多数の敵を一度に攻撃したい
「最小の攻撃が最大の効果を生むのか」
ギルマグは腕組みをして、うなずいている。
ギルマグの工房の中で、シーラッカの特殊能力について説明が終わったばかりだ。
「そこなんだけど、最小の攻撃を狙うとなると、リスクの大きい接近戦になるのが悩みだったんだ」
と胸の内を打ち明けるシーラッカだった。
「だからあたしもいろいろと提案したのよね。巨大な羽箒でくすぐるとかさ」
イリヤが考案した攻撃法を自慢げに語る。
「その攻撃は結局どうなったんだ?」
「害獣に羽箒ごとへし折られて終わったよ」
「武器の強度を考えないからよ」と自分の作戦の失敗を棚に上げて、ダメ出しをするイリヤ。
「だから、吹き矢に目をつけたわけか」
「あれだったら、接近戦に持ち込まなくても、相手にミニマムな攻撃を仕掛けられる」
「ただし、攻撃は一ターンに一回ずつだ」と念押しするギルマグ。
「そこなんだよな。いずれは一ターンに複数の敵を攻撃したい」
「いずれは、アーターキー山のふもとの町を蹂躙しているサルどもを退治したいんでしょ」
人間たちは、数々の害獣に悩まされているが、アーターキーという山に住む、金色の毛のサルの集団が一番たちが悪く、人里に降りては食物や貴金属を盗み、町を荒らしている。奴らには莫大な賞金が賭けられている。
「ま、いずれはな。今は経験を積まなきゃ」
「俺にいい考えがある。安手の材質のムチを作れば、複数の敵に攻撃できる」ギルマグが提案した。
「ムチか。あれは操るのが難しいらしいな」シーラッカが不安そうに語った。
「自分で自分を打たないでね」
「そんなことしないよ」
ギルマグは倉庫の中から革製の安っぽいムチを持ってきた。
「あとはシーラッカの練習しだいだ」
「ギルマグさん、ありがとう恩に着るよ」
「ガウンテでいいぞ」照れ臭そうに頬を染めながら語った。
「じゃあ、またパツングマ湿地帯で特訓しようね」とイリヤはシーラッカの方に顔を向けて語りかけた。
「まてよ……」シーラッカは、ムチをしごいてみて少し固まった。
「どうしたの」心配そうに近寄るイリヤ。
「これって普通に売られている武器だよね」
「ああ、一番安いけどな」
「ということは普通のダメージを与えられる計算になるよな。ダメだ」
「ああ、そうかミニマムだともっと弱い素材じゃないと」
「やっぱりムチはやめて、あたしの考えた敵の群れにコショウを撒くってのはどう?」
「あのさ、イリヤ。風向きが変わったらどうする」
「そこまで考えてなかった! てへへ」
急にガウンテが立ち上がった。
「よし、最弱の素材で最弱のムチを作ろう」
「できるのかい!」歓喜の笑みを浮かべるシーラッカ。
「ああ、そこら辺に映えているつる草を使ってな。ただし」
「ただし?」
「耐久性に欠けるから、二、三回でボロボロになる」
「だめじゃん」シーラッカは椅子から転げ落ちた。
「いや、あたしはいいと思う。それだけ弱かったら、凄くミニマムな攻撃になるはずよ」
「わかった。イリヤ。僕頑張るよ!」
二人は手を握って涙を流した。
「軽いから、十数本携帯しても邪魔にはならないだろう」
ガウンテは庭先から、つる草を引き抜くと、工房に入り、なめし始めた。
「上手く行くだろうか」額にしわを寄せて、作業工程を見守るシーラッカだった。
「試作品を作ってみた。あとはシーラッカの腕次第だ」
「さっそく沼地でカエル相手に試してみるよ」
「いや生き物の前に、中庭に三体のカカシを作って置いといた。あれに当ててみろ」
シーラッカは草のムチを振る。しかし草自体が軽すぎるせいで、一体にしか当たらなかった。
「やっぱり素材が軽いだけに、ムチのようにしならせるのは難しいな」
「もう少し太めのつる草はどうかしら、瓜系のとかは」
ガウンテは瓜系の草でムチを作る。
「うん。これぐらいの重さだと、それなりに芯が出てきて上手く操れるよ」
シーラッカは満足そうだったが。ガウンテがあることに気づいた。
「これ、木の枝で払っても同じことだろ!」
「なーんだ。もうシーラッカの考えなし!」
「イリヤも賛成していたんじゃないか!」
シーラッカは木の枝で、複数の敵をなぎ払うことにした。ムチのようにしなりはしないが、全ての敵に当てることができた。
「これだったら、一遍にミニマム攻撃ができる。ありがとうガウンテ」
「よし、精度を高めるために素振りをしてみろ」
シーラッカはカカシの前で何度も木の枝を振りかざした。そばでは彼の健気な特訓をいつまでも見続けるイリヤがいた。二人はガウンテに丁寧に礼をいうと、フェシテアニのカフェ目指して歩いて行った。
「今日はいい日だったね」
「ガウンテはちょっとむかつくけどね」
「なんで、ぶっきらぼうだけどいい人だよ」
「なんかあたしは合わないわ」
イリヤとガウンテの相性に、一抹の不安を覚えるシーラッカだった。