやる気なさそうに告げた。
「なぜ浮遊魔法を使わない!」とイリヤに問いかけるガウンテ。
「浮遊魔法は、まだできないんです」と申し訳なさそうにイリヤは伝えた。
「なら仕方ないが。イリヤは使える魔法とレベルを教えてくれ」
「僕は何かありますか?」
「今まで使ったミニマム攻撃を教えて欲しい」
「君たちに足りないのは、害獣の把握と具体的なハンティングの知識だ」
ガウンテの工房に三人は集まった。日差しが高く上り、暑さを少し感じている。
「レベルが高い割には、イリヤの魔法は無駄な物が多いな」
「なんですって、あたしの魔法はラハトバッサで一、二を争う能力だっていわれているのよ」イリヤは頭から角を出した。
「もう少し戦略的に、幅広くマスターすれば良かったんだが。好みの魔法に偏りすぎている」
「なによ。攻撃魔法とサジェスト魔法でバランスいいじゃない」
「浮遊魔法はもうできて、しかるべきレベルのはず」
「あれは精神力使うし、移動系は華がないじゃない」
「文句を言わずに特訓しろ。集中力が足りないのなら集中力をつけろ。イメージ力がないのならひたすらイメージしろ」
ガウンテに正論をいわれて、イリヤは口答えもできなかった。
「わかった。やるわよ」
「そして、シーラッカのミニマム攻撃だが。キャリアの割には種類が少ないな」
「イリヤが冗談みたいな攻撃ばかり思いつくからな」
「シーラッカが自力で考えられないのが悪いのよ」
「はい。ごめんなさい」シーラッカは自分の弱点を把握しているようだ。
「それからこれは図書館で調べて来たのだが」
と分厚いノートを二冊手渡した。
「ラハトバッサの森林や湖沼、草原その他に生息する害獣とその生態について書いてある」
「へー、見たことないのが、たくさんいるな」目を輝かすシーラッカだった。
「ここまで詳しく書かれていたらヘマはしないわ」イリヤもうなずいた。
「ただし、これでも半分だ」
「えっ、半分?」
「生態が不明な物や未調査の害獣があと半分はいる」
「うへぇ」シーラッカが声を上げた。
「どうやって対処するの?」イリヤが尋ねた。
「実戦で経験を積むしかないな。駄目だったらそれまでだ」ガウンテは、冷たく言い放った。