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理想的な武器

 シーラッカとイリヤは、ラハトバッサから外れた湿地帯で、コンビネーションの研究を始めた。イリヤの魔法がプラスされれば、シーラッカのハンティングに有利になると踏んでの特訓だった。


 パツングマ沼地は町の南西にあり、その立地条件から想像できるように、生態系は両生類やカメ等が主体で、さほど強い生き物は出現しない。ゆえに、初心者クラスの狩人にとって絶好の練習場になっている。あたりにはコケや葦などが生い茂り、気を抜くと、靴がぬかるみにはまり込んでしまう。


「デートスポットには向かないわね」

「当たり前だろう。こんなところに好んでくる女の子はいないよ」

「雑魚ばっかりなんだから、接近戦でもOKよね」

「でも、カエルは毒もちが多いから嫌なんだよな」

「いいから練習練習」

二人は並んで、獲物が来るのを待っていたが、カエルたちも学習しているのか中々現れなかった。

「暇よねえ」半分寝たような眼で、シーラッカに語り掛けるイリヤ。

「どうせだからここでデートしない?」彼は、さっき言ったことを忘れて、とりあえず話題を振ってみた。

「だめだめ、今は訓練しなきゃ。なんとかカエルを呼び寄せて、そうだ!」イリヤは木の杖を持ち直すと水辺を指して叫ぶ。


「フレグランスフーズ」とイリヤが魔法を唱えた。存在しない餌の匂いにつられて、血のように赤いイボガエルが二匹も飛び出てきた。大きさは、大人の足のつま先からかかとぐらいまでで、中型のサイズである。

「きゃっ、ビジュアル的にこいつら苦手! 早くやっつけて」

「協力して倒すんじゃなかったのかよ」

「バーンウォール」

カエルの前に炎でできた壁が現れた。カエルたちは身動きが取れない。

「おい。これだと僕が近づけないだろう」

「ごめん、忘れてた」

「忘れてたじゃないよ。どうやって近づけばいいんだよ」

再度説明するが、シーラッカの能力は、相手に最小の攻撃を仕掛けるほど、最大の効果をもたらす。

なのでどうしても接近戦になってしまうのだ。


「うあちちち、触れやしない。なんか攻撃魔法やってくれ」

「魔力が減って無理、回復するまで少し待ってね」

「冗談じゃない。もう戦闘止めるよ」


 そこへ、一人の若者が近づいた。小柄なイリヤたちと比べて、ひょろりとした背丈の男性だった。頭は茶色くザンバラ髪で、太い眉と切れ長の目、太りじしの鼻と大口が顔についていた。

男は筒のようなものを口にくわえると吹いた。


 プッっと音がして、筒から針のようなものが出て、カエルを倒していった。

「これだから素人は」

男は、二人を見て、軽く軽蔑したような口調で、苦々しく叫んだ。


「こいつ。凄く感じ悪い」イリヤがかみついた。

しかし対照的に、シーラッカは、見慣れない武器に興味を示したようだ。

「ちょっとその武器、見せてくれないか」

「ほらよ」男は筒を手渡した。

シーラッカは、筒と、仕込まれている針をまじまじと見た。

「これなら離れていてもミニマムな攻撃ができる」

シーラッカは、男を羨望の眼差しで見つめた。

「これの作り方を教えてくれないか」

「別にいいけど、お前、吹き矢も知らないのか」

「ちょっと、感じが悪いのに、そんな奴と仲良くして」

「シッ!イリヤは黙ってろ」


シーラッカは、ひょろりとした男についていった。

「自己紹介をわすれていたな。僕はシーラッカ・フリード」

「俺の名前は、ガウンテ・ギルマグ」

「もう、あたしも忘れないで。イリヤ・パパヤっていうの」

三人は、ギルマグの後をついていった。ギルマグは沼から町の方へ出向き、町はずれの一軒家についた。

「ここが俺の工房だ」ギルマグは手を上げて指さした。


 ギルマグの工房は、独特な南方の植物に囲まれた、柵の中に広い空き地があり、そばに木でできた掘っ立て小屋が無造作なたたずまいをみせていた。小屋の中には作業台があり、のこぎりや工具が置かれていた。

「吹き矢なんて原始的な武器で、誰にでもできる」

ギルマグは筒を取り出し、適当な長さに切って見せた。

「先端には風受けのついた針を仕込む」

ギルマグは、円形の風受けのついた針をシーラッカに見せた。

「ちょっと質問なんだけど、針は木製でもいいのかな」

「なんで、威力を弱めるんだ」

「こちらにも事情があって」

「珍しい奴だなあ」ギルマグは少々呆れた顔を見せた。


「珍しいとは何よ。だいたいあんたは感じ悪いわよ」とげとげしくイリヤが突っかかる。

「そうか、それなら謝るよ。ごめん」意外なことにギルマグが謝罪した。

「ま、わかればよろしい」イリヤは留飲を下げたようだ。

「悪いが、この喋り方は癖なんだ。これ以外の喋り方はできない」すまなそうな顔で説明するギルマグ。

「じゃあ、ずっと偉そうなままなの?」イリヤが驚いてまぜっかえす。

「偉そうって、俺は二十四だぞ」

「ごめんなさいため口で、僕は二十歳です」シーラッカは慌てて丁寧に話す。

「あ、あたしもごめんなさい同い年です」イリヤも口調を変えた。

「敬語とかそういうのは気にしないからため口でもいい」二人の変貌ぶりが気になったのか助け舟を出した。

「なら、最初からそういいなさいよ」イリヤは元に戻ったが、機嫌も前に戻ってしまった。

「事情について話してもらおうか」ギルマグはシーラッカに理由をきいた。


 


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