カイナーダリの町
カイナーダリの町に着く。シーラッカとイリヤは、いつもの服ではないので、どことなく表情が硬い。街の中央の役所に出向いて、窓口に並ぶ。いかにも狩人や冒険者然としたいかつい男たちが並んでいた。
シーラッカとイリヤは共に小柄なので、軽く見られがちだった。ガウンテは、周囲ににらみを利かせて、横入りされないように目を光らせる。
「届は出ていますよね。ワニを退治したシーラッカです」
窓口の女性職員に、つつましく申し出るシーラッカ。女性職員は「あっ、はいはい」と、通知されたデーターを広げて、サインを見つけ、相当する額の金銭を手渡す。ずしりと重いのでシーラッカは驚いた。
「三匹分のワニだとそれぐらいの額になります」と女性職員は理由を答えた。
ワニを三匹のくだりで、周囲の荒くれどもが、驚きの表情を見せて、通路を開ける。潮が引いたように人垣が離れていき、四人は通路の中央を通る。
「あの小僧がワニ、三匹を退治しただと」
「嘘だろう」
「服装は違うが、あの娘、ラハトバッサのイリヤだ」
「ああ、あの魔法使いか」
役所から出ると、イリヤは悔しがる。シーラッカのことがまったく評価されていないことに対する憤りだった。
「あいつら、シーラッカの凄さを全く分かっていないわ」
「いや、イリヤのフォローのお陰もあるし」とイリヤをなだめるシーラッカ。
「あんまり敵に手の内を知られても困るしな」ガウンテが意外なことを言った。
「ただのサルにそんな知恵ないでしょう」不思議がるフーガ。
「いや、ここに来る途中で変な噂を耳にした。サルを操る人がいるようだ」ガウンテは声を潜めてそっと告げた。
カイナーダリの町の入口で、二人の農夫が噂話をしていた。どうやらサルを操っている人間がいるらしいとのことだった。
「新手の盗賊団みたいね」イリヤがはっきりと言い切る。
「それで光るものを盗むのか」シーラッカも納得する。
「情報収集は、酒場に行けば、何か拾えるだろう。ただしイリヤ、飲みすぎはダメだ」
「わかってるわよ」
夕刻になるまで、飲み屋兼料理屋はまだ開店していない。一行はカイナーダリの町を巡る散歩に出た。
「ここは金色のオリーブの実が特産品ね」フーガが、山の近くのオリーブ畑を指さして説明した。
「良質の油が取れるので、高値で取引されるそうだ」ガウンテが、合いの手を打つ。
「あっ、あんなところに小洒落たカフェがある」イリヤが、お茶の店をみつけたらしい。
黒い鋼で仕切られたガラス張りのモダンそうなお店だった。
イリヤのおねだりで、シーラッカたちはカフェに入った。ポットから赤い紅茶を注いで飲んでいると。地元民が会話をしていた。
「昔は実の採取をサルにやらせておけば楽ちんだったのに、反乱が起きてからはさっぱりだ」
「まあいいじゃないか。こうしてお前にもできる仕事が舞い込んできたんだから」
「サルにできる仕事を人間様に振るな」
男は、黄色い帽子をかぶって皮のベストを着ている。サルのやっていた仕事をするのが気に入らない様だった。
ガウンテは男の席に近寄って、話しかけている。
「その反乱について詳しく教えてくれませんか」
「あんまりよくは知らないが、ある日を境にサルたちが働かなくなった」
「仕事を放棄して、山に戻ってしまったんだ」
「監督者はどうなったんですか」
「行方不明になったか、サルに襲われでもしたんだろう」
それ以上のことは男たちも知らない様だった。ガウンテは席に戻ると、勘定を払って、店から出た。
店の外で、意外な人物に出合った。リダ・ミーヒムが、お供の男性を二人連れて、きらびやかな白金の鎧を光らせながら歩いてきた。
「こ、こんにちは、ご、ごきげんよろしゅうございます」急にガウンテはガチガチになり、たどたどしい口調で挨拶をする。
「あら、お久しぶりね。先日はパーティから抜けてご迷惑をおかけしました」
「いえ、いいえ、こちらこそ出発をドタキャンして、申し訳ございませんでした」
「明日、アーターキーの山に住むサルどもを退治する予定でおりますの。それでは皆様ごきげんよう」
リダたちは、ガウンテの目をくぎ付けにして、おしろいの粉を振りまきながら去って行った。後には、彼女の残り香がいつまでも鼻孔を刺激する。
「しまった。先をこされたか」ガウンテが残念そうに語った。
「女の色気を振りまいているようだけど、あの人って本当に強いの?」イリヤが、香水の香りにむせながら
疑問点をぶつける。
「彼女は投げナイフの名人だし、お供のうちの一人も見た所弓矢を装備しているようだ」ガウンテがざっと見た印象を述べた。
「ひょっとすると、彼女たちがサル退治を終わらせるかもしれないね」シーラッカは、あきらめ半分ですまなそうにつぶやいた。
「まあ、リダさんが下山してきたら戦況を聞いて、その後に判断をしようじゃないか」ガウンテは、皆の士気を高めるために、わざと明るく振る舞った。




