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リダの戦闘

少し手直ししました。

 シーラッカたちが骨休めをしている間、リダ・ミーヒムは、二人の男性を連れて、オリーブ畑を越えて、アーターキーの山のふもとに歩を進めていた。道なき道を、凸凹の多い靴で踏みしめながら、先頭の者が、木にロープを結び付け、後から来た者が伝わって登る。先頭を行くのは、弓矢の使い手、アーバン・モリスン。もう一人は魔法使いのカーディナル・バッソー。防御魔法の専門家である。モリスンは痩せていて筋肉質で、茶色い髪がウェーブしている若者である。少々わしっ鼻ぎみで、引き締めた口元から笑いを含んだ息が漏れていた。バッソーは、白髪で長いひげを蓄え、ローブを着ている。肌は赤くやけた、大柄の男性だった。表情が少しにやけている。三人とも、今回のハンティングは楽勝だと考えているようだった。


 相手は猛獣でもなく、武器らしいものといえば爪と歯ぐらいのもので、虎やワニに比べたら軽い存在だと常識では考えられている。それにしては、討伐組が、なかなか成果を上げないのは、個々の能力が劣るせいだと軽く考えているようだった。失敗組の体験談が共有されないのは、ハンティングの失敗を殊更恥じているせいもある。


 森の中で、影が動いた。木の枝のこすれる音がする。すぐにモリスンが反応して、弓を引き絞って射る。矢はかすったが、威嚇にはなった。サルの叫び声が聞こえて、頭上から石つぶてが降って来た。見張りザルが仲間に知らせたらしい。


 仲間のバッソーが防御魔法を唱えて、降り注ぐ礫から身を守る。「クリスタルシールド」の発動だ。石は、透明な壁に遮られて、流れ落ちる。もう一人の男性、モリスンが弓で一匹のサルを射抜いた。矢をつがえて、もう一匹を狙う。だが薄暗い森の中、敵はどこに潜んでいるかわからない。音と長年の経験だけが頼りだ。


 鳴き声が聞こえて、十数匹の猿が下山を始めた。慌てて向きを変えて追うリダたち。サルは木の上に上り息を潜めている。リダがナイフを投げる。傷を負ったサルが、叫び声を上げながら落下する。


 しかし、それは罠だった。サルたちはまたもや山側から攻めてきた。「クリスタルシールド」のカバー個所は前方のみだったので、石が面白いように当たる。リダたちは向きを変えて、山から来たサルを狙う。サルは弓矢よけに木の板を盾として使っていた。


「手ほどきした人間がいる」リダは、町の噂を軽視していた自分を恥じた。前を向いたままじりじりと後退する。いつの間にかサルたちは後方に回って、石を投げてくる。木の盾は置かれたままだった。リダたちは騙されたことに気づいた。いつの間にか、前方にいたはずのサルたちは後方に集まっていた。


 ハンティングを中断して、リダたちは下山した。石は際限なく投げられて、彼女のきらびやかな鎧は、傷だらけになり、兜についていた宝石をあしらった飾りは、折れて原型をとどめていなかった。最も優雅な戦士と呼ばれた出で立ちは、土や葉の汁で汚れて無残な姿になった。バッソーやモリスンも負傷して血を流しながらの帰還だった。


「気を付けて、サルに入れ知恵している人物がいるわ」

 リダは、戦況を細かくガウンテに伝えようとしたが、押しとどめられた。ケガの具合が心配だったので、フーガが応急処置をした後に、イリヤに回復魔法をかけてもらった。たどたどしい言葉で、サルの戦闘方法を告げるリダ。大体のことを把握したガウンテは、途中で言葉を遮った。

「リダさん!この敵討ちは必ず……」

ガウンテは、負傷したリダの手を握り締めて、涙を流した。彼女は大事を取って診療所へ運ばれた。


「手ほどきしている人間がいるのか。そいつと差しで話したい」語調も荒く、恋する人を怪我させた相手を憎んでいるようだった。ガウンテは、リダなら楽勝だと軽く考えていた。もう少し彼女に良きアドバイスをできなかったのか悔やまれた。

「何のためにサルをつかっているんだろう」シーラッカが疑問を口に出す。

「決まってるじゃない。金儲けのためよ」当然とばかりにイリヤが答えた。

「相手は樹上にいて、こちらの行動が手に取るようにわかる」ガウンテにしては珍しく頭を抱えている。

「なら、透明化で姿を消して攻撃すればいいじゃない」イリヤは思いついたアイディアを出す。

「初動でだいたいの居場所がばれてしまうから得策じゃない。しばらく考えさせてくれ」ガウンテはそういうと、頬杖をついて頭を働かせ始める。シーラッカは、この手の作戦があまり得意ではない。計画は全てガウンテに任せきりだった。


 僕も考えないと、とどめを刺すのは僕の役目だ。シーラッカは普段は使わない頭をフル回転させた。頭上から攻撃してくるなら、木を切り倒すか。しかし、時間がかかってしまう。彼はすぐにギブアップした。


 宿に戻ってからも、ガウンテは黙り切ったままだった。食事は、オリーブオイルを利かせボイルした魚を乗せたパスタが出たが、全員、あまりのどを通らなかった。ガウンテは戦術ノートを取り出して、敵の出方をおさらいしている。人間が操っているとはいえ、相手はサルだからあまり込み入った作戦はとれない。リダとの戦闘で、数は減っているだろう。だから挟み撃ち作戦はもう使わないかもしれない。ガウンテは綿密に予測して、作戦を立てた。その中身を、シーラッカたちに伝えると、泣くのをこらえたまま寝入った。


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